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異世界にて。  作者: 咲柴
3/10

03 最初の町

「うわぁ……っ!」


 見上げるほど巨大な城門をくぐり、目の前に広がった光景、それに思わず感嘆の声を上げる。

 行き交う大勢の人々とその喧騒。

 城門から町中へ続く通りの両側には屋台や露店が連なり、客引きの声がその喧騒に響いてはかき消される。

 店前で店主と会話をするお客や、立ち話をしている人達の姿が、道のあちこちに見える。


 ――ここは、ノクトラ領内にある町のひとつ、メンリス、という町……らしい。


「ノクトラ領内の大きな町は、中心都市ノクトラの他にはここと、もうひとつくらいしかない。後はお前さんたちが出てきたような村や集落が点在するような形だな」

 と、門の入り口付近で荷台から降りた時に、そんな説明を男性から受けた。

 男性はそのまま門番と馬車の積荷についての確認をすると言っていたので、お礼を言って、町に入る前に別れた。


(良い人だったなー……)


 あの男性にも、心の内に何かしらの思惑があったのかもしれないけれど、少なくとも僕と少女にとっては、無料でここまで送り届けてくれた善人としか映らなかった。

 護衛の女性とも、結局一言も交わすことはなく、その場で別れてしまった。

 別れる時に、僕の顔を数秒ほど凝視していたのが、ちょっと気になったけれど。


 その後、城門から町の中へと入り、そして僕は、その光景にすぐさま目を奪われ、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回していた。

 店に並ぶのは、様々な食べ物や、衣類、雑貨など。

 色々な果物が置いてあるお店や、何かの肉を吊るしてあるお店。

 饅頭のようなものや、肉に香草のようなものを詰めたものを焼いて売っているお店。

 あるいは色とりどりの様々な衣服を、手に掲げ大声で宣伝するお店や、その他雑多なもの達が、店頭に連なっている。

 更に、そんな中を歩いているのは。


(鎧に剣、ローブに杖……っ!)


 一般的な衣服を纏っている人達もいれば、その中に、まさしく、ファンタジーの剣士や魔法使いそのままのイメージの装いをしている人達も大勢、当然のように往来を行きかっている。

 そもそも、門をくぐったときも、その門番らしき人達が、剣と鎧で武装していたのを見てはいたけれど。

 他にも弓矢や槍など、様々な武器を持っている人などがいて、事前に異世界だと聞かされていなければ、大掛かりなコスプレイベントかアミューズメントパークか何かに迷い込んでしまったのかと思うことだろう。


「……こういう光景が、珍しい、ですか?」


 と、僕のその様子に見かねたのか、少女がそう尋ねてくる。


「へっ……あ、うんっ、珍しいっていうか、初めて見るものばっかりかなっ」


「そう……」


 僕のテンションの高い返答に、それほどの興味はなかったのか、乾いた言葉を投げて、少女は周りの光景に視線を戻す。


 珍しい、というかまず、城門、というのを始めて間近で見た。

 テレビとか、あるいは友人に見せられたアニメとか、映像では見たことはあったけれど、実際に見ると、なんとも表現しがたい感動を感じるのは、何故だろうか。

 学園の校門も、大きさとか、そういうのではいい勝負なのだけれど、それとはやはり何か違うものを感じる。

 ……まあ、それは、その門をくぐる者の心持ちの問題も、多分にあるのだろうけれど。


(……これは、本当に、そういうこと……って、こと、なんだよね?)


 少女の言う『異世界』という事実が、僕の中で急激に現実の像を帯びてきた。

 ……勿論、少女の言葉をまったく信じていなかった訳ではないのだが。

 というか、逆に、あの場で全面的に信じるのは、流石に僕の培ってきた常識的では無理があった。


「……どう?」


 少女が、僕に問いかける。

 それは勿論、森で話した少女の話について。

 少女が、まっすぐに僕を見つめる。

 その瞳は、何かしらの感情を抑えているかのように、揺れて見えた。


「……うん。どうやら君が正しそう……かも」


 ……実は大がかりなドッキリでした、なんて可能性……なんてものは、考え出したらきりがないけれど。

 まずは、ここで一度認めておくことが、僕と少女にとっては必要なのだと、なんとなく思った。


「……そう」


 先ほどと同じようにそっけなく答えてはいたものの、先ほどとは違い、感情の湿りが感じられた。


「ひとまず、何処か落ち着いて話せる場所を探しましょう」


「えっ、あっ、はいっ」


 どうやら少女は、あの森で宣言した通り、僕に今の状況について教えてくれるようだ。

 今ここで少女に見捨てられてしまったら僕は完全に途方に暮れてしまう。

 町の中心らしき場所へ向かっていこうとする少女に、慌ててついていく。


「……」


 歩いている間、少女の顔を、横目で盗み見るように、観察する。

 少女は、心なし……ではなく、明らかに険しい表情をしていた。

 そして、さっきの声色も、森の中で話していた時よりも、幾分か緊張を孕んだ固さを持っているように感じる。

 僕に話しかけてはいるものの、視線は僕ではなく、周囲に向けられていた。

 それは、少なくとも、先ほどの僕のような物珍しさによるものではないだろう。

 この町に近づいた時辺りから、口数が減っていたように見えていたのも、関係あるのだろうか。


(緊張?それとも、警戒……?)


 森の中や外よりも、町の中の方が危険であるというのも、不思議な話ではあるのだけど。


(うーむ……)


 僕の状況については、彼女は何となく察している……らしいのだけれど、逆に彼女のことについては、まったく想像がつかなかった。

 聞いたのは魔術の実験……?か何かの失敗で、望まぬ形であの森に転移してしまった……ということ、らしい、というくらい。

 自分の現状を把握することに精一杯だったこともあるが、それとは別に、そもそも他者に、その人自身のことを聞く習慣が、僕にはほとんどなかった。

 特に出会ったばかりの人ならば、なおさらである。

 初対面から踏み込んだことを聞けるような人間ではないし。

 ……まあ、ぼくの場合、それ以前に、そもそも最初の線引きの位置を悩んでしまうのだけれど。


(僕の勝手な思い込みかな……?)


 友人は、そんなことを関係なしに、誰彼かまわず話しかけるタイプではあったけれど。

 そういうのが、コミュ力が高い人、というものなのかもしれない。

 ……と、何故か思考が横道にそれてしまったが、その間に、僕と少女は、広場のような場所に辿り着いていた。

 広場の中央には噴水があり、その周りには、取り囲むように木造の家屋が立ち並んでいる。

 看板を掲げているものがほとんどなので、どれも、何かの店なのだろう。

 子供連れの女性が何かを子供に買い与えているのが見えた。


 日差しに夕日の色が混ざり出す気配を見せる、夕刻に近い時間。

 子供達が走り回り、女性達が噴水付近に設えた木製の長椅子に座り、世間話に興じている。

 決して静かとは言い難い人々の声の重なり。

 ただそれを煩いものと感じないのは、それに活気と穏やかさを感じ取れるからだろうか。


(……うん)


 ……こういうのは、良いなと思う。


 勿論、この中にいる人々の内の何人か、あるいは全員が、なんらかの苦悩を抱えているかもしれない。

 だから、目に映る光景だけで安易にそういう風に考えるべきではないのかもしれないのだけれど。

 それでもやっぱり、こうゆうものを、良いものと思うことは、良いことだと思いたい。


 ……ただ。


(むむ……ちょっと注目されている?)


 視線を感じて、周りを見渡すと、ちらほらと、僕たちに視線を向けている人達がいるのが分かる。

 少女の、ローブが所々破れた姿は、確かに注目を集める要素ではあると思うけれど。


(……僕?)


 僕自身にも、どうやら注目される原因があるような、そんな感じ。


「……っと」


 ひとまず、そこら辺の事柄は置いておくとして。

 広場に着いたはいいものの、さて、その後どうしようかと、少女の方に視線を向けると。

 少女も、僕と同じように、周りの光景に目を奪われているようだった。


「……」


 ――ただそれは、僕が抱いた感想とは、恐らく真逆に近い、ような。

 ――そういう顔をしているように、見えた。


「とりあえず、誰かに聞いてみますね」


「えっ、は、はいっ」


 少女は先ほどまでの雰囲気をピタリと消して、近くのベンチに座っている年配の女性に話しかけに行った。

 女性はイミリアが話しかけると、ちょっとびっくりしたようだけれど、イミリアの問いかけに、笑顔で答えている様子が伺えた。


「どうやらあちらにあるみたいです」


 戻ってきたイミリアは、広場から伸びる四つの道のうち、現在地から見て右側の道を指差した。


「とりあえず、行ってみましょう」


 大通りに比べてかなり細い、木造の家屋が立ち並ぶ道を、お互い無言でしばらく進んでいく。

 ただ、お互いの土地勘の無さが災いし、道に迷ったのか、しばらく目的の場所を見つけられず。

 夕日の色が日差しよりも強くなった頃、ようやく周りの建物よりやや大きめの、看板を掲げた建物を見つける。


「月……の葉……亭?」


「ここみたい、ですね」


 木造の建物の横についた看板に書いてある名前を少女が読み上げ、それが年配の女性に聞いたお店の名前と一致していた。


「……入りましょうか」


 少しだけ躊躇している様子があったものの、扉に手をかけるイミリア。

 僕もそのすぐ後をついて扉をくぐる。


 ――店内に入ってまず目についたのは、正面にある木製のカウンター。

 そこに恰幅の良い婦人が立っている。

 その周りをこれまた木製の丸椅子が囲んでいて、二、三人ほどが座っており、食事をしながら、カウンター内にいる女性と話をしている。

 フロアには、木製の長方形のテーブルがいくつか設置されていて、そちらのでも数人のお客らしき人達が食事をしている。

 人々の語らいの声が響く店内の、活発な空気に当たれられて、意識がちょっとくらっとくる。


「あ、いらっしゃいませっ」


 と、テーブルに給仕をしてた少女が、こちらに気づき、笑顔で声を掛けてくる。

 茶色いショートの髪で、白い長袖の服と茶色のスカートに、白いエプロンを掛けている。


「お食事ですか?」


 給仕を終えた後、扉の前にいる僕たちに近づく。

 少女の方を見て一瞬だけ、驚くように目を見開いたけれど、すぐに笑顔に戻しながら尋ねてくる。


「いえ……泊まれる場所を、探しているのですけれど……」


 給仕の少女に、何処か気圧された様子で、少女が答える。


「おおっ、そうでしたかっ。はいっ、確かにうちは宿もやってますっ」


 手をパンッ、と叩きながら、少女の言葉に答える。

 ハキハキとしたしゃべり方が明るい印象を与える少女だった。

 対する銀髪の少女は、その音に一瞬、顔をしかめるような仕草。


「お泊りのお客様は今はいなかったはずなので、多分大丈夫だと思いますっ」

 一応お母さんに聞いてきますねっ、とカウンターの方に向かっていくお店の少女。


「お母さ~ん、お泊りのお客様だってっ」


「あらっ、こんな時期に、こっちの方に泊まり客なんて、珍しいねぇ!」


 離れたところからも、はっきりと聞こえる大きな声が、お母さんと呼ばれた女性から発せられる。

 どうやら、先ほどの少女と、あの女性は、親子のようだ。

 そして、母親の方が、この店の店主、ということだろうか。


「あんたたちかい?ほらっ、突っ立ってないで、こっちに来なっ!」


 女性がよく通るを出しながら僕たちを手招きする。

 それに僕と少女はビクッ、と同じ反応をしながら、一瞬だけお互いに顔を見合わせ、そして一緒に女性の元へ向かう。

 周りの客が、僕と少女を、ジロジロと訝しげなものを見るように視線を向けてくる。


「あんたたちがお客さんかい?」


 そう言って、女性も僕と少女を遠慮のない視線でまじまじと見る。


「あ……あの……」


「一人一部屋で一泊銅貨五枚だよ。同じ部屋にするなら銅貨五枚にもう一人分の宿泊料が銅貨三枚さ。食事はまた別料金だけどね」


 と、そこで、僕はお金も何も持っていなかったことを思い出す。

 というか、もし仮に持っていたとしても。


(銅貨……)


 十円玉のこと……を、言っている訳では、ないのだろう。勿論。

 どちらにしても、今この瞬間の僕は限りなく無力だった。

 少女は、その言葉に、どこかためらいがちに自身の上着の内ポケットに手を入れると、何かを取り出して、女性に差し出す。


「おや、王都の記念銀貨じゃないか。珍しいものをもってるねぇ」


 女性がその銀貨を手に持ち、天井の明かりに照らす。


「金額的にはひとまずそれで足りる、と思いますが……」


「……本当は普通の通貨に換金してから持ってきて方がいいんだがね……まあ、いいさ。メリーっ!お客さんを部屋まで案内しなっ!」


「はーいっ!」


 女性は、給仕をしていた少女を、こちらに呼び戻す。


「はーいっ、じゃあ、こちらの方にお願いしますっ」


 メリーと呼ばれた少女は、僕達を階段の方へ促す。

 店員の少女を先頭に、階段を上り、二階にある部屋のうち、一番奥の角の部屋の前まで連れられる。


「あっ、えーっとっ……うちの部屋は基本的に一人用で、まあ一応二人くらいは大丈夫だと思うんですけれど……」


「一部屋で大丈夫です」


 イミリアがそう答えると。


「分かりましたっ」


 返事を返して、部屋の扉を開ける店員さん。


 中は四畳半かちょっと大きいくらいのスペースで、木製の床と天井に、簡素なベッドがひとつと、小さな木製のテーブルがひとつ。


 正面の壁には窓があるが、カーテンが閉まっていて、外の様子は見えない。


「それでは、ごゆっくりどうぞっ!」


 そう言って、店員の少女は扉を閉める。


「……」


「……」



 僕と少女は、部屋の中、見つめ合う。


「……とりあえず、座りましょうか」


「は、はい……」


 イミリアの言葉に促されて、部屋を見渡してみるが。

 さて、ここで、この部屋の何処に座るか、という問題。

 椅子のようなものはなく、あるのはベッドくらい。


「えーっと……どうぞ?」


 ベッドを右手でアテンション(手のひら全体を使って指し示す)して、少女に着席を促す。


「あ、ありがとう……?」


 僕のその仕草に、つられてベッドに腰掛ける少女。

 僕はそれを見届けて、空いている床のスペースに座ろうと、部屋の中を移動していたら。


「……?貴方もこちらに座って下さい」


 と、その様子を見ていた少女に、半目で声をかけられる。


「いや、僕は床で全然大丈夫……」


「遠慮しないで下さい」


 僕の言葉を遮るように、少し低めの声で、言葉を押してくる。


(おおう……?)


「そ、それじゃあ失礼しまーす……」


 少女の、そのどこか余裕のない様子から、ここで断る方が少女の気に障ってしまいそうだと思ったので、お言葉に甘えて少女の横、少しだけスペースを空けて、ベッドの上に座る。


 横目で少女の方を見てみると、僕のことが気になるのか、どこか落ち着かない様子で、こちらをちらちらと見ながら身じろぎをするものの、ひとまずのところ、そこまで嫌がる様子はない……ようには見える。


「……ふぅ」


 イミリアが大きく深呼吸をして、こちらに身体を向ける。


「それじゃあ、続きを話しましょうか」


「お、お願いします……」


 厳粛に頷きながら、部屋で二人きり、出会ったばかりの少女の言葉に、耳を傾ける。


 ---


 アートルマ。

 異世界転移者。

 魔術師。


 先ほど森の中で断片的に聞いた単語を、イミリアは説明を加えながら、つなぎ合わせていく。

 改めて僕の状況を整理すると、つまり。


『僕は、何らかの原因で異世界転移者として異世界に飛ばされ、今はアートルマという国にいる』


 ということ……らしい。

 それは、ひとまずはひとつの事実として、受け止めるべき……なのだろう。

 ……次。イミリアが僕のことを、その『異世界転移者』と思った理由について。


「……私の家系は、そういう『異世界』の存在を召喚するような魔術の伝承があるんです」


 そもそも、『異世界』という言葉自体は、少なくともこの国では一般的ではなく、『異世界転移者』なんてものが、知れ渡っているということもないとのこと。


「まあ、正直、今の今まで信じている訳ではなかったのですが……」


 僕の様子を見て、なんとなく直感的にそう思ったらしい。


「なるほど……」


 そう聞くと、僕は非常に恵まれた出会いをしたらしい。

 右も左も分からない場所に投げ出された僕の、最初の出会いが、その状況を理解してくれる人であったということは。


「それで……シズキ……の、ことについてですが……」


 イミリアは、次に、僕がここに来るまでにイミリアに話していたことを、ざっくりとまとめてくれた。


 気が付いたら森の中にいて、それまでの記憶がないこと。

 確かに、僕がいたところとは、見るものすべてがが違うこと。


「何か、声を聞いたりも?」


「声?」


「い、いいえ……」


 イミリアは言葉に迷う様子を見せながら。


「貴方の、さっきの森で見せた……その……」


「えっと……能力の、こと?」


「のう……りょく」


 僕はどうにか色々説明を試みてみるが。


「……まあ、スキル、のようなもの……ですか」


 僕の拙い説明から、イミリアは何やら自分で理解をしていた。


「貴方の世界では一般的なのですか?」


「全員が持っている訳じゃないけれど……年々増えてるんだっけな……?」


 うろ覚えだけれど、日本での能力者の割合は、現時点で二~三割ほどはいると、聞いた気がする。


「……」


「……」


 と、お互いの言葉が止まり、一瞬の間が二人の間に横たわる。


「ええーっと……それで、シズキ、は……」」


 イミリアが、何処か遠慮がちに僕の様子う伺うイミリア。


「……うん。僕はイミリアの話を信じるよ」


 ……本当は、ただ目の前の少女の言葉を鵜呑みにするだけでなく、もっと色々と考えるべきではあるのだけれど。

 少なくとも、今のこの状況では、その判断が正しい、と思う。


「そう……ありがとうごさいます」


 軽く息を吐いて、少し安心した様子を見せるイミリア。


 ……と。


「さて。今のシズキに現状を理解いただいたところでですけれど……」


 イミリアはそこまで言って、話に一つの区切りをつけるように、ひとつ深呼吸をすると。

 僕を、真剣な目で見つめる。

 まるでこれからが本題、とでも言うように。


「……貴方は、これからどうしますか?」


「うぇ……っ?」


 その質問は、僕に、垂直に突き刺さった。


(……)


 森で少女に出会ってから、今の今まで、頭の隅に吐き溜めておいた思考のかたまり。

 それが少女の言葉によって、再び頭の中に散らばっていく。

 ……さて、もしかしたらここは異世界であるという言葉が真実であり、それを受け止めたとして。

 それでは、これから僕はどうするべきか。


「ちなみに、元の世界に戻る方法、なんていうのは……」


「元に……?ごめんなさい。戻る方法については……」


 何故か、意外そうな反応を見せるイミリア。

 その反応を、少し不思議にも思ったりしたが。

 ……今は、そんなことよりも。


(……どう、するか)


 今まで、学生という身分と、課外活動という義務。

 自身を形作るための型となっていたそれらが剥がれたことを自覚した、思考が拡散していく。

 自身で自身の目的を策定することが、とても苦手な僕だった。


(……とりあえず、元の世界に戻る方法を探す?)


 そんな中思い浮かんだ、酷く自然な思考の流れに、真っ先に飛びついてみる。

 それは、とても正常な目標だと思う。

 ……思うの、だけれど。


「……」


 沈黙を続ける僕に、何を促すでもなく、ただこちらを見つめるばかりの少女の、その瞳が僕の視界に映って。


「……うん。正直、まったく思いつかない、です」


 そんな情けない言葉を、素直に吐き出してみる。

 どう聞いても、無責任で丸投げな言葉。

 だけど少女はまるで、それを待っていたかのように。


「……それでしたら」


 先ほどまで、すらすらと説明を続けていた彼女が、ここにきて数秒の、躊躇いのようなものを見せて。


「私とパーティを、組みませんか?」


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