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最弱転移者、魔法使いの要望により世界の果てを目指す。  作者: 満天丸
第2章「ドラゴルク駐屯地」
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主同士の邂逅

「例えば、ですよ」


 目の前で私より50cm近く大きい大男が指を立てる。彼はブラウザ。ここ、ドラゴルク駐屯地の騎士団長だ。

 現在私は座っており、ブラウザは立っている。そのため身長差は大きいものとなっていて、もはや見上げるほどで、首が痛くなる。

 私は立っている指をへし折りたくなる衝動を抑えながら、話を聞いていた。


「今ここを抜け出したとしても、いったい何になるというのですか?あの男は捕まえていますし、馬竜も拘束させてもらっています。逃げ出す方法がないのですよ」

「だから逃げ出す方法を用意してくださいよ」


 そう言うとブラウザはガクリと肩を落とす。私は至極まっとうなことを言っただけなので、肩を落とされる筋合いはないはずだ。

 顔を上げてまた先程と同じような口上を垂れ始めたブラウザの話を聞き流しながら、私は窓の外を見ていた。

 ハルオと別れてから、四日が経った。電属性魔法で気絶させられたハルオは、どこかに連れて行かれてしまった。私も拉致されるようにどこかに連れて行かれたのだが、一つ大きな疑問があった。


 (どうしてこんなに待遇がいいんでしょうか……)


 私に与えられたのはヒラヒラとしたドレス、綺麗な絨毯の部屋にふかふかした屋根付きのベッドや、暖かいスープに柔らかいパン。

 一応窓に格子は嵌められているが、どうも怪しい者に対する扱いだとは思えない。だが私自身に思い当たる節は無いし、かと言ってこれがここの扱いなのかと考えても、ハルオの待遇(伝聞ではあるが)を考えてもそうでもない。

 それにブラウザが何故か敬語なのも非常に気持ちが悪い。それもかなり乱暴な物言いであるところがなお気持ちが悪い。

 つまり私に何かがあると考える他ない。そうなると私自身の記憶を探り出さなければならないのだが。


 (思い出せる記憶なんて……)


 そんな記憶、私は持ち合わせていない。少なくとも五年間はファスト村で生活していただけだし、それ以前の十年間は何があったのか全く知らない。

 そうなってしまうと、私は何もできないわけで……


「ですから、ウェスト嬢……」

「分かりました。また今度頼みます。あと、私はウエスですよ」


 そう言うとブラウザはまた肩を落とす。いまの台詞に肩を落とす場所など無かった筈だが、そんなことはどうでもいい。

 何故私達が今更そんな押し問答をしているのか。それには一つの理由があった。それはつい先ほどの話。




「遠征?」


 私が首を傾けると、ブラウザがはい、と頷く。


「ここがドラゴン……正確に言うとレッドシルバードラゴンと戦う為に作られた駐屯地である、と言うのは以前にもお話ししたかと思います」


 確かにそう言う話だった。窓の外を見ると多くの建物が崩れているのも、そのドラゴンとの戦いの跡だった筈だ。

 だが突然何故と思っていると、ブラウザが続ける。


「近頃、ドラゴンの動きが非常に活発なのです。ここにきた頃は、一週間に一度程の襲撃でしたが、近頃は一週間に二度、三度も襲撃されるのです」


 それは単純に、攻撃してくる対象ができたから殲滅しようとしているだけなのではないだろうか。そう思ったが、胸の中に秘めておく。


「それで、原因を探る為に遠征を?」

「はい」


 これはチャンスだ。ブラウザと多少の騎士がいなくなるのなら、私にも脱出の機会がある。

 どうやって抜け出せばいいのか。


「……もちろん、脱出は出来ないようにしますが」


 そう考えた瞬間、見抜かれたように言われる。

 図星を突かれて少し動揺するが、冷静を保たなくてはならない。

 一度咳払いをして、ブラウザに正面から向いて話す。


「分かりました。では、逃げ出す手段を用意してください」


 そして最初の会話に戻る。




 酷く疲れたようにして部屋から出て行ったブラウザを黙って見送り、私はドアノブに椅子を掛ける。塩でも撒いた方が良いかと思ったが、手元に調味料が無い。こうしておけばあの口煩い男も入って来ないはずだ。

 そのまま倒れる様にベッドに転がる。過剰にふかふかした布団はそのまま私を包み込む。

 ここに来てからずっと、どうも私は酷くストレスが溜まっているらしい。体はすぐに疲れを訴えるし、イライラが止まらない。最近は思考回路も妙に悪くなってきている気がする。

 先程の逃げ出す手段というのも、ただ駄目元で頼むつもりだったはずなのに、何故ああも口悪くなってしまうのか。

 この狭い部屋――広さは十分ではあるが――に閉じ込められているというストレスもあるのだろう。しかし、問題はもう一つある。


「………ハルオ」


 意図せず口から漏れたその声にハッとする。別に他意があるわけでは無い。単純に声が出た事に驚いただけだ。

 言い訳じみた事を考えながら、私は仰向けに転がる。目の前の屋根には幾何学的な、私の理解の及ばないよくわからない模様が広がっており、目を回しそうになってしまう。

 そのまま目を閉じると、脳裏にはファスト村の日常が戻ってくる。

 クレイとの生活、リィナ先生の扱き、八百屋のおばさんや雑貨屋のお兄さん、そして最も鮮明なのが、一番記憶の新しいハルオの事だった。

 世界の果て――それの真の意味が何を指すのか、私自身にも分からない。世界の果てを目指す為、これから何をすべきかもまだ、ハルオと話していないのだ。

 こんな所で立ち止まる訳にはいかない。立ち止まる事は出来ない。

 だから、私は一刻も早く、ハルオに会わなければならないのだ。


「ハルオ……いま、どこで何を……」


 届かない声を細々と出しながらのそりと体を持ち上げる。

 窓の外でも眺めようかとそちらを向いた瞬間の事だった。

 隣から、声がする。


「どうしてそんなにハルオくんに執心してるんだい?」

「―――!?」


 驚きベッドから落ちて、床に尻餅をつく。何者なのか確認しようとして上を向き、それがとても長い事に気付き、すぐに立ち上がる。


「だっ――誰ですか!?」

「あー、本当に記憶無いんだ。ブラウザが言ってた通りだなあ……」


 私が構えると、その長い人は頭を掻く。大きなメガネが特徴的で、体には肉がほとんど付いておらず、女性か男性かの区別もつかない。

 髪は紫色だが、頭頂から髪先へグラデーションを掛けるようにオレンジ色へと遷移している。

 突然現れた事に私が構えて警戒していると、長い人はドアノブに立て掛けてあった椅子を外し、机のところまで持って行って座る。脚が長すぎるからか膝の位置が高いところにあり、辛そうだ。


「机に座っていいかい?」

「テーブルマナー的にアウトだと思いますよ」


 そう突っ込むと長い人は「そうだよねえ……」と言いながら足を崩す。そこで私は一つの疑問を抱く。

 私は先程、ドアを外から開けられないように椅子を掛けた筈だ。それなのにどうやって部屋に入ったのだろうか。

 窓かと思ったが、あの窓には格子が入っているので人の出入りする隙間はない筈だ。

 そこにも疑問を持ちながら、長い人のことを見ると、こちらに気付いたようでにっこりと笑う。メガネのせいで目元が見えないので口元だけだが、薄気味悪さを感じる。


「挨拶が遅れたね。私の名はレイラ。リリア・レイラ。……君と同じ、主の者さ」

「主の者……?」


 聞き慣れない言葉に頭を傾けると、レイラも同じく困ったように頭を傾ける。しかしガリガリと頭を掻くと、すぐに話を続ける。


「ま、まあいい。とにかく、君の監視役として抜擢されたんだ。半分は立候補したような物だけどね」


 という事らしい。私の監視役なんてわざわざ面倒臭い役を買って出るなんて、おかしな人だ。

 いや違う、わざわざ立候補したという事はもしかしたら――


「逃してもらえるんですか?」

「違う。違うよ?」


 違うらしい。それならわざわざ立候補する必要なんて無いだろう。

 つまり何か、別の理由があるのだろうが……


「……?」

「………いや、やっぱりやめとくよ」


 なんの話なのかさっぱりだ。

 レイラの言っている事が私の理解の範疇外にあることを確認した後、ベッドに座る。

 どうもレイラは私の事を知っているようなのだが、あいにく私はレイラについて何も知らない。

 いや、そうだ。レイラが私の事を知っているとするのなら、それはつまり――


「……もし」


 気が付けば口にしていた言葉を、そのまま続ける。


「もし、私の過去を……今から五年より前の、私の事を知っているのなら……教えてくれませんか」


 最初の10秒間は静寂に包まれ、返答は無かった。レイラは一言だけそれは、と呟き、また黙る。


「……今は話す時じゃない。きっといつか話す時が来る。だから……」

「………そうですか」


 話されないのなら、それでもいいと思った。自分の過去が分かるのならそれに越した頃はないが、私は……

 そう、私は、ハルオと共にそれを知っていきたいと思ったのだ。だから、答えないのならそれで納得するつもりだ。

 だが、それも………

 立ち上がり、窓のところまでゆっくりと歩く。井の形に仕切られた格子に手を掛け遠くを見ながら、思いを馳せる。

 レイラの反応の理由は、結局分からなかった。多分、待遇のことも話してくれないだろう。

 脱出する方法もないし、レイラはそれを容認してくれないだろう。

 結局、何も出来ないのだろうか。私はここにいて、王都へ連れていかれるしかないのだろうか。

 ぎゅっと拳を握り、目を瞑る。

 ハルオ、あなたは何か考えているんですか……?今、一体、どこで何を……


「ハルオ……」


 自分が漏らした声の行方も知らず、私はただ現状を傍観するしか無かった。


お久しぶりです。今回から投稿を再開しようと思います。

スキップした分は今後投稿していくつもりですのでよろしくお願いします。

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