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最弱転移者、魔法使いの要望により世界の果てを目指す。  作者: 満天丸
第2章「ドラゴルク駐屯地」
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脱獄不可能説

「……という訳で、俺は何も分からないままここに入れられたという訳だ」


 レインの自己紹介の後、何故投獄されたのかを聞かれたので俺は軽く自己紹介を交えて答えた。知っての通り俺は異世界人ということを除けばただのパンピーなので、その情報は隠して知っていることだけを話した。

 話している間レインは静かだったので、実は何処かに行ったんじゃないかと少し不安になったが、途中から呻き出したのでそこにいる事は分かった。

 俺が話し終えると、レインは何かで壁を叩きつける。

 うーうーと何かに耐える様な声で壁をガンガンと叩いており、その突然の狂暴化に驚く。


「お、おい、大丈夫か?急にどうしたんだよ」

「だって、酷すぎます!何も悪く無いのに投獄するなど!」


 確かに俺もそれは思っている事だが、無関係なレインが怒る事はないんだろうか。


「何で叩いてるのかは知らないけど、あんまりやると怒られるんじゃないのか?一応ここ、牢屋だしな」

「正義の名の下に怒られるのならば本望です!!」


 それはちょっと言葉が違う気がする。

 レインは元々正義感オンリーで騎士になったらしく、その正義感につきしたがい動いているらしい。

 その為今回の俺の不当な投獄に怒りを覚えているらしい。


「そりゃ怒ってくれるのは嬉しいけどさ。俺に全く非がないと証明できた訳ではないし、あんまり怒ると後から恥かくぞ?」

「人が助かるのならば私の恥など恐るるに足りません!」


 破滅的だなあ。

 俺が少し呆れていると、レインが走り去る音が聞こえる。

 どうしたのだろうか。少し疑問に思って声をかけるが、返事は無い。

 溜息を吐きしばらく待っていると、今度は走ってくる様な音が聞こえてきた。


「ハルオさーん!」


 涙声でどんどんと壁を殴りつけているレインに少し引き、どうしたんだと話しかける。


「ブラウザ団長に釈放願いを出したら殴られましたあ!」


 当たり前だろう。彼らは彼らの正当性を持って俺を投獄したのだから、一個人の願望で釈放できる訳が無い。

 金を積み重ねれば出れないこともないかもしれないが、それも出来るのかは分からない。

 壁の向こうですすり泣いているレインをどうにかしてあやしながら、俺は今後の事を考えていた。

 恐らく今のままだと、俺は王都に連れていかれるだろう。レイラのセリフが正しければ俺は極刑にされてしまう。それだけは避けねばならない。

 つまりはここから逃げ出さねばならないのだが、その選択肢は三つだ。

 1、俺はこの駐屯地からどうにかして逃げ出す。

 2、俺は王都へ運ばれている間に逃げ出す。

 3、俺は王都の牢屋からどうにかして逃げ出す。

 三つ目は絶望的と考えていいだろう。何しろ相手は国の中心だ。警備も相当厳しいだろうし、なんとか抜け出せたとしても追っ手が大量にくる可能性は高い。他の町や国―があるのかは分からないが―に逃げ出したとして、その時すでに指名手配されている可能性はある。

 よって三つ目は選外だ。

 二つ目は可能性がありそうだが、これも相当怪しい。この世界の魔法にはテレポートというものがある。それを使えばなんとかなるかもしれないが、魔法が絶望的に下手なアロナのテレポートが役に立つとは思えないし、そもそも王都までテレポートさせられるかもしれない。

 もしその時は三つ目と同じ条件になるので、これも選外だ。

 つまり残るのは一つ目、今この状況からどうにかして抜け出す、だ。

 だが、それにも当然多くの問題が残っていて、どうやって騎士どもを騙眩かすかとか、そもそもここから逃げる方法があるのかとか……


「ああぁ、全くどうしたら……」


 いつの間にか俺の考えは声に出ていて、それもレインに聞こえていた様だ。


「どうにかされたのですか?」

「どうにかしたも何も……」


 と、ここで言葉を止める。

 脱獄しようとしている事を話していいのだろうか。確かに俺は不当な形で投獄されている訳だが、その上で脱獄という不当な脱出を選んだ場合、彼女が告げ口する可能性もある。

 正義感一心で動いているらしい彼女が脱獄という手段を許すかどうか分からない。

 俺はそこに不安感を覚え、話さない事にした。


「……ああ、王都に連行されたらどうなるのかと思ってな」


 そう言うと、窓の外から音が聞こえなくなる。また先程の様に何処かに行ってしまったのかと思うと――


「………嘘ですね?他に考えている事があるのでしょう?」


 こいつ鋭い!

 普通こう言うのは気付かなかったりするものじゃないのか。


「な、何も考えてないよ。本当に連れて行かれたらどうしたらいいかなーと…

 …」

「本当は別に考えてる事がありますね!何故わざわざ隠すのですか!?」


 何故全てをお前に話さねばならないのか。

 しかしわざわざそう言って拒否すると、なお面倒な事になってしまいそうだ。

 俺は諦め、脱獄をしようとしている事を話した。

 ただ、その上で他人に告げ口しないことは了承してもらった。


「……言いたいことは理解しました。でも、やはりダメだと思います!確かに理由も分からないまま投獄はされたのでしょう。でも、それならば自身に正当性がある事を示して檻から出るべきです!」


 レインの反応は俺の予想とは違っていたが、そのほとんどは先程の会話からの流用で、最もな主張だった。

 そりゃあ俺だって、正当に出られるのならわざわざ犯罪者にはなりたくない。しかしそれが恐らくほぼ不可能で、かつ入れられた理由が分からないのだ。

 もはやこの思考もなんどもループしており、いい加減自分でも飽き飽きとして来る。

 上手いことレインが手伝ってくれるのなら何か出来たかもしれないが、それも駄目なのならまた振り出しに戻るだけだ。

 せめて針金の一本でもあればなんとかなったかもしれないのだが。


「……別に、お前がそう思うのも勝手だけどな。俺にだって考えがある。だから脱獄したいんだ。」


 そう言うと、レインは少しだけ止まり、分かりましたと小声で呟く。

 ようやく分かってくれたか、と思ったのだが――


「また明日も来ます。脱獄なんて、させませんからね」


 ――こいつ、何も理解してねえ!

 結局俺が呼びかけるのを無視して、レインは何処かに行ってしまった。

 もしかしたら、更に面倒な事になったのかもしれない。


新キャラです。

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