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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第四幕 『恋と温泉とスパイ大捜索』
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第三章 6 フェイク


 曲剣と拳が火花を散らす。

 ラレンド家、旧邸宅……その敷地内で、セイこと僕はウルルカと一進一退の攻防を繰り広げていた。


「これが、ウルルカさんのやりたいことなんですか!?」


 僕は曲剣を構え、前へ……《モビリティアタック》で加速をかけて、一気にウルルカの胴体に刃を打ち込もうとする。

 だが、《マンティスアクション》により、いつもよりしなやかに動けるウルルカは、拳で軌道を逸らした。さらに《モンキーステップ》で軽やかに曲剣の上に飛び乗って、《シャドウレスキック》を繰り出してくる。

 僕はそれを《シャドウバインド》で止め、曲剣に乗るウルルカをバッドを振るかのように乱暴に投げ放った。

 ウルルカがくるくると宙を舞って、地面に降りる。


「……」


 ウルルカはにらみつけ間合いをはかっている。おそらく《マンティスアクション》の効果が切れたのだろう……今が絶好のチャンスだ。僕は急いで《アクセルファング》をかけた。

 足は自然と前に……即時移動の効果が発揮され、ウルルカの背後に立つと、そのまま剣を振り下ろそうとした。


「ここが《お触り禁止》の限界」


 けれど、見計らっていたのか、ウルルカは瞬時に高く飛び跳ね、拳に力を込めた。


 ――しまった、フェイクか!?


 僕は頭上を見上げた。相手に隙を与えるために偽の情報を与える戦闘技術(テクニック)……この場合で言えば、支援(バフ)の効果が切れたように見せて、回避不可能な状況に追い込んだ。

 技が発動した以上、剣が振り下ろされるまで、僕はこの場を動けない……僕が見上げる中、ウルルカが構える拳が振動し始める。それは次第に音を為して、ある動物の威厳を漂わせた。


「《タイガーエコーフィスト》!!」


 ウルルカの拳が僕の胴体にめり込んだ。続いて、拳の振動が何度も何度も腹に食い込み、精神にまで異常を来す。まるで本物の虎に食い破られたかのように錯覚し……。


「はぁぁぁぁあ!!!!」


 ウルルカの気合いと共に、轟音が辺り一面に響き渡る。戦いの成り行きを見守っていたミコトも、地面さえも揺れているかのような轟音に耐えきれず、耳を塞いだ。そして、


「嘘でしょ……?」


 轟音が鳴り止んで、ミコトは絶句する。

 ミコトが見たのは僕が敗北する姿。相手に触ることなく勝利する《お触り禁止》が力なく項垂れ、地面は衝撃の余波でクレーターのように窪んでいる。

 その中央でウルルカは瞼を見開いて、ぜぇぜぇ、と荒い息を漏らしていた。


「……これでうちが本気だって理解したでしょ?」


 ウルルカは僕のHPを確認する。すんでの所で止まっているが、瀕死であることに違いはない。

 同時に、自身の両手を眺めて、はは、と笑みを零して蔑んだ。仲間に何の躊躇もなく最大火力の技を放った……その事実に、落ちぶれたものだと哀れんだのだろう。


「……ミコトの事は頼んだからね」


 だが、決心がついた、とでも言いたげに、仲間を傷つけた両手をしっかりと握りしめて、振り返る。

 しかし、そこで再び、ウルルカは感情を剥き出しにして激高した。


「ユウヅキィィィィ!!!!」


 ウルルカの瞳に映ったのは、首筋に刃を添えられたミコトの姿と、その背後で愛用の小刀を突きつける金髪のポニーテールをなびかせるくのいちだった。


「あなたがラレンド家の影巫女、ユウヅキさんですか?」

「そうよ。さすがに調べはつけているんでしょ?」


 ユウヅキは、首筋に突きつけている小刀を食い込ませる。ミコトの額から冷や汗が流れる。


「ミコトから離れろ!!!!」


 瞬間、ウルルカが吠えて構えをとった。だが、さらに刃を食い込ませたため立ち止まる。


「先輩はまだまだ甘いんですよ。罪人、地獄に連れて行く……それなら、ここまでしないと駄目でしょ?」


 全てを犠牲にして利用する……そこまでしないとまず勝てない。仲間を気遣っているうちは、たどり着く事さえ難しい。ユウヅキは眉間に皺を寄せて、舌打ちする。


「大体、そこでくたばっているセイって《冒険者》にも、がっかりですよ。せっかく場を作ってあげたのに、先輩すら倒せないなんて」


 《お触り禁止》が聞いて呆れる……ユウヅキが心底ため息を吐く中、ミコトが目を丸くして口を開いた。


「では、あなたの目的は……」

「そんなの同士討ちさせる事に決まっているじゃない」


 差は縮まれど、未だ《大地人》が《冒険者》に勝つ事は難しい。ならば《冒険者》に相手してもらえばいい、とユウヅキは考えた。


「インティクス様からの指令は一つ。《お触り禁止》の率いる部隊を壊滅させる事……同士討ちさせれば、明らかに戦力は減るし、手負いであれば私でも戦える。そして、混乱に乗じて隙を突くこともできる。こんな風にね!!」


 直後、《三尾の妖力》が発動し、狐尾族の尾が三又に変わる。ユウヅキの手にも力がこもり、ウルルカが動き出すが、当然、間に合うはずもない。


「死になさい! 《スウィーパー》」

「やめてぇぇぇぇぇ――――――!!!!」


 ウルルカの悲痛の叫びが響く中、ユウヅキの小刀が、ミコトの喉を抉り、一気に掻っ捌く。

 そして、


「《禊ぎの障壁》」


 その声が届けられたのか、ユウヅキの小刀は天に向かってはじけ飛んだ……ユウヅキが「はっ?」と声を裏返させた。

 よく見れば、ミコトの周りには、薄い膜のような障壁が展開されている。《禊ぎの障壁》は《冒険者》の一太刀さえ防ぐ障壁。《護法の障壁》より範囲は狭いが効果は勝る……《大地人》の攻撃にも優に耐えるだろう。


「あり得ない!! あの間合いでは、《冒険者》とはいえど、技や魔法を使えないのは実証済み!!」


 いや、今、考えるべきはそんな事ではない。

 さすが影巫女の長と言うべきか、嫌な予感が働いて、逃げるべきだと、ミコトが振り向くよりも先に後ろに跳んだ。

 けれど、もう遅い。


「「捕まえた!!」」


 次の瞬間、ユウヅキのさらに背後から二人の《冒険者》が押さえつけた。赤髪の《武闘家》と山賊風の《武士》……ノエルとナガレだ。二人は両手を片方ずつ絡め取り、全体重を掛けて地面に叩きつける。さすがにユウヅキも、これには苦悶の表情を浮かべた。


「この二人は、戦闘不能にまで陥ったはず……どうして?」


 ユウヅキが視線を送れば、ウルルカは今も泣きそうな表情で、唖然としている。状況がわからないといった様子だ。

 疑問が頭から離れないユウヅキに代わって、問いに答えたのは他でもないミコトだった。


「フェイクですよ」


 そう、二人には予め《鈴音の障壁》をかけてもらい、ウルルカの注意を引いて倒れてもらうように仕向けた。

 障壁を重ねがけできる《鈴音の障壁》だが、単発での効果は吹けば飛ぶほどに弱い。故に、パワーで押し切るウルルカにとっては相性が良く、ユウヅキには気付かれずに『HP調整』ができると考えた。

 おかげで二人のHPは、僕ほどではないが、一割弱……ぎりぎり身体が動かせるくらいに抑えられている。あとは折を見て、警戒心が薄れたところを一気に、というわけだ。


「では、先ほどの障壁も……」

「まさか。そんなことをしたら、あなたは私に寄りつきもしなかったでしょう?」


 《大地人》といえど零距離であれば、障壁の存在には気付く。そんな状態の人間が人質として機能するとは思えないし、ましてや脅迫したところで箔はつかないだろう。


「したらば、あなたは逃げるでしょう……そうしたら、私たちは詰みです。だから、あえて障壁は切っておきました」


 ユウヅキを見下ろす形で振り返るミコト。そんなミコトににらみを利かせながらも、ユウヅキは「まさか」と勘が働いて僕を見た。


「そう、あなた以外にも、裏を掻くのが得意な人間はいる」


 ミコトは自分の首筋に手を置いた。


「あの時、私に小刀が突き刺される直前、セイは『ステータスウインドによる操作』で《シャドウバインド》を発動していた」


 ゲーム時代には、さも当然だったように行われていたコマンド操作。《大災害》からは音声や動作による発動が主流になったが、なくなったわけではない。

 もちろん時間がかかりすぎるため、近接戦闘の《冒険者》は使いたがらないが、今回に限ってはそれが上手く功を称した。


「私から目的を聞き出したのも、全ては時間稼ぎのため……」


 つまりは、すかさず喉を掻っ捌いたと思った行為は、実際には一瞬遅れていた状態だったわけだ……ユウヅキは完全に寝首を掻かれた、と言わんばかりに肩を落とした。

 加えて、


「そこまで読んでいたなら、私の本来の目的も」

「ええ、あいつは察していましたよ」


 ミコトが僕に向けて回復魔法《快癒の祈祷》を唱えた。やっとの事でHPが少し戻り、僕は身体を押さえながら起き上がった。


「きつい……ウルルカさん、全力出しすぎでは?」

「セイ……」


 瞼に涙を浮かべながら、ウルルカが「どういうこと?」と首を傾げた。腰が抜けたのか、立ち上がろうとする素振りさえない。

 よほど、ミコトが神殿送りにされる光景が堪えたのだろう……僕は申し訳なさそうに頭を下げた後、ゆっくりと立ち上がり、近づいて手を差し伸べた。


「ウルルカさん、騙してすみません。でも、こんな事はやめませんか? この先に行っても待っているのは不毛な争いだけです」


 瞬間、ウルルカが気に障ったように僕の手を払った。


「わかったような口利かないで!! これでもない頭を使って考えたの!! いっぱい、いっぱい考えたの!! だから、セイにわかるはずない!!」


 涙を流しながらにらみつけるウルルカは、まるで野良猫のようだった。

 ただ冷たい風を避けるために路地裏へ逃げ込む子猫のように、きっと今、何を言っても駄目なのだろう。野良猫に急に手を差し伸べても、噛みつかれるか、逃げられるかのどちらかだ。

 だったら、『現実』を見せるしかないだろう……僕もそうだったように。


「いいえ、わかります」

「嘘言わないで!!」

「嘘ではありません……だって、ユウヅキさんが物語っていますから」


 え……またしても目を丸くするウルルカに、僕は視線をユウヅキに向けて同意を求めた。


「ねぇ、僕たちに殺されようとしていた、ユウヅキさん」


 直後、ユウヅキはばつが悪い表情を浮かべて、歯を食いしばった。



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[気になる点] 誤記「カサカサ」 送信 [一言] 現実「私を見て」(ヤンデレ風味 世の中複雑なもんで・・・うん知ってたよ複雑な事は。 そこまで入り組んで無くてもいいんじゃない?(迷路の如く やはり…
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