表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

違和感(ホラー?)

作者: 天野太ユキ

描写の練習を兼ねて……拙い文章ですが宜しくお願いします。

 私の愛用のソーラー電波腕時計の短針が、6と7の間を指していた。現在時刻は19時37分。平均的な会社員が帰宅する時間として、平凡と言って何ら差し支えない時間帯。ピークを過ぎたとはいえ未だ混雑している電車内で、私は席に座り駅を待つ。


 視界に移るのは、完全に自分の世界に入り込み携帯端末の画面にくぎ付けの現代を生きる猿達。あれらが私と同じ人類だというのだから、悲しい限りだ。いや別段、彼らだけを特別悪く言うつもりはない。当然だ、あれが現代の、一般的人間であるのだから。要するに、他の奴らも漏れなく同類項だと言いたいのだ。


 ああ、いけない。無駄な思考に時間を割いてしまった。そんなことを考えて何になるというのだろうか。


 何が起きても彼らは変わらない。それ故に彼らは、彼らたり得るのだ。だからこそ日々を浪費し、有限で価値のあるはずの人生を、無意味に消費していく。実に非効率的で、非生産的で、非科学的だ。それは罪ですらある。運命だの奇跡だの、まして神だとか喚く輩ほど無価値で無意味なものがあるか。余計なことを考えるのに脳を使うより、明日の予定でも考えた方が何千倍も有益だ。


 電車が駅に留まる。人の流れに沿って駅のホームから出ると、冷たい外気に体が震えた。だらだらと歩くのは時間の無駄だ。私は家路を急ぐことにする。


 私は至って平凡な人間であると、そう自負している。過去の偉人たちの栄光に縋りつき、低俗な欲を満たすために生きるだけの人間のなりそこない共とは違う。それは私の誇りだ。この時代には、人間と呼べる存在が少なすぎると思うのは私だけだろうか?


 冷たい風が吹き抜けると同時に、私の眼鏡に白いものが付いた。雪、確認するまでもない。多くの猿達は、この時期に雪が降るとホワイトクリスマスだとか、奇跡だとか騒ぐ。雪が降ることがうれしい様で、実に耳障りだ。雪が降る事によって生まれる経済効果でも語るならまだしも、雪が降ること自体を喜ぶなど理解できないし、しようとも思えない。不利益の方が多いだろう。


 雪の何が、奴らを興奮させる? 日本ではアニメコンプレックスをはじめとする性倒錯が進んでいるというのは周知の事実。つまりそうか。雪を性対象として興奮しているということか。やはり、私には到底理解できそうもない。そもそも、性を娯楽とする思考回路自体が、私には受け入れがたいものだ。子孫を残すという、本質的かつ唯一の目的を失った性行為など、生産性の欠片も見いだせない。つまり有罪だ。


 その時、唐突に視界が揺らいだ。馬鹿なことを考えたせいか? そんなはずはない。ならば何故? 息が乱れるのが自分でも分かる。一体何が起きた。崩れた体勢のまま、壁に背中から突っ込む。全く意味が解らない。そのまま私の意識は途切れることとなった。



・・・・・



 気が付くと、さっきまでと変わらない視界、雪は既に止んでいるようだった。どうも壁によりかかったまま、気を失っていたらしい。腕時計で時刻を確認する、19時52分。幸い、ほんの数分のこと、時間に問題は無かった。


 それにしても、いったい私の身に何が起こったのだろうか。睡眠不足などありえない。模範的社会人として、睡眠時間は何よりも優先して確保されるべきもの。ならば、病気か? 人間ドックを受けた限り、私の身体は健康であるはず。だとすれば、精神疾患の疑いが強まる。それは十分にあり得る。何しろ、猿に囲まれて生活し続けているのだ。猿同士なら平気かもしれないが、人間とは精密機械のようなもの。いくら私が完璧な人間だとしても、精神疲労は避けられない。


 一度、信頼できる医師に相談するべきか。


 そう考えながらも、家に向かい歩を進める。


 すれ違う人達を気にも留めない。それが私の当然だ。しかし、この時だけは何かが違った。そう、何かが違う。間違いなく、過ぎゆく人に対して、言葉にできないような感覚が私に芽生えた。何も知らない他人に、いったい何を感じるというのだ?


 恋か――運命の出会いとでもいうつもりか、それとも奇跡?


 馬鹿馬鹿しい。先にも述べた通り、人間とは精密すぎる機械だ。故に些細な事で狂いやすい。何もないことに対しても、何かがあるような誤認を犯すこともある。それを運命だの奇跡だのと口うるさく喚くのが猿の所業で、私のような模範的人間はそっと流すのだ。何もなかったのだと。それでこそ、一人前の人間だ。


 それにしても、どうやら本格的に疲労がたまっている。一日に二度も、私らしくない失態を犯している。原因は言うまでもなく、雪だろう。


既に止んでいるようだが、それ以外には考えられなかった。考えたくもない。考えれば考える程、疲労が増すばかりなのだ。


 ようやくついたアパートの前でまたあの感覚が脳裏をよぎるが、無視する。本当に、今日は疲れている様だ。早く眠ってしまおう。


 部屋の鍵を開けて、中に入る。手早く服を着替えて歯を磨き、私はベッドに入って目を閉じた。


 しかし、一向に眠気はやってこない。かといって、今更何かをする気分にはなれなかった。普段通りであれば、眠気が来ないならば働き続けるのだが、今日はその限りではない。何しろ、間違いなく私は疲労しているのだから。


 如何せん、身体的疲労であれば眠れたのであろう。しかし、私の場合は精神的疲労ときた。だから眠れないのだ。きっとそうだ。それ以外には考えられない。


 上半身を起こして時計を見る、まだいつもの就寝時間まで数時間ある。


 また、奇妙な感覚が私を襲う。何とも言えない不快感、まるで痒いところに手が届かないような。その正体が次第につかめ始めていた。


 それは、違和感だ。不和感と言ってもいい。


 何かが違う、しっくりとこない。でも、私はそれを無視する。だってそうだろう。実際に何かが違っているのならまだしも、今の私は早めに眠っていることこそ、普段とは違うものの、それ以外は完全にいつも通りだ。そのどこが違っている。一体何が和を乱しているというのだ。


 それは一種の自己暗示でもあった。漠然とした感情、そんなものにとらわれるのは一切合理的でない。それでは、私らしくない。理想とされる人間として、相応しくない。


 消え去らない不安と格闘しながらも、気が付かないうちに私は眠りについた。



・・・・・



 窓から差し込むまばゆい光で目が覚めた。時計に目をやると、いつもより少しだけ早い時間帯に目が覚めたようだ。私の部屋はそこそこ高く、町の様子が見降ろせる。


 いつも通りに、まだ残る眠気を覚ますために、ベランダに出て朝日を見る。冷たい朝の空気が肺に流れ込み意識が覚醒していく。


 そこでは、赤い、朝日とは思えないほどの赤い光が眼前の世界に広がっていた。まさかと思って時計を確認するが、予想は外れて午前の表記。これが午後ならどれだけ良かっただろうか。普段なら、寝坊など死に値するほどの失態にしかなり得ない。ただ、今だけは違った。私には寝坊ではないという安心感など、微塵も感じられなかった。ただひたすらに、その夕日のごとき赤さの陽が怖かった。


 昨日の夜に把握した感覚が蘇る。違和感……。合理的じゃない、理性ではそう判断できている。しかし、湧き上がる感情はどうしようもなかった。


 最悪な気分のまま、部屋に戻ってカーテンを閉め、電気をつける。普段ならつけるはずもないテレビを付けた。流れてくるニュースの全てが頭に入ってこないままだ。それでも、構わない。私は朝食の作ることにする。正直に言って、何か他のことに気を向けてないと、気が狂ってしまいそうだった。


 無心に米を研いで炊飯器に入れる。スイッチを入れると、炊き上がりまでの時間が赤く表示された。その残り時間で、みそ汁と簡単な炒め物を作る。いつも通りだ、何の変哲もない。


 料理が終わるといつも通りの起床時間になっていて、恐る恐るカーテンを開く。その緊張感は心臓が飛び出るほどだった。見下ろせる都市の様子はいつも通りで、あんなにも赤く見えた太陽に、その面影は一切残っていなかった。そのことに安堵するも、普段通りに過ごすことなどできそうになかった。


 呼吸を整えて、上司に電話をかける。電話に出た上司の口調に、またも違和感が奔る。声に漏れてしまいそうになる嗚咽を飲み込み、体調がすぐれない旨を伝えると、快く欠勤を認めてくれた。いや、実際に私の体調は万全から程遠い状況にあるのは事実だから、後ろめたいことは何もない。そうでなければ、体中を駆け巡る不快感は、いったい何が原因だというのか。


 何も考えないように努めながら、朝食をとる。やはり、いつもと変わらない材料と調理のはずだが、味に変化を感じずにはいられない。昨日まで食べてきた毎日の朝食と、僅かに味が違う。香りが違う。食感が違う。そして、何かが違う。しかし、何が違うのか言葉にできない。感覚としか言えない。つまりは、勘違いの一言で済ませることができる、筈なのだ。


 このまま動かずにいると、頭がおかしくなってしまう気がしてならない。朝食を片付けると、素早く走りやすい服に着替える。体を動かしていれば、この違和感から、救われる気がした。もはや、根拠はない。救われたいと願っているだけかもしれない。それでも、藁に縋るしかなかった。



 家から出て、適当に近所を走る。目に映る景色のすべては今までと変わっていない。理性では理解できているつもりだ。今まで通り、何も変化していない。そのはずなのに、頭の中でナニカが囁く。


 何かがおかしい、変化している。

 ならば、教えろ! 何がおかしい、何が変化したと言うんだ!


 自問を繰り返せども、何も進展しない。そもそも、自問するも自答が無い時点で、進展など期待できるはずもない。


 いつの間にか、アパートからかなり遠くまで来ていた。見慣れていないはずの景色なのに、それでも違和感が止まらない。まるで慣れ親しんだ景色が変わってしまったかのように、これじゃないと脳内で何かが警告する。その声は、さっきまでよりもはっきりと、鮮明に聞こえるようになっていた。


 紫に見える信号機、タイヤが大きな自動車、黒く染まった葉の街路樹達、すべてがおかしく思える。


 気が付かない内に、私は気が狂ったように違和感を感じないものを探し求めていた。ひたすらに、時間も気にせずに走り回った。最低限の所持品はポケットに突っ込んである。たとえ迷子になったとしても問題ない。


 ただ、今は、胸中の不安を取り除きたかった。



 行き交う人々と、目が合う。本来は黒いはずの瞳が、酷く灰色に濁って見えた。無機質な表情の人の波が、私を飲み込んでしまうようだ。気持ちが悪い、吐き気がする。


 これ以上ないほどの孤独感。私と合う存在は、何一つとして存在していないのか?! 焦りが滲んだ。


 それでも、足を止めるわけにはいかない。信号が赤になればそのまま曲がって、とにかく走り続けた。


 どこかに、一つでも、独りでも、違和感を感じないでいられる物が、人が、あるはずだ。あってくれ。そうでなければもう、私は壊れてしまう。



 見慣れない広場の前で、とうとう脚の限界が来た。若いころならばもっと走れたかもしれないが、今の私には限界だった。視界の隅にベンチが見えたので、そこに座る。不思議と、周囲には誰も人はいなかった。それを不思議と思う余裕すら、私には存在しない。


 ちょうど正面に時計が見える。丁度、12時になろうとしているところだった。


 そしてそのまま、有る筈のない11時60分を、長針が指した。いつから日本の時間は61進法になったというのだろうか。気が付くと、涙が頬を伝っていた。意味が解らない。自分の置かれた現状も、自分の涙の理由すらも理解できなかった。とうとう、私の精神が崩壊し始めていた。


 その時、どこかから、音が聞こえた。それは、私を呼ぶ声にも、ただのノイズの様にも聞こえた。今となって気付く。12時となったのに人っ子一人いない、この空間の異常性に。それどころか、私に聞こえた音意外には、一切の音すらしない。今度は笑えてきた。笑いでもしないとやってられない。こんな異常な世界で、正常でいられる方が異常に違いない。


 ダメもとで携帯電話を開くと、しばらく圏外と表示されたのちに、画面が灰色になって動作しなくなった。どこかから聞こえてくる音は止まない。だがその音は、私の謎の違和感を与えることは無かった。


 すぐさま立ち上がり、その音がする方へ死に物狂いで走った。限界を超えた足が悲鳴を上げる。それも構わず、ひたすらに走る。唯一の、この狂った私の一縷の希望めがけて。


 動く者の一切存在しない世界に、一つだけ動く影が見えた。それは間違いなく、その音の音源だった。そしてそれは、私から逃げているようだった。僅かに見えたそれは、どうも人間らしい。色合いも何もかも、私に安心感を与えてくれる。異常な思考だと笑ってくれても構わない。それでも、それに追いつければ、この違和感の地獄から抜け出せると私は確信した。


 逃がしてなるものか。


 ひたすらに走る、とうの昔に限界を超えた脚にむち打ち、走り続けた。そしてついに、ソレに追いつく。全身が歓喜に打ち震えた。狂喜と言ってもいいだろう。


 後ろから無理やり肩をつかんで、引きとどめる。ゆっくりとソレはこちらを振り返った。



 ソレを目にして、私はソレの正体を理解した。いや、させられた。何度も目にした顔。それは、私のなけなしの正気を狂気で塗りつぶすのには十分すぎた。


 ソレは、まさしく私自身だった。


 そう、何かが違う、ナニカがおかしい。何が違うのか。それを私が理解できるわけもない。それは私自身だったのだから。この世界の何かがおかしいんじゃない、私自身がおかしいのだと。いったい誰がそれを予測できただろうか。


 笑い声が響き渡る。ほかの誰でもない、私自身の笑い声が。


 私の顔を見て、目の前の私も破顔する。灰色の眼が愉悦に満ちた表情でこちらを見つめる。私の意識はその灰色に溶け込んでいって、消えた。



・・・・・



「……い。お……い。おーい!」


 その声で目が覚めた。


「大丈夫かい、君? いくらなんでもこんなとこで寝ちゃあいかんよ」

「っ!? すっ、すいません!」

「いや、まあ、分かったならいいよ。色々と気を付けてね」


 私はいったい何をしていたのだろう。腕時計で時刻を確認する、19時52分。ああ、そうだ。家に帰っている途中だったんだ。それにしても、いったい何があった? ひどく疲れているようだが……思い出せない。


 疑問を抱えながらも私は家に帰る。


 その私の背中を、灰に染まった群衆の瞳がずっと、見つめていることにも気付かずに。 

 多分ほとんどの人、初めまして! お久しぶりの人は……、居たらいろいろとごめんなさい。友人から表現力が無い云々で、一生懸命特訓してるのです……。


 この作品、あんまり怖くない気がしますね。(今更)


 怖かったか怖くなかったかを、感想にて知らせていただけると幸いです。どちらの場合でも、大歓迎です。こうした方が良いのでは? という指摘があればぜひぜひ遠慮なく。


 しばらくは、短編をいくつか投稿する予定です。それでは、またご縁がありましたら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ