着ぐるみパジャマ女子、おっぱいを愛でる
平凡なOLである私の楽しみは、休日『着ぐるみパジャマ』を着て、家の中でネットしながらダラダラと過ごすことだ。
ところがある日、ショックな事が起こる。私の愛してやまないお気に入りの『トローロの着ぐるみパジャマ』が、数年着続けていたことにより景気良く破れてしまったのだ。
「これはもう、着るなということだよね、トローロ」
よく見ると尻の部分も薄くなっていて、裏起毛の起の字も感じられないではないか。
「よし。新しいのを買おう」
ネット通販で着ぐるみパジャマを検索すると、最近売り出し中のアイドル三人組が着ていた着ぐるみパジャマを見つける。
「あれって特注かと思ったら、市販されていたんだ!」
某メーカーのキャラクター『モフモフわんころ餅』の着ぐるみパジャマ。モフモフという名が付けられているのであれば、さぞかしモフモフだろうと期待が高まる。
私の着ぐるみを選ぶのに、触り心地が良いというのが大前提としてある。今回はたまたまネットで好みのものを見つけたが、届いて触り心地が悪ければ別のを購入する予定になっている。
お金はほとんど使わない性格だから、着ぐるみパジャマの一つや二つで懐は痛まないのだ。(ドヤァ)
この日の夜に届いた『モフモフわんころ餅』着ぐるみパジャマ。早い。
早速ワクワクすっぞと封を切って触ってみる。
表側はモフモフな質感で、裏地は肌に吸い付くような何とも言えない手触りだ。
「これは……素晴らしい逸品だ!!」
早速、今着ているスエットを脱ぎ、新品の着ぐるみパジャマを身につける。
「おぅふ……至福……」
裏地の手触りの良さに普段は下着を着ているのを、今回はノーブラノーパンな私だ。
女子としてどうなのかは、今は気にしない。
この着ぐるみパジャマの質感に、余計なもの(?)は不要なのである。
「……おっと」
流石に着ぐるみパジャマがモフモフしているとはいえ、真冬にこれ一枚では少し寒い。もよおした私はいそいそとトイレに駆け込む。
トイレのドアを開けて、そのドアを閉めてから着ぐるみを脱いで足元まで下ろし、便座に座ろうとしてひっくり返った。
「痛冷たい!!」
足に着ぐるみパジャマを絡ませたまま、何故か冷たい床に尻もちをつく私。その勢いのまま後にでんぐり返しな一回転して、しゃがんだ状態でピタリと決める。
うん。昔からマット運動は得意だったのだ。
「……って、え? なんで便座が無いの?」
周りを見回す。
石造りの重厚な壁の部屋、床も灰色の石が敷き詰められている。天井は高く、電気らしきものはついていない。部屋の真ん中には高そうな大きい机がデデンと置かれているだけだ。
「その格好をどうにかしろ」
お腹に響くバリトンボイス。ここからは見えないが人がいることに驚いて、慌ててしゃがんだまま着ぐるみパジャマを足首から引き上げる。顎まであるチャックは、一番上まできっちりと上げておく。
全裸を見られた恥ずかしさよりも、その声の主が見たくて机に手をかけてそろりと覗き見る私。
かっ……っこ……イイッ!!!!
危うく声を上げそうになるのを必死に抑える。
まずは眉間のシワ。整っているその顔は、そのシワで若くはないということが分かるが、若い頃はさぞかし王子様のようなキラキラ青年であっただろう。
そして騎士服のような上着は、肩に軽く羽織るだけ。
そう! 羽織るだけというのがポイントだ!
白いシャツを着ているその男にとって、その上着はきっと窮屈なんだろう。だってその、首から肩にかけての盛り上がり! そしてその筋肉は胸も……お胸様も大層盛り上がってらっしゃるのだ!
そうだ。
何を隠そう、私はガチムチのオッサンフェチであり、オッサンのおっぱいフェチでもあるのだ。
最近よく(?)聞く『雄パイ』というやつである。
そんな盛り上がりのお胸様に対し、一人脳内祭りでワッショイワッショイしている私を、不機嫌そうに見てくるオッサン。
それはそうだろう。視姦する勢いで私は彼を見ているに違いない。流石に申し訳ない気持ちになって視線を外すと、ガチムチなオッサンに似合わぬ書類の山が机にもっさりと置いてある。
「似合わないっすね」
「何がだ」
「ガチムチなお兄さんは、ムキムキ筋トレすべきっす」
私はオッサンをお兄さんと呼ぶ。
いくら私が二十代でオッサンが四十代後半の外見とはいえ、オッサンに対しオッサンなんて言ってはいけない。オッサンはデリケートなのだ。
なぜこんなに私がオッサンに詳しいのかと言うと、好きであるからとしか言いようがない。
小さい頃は某クエストゲームの勇者より勇者の父に萌えたし、某大冒険漫画では勇者の師匠に萌えた私だ。例えが古いのは、小さい頃に親戚のお姉さんが色々と貸してくれてハマったからである。
閑話休題。
そんなわけで、書類仕事をするガチムチなオッサンに筋トレを勧めるも、彼は眉間のシワをさらに深めていく。
「俺しかやる人間がいない。副官は任務で遠方に行っている」
「そうでしたか」
ふむふむと私は頷く。書類の中を見ると言語は分からないけど数字は見て分かる。どうやら収支の計算をしていたようだ。
「これ、縦に足していけば良いですか?」
私が言うと、オッサンはこの部屋に来て初めてこちらを向いて、私の顔を、私の目を真正面から見てきた。
プラチナブロンドに青い目、睫毛は長く彫りの深い顔立ち、鍛え抜かれた体は如何にも『騎士』といった感じで、つい「まんまじゃん」と笑ってしまう。
「何がおかしい」
「いえ、特に何も。隊長殿」
「俺は隊長ではない。団長だ。まぁ、こんな仕事があるのなら隊長のままが良かったがな」
「ほうほう。苦労されてますなぁ」
「まぁな」
再び書類に視線を戻すオッサン。
ところで彼は私を見て、侵入者や暗殺者だとか思わないのだろうか。そう問いかけると彼は「そんな緊張感のない暗殺者が居てたまるか」と馬鹿にしたように笑ったので、私は大いに不貞腐れたのである。
こうして私は、平日にOLとして勤務し、土日は自宅のトイレから繋がっている『謎の執務室』で団長の書類を計算する仕事をしている。
驚くことに、衝動買いした「モフモフわんころ餅」の着ぐるみパジャマを着ている時にだけ、自宅のトイレからあの場所に繋がるようなのだ。
計算が苦手な私は、家から電卓を持ち込んでいる。ちなみにキーを打つのは早い。検算機能も付いているゴツイ電卓なので、スタタンスタタンと景気良く叩いている。
仕分けは騎士である団長、計算は着ぐるみパジャマの私、仕事は流れるように進む進む。
団長は土日(と言っていいのかこっちの世界では分からないけど)まで書類を溜めて、私が来てから書類仕事をしているちゃっかり屋さんになっていた。
お茶もお菓子も持ち込む私。ティーパックだけど団長は「美味い!」と叫んだほどこの世界ではお茶が不味いようだ。今度製法をネットで調べてあげようと思う。
で。
私がなぜここまでオッサン団長に心を砕いているのか。
それは仕事終わりのご褒美があるからだ。それに尽きる。
「よし終わった。いいぞ」
「いぃぃやっっったあああぁぁぁ!!」
最近、眉間のシワが取れてきた団長は、目を細めて両手を広げて私に合図をしてくれる。そして私はその厚い胸板に向かって、狂喜乱舞しつつ飛び込んでいくのだ。
「はぁぁぁ……いいおっぱいですなぁ……」
「お前は黙ってればそこそこだが、本当に残念だな。嫁の貰い手はあるのか?」
「いいんです! それは諦めているので! 団長のご褒美があれば私は生きてて良かったって思えるのです!」
むふーっと満足げにため息を吐くと、鼻の穴を広げてオッサンの匂いを堪能する私。至福。至福ですぞ。
団長の胸筋に顔をスリスリさせていると、耳元で何やら囁かれた。
「なら、俺が貰ってやろう」
「ふぁっ!?」
とびらの様主催の『下ネタ短編企画』に参加しました。
煮詰まっているので、気分転換に……楽しかったw