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最弱転移者、魔法使いの要望により世界の果てを目指す。  作者: 満天丸
第2章「ドラゴルク駐屯地」
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怪しい者達

第二章突入です。

 白い空間にいる。

 いや、そうとしか表現できないのだ。上下左右、どこを見ても白しか存在しない。

 なぜこんなところにいるのかさっぱり検討も付かない。まずは自分の行動を探ってみようと、覚えているところから記憶を辿る。

 と、ここで突然思い出す。俺はここに来たことがある。それももう三度目だ。

 では一体いつここに来たのか、さっぱり思い出せない。ただここに来たことがあるということだけは覚えている。

 確かそう、ふと気づいたら目の前に大きなスイッチがあって、それを押した途端自分はどこかに……と周りを見渡すと、あるものが存在していた。


「なんだあれ。……木か?」


 木が立っている。周りの空間と同じで全く真っ白だが、目をこらすとそこにシルエットがある事が分かる。

 太い棒状の部分に、上部には細かくわさわさとしたものが付いている。色は無いが、確かにシルエットは木の様だ。


「感触も木だよな……」


 ペタペタと触ってみるが、確かにこれは木の様だ。しかしなぜ白いのだろう。木というのは、幹が茶色くて葉が緑で……


「あれ、なんで色が………」


 もう一度見てみると、木には色がついていた。上から下に目を送るが、木の根っこは埋まっていて見る事は出来ない。

 さっきまで真っ白だったはずだが、この一瞬で進化したのだろうか。そう思いながら木を叩くなどして様子を見ていると、後ろに誰かの気配を感じる。

 振り向くと、そこには美少女がいた。ボブショートの栗色の髪で、顔はどちらかというと童顔だ。頭の上には薄黄色のリングが浮いていて、背中には羽が生えている。

 天使だろうか?と考える。しかし天使というものはにこやかな物だという印象がある。その顔は笑っていない。


「……えっと」

「……俺は誰だと思う?」


 俺っ娘だろうか?と疑問に思うが、ものすごい気迫で、そんな事を聞く余裕もなさそうだ。

 この天使のような人はまるで俺のことを知っている様だ。しかし俺には全くもって記憶がない。と言う訳で聞き返してみる。


「どなたですか?」

「天使だ」


 俺は横に出て来たボタンを叩いた。

 叫び声が聞こえた様な気がして、暗転。




「………うぅ……」


 体の節々が痛い。これで高熱があればインフルエンザなのだろうが、体は熱くないので単なる疲れだろう。

 非常に硬いものの上なので押し付けられていた部分が非常に痛い。体も固まっている様で、動かす度にパキパキと音が鳴る。

 体を起こして周りを見ると、そこは小さな木製の小屋だった。ドアが一つだけついており、窓があるのかは明かりがないので分からない。


「んー……」


 高めのうめき声に横を見ると、アロナが転がっていた。アロナには敷布団があり、そこの上で寝ている。

 なぜこいつだけ敷布団を持っているのだと微妙な気持ちになり気づく。

 こいつが布団を占領したのだ。


「………せいっ!」


 敷布団を片方のみ勢いよく持ち上げると、バランスを崩したアロナがゴロゴロと転がって反対側に落ちていく。

 ごっと鈍い音が響き、アロナが跳ねる様に起き上がった。


「へ、え?」

「……おはようアロナ」


 混乱した様子のアロナに何事もなかった様に挨拶する。アロナはこちらを振り向いていまの状況を確認している。


「今何か起きました?」

「ん?何が?」


 俺は何も知らない。

 あれーと頭を傾けているアロナを横目に、俺は再度周りを確認する。

 明らかにどこかの建物に隔離された状態だ。ここが一軒家なのか纏まった建物なのかはわからないが、俺たちは誰かにここに連れてこられたのだ。

 頭を傾けたまま動かないアロナに掛け布団を被せて丸め、俺はドアを開けて外の様子を確認する。鍵はかかっていないので、軟禁されていた訳ではなさそうだ。

 ドアの外は屋外ではなく木造建築物の廊下で、そこまで長く続いている訳ではなかった。周りを確認するが人はいない。


「アロナ、俺たちはどうも追われている身で、どういう経緯かここにいる。逃げるぞ」

「え……?ま、待ってください。確かに黒装束の人たちが私たちを追ってきていましたが、ここにいる人がその人たちとは限らないじゃないですか」

「それに準ずる組織だったやばいだろ。想定はいつだって悪い方にするべきだ」


 そう言うとアロナは確かに、と納得する。そもそも敵の勢力も目的も何もわかっていないが、明らかに身の危険を感じた。敵の目的が不明な以上、今は逃げるのが優先的だろう。

 自分たちのポーチが無いので、どれも探すしか無い。道具がなければ俺はほとんどスキルが使えないし、アロナも魔法陣が描けないので二人ともただの役立たずだ。


「最悪逃走スキルがあればなんとかなるはずだ。恐竜が今どうなってるのかも気になるからな。行くぞ!」

「わ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


 喚くアロナの腕をひっ捕らえて俺はこそこそと部屋を出る。その瞬間――


「おっ目が覚めたか。体調はどうだ?」

「ふおっ……」


 目の前に大きな男が現れる。自分の身長が170センチ程なので、この男は180から190センチほどだろう。

 金髪のその男は部屋の中を確認すると、来な、と言ってさってしまう。

 アロナとそちらを交互に見た後、俺は男についていく事にした。




「ほらよ」

「どうも」

「あ、ありがとうございます」


 男に出されたお茶を飲む。変な匂いや味はしないが、別に美味くも不味くもない普通の茶だ。

 同時に出されたお茶菓子をつまみながら、俺とアロナは男の話を聞く。


 ここはドラゴルクという土地で、現在王都騎士が駐屯地として活用しているらしい。彼らはこの辺りに住んでいるドラゴンを倒す為に派遣され、かれこれ一ヶ月ほど戦っているそうだ。

 男の名はブラウザというらしく、この駐屯地にある騎士団の団長だそうだ。団長がなぜ俺たちの相手を、と思ったが、話の本質はそこだった。

 要は、俺たちが怪しすぎるので保護したという事だ。


「という訳で、俺はお前らの正体を暴かなければならない」

「正体って言われましても……俺もアロナもただの僻村の住民ですよ」

「ただの住民は身体中を傷だらけにしてドラゴンに乗ってたりしねえよ」


 ごもっともである。今気づいたが身体中の傷は治っている。恐らく聖魔法使いがいたのだろう。

 アロナは事実上ただの村娘とはいえ、俺は異世界人だ。異世界人がこの世界でどんな扱いを受けているかは知らないが、喜ばしくないのは確実だろう。

 つまり俺は、どうにかしてここでこの男に危険視されないようにしなければいけないのだ。


「ついさっきあのきょうりゅ……ドラゴンと戦いまして。そしたら懐いたので試乗していたら落ちたんです」

「馬鹿にしてんのか」


 ドラゴンと戦って懐かれて落ちたのは事実だ。それとも試乗していたところに突っかかられたのか。

 俺がどう弁解しようか迷っていると、ブラウザはまあいい、と一息つく。


「とりあえず俺が質問するから、それに答えろ。嘘は吐くなよ」

「吐く嘘なんて持ち合わせてませんよ……」


 というのは嘘だ。怪しまれないよう最低限の情報のみを使おう。


「名前は?」

「ウエス=アロナです。ウエスが姓でアロナが名です」

「ツムギハルオです。……あ、イスト=S=ハルオって言った方がいいのかな。取り敢えずハルオが名前です」


 ブラウザの眼が光る。

 俺は何も間違っていない。そんな目で見られても、やましいことはしていないのだ。


「……村民と言っていたが、どこの村だ?」

「二人ともファスト村です」


 更に眼が激しく光る。

 怖くない、怖くない。俺は何も悪くない。


「………使える魔法は?」

「ありません」

「全属性……あ、聖と闇を抜いて、です」

「取り敢えず拘束させてもらう」

「ちょっと!?」


 俺より先にアロナが声をあげるが、ブラウザは止まらない。どこからか取り出した縄をバシバシと両腕でひっぱり、今にも捕まえるということを指している。


「アロナ、掴まれ!『逃走』!」

「は、はい!」


 アロナの腕を掴み逃走スキルを発動させる。部屋の構造的にドアからブラウザと俺たちの距離はほぼ同一なので、すぐに俺の後ろにブラウザが来る形となる。

 瞬間、加速する。この速度ならドアを開けた後も逃げられる――

 そう確信した瞬間、後ろから声がする。


「『施錠』」


 ガチンと音がして、ドアの鍵が閉まる。勢い余った俺はドアにぶつかってしまう。


「はぐあっ……!」

「は、ハルオ!大丈夫ですか!? 」

「悪いな。二人とも悪人には見えないが、怪しすぎるんだよ」


 施錠――そんなスキルもあるのか。俺が痛みに耐えながらもそう思うと、後ろから手が伸びる。


「拘束させて貰うぞ。『束――」

「『束縛』っ!!」


 瞬間俺は回転するように体を回し、ブラウザの縄を掴み束縛スキルを唱える。束縛スキルは「自身が触れているヒモ状の物に触れている物を縛る」というスキル。そのヒモが例え人の物であっても、先に唱えてしまえば――


「ぐっ……!」


 拘束することが可能だ。

 ブラウザが簀巻きにされ、床に転がる。


「アロナ、今の内だ!窓から逃げよう!」

「は、はい――」

「『解縛』」


 またもや後ろから声が聞こえる。そんな馬鹿な、と振り向くと、そこには縄を解いたブラウザがいた。


「あまり舐めるなよ。束縛に対する手段なんてあるに決まってるだろ」


 相手は王都騎士。舐めてかかったつもりは毛頭ないが――


「くそっ……!」


 ジリジリと詰め寄ってくるブラウザから逃げ果せる方法を考える。

 逃走スキルで窓を破るか?

 それとも投擲スキルを使って視界を潰すか?

 だめだ。おそらくそう言うものも全て対策されているだろう。

 だが、ここで諦める訳にはいかない。俺達は向かう場所があるのだ。

 世界の果てへ辿り着くまで、俺たちは歩みを止める訳にはいかない。

 少しでも逃げる時間を稼ぐ為に、突進する。


「うおおおおおっ!!」

「『早筆』。モアサンダー」


 俺の意識は、そこで無くなった。


今回から第二章です。最初なので少し短めに。

前半に出てきた天使は一体何者なのでしょうね。

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