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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第一章 2 トオノミ地方


 そう、僕たちは半月前……僕とノエルは一人の《大地人》の少女、コールを拾ったのをきっかけに、一つの騒動に連れてこられる形で巻き込まれる。

 その出始めの言葉がこれだった。


「さて、まずは《アライアンス第三分室》にようこそ、《お触り禁止》一行殿。僕たちは君たちを歓待するよ」


 時刻は夕方。窓から差し込む淡い光は部屋を染め、そこにいる人たちの心境にも影を落とす。

 だけど、その光を反射するかのように全身鎧フルプレートをつけた青年はそう呟いた。


 青年の名はホネスト。左肩に外套がついた全身鎧《グローリーアーマー》を身に着け、反《Plant hwyaden》組織である《アライアンス第三分室》のリーダーを務める美青年だ……本当に何でもこなす完璧超人である。

 そんな無縁のような人と知り合ったのは半月前、バレンタインデーで行われていた『闘技大会』でのことだった。

 その際にホネストはコールの命を助けてくれたり、騒動のを収拾を手伝ってくれたり……本当に感謝してもし足りないほど、恩義を尽くしてくれた存在である。

 だけど、僕は知っている。この人はそこで謙虚に引き下がるような『天使』ではなかったことを。


 その証拠に僕たちはここにいる……《ナカスの街》から西にある《パンナイルの街》、その中に存在する《アライアンス第三分室》の執務室に。


 窓から見えるその景色は田園風景が広がる無駄に飾らない街だった。街壁や城壁といったものがなく、誂えたかのような建物が一切ない。まるでその地に生きる住民の生活を最重要と考えたような光景だ。

 ――きっとこの街の領主はいい人なのだろうな。


「いやぁ、嬉しいな。これで《第三分室》もにぎやかになるよ」


 ――……だというのに、目の前で座っているこの人は何を考えているのだろう。

 僕は眉をひそめながら顔を上げた。すると、ホネストはその光景に不釣り合いな笑みを浮かべ、淡く彩られる執務室でニコニコと周りを見渡している。

 そんな彼の隣には『疾風』というホネストの秘書が一人。ドア付近には取り囲むように《冒険者》たち……《エルフ》、《ドワーフ》、《猫人族》に《狼牙族》が居座っている。まるで全種族のオンパレードのように。

 そして、そのオンパレードの中心にいたのが僕たちだった……。


 そう、もう言うまでもなく、僕たちはバレンタインデーの騒動にかこつけられ、待ち伏せに合い、魚を釣り上げられるかのようにがんじがらめにされたのだ。

 そして、手首を縄で縛られ、武器を取り上げられ、小さく蹲る僕たちはここに担ぎ込まれている……丘に上がった魚のように。


 これから何が始まるというのだろう? 魚を刺身にするかのように捌かれるとでもいうのか……ありえなくもないところが怖い。


 すると、僕がそんなことを考えていたせいか、その答えは意外にも早く返ってきた。


「ということで、さっそく《お触り禁止》にはさっそくパーティを組んでもらいます」


 ――……。

 瞬間、目が点になる。さすがにこれは言わなければならないだろう。


「いや、『ということで』の意味がわかりません」

「と・い・う・か!! 先にこの縛っている縄を解きなさいよ!!!!」


 とその次の瞬間、矢継ぎ早にノエルが僕に喝を入れるかのごとくホネストに要求した。


 ……え、わかっていますよ。ええ、まずは自分たちの身の安全ですよね……理解していますから。だから、そんな疑わしい目線を向けないでください。


 そんな顔をそむけたくなる視線を送るノエルは僕の左後ろで『はぁ……』と溜息を吐く。その彼女もまた手首を縛られていた。

 だけど、なぜか僕と違って椅子が用意されていた。そういえば《狼牙族》の《冒険者》がそっと椅子を用意してくれていた気がする。そのおかげもあってノエルは僕よりも幾分かリラックスしているようにみえた……む、こっちは地べたなのにちょっとずるく思えてきたぞ。


 すると、もう一方。僕の右側で看板娘風の少女が心配して声をかけてきた。


「大丈夫ですか、痛くないですか?」


 その少女の名はコール。僕たちがバレンタインデーに遭遇した《大地人》の少女、その人だった。だけどその正体は《供贄の巫女》――《六傾姫ルークインジェ》というセルデシアにいた大昔の人の生まれ変わりだった。


 《六傾姫》はこのセルデシア――大規模オンラインゲーム《エルダーテイル》を模した異世界で、かなりの魔法技術を持った方々だったらしい。それこそ自らを生まれ変わらせるほどの実力を持ち、それゆえに迫害され、世界の理を書き換える大魔術《森羅変転ワールド・フラクション》を行った。


 今にして思えば、僕たちが異世界に呼ばれた現象《大災害》もそれが何か関係があるのではないだろうか、と思う……だけどそれを確かめる術はもう僕たちにはない。


 なぜなら僕たちはいわば『置き去り組』……《トオノミ地方》の《冒険者》たちは皆、《大災害》という一斉召喚で呼ばれておいてそのまま放置されている残念《冒険者》なのだ。


「……セイさん?」


 とその時、コールが腰を落とし、顔を覗きこんできた。そう、コールは僕とノエルと違って何も縛られずにいた。


「本当に大丈夫ですか? 具合がどこか悪くなったのでは?」


 たぶん力のない《大地人》だからなのだろう。そんな自由に動き回ることができるコールは返事がないことに呼応して眉を下げる。

 すると、パーマのかかっているそのふわりとした金髪が垂れて、彼女を看板娘風に至らしめているチェック柄のチュニック《アカデミックチュニック》にかかる。その姿は可愛くて僕は顔を背けた。


「ああ、平気平気。ちょっと考え事してただけ」


 僕は優しく微笑む。だけどコールはそれでも心配そうにみつめた。すると、それに同調したのか、左から声があがる。


「ほら、いい加減解きなさい!! 意外と縛られるのって精神的苦痛があるんだからね!」


 その声は前よりもトーンをあげ、怒り気味に響いた。だけど、ノエルの声に動ぜず、ホネストはいたずらっぽくそっぽを向く。


「うーん。解きたいところだけど《お触り禁止》はそういうわけにもいかないからなぁ……君の《シャドウバインド》はやっかいだし、ノエルさんの《ファントムステップ》と合わせるとまた逃げかねないからね」


 それから付け加えるように「もうあんな手のかかる追いかけっこはしたくない」と口走った。

 それについては同じ意見だ……できれば語りたくない。血で血を洗う……もとい『泥を泥で洗う』ような追いかけっこはもう勘弁だった。だから僕は話を逸らす。


「で、いい加減にその《お触り禁止》という異名を使うのやめてもらえませんか?」


 僕としてはそっちの方が精神的苦痛を生じる。

 《お触り禁止》とは僕につけられた二つ名だ。あくまで『触られる前にやられてしまう』ことからつけられたらしいが、どう考えても誤解を生みそうな異名だった。


 そんな僕の心の叫びを知ってか知らずか、ホネストは今の言葉を完全スルーした。

 だけど、


「まぁ、冗談はこのぐらいにするから、もう少しそのままで聞いてほしいかな……結局、君たちは《アライアンス第三分室》に入ることになるのだから…………」


 急にそのいたずらに微笑む口端が吊り上がる。そして、目を細めた。

 その眼光には未来を見通すかのように僕たちが映り、まるで『預言』かのように言葉を紡ぐ。言葉はまるで影のようにノエルとコールにべったり張り付き、またはあっさり心を呑み込んで二人に息をのませる。

 同時に差し込んだ淡い光がより色濃く影を落とし、夕暮れへと変貌する。


 そう、忘れてはいけない。ホネストは《アライアンス第三分室》のリーダー……バレンタインデーの騒ぎでは一時的にも《ナカスの街》の《冒険者》を動かした実力者だ。

 もちろん、


「……それがどういうことか説明していただけるんですよね?」


 すると、二人は突如解放されたかのように息を取り戻し、ホネストは「フッ」と嘲るように笑った。

 その時の僕はわからなかったが、後でノエルに聞いた話では『セイも負けず劣らず恐かった』……ということらしい。その表情は『仲間を傷つけたら許さない』と言っているようだったと。

 正直そんな気迫をつけた覚えはなかったのだが、それを感じ取ったのか、ホネストは腕を組んで


「もちろんだよ、《お触り禁止》」


 と口にして、吊り上げた笑みを元に戻した。


「でも、その前にまずは僕たちの事を知ってもらわないといけないみたいだ。疾風、頼む」

「…………」


 そうして、ホネストは秘書に命をだすと、秘書は何も言わず自らのステータス画面から一つの特技を発動させる。《従者召喚:ファントム》……つまりは『お化け』を召喚したのだ。

 とはいっても、その姿は丸くデフォルメされた形のある存在だった。要はマスコットに近い。

 そんなマスコットのようなファントムは透明な空間から姿を現すと疾風に手渡された紙を広げて、僕たちにも見やすいように留まる。いわば掲示板だ。


 そうしてできた即席掲示板には図面が描かれていた……言うまでもなく《弧状列島ヤマト》の地図だった。その形は《ハーフガイア・プロジェクト》によって現実世界の『日本』とそっくりに描かれている。


 《ハーフガイア・プロジェクト》はその名のとおり二分の一に収束された地球だ。《エルダーテイル》で定番だったその舞台はセルデシアでも適用されているらしく、疾風はその内の一部、福岡県の中州あたりを指さした。


 と同時に、ホネストが確認するかのように言葉を紡ぐ。


「さて、僕たち《アライアンス第三分室》は反《Plant hwyaden》組織だ。その活動は《大災害》に占拠されたこの場所――《ナカスの街》を奪還することにある……これはわかるよね?」


 すると、急に委縮していたノエルが水を得た魚のように騒ぎ出す。その額には青筋が浮かび上がっていた。


「当たり前じゃない!! 私たちをバカにしているの!?」

「いや、むしろその逆なんじゃないかな」


 けれど僕は冷静にノエルの言葉に異議を立てる。刹那、ノエルは沸点が下がったかのように驚き、同時に首を傾けた。次いでホネストは満足げに頷いて「さすがだね」と称賛する。


「もちろんこれは君たちを侮ったわけではない。これはこれから話すことの大前提になることだから、言ったんだ」


 つまりは『自分たちは《ナカス》を奪還したその先を見通している』という意味なのだろう。

 それを理解したのか、ノエルは不機嫌になりながらも口を閉じた。そして、他に異議がないことを確認したのち、ホネストは改めて喋りはじめる。


「そう、僕たちの目的は《ナカス》を取り戻すこと……そして、これは『自由貿易権を取り戻すため』にある」

「自由貿易権……?」


 本題を切り出したホネストに僕たちは首を傾げた。すると、今度は背後にいる《冒険者》たち……《猫人族》の《冒険者》から声があがった。


「君らってさ。《冒険者》以外でここ《トオノミ地方》を治めている自治組織って知ってる?」


 その問いにはコールが手を挙げた。


「あの、確か《ナインテイル自治領》の事ですよね?」


 すると、《猫人族》の《冒険者》は「正解」と拍手をした。コールはそれを聞いて「ほっ」と安心して一息つく。


 《ナインテイル自治領》とは《トオノミ地方》、もとい《ヤマト》南方部一帯……現実世界でいえば『九州』を治める《大地人》の勢力だ。

 もともと『ナインテイル伯爵』という公爵家が治めていたそうだが、今はその血を引く《ナインテイル九商家》が表に立っていると聞いたことがある。

 その《ナインテイル九商家》はその名のとおり『根っからの商人たち』であり、《ナインテイル自治領》は《ヤマト》では唯一、貴族以外が土地を治める組織だった。

 そのしきたりにこだわらない政策は街や港、街道などインフラを強化し、《大地人》だけではなく《冒険者》からも支持されている。


 だが、その事と『自由貿易権を取り戻す事』がどう関係しているというのだろう。


「《ナカスの街》を取り戻したところで、それを維持できるようにしなければ意味がないということですよ」


 すると、僕の表情を尻目にホネストはにこっと笑う。その笑みが悪寒のように僕の背を走り抜けたのは言うまでもないだろう。

 同時にホネストは背筋を正して顔を上げる。


「彼ら《ナインテイル自治領》は『貿易』があって初めて機能する……《ナインテイル自治領》は《大地人》の商人の集まり。彼らだって慈善事業で自治をしているわけではありません。交易路を発展させるために自治を行ったにすぎません。インフラの整備はむしろ副産物といっていいものです」


 だけど、今その要である『交易』を失くし《ナインテイル自治領》は危うい状態になっている、とホネストは言う。


「その原因の一端が《ナカスの街》です。本土との唯一の架け橋である《カゲトモ街道》上にあるあの街は僕たちが思っていたよりも『貿易』の拠点になっていた。だから《アライアンス第三分室》はなんとしても《ナカスの街》を奪還したいのです」


 すると、負けじとノエルが手を挙げる。今度は怒りに任せてではなく純粋に疑問に思ったようだ。その証拠に、


「ちょっと待って。あなたたちが『《ナカス》の自治を復活させたい』ってのはなんとなくわかったけど、別に《ナインテイル自治領》はなくなったわけじゃないんでしょ? なのに『危うい』ってどういうこと?」


 と質問した。

 確かにそうだ。《Plant hwyaden》が来てからというもの、《ナインテイル自治領》もその傘下に入ったが、別に組織自体がなくなったわけではない。

 現在でも《冒険者》に優遇はしているものの《ナインテイル自治領》は正常に機能している……半月前の『闘技大会』がその証だったはずだ。


 だが、ホネストは首を横に振る。


「では、逆に聞きましょう。《Plant hwyaden》はなぜ《ナインテイル自治領》を存続させたと思いますか?」

「え、そんなの《冒険者》から支持されているからじゃ――」

「でも、《トオノミ地方》の権力者たちですよ? 貴族ってわけでもないですし、僕だったら邪魔される前にまず解体させて無力化させます」


 そのもっともな答えにノエルはたじろいだ。

 しかし、その通りだ。《ナインテイル自治領》の人たちはあくまで『商人』。ならば、いずれ脅威になるかもしれない存在を存続させておくだけ損をするはずだ。


 では、なぜ《Plant hwyaden》は彼らを存続させるのか?


 その謎にノエルは頭を爆発させ、叫びだす。


「ああー!! もう知らないわよ!!!! どうせあいつらの『単一ギルドによるギルド間差別のない世界』って反していた……か、ら…………ん、あれ?」


 だけどノエルはその言葉を切って、首が捻るのではないかと思うほど頭を抱えた。と次の瞬間、目を丸くして……顔を真っ青に変えて呆けた。

 ホネストがその思考を読み取って頷く。


「気づいたようですね……彼らの理想に『《大地人》は含まれていない』ということに」


「…………」


 その時、執務室に沈黙が走った。

 僕は息をのむ。いや、僕だけではない……ノエルも、コールもその言葉の意味をかみ砕くほど理解して押し黙る。


 ――『単一ギルドによるギルド間差別のない世界』。


 こうして理解して聞いてみれば、なんと自分勝手な言い分なのだろう。そもそも『ギルド』という単語を使っている時点で気づくべきだった。

 この『ギルド』という単語はあたかも『組織』もしくは『グループ』という意味で捉えてしまうが、この世界では明確な差異があるのを思い出したのだ。


 その差異というのは、《冒険者》を主体としているかどうか。


 つまり、『単一ギルドによるギルド間差別のない世界』というのは『自分たちにとって都合のいい世界を作ろう』という意味に他ならない。一文のどこにも《大地人》は含まれていないのだ。


 では《Plant hwyaden》にとって《大地人》はどういう扱いになるのか――。


「――道具だ」


 その時、コールが何か気づいたように呟いた。刹那、執務室にいた全員がコールに視線を向ける。

 途端にコールはビクッと肩を震わせた。思いのほか、注視されたことに驚いてたじろいだようだ。だけど、それでも自分の答えが間違いであってほしいかのように彼女は小声でつぶやいた。


「あ、えっと。もしかしてさっきの『なぜ《ナインテイル自治領》を存続させたか?』という答えって…………もしかして《ナインテイル自治領》が培ってきた技術が欲しかったから、ですか?」


 すると、またしても背後にいた《猫人族》の《冒険者》が「正解」と拍手した。

 だけどコールは今度はあってほしいなかったかのように顔を伏せた……いったい何が彼女をそうさせているのか、その時の僕にはわからなかった。


「コールさんはわかったようですね……《Plant hwyaden》がなぜ《ナインテイル自治領》を存続させるか、またどうして《ナカスの街》を最初に狙ったのか、が」


 そのホネストの遠回しの言い方もさすがにちょっと厭きてきた。

 僕は強めに主張する。


「はっきり言ってください。《Plant hwyaden》は何を考えているのか……彼らは《トオノミ地方》を『何』だと思っているのですか!?」

「だから――『道具』扱いなんですよ、《トオノミ地方》は」


 すると、ホネストははぐらかさず、あっけらかんと答えた。それはあまりにもあっさりした言葉だったが、その場の空気を冷やすには十分だった。

 ホネストはそっと立ち上がると、窓の外を眺める。

 そして、


「《お触り禁止》は《パンナイルの街》の特産を知っていますか?」

「……はい?」


 僕は目を丸くして首をかしげる……僕が聞きたかったのはそういうことではなかったはずだ。

 だけど、ホネストは声色を変えず、また答えを待たず、続きを話す。


「陶磁器……焼き物ですよ。《パンナイルの街》は意外にも《鍛冶師》や《からくり師》の工房が多いんです。生産系のサブ職において特別なクエストも受けられます」


 そこで僕は気づく……その声が次第に野太く、憤怒に満ちてきたことを。


「南西には《エイスオの街》。《ドワーフ》や《ハーフアルヴ》の技師たちが協力して築き上げた壮麗な城があるそうです……」


 それは次第に伝染し、僕にある想像をさせる。

 その想像とは、《トオノミ地方》の《大地人》がそうして培ったものを『誰か』が上空から手を伸ばし、かすめ取ろうとする光景。


「特産品は野菜と薬草……特に薬草はそこでしか育たない物もあるとか……」


 必死に試行錯誤する彼らを嘲笑うかのように盗み取られたそれは、その『誰か』の都合のいいように扱われる。


 そう、まるで地図の上でも眺めるかのごとく。《大地人》は『道具』のごとく。

 利用できるものは利用し、必要ない物は捨てていく。その中で《トオノミ地方》は……《ナインテイル自治領》は『利用できる』と判断された。


 ――《ナインテイル自治領》は『使える道具』。


 米や野菜、薬草から、果ては城を立てる技術や鍛冶スキル……もしかしたら《冒険者》までも、使っても絶えることがなく供給される『アイテム』。


「バカにするなぁぁぁぁああ!!!!」


 直後ノエルが吠えた。彼女にもこの想像が伝わったのか、気に入らないという気迫が背筋にチクチク刺さった。

 だけど、その奇声は『ガシャン』という静かな破壊音で収まることになる。


 視線を向ければ、そこにはホネストの掌があった……窓ガラスを突き抜けている掌が。

 粉々になったガラスたちが音をなして崩れていく。ホネストの声が、執務室の色を失くしていく。


「……《トオノミ地方》はもともと《神聖皇国ウェストランデ》にとって『西のへき地』としか見られていなかった地です。そんな中で『置き去り』にされた《大地人》は、それでも自らの技術を磨き、『貿易』によってそれを発展させていった」


 そして、振り返ったホネストは告げる。その時、初めて僕はホネストの怒った表情を見た。


「…僕は決して正義心が強いわけではありません。だけど……《大地人かれら》の頑張りに不当な価値を付ける《Plant hwyaden》を許しておくわけにはいきません」


 その表情は『悪夢のような笑み』だった。



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