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「何見てるんですか。」
少女は、建物を抜けた先で一人携帯テレビを見ている自信より歳上だろう女の子に声をかけた。少女は声だけではなく足も震わせていた。
初めてあった女の子に緊張していたからというのもあるかもしれないが、少女のほとんどを占めていた気持ちは心細さや女の子に拒絶されたらと思う不安からだった。
女の子は声のする方に上半身をひねるようにして振り返った。そして、少女を文字通り頭の上から足のつま先まで観察するかのように視線を動かしたすと立ち上がり少女と隣り合うように自身が持っている画面を少女に見せた。
「お笑い。好きなの。」
テレビ画面に映っていたのは有名な、少女でも知っているバラエティー番組。ただ、この番組、他人を貶めるような内容がほとんどで一部では非常に受けが悪い番組だった。
少女は、隣にいる女の子もこういうのを見るのだと思い女の子をより近く感じた。
「どっきり、年収暴露、敬意のない物まね、それなのに自分は何の傷を負わない。知ってる? 撃つ資格があるのは撃たれる覚悟がある人だけだって言葉があるの。目には目を歯には歯を。やられたらやり返す。いつか足元をすくわれればいいのに。」
「ごめんなさい。」
けれど、女の子の言葉は少女の想像していたものとはかけ離れていた。だから、とっさに少女は女の子に謝ってしまった。
「なんで謝れたのかわからないけど。私、お笑い嫌いじゃないわよ。落語や漫才、コント。間の取り方や話の仕方、作り方とか勉強になる。何より聞いてて面白い。ただ、人を食い物にするしか能のない人が嫌いなだけ。」
「ごめんなさい。」
「何謝ってるの。変なの。」
女の子は笑って少女に答えたが、少女は女の子の言っていることの半分も理解していなかった。だから、自然と謝ってしまったのだが、女の子はそんなこと知らないし、仮に知っていたとしてもどうでもよかった。
それは、女の子は少女のことを初めての同類と思ったことに起因する。
「私、青峰そら。目と、見ての通り左腕から下。右ひじから下。両足。原因は交通事故。歳は9。あなたは。」
だから、女の子、青峰そらは自分から少女に自己紹介をした。
そして、そらが少女を同類と判断した理由がそこにあった。そらが指定した箇所は、そら自身の物だけれど、そらのものとは少し言い難い。そこにあるのは電動駆動製の義手と義足。
原因は乗っていた車の横に居眠り運転していたトラックと接触したことにより投げ飛ばされたそらは、道路を転がり、衝撃で弾んだところにあったガードレールの縁で転がる勢いも合わさり運悪く足を斬った。
同年代はもとより成人した大人の2から3倍はあるそれは複数のモーターと無数にあると勘違いするほどの歯車で構成され生身と義手、義足を自身の意志で今までと変わらないように動かすために人口神経でつなぎ合わせてある最新の科学技術と先端医療技術を掛け合わせた結晶。
サイエンスフィクションからフィクションだけが抜け落ちた技術ともいえる。世界を変えることが可能な技術。けれど、技術の特性上いまのところ表に出ることのない技術でもある。
そして、その技術は少女にも。
「久遠六花。左腕と両足。よくわからないけど様子見っていうのをした後右目を決めるだったかな。原因は火事です。歳は8です。」
六花は自身の原因を火事と言ったが実際は火傷を負うことはなかった。
六花が住んでいた地域に何年になるかわからないほど誰も住んでいない家、廃屋があった。
廃屋は子供にとっては親の目を盗んだ肝試しの場として、それ以外は不良のたまり場として使われていた。
六花は進んでではなく友達が行くからという理由で廃屋に行き、六花たちと入れ替わるように不良たちは廃屋から出て行った。そして、六花が廃屋に入る順番になった時、不良が吸っていた煙草の火のけし残しが廃屋に移り燃やしつくし柱が倒れた。
燃え打った火が柱を焼いたところで倒れ、倒れた柱は壁や別の柱を壊し火が広がる前に廃屋を壊そうとし、六花はそれに巻き込まれ廃材の下敷きになった。これが六花を火から守るように覆いかぶさり、もしそれがなければ命に関わるところまでに発展していたのだからある意味では幸運だったといえるかもしれない。
ちなみに、火事に気付いた近所の人が消防署に連絡して30分もしないうちに火は消えている。
「そう。よろしくね。迷子さん。」
そらはそう言って左の義手を六花に伸ばし握手を求めた。
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