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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第一章 1 カゲトモ街道


 《カゲトモ街道》。

 その街道は《神聖皇国ウェストランデ》にある《キョウの都》からずっと西へ伸びている街道。いわば《トオノミ地方》と《弧状列島ヤマト》の本島を結ぶ唯一の道だ。

 その道は果てることなく《弧状列島ヤマト》の南、《ナカスの街》から《パンナイルの街》までを結ぶ交通機関にもなっている。


 周りの道のりはいたって長閑のどか……西のへき地と言われることもあって、緑葉に満たされている。廃墟はぽつんと一つあるかないか。あとは田園風景とそれを営む《大地人》の集落が見て取れるばかり。風は暖かく、そして優しく僕たちの頬を撫ぜる。


 だけど、その時目の前に不釣り合いなエフェクトが散りばめられた。途端に僕は吹き飛ばされる。


「ほらほら、何よそ見してくれてんだ!! 戦っている事忘れてたのか!? それでも《お触り禁止》か!!」


 そうだ。街道から一歩外れた平原で僕は一対一の戦闘を行っていた。目の前には鎧武者の恰好をした《冒険者》が一人いる。僕はその敵になぎ倒されたのだ。

 しかし、ひとこと言わせてほしい。


「……誰が《お触り禁止》だ。僕の名前はセイだ!」


 まったく遺憾な異名をつけられたものだ……と僕は頭を悩ませる。


 だけどそれはひとまず置いといて、とっさに僕ことセイは膝をついて起き上がる。続いてステータスの確認、敵の動きを警戒しながら意識を集中する。


【名前:セイ レベル:62 種族:ハーフアルヴ 職業:暗殺者 HP:6758 MP:6696】


 うん、ダメージはまだ三割……僕が身に着けている軽鎧《試作魔道胸甲》が軽減してくれたようだ。

 次いで、敵の確認。視線を鎧武者に集中してステータスを呼び出す。


【名前:ナガレ レベル:64 種族:ヒューマン 職業:武士 HP:9536 MP:4736】


 出た。職業は武士サムライ……前線に出て敵の攻撃を受ける戦士職の中でも攻撃力と技の威力が高い職業だ。一言でいえば『攻撃は最大の防御』をスタンスに構成されたといってもいい。

 だが、弱点も顕著だったはずだ。確か『技の再起動時間リキャストタイムがどの職業よりも長い』はずだ。ならば技を出した今が好機だろう。

 しかし、その前に鎧武者は先手を打つ。


「《武士の挑戦》!!」


 僕が状況判断をしたその直後、鎧武者が手に持っていた武器、刀の柄を構えなおして眉間に力を籠めたのだ。途端に刀から……いや、鎧武者の全身から気迫というべきエフェクトが飛び交った。


 ――やばっ。

 とっさに僕はできるだけ距離を取ろうと後ずさる。

 《武士の挑戦》。戦士職が得意とする囮役タンクで使う技の一つだ。敵襲心ヘイトを煽り、自分の元へ敵を引き付ける技。普段は複数のモンスターを前線に引き留めるために使う。

 だけどこれが対人戦闘になると少し装いが変わるというのは、もう何度も受けて経験済みだった。


 しかし、時すでに遅し。甲高いエフェクト音が聞こえた瞬間、今までの思考がごちゃごちゃになる。まるで頭の中をかき混ぜられたかのようだ。めまいが全身を襲い、そしてそれを起こした鎧武者への怒りだけが居座る。


 そう、これらの《武士の挑戦》を初めとする技……いわゆる『挑発特技』には精神作用の効果があるというのだ。

 この作用については僕も理解していなかった。僕もそうだが、まず『挑発特技は対人戦闘に使っても効果はない』という先入観が発見を遅らせていたのだ。そして、もしかけられても理解していなければ何の違和感もなく攻撃に転じてしまうということらしい。


 実際、今も理性で抑えていなければ、狂った獣のように襲いかかっていたところだった。


「だが、何もしなければ同じ事なんだぜ!!」


 そんなかけ声とともに鎧武者は一気に詰め寄って、刀を下段から上段にかけて切り上げる。精神を保とうとした結果、その隙を付け込まれた形だ。まさか《武士の挑戦》にこんな使い方があるとは思わなかった。

 いや、それよりも先に、

「一歩下がる!」

 僕は紙一重で頭と胴体を一歩のけぞらせることに成功した。と同時に青い髪の数本が切り落とされる……わわ、これ当たっていたら、結構ダメージ食らっていたんじゃないだろうか?

 だけど頑張って回避した成果はあった。同時に鎧武者の右わき腹に隙ができたのだ。


 今がチャンス。僕は身体をひねり、自らの武器である曲剣《迅速豪剣》に回転力を乗せて叩き込もうとした。


「って、普通は考えるよな!!」


 しかし、まるで誘っていたかのように鎧武者は上段に上げた刀をそのまま右に振り落とす。狙いは曲剣《迅速豪剣》。自らの全気迫を乗せた一撃をその上に叩き落す。


 結果として曲剣は地面に刃が地面にめり込んで動かなくなった。同時にそれを掴んでいた僕さえも地にひれ伏すようにしゃがまされる。そして、鎧武者の口端が吊り上がり、にやりと不敵に笑う。


 あ、これは……僕でもわかる。まるで『たたき割ってくれ』と言わんばかりの絶妙な位置と高さ……そして、武士ならば必ずあの技が来る。

 それを証明するかの如く、鎧武者は刀を構えなおして叫んだ。


「今度こそもらった! 《兜割り》!!!!」


 鎧武者は勝ち誇った顔で刀を振り下ろし始める。その刀にはまるで集中線のように風を切るようなエフェクトが流れる。


 《兜割り》は武士が使える特技の中で珍しい汎用性のある技だ。それも追尾するように移動してくる。そのため、攻撃からは逃げられない。


 だけど結局、鎧武者の刀が僕の脳天を殴打することはなかった。その直前に僕はある言葉を囁く。


「《……》」


 その言葉は僕自身聞こえるかどうかわからないほどの音量だ。だけど鎧武者の身体がぴたりと一瞬だけ止まる。

 そして、鎧武者は不覚を取られたことに気づく。僕の得意技《シャドウバインド》によって拘束されていたことに。


 そう、『予想できた』ということは『対応』もとれたのだ。

 その中で僕が選んだのが《シャドウバインド》という技。相手の影を一瞬だけ縛り、動きを止める攻撃特化の《暗殺者》には珍しいバインド系の特技。

 だけどあまり人気はないらしい。動きを止めるのは一瞬だけだし、そもそも《暗殺者》の役割はオフェンス……味方が作った隙にダメージを叩き込むのが仕事だ。真正面から敵と対峙する《暗殺者》は皆無と言えるのだろう。

 しかし、この《シャドウバインド》という技が僕は大好きだ。この技はたった一瞬だけでも僕に選択肢をくれる。


 それを証明するかのように僕は曲剣を引っこ抜いて構えた。そして、技の宣言をする。

「《アクセルファング》」

 その言葉を口にした瞬間、曲剣に光が灯る。技を発動させる際に出るエフェクトの光だ。そして、それはひとりでに曲剣を動かす。《システム》という名のアシストが入ったのだ。僕はそれに追従するかのように一歩踏みしめればいい。あとは自動的にやってくれる。

 僕は身体を前掲させた。途端にトリガーのように身体は曲剣と一体になるように鋭く助走をつけた。同時に曲剣が鎧武者の甲冑に攻撃を当てる。

 《アクセルファング》……それは助走をつけ一気に敵に切りつける技、


「いってぇぇぇぇぇええ!!」


 そして、勢い余って敵から一歩離れた場所まで突き抜ける技でもあった。

 攻撃を当てた僕の曲剣が止まったのは攻撃を当てた数秒後。

 振り返れば、鎧武者が腹部を抑えながら悶えていた。もちろん耐えられるはずもない。鎧武者は平原に倒れ込む。


 だけど敵のHPはそれでも三割程度しかダメージが乗ってない。一方僕は先ほどの攻防でHPヒットポイントも五割を切っていた。《兜割り》を完全に避けることもできなかったらしい。

 ――まだまだここら辺は修業が必要だな……追い込まれる前に反撃できるようにならないと。

 でも、まぁ、とにもかくにも、

「今日はこの辺にしようか、朝練」

 僕は曲剣を背中に括りつけた鞘に収めた。空を仰げば日も上がってきている。今がやめ時だろう。


 そう、今僕たちが戦っていたのは朝練。いわば模擬戦だった。鎧武者はその模擬戦に付き合ってくれた方である。敵とか言ってしまったが、それはあくまで戦っている最中の事だった。

 だけど遠くから声がかかった。


「待て!! もう一本!! もう一本だけ勝負だ!!!!」


 同時に視界にぴょんと跳ねるように鎧武者が起き上がる。いや、もう『鎧武者』と呼ぶのは失礼だろう。

 鎧武者の名前はナガレ。確かに鎧武者姿だが、よく見れば関節部分が獣の毛で覆われている。確か名前は《狼牙の胴丸》だったか……それを着た彼はどっちかというと山賊に近い風貌を携えていた。

 身長は僕とあまり変わらない。顔も幼い。たぶん僕と近い年齢ではないだろうか……そのせいもあって『若頭』というイメージがぴったり合う少年だった。


 そんなナガレはさっきの攻撃をものともしない俊敏な動きで僕に詰め寄った……って、顔近い、近い。

 そして、そのまま僕の目の前で両手を合わせて懇願する。

「頼む! もう一回!! このまま負けたままでいたくないんだ!!」

「いや、一応どちらかのHPが五割切るまでって決めたし、今日は残念だけどナガレの勝ちだよね?」

 すると、ナガレが「だぁぁあ!! わかってねぇな!!」と意外にもきちんとした黒髪を掻きむしった。


「あのなぁ、ジリ貧で五割を切っても意味ないの!! というか、もう五日ぐらい戦ったのになぜ一本も取れないか謎なの!!」

「でも五連勝はしたよね?」

「だぁぁあ!! だ・か・ら、それが納得できないんだよ!!!!」

 まるで怪獣のようにナガレは吠える。だが、ジリ貧といえど勝ちは勝ち……僕は純粋に凄いと思うのだが。


 だが、ナガレは満足できないのか、落とした刀を拾い上げて構えなおす。

「とにかく再試合だ! 異論は認めねぇ、いいな――ぐわし!?」

 とその時、腰を落としたナガレの上に『ぼんっ』と音を成して何かが落ちてきた。

「よくないわよ。何、バカやってるのよ」

 そして、必然的にナガレは下敷きになってしまう。


 煙に巻かれるように現れたそれは僕の見知った人物。

 薄闇色を基調にしたコート《常夜のコート》を身に着け、軍人を思わせる姿。でもその上で跳ねる赤髪のおさげと《狐尾族》の耳は忘れもしない僕の幼馴染の姿だった。

「ノエル。もしかして迎えに来たのか?」

 僕は彼女の名前を口にして、首を傾げた。ノエルは肯定する。

「ええ、来るのが遅いからちょっと様子見に来たの。そうしたら、このエロ武者が駄々こねてたみたいだから、ちょっとお灸をすえてあげようと思って」

 ――で、《ファントムステップ》を使って落ちてきたということか。

 僕はナガレに全身全霊の同情をかけてあげながら、心の隅で何が起きたのか整理する。


 ノエルは僕の幼馴染で、職業は《武闘家》……《武士》と同じく囮役の戦士職だが、武士と違って『身のこなし』で勝負する職業だ。

 《ファントムステップ》はそれを代表するかのような技で、敵の死角を駆使して移動する《武闘家》の特技だった。ナガレが気付かないのも無理はない。


 その下敷きになったナガレだったが、ぴくぴく震えながら上体を起こしだす。

「出たな、暴力女。しかし、邪魔するな……今は男同士の大事な……」

「はいはい。今はそんなのはやらないわよ、っと!!」

 途端にナガレが「ぐわし!!」と悲鳴を上げた……ああ、今のは《シャドウレスキック》かな。《武闘家》は『蹴り』も攻撃判定に入るから今の一撃は痛そうだ。

 そう思いナガレのHPを見てやると、

 ――……って本当にHPの一割が削れてる!?

 僕は目を丸くする……本当に痛かったんだろうな。と同時にナガレのぴくぴく震える手が止まった。

「無念……せめて屍はセイが拾ってくれ」

 そして、ついに力尽きたかのように気絶してパタッと地面に伏した。


 だけど、その屍はノエルが拾うことになる。

 動かなくなった途端に、ノエルはそっと降りると「よいしょ」と言いながら鎧武者をわきに抱えたのだ。

「って、そうじゃねぇだろ!!」

 直後、ナガレが意識を取り戻して手足をばたつかせた……気絶してなかったのか。

「俺はセイに頼んだんだ!! かわい娘ちゃんに抱えられるのはご褒美だが、暴力女に限っては例外だ!!」

 ……と、起きたと思ったら何を言っているんだ。

「さっきのキックでHP一割減らされたってのに元気だね」

 そんなナガレに僕は率直に意見を言った。すると、ナガレが親指を立てて『そうだろう、もっと敬え』とポーズをする……いや、そんなのされても困るだけなのだが。


 その姿に見飽きたのかノエルが溜息を吐く。

「ほら、セイもバカしてないで止めてよ。一応、私たちのパーティリーダーなんだからね」

「……」

 む……それを言われると僕は言葉を出せなくなる。


 そう、僕はノエルの言う通り『パーティリーダー』として、ナガレをはじめとするとある即席パーティを引っ張っていた。


 その事の始まりは今から半月前……バレンタインデーの騒動で反《Plant hwyaden》組織に目を付けられ、その集まり《アライアンス第三分室》に捕まっての事だった。


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