表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かき氷

作者: 鷹枝ピトン

 かき氷を食べると、頭がキーンとする。


 これはどうしようもない現象で、毎回辛い思いをするのだが、私は懲りずに夏になると氷を削る。祖母から譲り受けた古いかき氷機で、ハンドルを渾身のちからでぐるぐる回し、ガリ……ガガガリ、と不規則なリズムで粉砕し、どうにか一杯分のかき氷を完成させる。


 氷山の頂点は、白い結晶が輝く粉末状になっているのだが、底面は溶けかかって液状になっている。慌てて青いシロップをかけて、スプーンでくちにかきこむ。


 そして、さあ、来た。キイイイイン!!!頭が割れるように痛む。急いで放り込んだ報い。古いかき氷機を使って製作が遅れたのだから、しょうがない。


 私の祖母は、駄菓子屋をやっていた。戦後しばらくしてから祖父とともに開業し、つい十年前まで元気に営業していた。しかし祖父が亡くなり、祖母が寝込むようになって閉店した。

 駄菓子におもちゃ、くじもあれば、お好み焼きもあった。なかでも、このかき氷機を使った宇治抹茶は、大人も通うほど評判だったという。


 私も子どものころはよく祖母にこれを作ってもらった。甘い、懐かしい記憶……。しわだらけの手で、どこにそんな力があるのかという勢いでハンドルを回して、器をどんと差し出してくる。私は笑顔で頬張った。


 ところで、祖母の駄菓子屋には、イチゴ味のかき氷だけはなかった。頼んでもシロップを置いてもらうことはできなかった。


 理由はしらない。祖母も、母も教えてくれなかった。


 ただ、いくつかの情報から推測がつく。


 駄菓子屋には、薬箱が一つに対し、包帯だけは過剰に置いてあったこと。


 かき氷機の刃が異様なほどにきれいに手入れされており、錆びひとつなかったこと。


 そして、子どもには、絶対に触らせなかったこと。



 決定的なのは、この頭に響くきいいんとした『音』だろう。


 そう、『音』。


 私は知らなかったのだが、この『きいいいいん』は、ただの表現であって、実際に鳴る音ではないらしい。


 だが、私はかき氷機で作ったかき氷を食べると絶対にこの音を聞き、同時に頭痛を起こす。


 あるとき耳を澄ましてみると、このなかに男の子の声がノイズのように混ざっていることに気が付いた。


『きいいいたいいいんゆいいいびいいんんんんががががいいいいんん』



 私は、もうこの音に慣れてしまったが、赤いシロップを使う気にはならない。


 今度は、宇治抹茶を作ってみようと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ