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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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プロローグ


 緊急安全地帯。

 《冒険者》の言葉で言えば『セーフゾーン』と呼ばれる場所に私、グレイスはいた。

 ここは結界、もしくは何らかの状況が重なってモンスターが入れない場所である。だからここにいれば、何かに襲われる、ということはない。


 ――だが……。

 私は暗いくらいその場所をみつめた。

 ここは暗い。夜だからということもあるが、それでも明かりは壁にポツンと設置された灯篭だけ。《冒険者》の街に比べれば光量も華やかさも足りない。今まで私がどれだけ恵まれていたのか察するほどに。


 私は暗闇の中、乏しい明かりを頼りに惨めな自分自身を眺めた。灰色と鼠色のローブは砂埃にまみれていて汚い。赤い眼鏡を片手にレンズを拭こうとするが、なかなか汚れが落ちてくれない。どうにかしてレンズを拭きおえた頃には溜息をついていた。

 これがいわゆる『途方に暮れる』というものだろうか。


 私はそっと空を仰いだ。

 ――どうしてこんなことになったのだろう。私はまた何かを間違えていたのだろうか?


 セイという《冒険者》が《ナカスの街》を危機から救ってくれて半月が経つ。あの事件の原因は私ども《供贄の一族》の不始末……いいえ、私が引き起こしたといってもいい。私は何もわかっていなかったのだ。

 《供贄の一族》は古アルヴ族から受け継がれた魔法技術を悪用されないように守り続ける者……《伝承者サクセサー》である。

 だが、その前に一人の《大地人》であり、この世界セルデシアの地に生きる者であることを忘れていた。それが《六傾姫》の力を受け継いだ巫女様の……少女の心を縛り、歪みを正すようにあのような事件が起きてしまった原因なのだろう。私はそう推察した。全ては私の気配りが足りなかったのだ。

 だからこそ、今度は間違うことはないよう注意したはずだった。《伝承者》として、また一人の《大地人》として清く正しく誰かの模範となるように。


 だが、私はここにいる。

 《供贄の一族》の誰かに落とされて、奈落の底にいる。


 私は静かに自らを嘲笑った。

 結局、私は答えをみつけられていない。

 そもそも、これからでも何かできるのではないか、と勘違いしたのが間違いだった……他にも同志に魔の手が伸びていることさえ気づかなかった私には、まず無理な話だったのだ。

 私は《伝承者》でもなければ、《供贄の一族》と名乗るのもおこがましい……半月前、迫りくる脅威に一致団結して立ち向かった《冒険者》たちとは違う……何もできないただの《大地人》。


 その時、ふと《供贄の一族》の代表である薫星キンジョウ様の言葉が頭をよぎった。


 ――『《冒険者》に可能性をみつけてみるといいでしょう』


 半月前に言われたその言葉に私は再び問いかける。

「彼らのどこに『可能性をみつけろ』と言うのですか、薫星様」

 その問いは……今度はあのセイという《冒険者》に届くはずもなく虚空に消える。

 そして、いつか私も消えるだろう……この暗い闇に溶け込むように。


 緊急安全地帯。


 《冒険者》の言葉で言えば『セーフゾーン』と呼ばれるその牢獄に私、グレイスはいた。

 《忘れられた古の牢獄ダンジョン》の奥底で、静かに自問自答を繰り返しながら、来るはずのない助けを待っていた。



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