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1話

「何見てるの。」


 六花は、スマートフォンでとある記事を読んでいると女の子に声をかけられた。

 女の子はもちろんソラではない。高校に入って仲良くなったクラスメイト、秋月秋葉。


 六花とソラがあって8年。親友以上家族未満といえる関係性があっても、いつまでも子供でいられないように義手、義足が細く外から見ても違和感ないサイズになり、その使い方を覚え外で暮らすことができるようになると自然とそれぞれの生活に戻っていった。

 ただ、六花の怪我の状態で外見は怪我をしたのか疑わしいと思われるほどの義手、義足なのだから引っ越しをしなければならなかったのは言うまでもない。さらに、六花が本命で受けたソラがいる女子高を落ち記念受験で受けた今の中高一貫の学校に受かった。一緒にいない大半の原因は六花にあったりする。

 

「ん。んー。」

「出来ればしゃべってほしんだけどな。」


 六花は自身が見ていたスマートフォンの画面を見せながら席を立った。そして、机のわきに引っ掛けてあるカバンをとるとそれを秋葉にその右腕を伸ばした。

 六花は文字を書く、箸を使う以外のほとんどを左手を使うようにしている。リハビリを兼ねているのはあるが、ただ、血の通っていない手を腕を他人に触られるという恐怖心からというのが心の大半を占めている。


「よきにはからえ。」

「いつ殿様にジャブチェンジしたのよ。六花様。」

 

 軽口を言いながら秋葉は伸ばされた腕に右手をのせ、下に押し込むように力を入れた。そして、顔をスマートフォンの画面に近づけた。その姿は六花に向かって浅い会釈をしているように見える。けれど、秋葉の身長は170㎝を少し超えていて同年代どころか女性にしては長身の分類に入り、対する六花は165㎝前後。秋葉がかがんでしまうのは仕方がない。

 

「なにこれ。オカルト?」


 スマートフォンの画面に書かれていたのはVRゲームにお化けが出たという記事だった。

 普通なら初期設定NPCが開発段階で削除される予定のものが残っていたとか、システム管理用AIがゲーム内を歩いているとかでバグと呼ばれる類のものばかりなのだが、今回のはちょっと違っていた。

 なんでもそのお化けは病院のベッドに寝ている意識不明な人だとか、実際はプレイヤーとして登録していない人がいて話した感じNPCとはかけ離れ普通のプレイヤーと変わらないようだったとかであった。

 本当のことであったら大ニュースだがいまのところ噂の域をでてはいない。


「秋ちゃんは、信長か秀吉かな?」

「え、なに、私、あなたのために地ならしするの?」

 

 六花はスマートフォンをしまうと秋葉の軽口に答えるように歴史上の人物の名を挙げた。

 秋葉は急な話題の展開に戸惑いを見せたがすぐに自身の立ち位置を理解し、六花のことを家康と思い込んだ。


「私は、光秀かな。」

「え、私、裏切られ、たことあるな。何度か。」


 けれど、六花から帰ってきた答えは自身が考えていたのとは違った。けれど、秋葉は少し考え六花に約束を直前でキャンセルされたことがあることを思い出した。

ちなみに、六花が秋葉を信長や秀吉と称したのは、部活に所属していないが運動神経がよく下級生、特に女子に人気が高くカリスマ性があるからである。


「予定が合わなかっただけだよ。」

「あなた家で寝てたじゃない。」

「そうかもしれないし。そうじゃないかもしれない。」

「相変わらず適用よね。それよりこんな物を見てるってことはそのゲームするの。」

「んー。」


 六花は適当に相づちをすると下校するために秋葉の隣を通り過ぎた。

 予定が合わなかったのは本当。家で寝ていたのは嘘。ただ、適当な理由を考えるのが面倒なので家で寝ていたことにした。実際、六花は1,2度、寝過ごして約束をすっぽかしていたのでちょうどいい言い訳ができた程度にしか思っていなかった。

 では、その間何をしていたのかというと義手、義足のリハビリやメンテナンスだ。


「考え中なのね。ゲームしてみる? 体験フィールド行けばデバイス低価格で借りられるよ。」

「1時間ワンコインで済むなら。」

「どの硬貨をさしてるかわからないけど、安くても樋口さんはいると思うよ。」


 VRが世の中に浸透して以降、何十年と月日は重ねてもSF小説に出てくるようなフルダイブ式と言われる全身投影したゲームはできていない。

 SF小説、と付くのはヘッドフォンが脳波を読み取り全身をゲーム内に映し出すようなものではないから。

 六花とソラがつけている義手、義足とは違うのだ。

 では、どうするかというとモーションキャプチャーシステムとVR機器を連結させることによって、モーションキャプチャーを読み取るマーカーがVR内の映像に体の輪郭を映し出すことによってフルダイブを可能にし、手持ちのコントローラーを動かすことで仮想世界の自由に行動できる。

 つまりは、一定間隔でマーカーがついている全身タイツと着てVRヘッドフォンをつけるというバラエティー番組の1コーナーになってもおかしくない格好でゲームをするのである。

 そして、その技術を応用しVRヘッドフォンとマーカーを送受信機としてバトルフィールド、通称フィールドを作った。

 このフィールド、四方を囲むように5m間隔にVRヘッドフォンとマーカーに対応する電波を放つ棒状の機器が置き、それが送受信機に届くことによって映し出される映像にファンタジーゲームのような火や水の魔法を飛ばしたり手に持つコントローラーにオーラが噴き出るようなエフェクトをつけたりモンスターと戦ったりしながらその範囲内を自由に移動することによって疑似仮想ファンタジー世界を体験できる。もちろん、ファンタジー世界以外も体験できるがたいていのフィールドはファンタジー世界を基準として設定している。

 また、これは対人戦にも利用され、特殊な装置を使った視覚情報量の多いエアガンを使わないサバイバルゲームを室内で行っているようなものだ。この際、全身タイツの上に電波を通しやすい特殊な服を着ることで体の骨格をわからなくし人前でも堂々と行動できるようにしている。

  

「経費で落ちるなら。」

「帰宅部に経費なんてないわよ。あっても小遣いだし。」

「世知辛い。」


 学校で認められているならともかく非公認なうえに本人たちが勝手にそう名乗っているのだから当然部費などはない。

 六花もそのことは承知しているがこの学校にはシエスタ部という昼寝をするための部活がなぜか認められているという不思議があるので、本当の帰宅部がいるかもしれないと可能性に賭けてみただけだ。無駄だったけれど。

 

「そうだね。でどうする?」

「スポンサーしだいかな。」

「貸さないわよ。仮に貸したとしてもトイチなら考えるけど。」

「是が非でもって訳じゃないしね。」


 六花は、視線を秋葉に向けるが帰ってきた言葉はせいぜいおまけをつける程度と予想していた六花の考えを超えていた。

 もっとも、この時点で六花はフィールドに行く気はなくしているし、秋葉も本気でそう言ったのではない。ただ、話の流れでそう答えただけである。


「ときに秋葉さんのご予定は?」

「今日は夕方の塾だけ。」

「結局駄目じゃない。」

「無理すれば行ける。」

「無理する時点で駄目だと思う。」


 昇降口に着いたころ、六花は話題を急に変え秋葉はそれに即答した。

 六花が本気なら秋葉も本当に無理をしたかもしれないが、本気ではないのに本気で向き合う気は秋葉にはなかった。六花は六花で自分ではない他人に無意識にフィールドにいかない言い訳を求めていたので秋葉に用事が入っていることは都合がよかった。

 それに、秋葉は校門に目を向けるとそこには六花を待つソラの姿があった。

 

「そうね。お迎えもいることだし今日はやめときましょう。」


 ソラが六花を迎えに来るのはこれが初めてではないことから秋葉は面識がある。けれど、友達というわけでない。友達の友達は友達というようには簡単になれない。せいぜい顔見知り程度だろうか。


「ソラさん。」


 六花はソラの姿を見つけ、約束があったのか考えたが特別に約束をしていたという記憶はなかった。

 ソラは六花を見て、左手でスマートフォンを取り出すと手を振るようにスマートフォンを振った。 


「用事入ってた。」

「みたいね。」


 六花はスマートフォンを見ずに秋葉に言うと、秋葉は少しため息をついた。


「うん。じゃあまた空いてるときにね。バイバーイ」

「うん。またね。」

読んでくださりありがとうございます。

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