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始めまして、白獅(はくし)と申します。

この小説はほぼ短編小説となっておりますので

大まかな部分は1話にまとめています。


になりますのでかなりの長文です。


自律神経調節障害

それはその病を患っている者にしかわからない体の不調。


自律神経失調症

こちらもその病を患っている者にしかわからない、

いや、患っていてもわからない病かもしれない。


俺、渋谷(しぶや)正輝(まさき)がかかった病は前者だった。


最初は体がだるいなとか、寝つきが悪いなとかいう程度だったその病は

中学生3年生、ちょうど受験シーズン真っただ中にピークになるように発症した。


自律神経の病気なので発症した、という表現があっているかどうかは曖昧なところである。


そんな最中、なんとか公立の高校へと進学した俺は、

やはりというべきか、なかなか学校へと行けず中退を余儀なくされてしまう。


そして始まった社会人1年目、右も左もわからず、とにかく仕事をこなしていく。そんな日々が半年程続いた、

とある秋。


地元の秋祭りを親友と楽しんでいた。


そして出会ってしまった。

人生を左右する彼女と。





泣いていたんだ。




ただただひたすらに『死にたい』と。




俺は思った、厄介ごとに巻き込まれる予感がする。

ただ、泣いている女の子を放っておくのはどうかと、

自分の中の天使、悪魔の激闘の末、どうやら天使が勝ったようで、

その流れのままに彼女の元へ、掛ける言葉も見つからず、その女の子が泣き止むのを待った。


彼女が泣き止み目をこすっていると、ふと目が合い口を開く。


「誰……?」


そりゃそうだろう、盛大に泣きに泣いた後、顔を巡らせると知らない男性が近くに立っているのだ。

不信に思わないはずもないだろう。


「俺……俺は、渋谷、」


「渋谷……どこかで聞いた覚えが……」


たぶんその聞いたことある名前で間違いないだろう、親友に聞いたところ、

彼女はその親友が入っている部活、サッカー部のマネージャーだと言う。


親友は学校で俺の話をペラペラ喋っているようでサッカー部内で俺の話を聞いたことがない者は居ない、

というと大きな話過ぎる気もするがそんな感じだったらしい。


「渋谷……あ……シブちゃん?! 中山君の親友の?」


「う、うん、そうだよ」


「私は、優子! サッカー部のマネやってるんだよ!」


「そうなんや、ところで優子ちゃん、もう大丈夫?」

その後彼女とその友人と和気あいあいと話をしながら彼女を駅へと送り届けた、

互いの連絡先を交換し合い、ばいばいと手を振る。


ちなみに中山とは冒頭で言っていた親友のことだ


別れた後は中山達と合流し、皆で俺の家で泊まる予定だったので、

全員で5人、そろって自転車で俺の家への帰路へ着く。


その帰路の最中に早速メールが届いた。


『今日はありがとう』


電車に乗ったばかりだというのに送ってくるのが早いものだ、

ま、電車の中は退屈に決まっている。


俺はとりあえず自転車に乗っている最中だったので、とりあえず家へと足を急がせた。


家に帰ってから、お風呂に入り、メールのやりとりを取り続ける。


次の日にはメールから電話になり、頻繁なやり取りが続き、


出会ってから10日後、


どういった流れか俺は優子ちゃんに告白をしていた。

返事はというと、


「私、男の人が怖い……から……」


ん、NOってこと?

うーん、出会って10日だから……仕方ないのかもしれない。


彼女の家に居る父は本当の父ではない、本当の父親ではない男に一度怒鳴られたことがあるそうだ、

それがトラウマとなり、男の人が苦手なのだそうだ。


「そっか、ならしょうがないな」


なんてことない風に返した俺だったが、心の中ではとても残念だった。

メールのやりとりはたいしたことがない内容ばかりなのだが、彼女との会話は、すごく話しやすかった。

どうしてかわからないが気が合う。


そんな相手を見つけられたことは奇跡だと思っていた……のは俺だけだったんだなと。


「あの、私でいいなら……付き合ってください」


ん? さっき振られたばかりじゃない?

そういう見せかけのテクニックなの? 振られたばかりで落ち込んでいた俺のテンションは一気に急上昇。


「え、まじ? いやいや、こちらこそ喜んでお願いします!」


そうして始まった、高校を辞めた社会人の俺と、頭の良い高校に通う彼女の恋愛。




最初は1週間に1度会えればといった具合だった、彼女は隣町に住んでいるものの、

通っている高校は俺の自宅から自転車で10分程度のところだったからだ。


俺が基本、土日が休日のせいでなかなかデートに連れて行ってやることもできず、


そういった気の利かない俺が最初にデートに連れて行ってやれたのは、12月の最初のころだった。

付き合ってから2か月家で会うことばかりが多く、いざ一緒に出掛けるとなるとドキドキしたものだ。


なにせ今日は優子ちゃんの誕生日、電車で大きな町へ出てそこで見れるルミナリエに行く予定で、

まずは近くの海、12月の寒い海には彼女と俺、二人だけしかおらず、澄んだ空気と波の音が調和し、

かなり良い雰囲気、


誰かと手を繋ぎながら歩くのも久々のことでとても幸せ、だった。


そしてメインのルミナリエ、大きい街というだけあってかなりの人で混みあっていたが、彼女と寄り添いながら歩くのも、

たった2か月ながら付き合ってよかったと言わざるを得なかった。



異変が起きたのはそれから5か月後、5月の事だった。

何事もなく順調に付き合っていたと思っていた俺だったが、彼女の出すSOSのサインに全く気付いて居なかったんだ。


「中山君に別れろって言われた」


なぜ? その理由が俺には全くわからず、本人に直接聞くために、中山に電話を掛ける。


「中山さ、優子がお前になにかした?」


「いや、なにもしてないぞ」


「そっか、ならいいんだ」


「うん」


そういう会話だけで終わり、ますます原因がわからなくなってしまった。


とりあえずここはなぁなぁに会話を回避する。



それから1週間後、その日はいつも通り彼女が俺の家に遊びに来る予定だった。

けれど仕事で遅れてしまったせいか、彼女が怒り、遊びに来る予定はなくなってしまった。


そして今度は彼女から――


「別れよう」


その一言だけだった。


会えなくなってしまったのが悪かったのか、それとも別の原因があるのかわからなかったけれど、

その時の俺は急過ぎるのと、彼女への申し訳なさで、『ごめん』と答えるしかなかった。


ただただ、『ごめん』……と。


だが数時間後には急に電話が入り、彼女の方から『ごめん、嫌いなわけじゃないんだよ』と電話があり、

そこで付き合いが終わることは無かった。



そして事件が起きたのは数日後。

彼女が泣きながら電話を掛けてきた、なんでも中山にいじめられている。と、彼女が泣き止むまで

あやし続け電話を切った後、


中山に電話をかけ、俺は激怒した。


「お前何がしたいんだ」


「なんのこと?」


「とぼけるな、優子が泣きながら電話してきたんだぞ」


「何もしていないよ」


「お前、次こういうことがあれば本当に知らないからな」


「うん」


勢いで電話を切った俺はムカムカしたまま、酷く暗い彼女のメールに返信をする。

彼女が眠りにつくまで相手をし、『明日もがんばれ』と励ましのメールを送る。


もしかしたらこの『がんばれ』が余計にプレッシャーを与えていたのかもしれない。


その日の深夜、連続で着信、そしてメールが入っていたのが、サイレントモードにしていた俺は

全く気付かず朝を迎えていた。


異常な着信に気が付いた俺は焦りに焦って、すぐに彼女へ電話を掛ける。


一度だけでは掛からず、二度、三度と繰り返すとやっと出た彼女は、もう登校中の電車に乗っているであろう時間帯にも

関わらず、涙声で助けて、助けてと繰り返すばかりだった。


これは緊急事態だと感じたものの、仕事を放棄するわけにもいかず、仕事に出た後もメールでもやり取りが続いた。


その内容は『会いたい』と『助けて』が半数を占めていた。


帰宅した俺はすぐに部屋に行き、電話を掛ける。

彼女と会話をしていると何やら違和感を感じた、


休みの日に会う約束や、デートの約束に遅刻したことや、仕事で会えなくなってしまったことを、

何度も何度も掘り返してくる、


そして、急に怒り始める。 悪いのは俺であり、彼女の言い分はもちろんだ、

だから俺はまた『ごめん』というしかなかった。


「なにがごめんなの? ねぇ、なにがごめんなの言ってみて」


「ごめん」


「ごめんって思ってるなら二度とやらないで、次やったら別れるから、約束して」


「わかった、もう二度と遅刻しない」


この約束、が後の足かせになる。

そしてこの日を境に彼女は高校へ行けなくなってしまった。


なぜ学校へ行けなくなってしまったのかと、後で聞いた話によると、

俺が中山に彼女である優子の事を相談、雑談していたからだ。


その事がが苦だと思っていた中山は必要以上に優子の事を攻め立てた。

そして中山の周りには人がたくさん群がっており、その周りの連中も一緒に優子の事を攻め立てたらしい。

これがいじめられている。に繋がるわけだ。


俺はただ、話を聞いてもらえるだけでよかったのだけれど。


それからの日々は仕事へ行き、仕事の最中はメール、帰ってからは優子の事を慰めるために会う機会が増えて行った。

会う機会を増やすため、またメールでのやりとりをするために割いた時間は睡眠時間から削られていった。


こうして削られた睡眠時間のおかげで休日のデートに遅刻、仕事から帰った後の時間に寝てしまうため電話に出れない返信が返せないことが

増えていき、普段は優しく、俺の事を大切に想ってくれている彼女は急に態度を急変し、罵倒された。


けれど俺は、今現在一人きりのこの子を護らないといけないと、自分の中にその概念を刷り込んだ。


彼女は家では暴れたり、叫んだりすることがあったようで、彼女の親御さんから連絡があった。

彼女のお母さんは疲れ切った声音で「シブちゃん、大丈夫? 色々話は聞いてるんだけど、何が本当で何が嘘かわからないの」

とのことで、お互いに情報を共有し、とりあえずは病院に連れて行ってみるということだった。



病院へ行った彼女へ出された診断結果。


病名は【自律神経失調症】

成長期の人によくあるもので、精神的に不安定になってしまうことがあるそうだ。



自律神経と聞いた時に、自分にも思うところがあった。

【自律神経調節障害】、俺は幸い体が思うように動かない、寝つきが悪い。

くらいのものだったからよかったものの、


彼女は違う、現に精神がとても不安定だ。


同じ自律神経の病気になったことがあるものの、彼女の気持ちをわかってあげれないことに俺は歯噛みした。


そして精神が不安定になったのは彼女、だけではなかった。

彼女の母。


優子の言動に耐えかねたご近所さんが通報し、彼女は一時保護されることになった。


その数時間前に俺は彼女の家へお邪魔していたのだが、その時の様子は見るに堪えないものだった。

キモイ、見るな、まではよかったものの、来るな、触るな、死ぬぞ。


をずっと叫び続け、包丁やカッターナイフを片手に自ら左手に傷をつけていく。


切って叫んで切って。 挙句の果てに物を投げる壁を叩く。


これは収拾がつかないと思った俺はとりあえず彼女をそっとしておくために別の場所へ移動した。

そこで彼女の母に「大丈夫です、気を強く持ちましょう、大丈夫ですから」と、それは果たして彼女の母に言ったことなのか、

もしくは自分自身に言い聞かせていただけなのか。


そして帰宅した俺だったが、次の日に彼女は警察に保護されたことを知らされる。

保護された警察は母親の元で過ごしていくのは難しいと判断したのか、彼女の母方の弟である

叔父の家に預けられることになった。


最初の方は順調で俺と俺の母親、そして彼女の叔父と3人で話をし、

平日の時間のある日と時間の合う日は俺の家で過ごすこと、ただし、彼女の母親の許可があるわけではないので、

泊まったりすることはダメ、とのことだった。


その時の彼女は週に5日、多いときでは7日丸々俺の家に居ただろう。

優子は俺と自分の母以外の前では、泣いたり叫んだりはしない、俺の母のバックアップあってか、経過は順調だった。


けれど彼女が回復していく度に壊れていくのは……俺の方だった。

回復しているとはいえ罵倒、罵声は無くならず、そのたびに彼女の言った。

「手を切っているとお母さんのことが忘れられなくなるから」という言葉が脳裏を何度も何度もよぎり。


彼女の言動が自分にとって厳しいものであればある程、俺の精神は破壊されていった。

そしてついに、自分自身の手にも傷をつけるようになっていった。


その時の俺は彼女と同じであればあるほど、彼女に近づける、そんな意味の分からないことばかりが頭を中で渦巻いていた。


彼女は従妹の家でその従妹と言い合いになり、

それが原因で、今度は彼女の祖父の家に預けられることになった。


高校もこのままだと出席日数が足りなくて辞めるしかなくなるそうで、彼女は選択を迫られていた。

彼女の高校は95%以上が大学へ進学する学校で彼女も良い大学へは行きたいという願いもあった。


だが彼女の叔父は、無理を強いることはない、ということで俺と結婚し、子供を作って母としての責任と強さを身に着けてからでも

高校卒業、大学卒業は遅くないのではないか、ということだった。


大学へ進学したいという彼女の想いを知っていた俺は急に出てきた結婚という単語に、驚きつつも

もし本当にそうなるのであれば、俺は構わないという意思を示し、優子の進みたい道に進んでくれたらいいと予め伝えておいた。


そして夏休みに入った彼女はずっと家に居るのではだめだ。という学校の判断でバイトをすることになり、

俺や俺の家族以外とも話す機会が増えた。


夏休み中はバイト以外の時間はほぼ俺の家で生活しており、夜になると俺の母が彼女の祖父の家まで送り届けるということが、

日常と化していた。


色々大変なこともあったけど、休日にはどこかへデートしたり、俺の家族とも親しんでいた優子だったから、

ずっとこんな日々が続くなんて甘い考えで当たり前になった日常を送っていた。


夏休みが終わり、いよいよ単位も危なくなっていた彼女は、

高校へ通うことを決意し、最初は途中で帰ってきたりすることもあったが、

今まで話したことのない子と友人になったり、元々友人だった子のバックアップもあってか、

不自由なく通えるレベルになっていった。


その頃には彼女も本来の自分の家に戻り、彼女の母の容態もかなり戻っていた。


「私、大学へ行くから、中山君もがんばってる、私だけ負けてられない」


そう、あの親友だった中山とは縁を切り、全く連絡を取らなくなっていたが、

彼も優子の不登校、俺との関係の切断が影響し、学校へ来れなくなっていた。


が優子よりも復帰が早く、弁護士となるための大学への進学を目指し、テストでの成績もかなり良いものになっていたそうだ。


「そっか……、無理しなくていいから、自分のできる範囲でね」


結婚は彼女が卒業してから、数年後になってしまうが、彼女がそれを望むならば、俺は支えるだけ。

無理はしないでほしいのは本音。




そんな俺の言葉とは裏腹に彼女は奮闘し、見事大学を勝ち取った。


「やったよ!」


「おめでとう!」


「大学入ったら一緒に住もうね」


「そうだね」


これから始まる新しい日々、優子を支え続けていずれは結婚して。

子供作って、家を建てて。


ずっと一緒に。


命が亡くなるその時に、出会えてよかった。


出会えたことは運命なんかじゃなくて奇跡だったんだって。



想えるように。

最後までお読みいただきありがとうございます。


どうだったでしょうか、あなたにも大切な人は居ませんか?

僕自身、血の繋がりに深いこだわりは無いと思っています。


それはたまたま親子だったり、たまたま兄弟、姉妹だったというだけです。


本当に大切な人とは血の繋がりがあろうがなかろうが、

大切にしていかないといけないのです。


わたくし、白獅が執筆させていただくお話はちょっと悲しいお話ばかりの予定ですが、

どこかのだれかの心に残るようなお話であればうれしいです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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