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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第四幕 『恋と温泉とスパイ大捜索』
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第二章 1 次の展開


 そうして、各々が各々の想いを抱えて時間を過ごし、夜が訪れる。一回目の会合が始まりを告げようとしていた。

 場所は月下荘深奥にある別邸、月光館。そこに続々と重鎮が集まり出してきた。

 《ナインテイル九大商家》……《ナインテイル自治領》を統括する九つの家がこの日のために使者を送る。今回、セイこと僕は仲間たちと共に彼らを護衛するのが仕事だ。


「で、セイは何で頬に大ダメージを受けてんだ?」


 ナガレが月光館の前で腕を組んでいる僕に突っ込みを入れる。その視線は僕の頬へ……正確に言えば、頬に刻まれた手形を指さしていた。


「で、セイは何で」

「二回も聞くな!! 僕だってわからないよ!?」


 月下荘に帰ってきた途端、玄関で、出待ちならぬ入待ちをしていたノエルから盛大にビンタを食らったのである。その隣にはコールもいて、何故か慌てる僕ににやついていた。

 振り返ると、ノエルはあからさまに顔を逸らす。だけど、その表情はどこかすっきりとしている様だった。コールも今なお笑顔のままだ。何か良いことがあったのだろうか……僕は月光館の門前でやきもきする。

 そう、僕たちは今、月光館の前に集合している。ナガレとユキヒコは今まで通り飄々としており、ミコトとウルルカはいつも通り冷静に……。

 いや、少し距離を置いているか。側にはいるものの口数一つ出てこないのは不自然だった。こっちはあまり良いことがなかったのかもしれない。

 どちらにしても今は護衛の仕事である。


「さて、それじゃ警備の時間だ。当初から決めていたとおり、三つに分かれて三方向から取り囲むように警護する」


 すでに九大商家の使者は月光館の中にいる。警護といっても実質、彼らの側に立って守るのはホネストと疾風の役目だった。《ユフィンの温泉街》に来た直後に無茶振りのごとく追加の依頼が来るかとも思ったが、そうでもなかったらしい。どうやら『休暇』の話は本当のようだ。

 だからこそ、この仕事はきちんとするべきだろう……もう一つの仕事の方も。僕は口を酸っぱくして、意気込む。


「メンバーは温泉街に来る最中にも話したけど、戦力が落ちないように戦闘時と同じメンバーで……」

「コール、行こう」

「……って、え?」


 けれど、僕は話の腰を折られて唖然とする。見れば、ウルルカがコールの腕を引っ張って連れ出そうとしていた。


「ちょっと、ウルルカさん!?」

「別に形だけの警備でしょ。だったら、誰でもいい」


 それはそうですけど……僕は口をつぐむ。

 本当は戦力を落とさない以外にも、ミコトとウルルカを引き離さないための人選だったのだが、それを口にするわけにもいかず、僕はただあたふたする。加えて、ナガレまでもが「それもそっか」と賛同し始めた。


「じゃ、俺っちも一人でいこうかな」

「では僕もいっしょにいきましょうか」

「何でだよ!?」


 ナガレがすっ転ぶ。ナガレが勝手に進もうとすると、ユキヒコもひよこのように後をついてきたからだ。ナガレはうざったい表情で、しっしっ、と追い払う。


「何でユキヒコまで来るんだよ!? あっちいけよ!!」

「そんなこと言って、サボる気でしょ」

「うぐっ」

「ついでに隙あらば中を覗き見るつもりでしょ」

「うぐぐ!!」


 ナガレが軽く舌打ちをする……って、本当にサボる気だったのか。

 ついでに僕たちが月光館に入ることは禁止されている。ナカス奪還作戦が成功した今、《アナト海峡》は一時的に封鎖され、《Plant hwyaden》の影響力は著しく低下している。

 だが、《Plant hwyaden》の中でも《ナインテイル自治領》に滞在している者は少なからずいる。《ナカスの街》のギルド会館で『アライアンス第三分室』が監視、牽制はしているそうだが、油断ならない状況が続いているのは確かだった。

 加えて、ここにいる者は行く末を左右する者ばかり。何かあっては一大事……というわけで、一応警備という形ではあるが、関係ない者は月光館に立ち入りを禁止している。

 もちろん使者の方にも外出は控えてもらっているらしく、この後も僕たちが顔を拝める機会はなさそうだ。

 だからなのか、ナガレは急に駄々をこね始める。


「だって、この中にいるのはあの有名な《ナインテイル九山巫女》もいるんだろう!? 見ない方がおかしいって!!」

「《九山巫女》って?」


 僕は背後で控えているミコトに聞く。ミコトは無表情のまま答えた。


「《ナインテイル九大商家》が抱える巫女集団ですよ。主に《ナインテイル自治領》の祭事を取り仕切る集団ですが……あなただって聞いたことがあるはずです。特定の人種には大人気である《大地人》の話」


 ああ、あれか……僕は頭の片隅に追いやっていた記憶を呼び起こす。

 確か、まだ『ゲーム時代(エルダー・テイル)』だった頃、夏の季節限定イベントで、とある《大地人》の水着姿に《冒険者》が興奮して失神したとか、しなかったとか。

 はっきり言えば、この《ナインテイル自治領》には女好きが萌える《大地人》が各方面に点在しているらしい。つまるところ、《冒険者》のアイドル的な存在である。

 僕はそっち方面は全く興味がなかったので、完全にスルーしていたのだが……なるほど、ナガレには興味津々だろう。


「しかし、よく《九山巫女》がいるってわかりましたね? 私も詳しくは教えてもらっていないのに」


 ミコトが軽く首を傾げる。

 そう、僕たちは形だけの警備と言うだけあって、使者の事を詳しく聞かされていない。ここにいる誰も、使者については知らないはずだ。なのにナガレは知っていた。すると、なぜか親指を立てて、ナガレは胸を張る。


「ふっ、かわい娘ちゃんの事なら全てお見通しさ」

「僕とナガレは玄関先にいたので、入るところを見ていたんですよ」


 なるほど……すぐさまユキヒコの解説が入ってくれて、僕も得心がいった。確かに、そっち方面に詳しいナガレなら、一目見れば、それが《九山巫女》かどうかわかるだろう。


「僕も言われて思い出したのですが、いろいろ面白い方がいるらしいですよ。オイドゥオン家の幼女キャラとか、ポンコツくのいちと呼ばれる巫女もいるとか」

「いや、ポンコツって……」


 かわいそうに……僕は呆れ気味にユキヒコの言葉に耳を傾ける。正直、不条理な二つ名をつけられた者にとってはそれはただの黒歴史にしかならない。《お触り禁止》の二つ名を授かった者として、さすがに同情せざるを得なかった。

 だが、それが意外と人気なのか、ちっちっちっ、と人差し指を振りながらナガレがぐいぐい突っ込んでくる。


「わかってないな、そこが萌えポイントじゃないか!」

「も、萌えポイント?」

「そう、ただでさえ『くのいち』は強ポジなのに、そこに『ポンコツ』と『ドM』という属性をつける。Sっけのある男にはこれまでにない属性の塊……いや、すでに天使!!」


 ごめん、何を言っているのかわからない……僕は目を細めて、神に祈るように天を仰ぐナガレに白い目を向ける。

 それはコール以外の女性陣も同じだったらしく、ナガレに冷たい視線を注ぐ。よかった……僕の感覚がおかしいわけではなかった。


「だが、俺の推しは、ウェルフォア家の芳花の巫女! 絶世の美貌をこの目で見れるチャンスはそうそう無い……というわけで、俺は巫女見物にいってきまーす」


 それでもくじけないのがナガレ。邪魔される前に一足先に……とその前にノエルに首筋を掴まれて、小動物のように浮き上がる。


「待ちなさい。そんなこと許すと思う」

「うるせぇ! 俺は何としてもかわい娘ちゃんを……ごふ」

「私もついていくわ。どうやら監視役がいるみたいだから」


 次の瞬間、みぞおちにノエルの拳が入り、ナガレがうめき声を上げる。僕は大きくため息を吐いた。

 そういうノエルの横で、尚も「いやだ、いやだ。俺はかわい娘ちゃんを見るんだ」と駄々をこねるナガレ。ウルルカはコールにくっついて、ミコトは我関せずの状況を貫いている。

 このぐだぐだ感……理由を話さずに言うこと聞かせるのはもう無理だろう。僕は仕方なく、パンパン、と手を叩いた。


「はいはい。このままじゃ、いつまで経っても始まらないのはわかった……とりあえず今日は好きなようにしていいから、配置に着いて。あと何か危なそうだから巫女見物は禁止」

「ええ――!!」


 涙目になるナガレは放っておいて、僕は月光館西側へと向かうノエル、ナガレを見送り。その後をユキヒコが追う中、いつの間にか東側へ向かうコールとウルルカに手を振った。

 そして、


「で、一緒にいたらウルルカさんと喧嘩でもした?」


 振り返ると、ただ一人残されたミコトだけが申し訳なさそうに目を背けた。


     ◇


「外が騒がしいみたいだが、例の子たちかい?」


 一方、僕たちの馬鹿騒ぎが大きかったのか、月光館内部の大広間では笑い声が響いていた。縦長のテーブルにリーフトゥルク家、リューゾ家、ウェルフォア家、カルファーニャ家、オオスミ家、イトウ家、オイドゥオン家……《ナインテイル自治領》を治める各家の使者が座っていた。その脇に『アライアンス第三分室』のホネストと疾風が控えている。

 しかし、その姿は普段着ではなく、全身鎧といった戦闘着だった。それだけでもホネストの真剣味は覗き見える。


「お恥ずかしい限りです」


 ホネストは丁寧に言葉を選びながら頭を下げる。すると、褐色のエルフが声を高らかに上げる。リューゾ家の席に座っている彼女は健康的な体つきをしており、満足そうに机の上に足をかけた。


「いやいや、責めているわけじゃないよ。むしろ、活きが良くていいじゃないか。若い奴はこうじゃなくちゃな」

「リューゾの、足を降ろせ。下品だ」


 その行為に気を立たせたのは、ドワーフの男だった。オイドゥオン家の席についている彼は言葉遣いはともかく、誰よりも正装に気を遣い、背筋を伸ばしていた。


「これは失敬。こちとら北部は《ウェストランデ》からの抗議の声と板挟みでな……そちらさんとは違って気を遣う余裕がないんだわ」

「……」


 ドワーフの男はただ押し黙る。気を咎めているわけではなく、あくまで挑発には乗らないという姿勢だったが。

 むしろ、慌てたのはカルファーニャ家の席についていたエルフだった。彼女は口をぱくぱくさせながら困ったように首を振っている。まるで、喧嘩はやめて、と言いたそうにだった。

 その様子を見て、リューゾ家のエルフはため息を吐いた。


「へいへーい、悪うございました。陸の奴は神経質で困んねぇ」


 ちぇ、と拗ねて足を降ろすリューゾ家のエルフ。それを機に場が静まったと判断したのか、ホネストが前に出た。


「では、今回の議題といきましょう」

「議題?」


 その言葉に反応したのは、リーフトゥルク家の席に座っている猫人族だった。耳をぴんと立て、興味を持ったように首を傾げる。


「《パン(にゃ)イル》では顔合わせだけって聞いてたけど、他ににゃにかあるのかにゃ?」

「はい。せっかくの機会ですから、次の展開について軽く話を詰めておきたいのです」


 次の展開……ホネストがその言葉を口にすると、皆の顔が引き締まる。先ほどの火花が散る空気はどこへやら……皆がホネストに視線を集中し、オオスミ家の席についていた童女がゆっくりと瞼を上げて腕を組む。


「して、その展開とは?」

「その前に、まずは皆々様に感謝を。特に《九山巫女》の隠し財産には助かりました。おかげで準備に余念無く、作戦を遂行することができました」


 ホネストは深々と頭を下げる。そして、


「しかし、本命は《Plant hwyaden》、および《神聖皇国ウェストランデ》を交渉の席に着かせること。そこで……《自由都市同盟イースタル》との海洋貿易の再開とその海路を含め、流通に必要な街道の治安強化を進言いたします」


 顔を上げたホネストは目をぎらぎらさせて口火を切った。



たくさんの誤字をみつけたのでいろいろ直しました。すみません。

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[気になる点] 誤字羅「ぎゃおーす!」(まだ居座る >ごめん、何を言っているのかわからない……僕は目を細めて、神に祈るように天を仰ぐナガレに白目を向ける。 白"い"目 白目と白い目は違うので。 >ウ…
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