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最弱転移者、魔法使いの要望により世界の果てを目指す。  作者: 満天丸
第1章「ファスト村」
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いつかの、どこかの、だれかの昔話

 ガラガラと音を出して崩れて行く建物の中で、私は昔のことを思い出していた。

 私が他人に迷惑をかける事を拒んでいたのは、一体いつからだっただろうか。

 思い出そうとして一番に思い付くのは、あの村に来たあの日から。

 私は魔法適性を調べる為に、村役所まで来ていた。




「ぬおっ!」


 パキンと、目の前の水晶が割れる。その事に驚いた私は、つい勢い良く後ろに後退する。同時に、女性にぶつかってしまった。

 何が起こったのか分からずその金髪の女性―リィナだ―を見ると、私を軽くなでる。


「怯えなくていい。あれは魔力を測る魔道具で、魔力の多さによって振動するのだが……あの魔道具が振動する前に壊れたのは初めて見たな。一体どんな魔力を持っているんだ?」


 そう言いながら私を見るが、私自身もその事については知らない。頭をブンブンと横に振ると、そうか、と言って彼女は次の準備に取り掛かる。今思えば、アレは少し冷たすぎるのではないか、とも思ってしまう。

 騒ついている周りを尻目に次に用意されたのは、8つの宝石だった。これはなんだろうか、見覚えがあるぞ、と思っていると、その概要だけを思い出す。

 8つの属性適正を示す宝石。これに触れれば、対応する属性のみ光るのだ。

 豪華な燭台のようなものに乗せられた宝石はそれぞれが綺麗に整った形をしており、神聖な雰囲気を漂わせる。一瞬だが、それに見入ってしまった。

 私がそれを目の端に置いたまま目の前のローブをかぶった老婆をみると、彼女は「どうぞ」と一言だけ言って宝石に手を差し出す。

 私は言われた通りに1つずつ触って行くと、それらが綺麗に輝き出す。赤、黄、薄緑、青、緑、茶。残り2つだけは光らなかったが、それを見た瞬間に周りの大人たちがざわめき始める。

 天才だ。ありえない。素晴らしい。ちょっと怖い。インチキか? ついに現れた。

 全員が全員、言いたい放題だった。それでもその内容の大半は私の気をよくするのに十分で、私ははにかみながらも周りを見る。


「魔力測定不能、六属性適正か。化け物だな」


 そう誰かが言ったのを遠くから聞きながら、私はとある場所へ向かっていた。それは、村役所から少し外れた場所にある、魔法練習場。

 そこで実際に魔法を撃って、魔力調整力を確認するのだ。

 広い乾いた土の上に立ち、遠巻きに人々が私を興味津々と言ったように見ている。その事にうっすらと胸の奥で気を良くし、私は人々に手を振って話しかける。


「今から魔法を使いますから、見ててくださいねー!」

「ああ!雷属性で試してみよう!」


 そう言ったのは、金髪の女性、リィナだ。その時はまだ彼女が教師であるとは知らなかった。

 私は良しと気を構え、手を前に出す。手の甲に刻まれている魔法陣は、空間に光の点を出し、それが一定時間残るという魔法。名前は「ライトニングペンシル」。

 これは私が村に来る前からあったもので、かつ私はこの魔法のことを覚えていた。

 そして私は、その光のペンを出そうとしたのだ。

 そう、多分、正確にはここから。私はあの村で、どん底の沼に入って行ったのだろう。

 光が出た。しかし、それは尋常のものではなかった。

 あまりの大きさに、私は目を閉じて体を丸めた。周りからも多少声が聞こえて、その人々もみんな私と同じようにダメージを食らったのが分かった。

 何が起こったのか。私は一瞬、それを悟ることができなかった。だが、すぐに気付いた。これは、私が出した光だ。ライトニングペンシルによって作り出された光の点だ。いや、点などと呼べるものではなく、それは光の塊だった。

 ライトニングペンシルによる光はすぐに消え、あとには私を含め体をうずくまらせる人だけが残った。

 最も近くでその光を目に受けた私は、1日の間病院に入院する事になった。




 病院のベッドで上半身を起こして本を読んでいると、リィナが入って来る。リィナは私の体を心配するような口調で話しかけて来る。

 体調はどうだ、目はどうだ。もう良くなったか、とか。

 だが、実際は魔法の事が気になって仕方がないようだった。

 それはこの病院の医者も同じで、私の目を診察する度に私の魔法について語っていた。それはもはや、私の病室に入って来る人間全員がそうだった。


「知りませんし、わかりません。何も」


 その言葉をその時だけで何度言ったのか、もう覚えていない。

 そしてその言葉を聞く度に人の出入りは少なくなり、私が退院する事になって病院に来たのは、リィナ一人だった。




 それから一週間、私はリィナの家に泊まっていた。リィナに特別な感情があったわけではなくて、それはただ住む場所が無かったからだ。


「すみません、迷惑をかけて」


 私がそう言うと、彼女は困ったような顔をしていた。その時の私はそれが最良の選択だと絶対的に信じていたが、今ではリィナの表情の意味が分かる。

 ある日、私は学校に連れて行かれた。私には授業料を払う為のゴックリも持っていなかったし、持っていても払う当てがなかったのにだ。

 しかし、彼女はそれを後回しにしてくれると言った。正確には出世払いというやつだったが、それはどうでもいい。

 晴れてファスト村の学生になった私は、ある日魔法の実習授業に出る事になる。


「なぁなぁ!お前、魔力がやばくて、属性適正もすごいんだろ!?」


 同じクラスの男子が、ハイテンションで話しかけて来る。私はうん、と答えると、男子はさらにテンションが上がったようで、大声で喜んでいた。

 それにつられて、周りの同級生が集まって来る。私の魔法の噂は急速に広まり、一気に周りで私を賞賛する声が上がった。


「そんなに褒められても、困りますよ……」


 私はそうとしか言えない。まだ私は覚えているのだ。あの日、ライトニングペンシルが暴走した事を。

 周りの賞賛の声は、いつの間にか魔法の実践に移り変わっていた。私の魔法が見てみたいとか、ぜひ参考にしたいとか。

 それでも望まれているのだから、私はやるべきだと考えたのだろう。

 私はせめてライトニングペンシルを使わなうようにペンと紙を用意すると、そこに魔法陣を描く。

 そして、ある1つの魔法を唱えた。


「モアウォーター!」


 モアウォーター。水属性の第二階級魔法。いわゆる基本魔法と呼ばれる系統で、効果は単純。魔法陣から桶一杯分ほどの水が出るという魔法だ。

 そのはずだったが、私の魔法は違った。

 魔法陣から何も出ない。代わりに、魔法陣からは風のような音が出るだけだった。


「……あれ?魔法使ってねーの?」

「なんか妙にジメジメしねえ?」


 周りがざわめき始め、私も少しずつ不安になる。すると誰か勘のいい人が、モアウォーターを出している魔法陣の前に紙をひらひらさせる。


「……やっぱり湿ってる。これもしかして、湿気だけでてるのかな」


 その言葉に、再度周りはざわめき始める。今度は賞賛ではない。失望、懐疑、畏怖の目で私を見て来る。

 それに恐怖を感じた私は、なおも引き止めるようにもう1つ魔法を書いた。


「ファ、ファイアー!」


 火属性の第一階級魔法。本来なら小さな火を出す程度の魔法のはずだったが、それはまた少し違った。

 火の大きさはそのまま。色も形もおかしなところはない。しかし、明らかに熱がおかしいのだ。

 触ってみると、その火は物を燃やそうとしない。むしろ真逆で、冷えていくのだ。

 どの事に気づいたギャラリーが、再度騒めく。

 そして誰からともなく発されたその一言は、私の胸を引き裂いた。


「なんだ、まともに魔法も使えないのかよ。騒がせやがって」


 そんな事。

 そんな事を言われても、私にはどうする事も出来ないのに。私だって、この魔法を使いたくて使っているわけではないのに。

 いやだ、嫌われてくない。そういう私の気持ちが、もう1つ魔法を使っていた。


「さ、サンダー!」

「あだっ!」


 ドアを開けようとした同級生が、手を跳ねさせる。魔法は出なかった。いや、出ないように見えたのだ。

 静電気。私の雷属性の魔法が放ったのはそれだった。


「……今のもお前の魔法かよ!もういいよ、近寄んな、気持ち悪い」


 ――なんで。

 どうしたよかったのだろう。どうすれば良いのだろう。それは今もわからない。

 私は私で、それ以外の魔法を使えないのに。

 そして私は一つの結論に至った。

 私が外から来たから嫌われたのか。

 違う。

 私が不器用だから嫌われたのか。

 違う。

 私が嫌われるのは普通じゃないからだ。

 普通じゃなかったから、周りとは違ったから嫌われたのだ。

 私が他人よりも魔力を持っていて、他人よりも属性適正が多いくせに、魔法が下手だから嫌われたのだ。

 それなら、こんな力はいらないじゃないか。魔力も、属性適性も、私じゃない誰かが持っていればよかったのだ。

 私はいらないのだ。私という存在が、最初から最後まで、きっといらなかったのだ。

 ある日私は、同級生の家に居候することになる。名はクレイ。私のたった一人の親友になる人だった。

 彼女は私の魔法がおかしい事を疑問に思いつつも、それでも優しく接してくれた。だが、逆にそれが私にとって辛かった。

「ごめんなさい」。それが、いつか私の口癖になっていた。

 私という存在するだけでも迷惑なものが、私という存在が他人に迷惑をかけることが、私には耐えられなかったのだ。

 そして私は、人との関わりを極力避け、人に迷惑がかからないよう、出来るだけおかしなことがバレないように、少しでも普通に近づくように練習しながらコソコソと生きるようになっていた。

 あの日、彼と出会うまでは。あの日、彼に教えてもらう日までは。

 私は救われた。私を包み込む闇からすくいあげ、私に人生を教えてくれたあなたに、私はずっとついて行くつもりだった。

 私のあり方。私という意味。その必要性。ないと思っていたものをあると教えてくれた彼は、私にとって救世主のようなもので、大切なものになっていた。

 たとえ闇の中でも、光の中でも、雲の上でも、火の中でも、水の中でも、どこにいようと、きっとついて行くと、私はあの日心に決めたのだ。

 だから、ねえ。

 声にならない声で、彼に言いながら。


「目を覚ましてくださいよ、ハルオ………!」


 私は目を閉じたまま動かない彼の胸に、泣きついていた。




 これは、いつかの、どこかの、だれかの昔話。


今回は少し未来の昔の話です。意味が分からなくても、多分後々分かります。

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