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さようなら、ばいばい。

まぁとりあえず、結婚の話はチャラか……なんてことも思いつつ、この先どうするかを思案する。

同棲し、彼女が大学を卒業するまで待つ。


ま、その選択肢しかないのだけれど。

けれどその前に俺は仕事で必要な免許を取らなくてはいけない。


車の免許はすでに持っており、つまらない車にも関わらず嫌な顔一つせず横に乗ってくれる優子には本当に頭が上がらない。

社会人2年目、人並みの軽でも乗っていればもっと色々なところに連れて行ってあげれたかもしれない。


そして今度は俺の番。春にある試験に向け猛勉強した。

優子の応援あってか、なんとか試験が終わり、帰りのバスに揺られ携帯で彼女にメールを送る。


昨日はバイト先の先輩と夜中にスタバに行くと言っていて、試験が終わった今日は会う約束をしていた。


『今から帰る、40分くらいかかるけど、迎えに行こうか?』


『ごめん、今日は無理になった』


そっか、と思いつつも嫌な予感がしていた俺は、ついつい聞いてしまう。


『なにかあった?』


『何もないけど』


また素っ気ない返事。


今までであればこういうときはかなり精神が不安定になっている。


『そうなんだ』


と送るとその日、彼女からの返信は帰ってこなかった。



翌日の晩


『ごめん』


その一言だけが携帯のメールに入っていた。


『大丈夫?』


と返信すると。


『大丈夫じゃない……』


と返ってくる。

この時の俺は自分の心臓の鼓動が早くなるのが自分でも感じた。

もうダメかもしれない。


嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌。


『何が……あったの?』


聞かなければよかった、聞かなければ何もなかったのかもしれない。


『怒らない?』


『うん』


ザワザワする気持ちが抑えられなくなっていた。


『言っても嫌いにならない?』


『大丈夫』


あ……何かが壊れそう。

何かが壊れていく音がしたような気がした。


『昨日バイト先の先輩とスタバ行くって言ってたんだけど、本当は飲みに行ってたの、

 でも全然記憶が無くて、周りの子に聞いたらなにもなかったとは言ってたのだけど……』


やっぱり、昨日のメールの内容があやふやだったから、そうじゃないかなと思ってはいた。

彼女がお酒に弱いのは元々聞いていて、できれば禁止と言い聞かせていた。

彼女も『記憶が無くなるくらいは飲まないよ!』と笑っていたくらいなのだ


けれどその禁止していたことが反発心を煽ったのか、俺に内緒でお酒を飲みに行ってしまった、

それも男の人と。


『そっか、何もないならよかった』


良かったんじゃないよ。

返信を送った直後目の前が真っ暗になり、気づけば手にカッターを、それも刃を変えたばかりの切れるやつを。

そして手を切った。


何度も何度も何度も。


そのたびに体から反応する声が、痛い痛い痛い痛いと言っている。


この痛いが俺が生きている証、そして、あわよくばもう死んでしまいたいという心の声。


飲みに行ったこと自体が悪いんじゃない。

嘘を重ね、重ね、裏切られたことが。


全部を壊していったんだって。


今まで我慢して、支えになろうって、だから今まで。

がんばって踏ん張ってきたんだって。


だからもう、終わりにしよう。


切りに切り裂いた左腕からは大量の血が流れ出ており、シーツは血でいっぱい。

その写真を罵声や罵倒の長文付きで送り付ける。


翌日の仕事を放棄し、家を出た。



何時間歩いただろうか、所持金はたったの4000円。


どこまでいけるだろうか、


携帯の電源を入れると捜索願を出された時に特定されるかもしれない。

電車や交通機関を使えば監視カメラに映り場所を特定されるかもしれない。


知る人の誰もいない遠くへ。


そう思って近くの公園の時計を見ると家を出た時は午前0時

現在は午前6時半、


既に6時間半の道のりを歩いてきた。


知らない地で生きていくにはホームレスにだってなんにだってなるしかない。


と思っていた俺だったが生憎の雨の中をひたすら歩き体力は限界、公園のベンチでぐったりとしてしまう。


「もう帰っても仕事には行けないし、腕はこんなだし、」


段々と冷静になってくる。


携帯には何度も何度も優子から着信やメール、

その友人からは『優子を落ち着かせてあげて』というメールまで入っている。


俺は親友と縁を切り、ひたすら孤独で戦ってきたというのにも関わらず、

優子には新しくできた友人が居る。


その違いにさえバカバカしさの余り笑いが出てしまう。


段々と冷静になってきた俺は、電車に乗った。

そして午前10時、


まさかの家に帰ってきてしまった。


母や妹は心配して声をかけてきたがすべて無視。

夜に帰ってきた親父も『仕事を辞めるのか』と言ってきたので『うん』とだけ答えておいた。


そこから始まったニート生活、正直世の中ニートが正義だわ、と思わざる負えなかった。


そして毎日毎日ゲーム三昧。


だが10日くらいしたある日1本の電話が入る。

見覚えのある番号、この末尾だけは忘れることができない。


優子からだった。


『もしもし?』


『……』


『寝てた?』


『うん』


先ほどまで寝ていた俺は現実感のないまま、

いや現実とはわかっていたものの、復縁を迫られるにせよ、そのまま切り捨てられるにせよ、

既に仕事は辞め、家でぐーたら、なにも答える気にはなれなかった。


『あのね、私達は依存しているだけだと思うの、嫌いになったわけでもない

 だから一旦別れるけれど、いずれまたどこかで出会って結婚するかもしれない。

 だから……今は……ごめんね』


きっと勇気を振り絞って電話をしてきたに違いない。

今まで生きてきた18年間で一番愛した女の子、その子の言葉を俺は。


『うん』


だけで済ませてしまった。


『ごめんね……切るね……』


『うん』


もしかしたら別れたくないと言って居ればそのまま続いていたかもしれない。


もしかしたら飲みに行ったことを許していれば。

飲みに行く行為自体を許していれば。


一緒に同棲し、大学を無事に卒業した後、結婚していたかもしれない。


続いていても違うことで別れてしまい、今よりもずっとスッキリとしたさよならができたかもしれない。


でも言わせてほしい。


君が居なくなった穴はとてつもなく巨大だけれど、

その大きい穴はまだまだ埋まる気配はないけれど、


君がやる気を出させてくれて、取得した免許のおかげで大きなミスすることなく頑張れているし


君と出会えたおかげで本当の友達を見つけることができた。


そして誰かを大切にするってことの大切さ、居なくなった人の大切さをわからせてくれた。


けれど、

今まで、デートに遅刻をしたり、色々な所へ連れて行ってあげれなかったり、

ゲームばっかりしててメールの返信できなかったり、

怒ったり、泣いたり、怒鳴ったり。


全部、全部ごめんね。


君が居たおかげで今の僕は幸せです。


今後お互いに歩む道は違うけど、お互いにがんばっていこ。

さようなら、ばいばい。

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