かき氷
かき氷を食べると、頭がキーンとする。
これはどうしようもない現象で、毎回辛い思いをするのだが、私は懲りずに夏になると氷を削る。祖母から譲り受けた古いかき氷機で、ハンドルを渾身のちからでぐるぐる回し、ガリ……ガガガリ、と不規則なリズムで粉砕し、どうにか一杯分のかき氷を完成させる。
氷山の頂点は、白い結晶が輝く粉末状になっているのだが、底面は溶けかかって液状になっている。慌てて青いシロップをかけて、スプーンでくちにかきこむ。
そして、さあ、来た。キイイイイン!!!頭が割れるように痛む。急いで放り込んだ報い。古いかき氷機を使って製作が遅れたのだから、しょうがない。
私の祖母は、駄菓子屋をやっていた。戦後しばらくしてから祖父とともに開業し、つい十年前まで元気に営業していた。しかし祖父が亡くなり、祖母が寝込むようになって閉店した。
駄菓子におもちゃ、くじもあれば、お好み焼きもあった。なかでも、このかき氷機を使った宇治抹茶は、大人も通うほど評判だったという。
私も子どものころはよく祖母にこれを作ってもらった。甘い、懐かしい記憶……。しわだらけの手で、どこにそんな力があるのかという勢いでハンドルを回して、器をどんと差し出してくる。私は笑顔で頬張った。
ところで、祖母の駄菓子屋には、イチゴ味のかき氷だけはなかった。頼んでもシロップを置いてもらうことはできなかった。
理由はしらない。祖母も、母も教えてくれなかった。
ただ、いくつかの情報から推測がつく。
駄菓子屋には、薬箱が一つに対し、包帯だけは過剰に置いてあったこと。
かき氷機の刃が異様なほどにきれいに手入れされており、錆びひとつなかったこと。
そして、子どもには、絶対に触らせなかったこと。
決定的なのは、この頭に響くきいいんとした『音』だろう。
そう、『音』。
私は知らなかったのだが、この『きいいいいん』は、ただの表現であって、実際に鳴る音ではないらしい。
だが、私はかき氷機で作ったかき氷を食べると絶対にこの音を聞き、同時に頭痛を起こす。
あるとき耳を澄ましてみると、このなかに男の子の声がノイズのように混ざっていることに気が付いた。
『きいいいたいいいんゆいいいびいいんんんんががががいいいいんん』
私は、もうこの音に慣れてしまったが、赤いシロップを使う気にはならない。
今度は、宇治抹茶を作ってみようと思う。