第一章 5 弱者
「ナガレ!!」
ノエルこと私はとにかく目の前の景色に向かって蹴り上げた。《エアリアルレイブ》……敵を打ち上げる技を炸裂させる。すると、みぞおちに入る感覚が全身にかかる。
直後何もない景色から人影がうっすらと滲みだすように現れた。どうやら暗殺者らしい……隠密状態を駆使して、私たちの不意を突いた。
容姿は私と同じ狐の耳と尻尾。狐尾族だ。狐尾族は他の職業や種族の特技を一つだけ自由に所得できるという特典がついているため、油断はできない。ただの暗殺者でも自力で回復できたりと一癖も二癖もある種族なのだ。
「わりぃ。助かった」
それを理解していたのか、すぐさま武器である刀を抜いたナガレは、それこそ流れるのように一撃を放つ。だけど、振り上げた一振りは、奇襲してきた狐尾族に対して警戒にしかならなかった。掌に隠してあった短剣で容易にいなされて、狐尾族は一歩後ろに退く。
「敵だ! 戦闘準備!!」
途端にナガレは号令をかけた。どうやら本当に油断していたのは最初だけみたいだ。刀を構えなおしたナガレは目の前の狐尾族に集中しながらも私に指示を出す。
「目の前の奴は俺に任せろ! 周囲の索敵は任せる!!」
「わかった!」
大人数に単騎で突っ込むバカはいない。私は全神経を研ぎ澄ます。その時、先ほど聞いた微かな笑い声がまた鼓膜を揺さぶった。
「……そこっ!!」
私は薄闇色のコート《常夜のコート》から武器を取り出す。私の武器は《クナイ・朱雀》という投擲武器だ。それを私たちが出てきた茂みの反対側に投げると、キンッ、という振り払われた音が鳴り、次いで大きな高笑いが響いた。
「連携はそこそこだな……まぁ、それくらいはしてもらわねぇと面白くねぇんだが」
そうして茂みから出てきたのは全身金属鎧を身に着けた巨漢。それだけでも威圧感があるのに、左目には大層な傷が覗き見える。
私は油断せず、ステータスを呼び出した。
【名前:ナカルナード レベル:95 種族:狼牙族 職業:守護戦士 HP:15840 MP:7802】
「レベル九十五!!」
やばい……圧倒的に敵う相手ではない。この世界では《冒険者》が神殿で生き返ることができる。それでも無謀な戦いというものはある。
例えばレベル一がレベル百に攻撃力でも防御力でも敵わないのは常人でなくてもわかるだろう。大体、この《セルデシア》はゲーム《エルダーテイル》から派生した異世界だ……もしレベル一がレベル百に勝ったりしたら、ゲームバランスが崩れて、きっと《エルダーテイル》は栄えなかっただろうし、しいては《セルデシア》も発展しなかっただろう。
そうでなくても、私たちは今神殿を《Plant hwyaden》に押さえられている。生き返ることもできない状態だ。現時点で高レベル者と戦うのは避けたい。
「危険度、赤! すぐさま退避を!」
「させねぇよ」
その時だった。黒い鎖が足首に巻き付いた。技名はわからないが、何かの特技を使ったのは間違いない。
それを証明するかのように、突如として足が動かなくなった。拘束されたわけではない……ただ逃げなきゃいけないのがわかっているのに、本能が遠ざかる事を阻止する。
ナガレも同じだった。「くぅ……」と苦虫を噛みしめるかのように身体をナカルナードという全身鎧の男に言われるがまま向けた。だが、私と違ってその効果に身に覚えがあるかのか、口を開く。
「これは……敵襲心か!!」
ヘイト……その言葉を聞いて私は、はっ、と納得した。いつもナガレとセイの朝練を見ていたからわかる。普段はモンスターの注意を集め、戦いの前線を作る際に使われる技だが、どうやらその効果は人間にも適用されるらしい。注意を集めその場にいさせる……つまりは『拘束』として使う者もいるらしいのだ。
だからと言って、無用に乱発する輩はそうそういない。なぜなら、ヘイトによる拘束は同時に『自分も戦いを背負わされる』という事でもあるからだ。その意味では自分もまた拘束された状態に陥る。下手をしたら一対大勢というあられもない状況になって自滅しかねない。
――なのに、この人はそれを迷うごとなく行った。
余裕としか言いようがなかった。完全に見くびっている……『かかってこれるものならかかってこい』と言わんばかりだ。
そのうえで、ナカルナードは飄々と叫んだ。
「おーい! 《お触り禁止》さんよ! 出てこいよー! ちょっくら一緒にやり合おうぜ」
「……なっ、なぜセイの二つ名を!!」
私は一気に冷や汗が滝のように噴き出した。
いや、のまれては駄目だ。私は警戒を緩めず、背後に気を配った。すると一瞬だけ、カサカサ、と葉が揺れる。どうやらまだ相手の視界に入って来なかったおかげで、ヘイトを受けなかったらしい。どうやら全員道連れという最悪の状況は回避できたらしい。
だが、油断はできない。どこから仕入れたかわからないが、この建設機械じみた《冒険者》は私たちが《ナインテイル》からやってきたことを知っている。きっと、『アライアンス第三分室』の事だってわかっているはずだ。
だとしたら間違いなく幹部クラスの人……強敵だ。
下手をすればホネスト以上か……それがわかった瞬間、私は走った。先手必勝……少なくともこのままでは相手に優位を与えたまま戦闘になってしまう。そんな状態でセイと会わせるわけにはいかなかった。
いくらセイがパーティの中で強くても戦った途端に一方的に弄られてHPが【0】になる。そうしたら、セイは……、
――セイの顔はもう見れなくなる。
「そんなの嫌だ!!」
私はクナイを手に振りかざした。続けて軽やかに体勢を変え、軌道に不規則性を加える。それはまるで燕のように勢いよく流れ、いくつもの斬撃が放たれたように錯覚させる。
《ターニングスワロー》……私の大好きな技で空中にいる敵も捉えることができる技だ。さすがにこれで倒せるとは思っていないが、せめて時間稼ぎぐらいにはなるだろう。一瞬でも隙ができればセイたちは逃がせるかもしれない。
だけど、そんな私の考えをナガレが戒める。
「やめろ! 不用意に攻撃にするんじゃねぇ!!!!」
「えっ!?」
直後、ナカルナードは「へっ」と口端を吊り上げた……まるでナガレの発言を肯定するかのように。その証拠に、ナカルナードは避けなかった。《ターニングスワロー》の最中に私の手首を掴んだのだ。
なっ……私は声にならない悲鳴を上げる。規格外にもほどがある。刹那、私は自分の包み込む全空間が一気に凍り付くのを感じた。
時間が何十倍にも長く進み、その斬撃の中で微動だにせず、ナカルナードは全部受け切って尚まるで痛くもかゆくもないように私を見下した。その眼に私が小さく映り込まれた時……傷を背負う左目に仄かに映しだされた自分は小さく縮こまっていてかっこ悪かったことを、この先私は忘れないだろう。
「一匹、釣れた」
やられる……刹那、私は気圧されたのだ。そして、ナカルナードは私の手首を掴んでそのまま思いっきり地面に叩きつける。その時点で《ターニングスワロー》は強制終了された。
「……っ!?」
直に伝わる衝撃は歯を食いしばらなければ今すぐ気絶してしまいそうなものだった……そうか、確か狼牙族は攻撃力が高い種族だったな。《守護戦士》の防御力も加えれば、高い戦闘能力が備わっていることになる。
そうして、再び立ち上がるナカルナードはまるで私を馬の前にぶら下げた人参のように持ち上げて、もう一度挑発する。
「さてと……さすがに全員捕まえれば、こんな子供を使っているどこかの反勢力さんは諦めてくれるよな?」
「…………あ」
そういう事か……その時になって、私ははっと思い知る。
そうだ、私たちの目的は、待ち構えている《Plant hwyaden》を倒すことではない。人質の救助だ。そのために『まずは捕まらない』事が大前提に入っていた。ナガレの『不用意に攻撃するな』というのは『相手にチャンスを与えるな』という事だったのだ。
なのに私はそのことを忘れて、こうして自ら飛び込んでいる。ここに至る前にミコトがおさらいしてくれていたのに、何も理解できておらず、見事に鎌をかけられた。
「少し回りくどいんじゃないかのう?」
すると、ナカルナードの背後から新たに質問するかのごとく声がかかった。
「ナカルナード様ならもっと簡単に取り押さえられるはず……正直、遊んでおられるようにしか見えませぬな」
しばらくすると、茂みから白髭を生やしたおじいさんが現れる。みるからに年老けていて、腰も曲がったまま……だけど瞳の奥だけは爛々に光り輝かせていて少し気色悪い。そう、例えば好きなことに集中しすぎて夜通し作業していたような目だった。
そんな廃人のようなおじいさんは、さすがに年を重ねてきただけはあって、「ひっひっ」と見透かしたように髭を擦った。
「これは失敬。まずは挨拶と参りましょう。わしは《大魔導士》にて《魔法学者》、ジェレド=ガン……それとも《十席会議》第八席と申した方がわかりやすいですかな?」
私はその途端、目を丸くした……それじゃ、この人も!!
途端にナカルナードはうっとおしそうに……それこそ回りくどいように溜息をついて肩をすくめた。
「……まぁ、一応《十席会議》第五席に属している」
《十席会議》……ミコトから説明を受けたことがある。確か《Plant hwyaden》の中で一番格上の存在といっても差異がない存在だ。
そんな人たちが私たちの目の前に現れた。
「もしかして《アナト海峡》の封鎖を聞きつけて……!!」
だとしたら、話が違いすぎる……『アライアンス第三分室』のリーダーであるホネストは『できるだけ敵を引き付ける』と言わなかっただろうか?
すると、緊張を締めなおすために、その左目の鋭い眼光でナカルナードは言った。
「勘違いするなよ……俺は、あくまで個人的に殺り合いに来たんだ。今、巷で噂になっている《お触り禁止》にな」
……っ。一瞬にして息が詰まった。風が吹き、背筋にゾワッと撫ぜられた感触が神経を坂撫ぜる。
「大体な、《ナインテイル自治領》なんてもうどうでもいいんだよ。最初に攻めたのだって、《元老院》に取り入るため。物資も、技術も、しいては《冒険者》さえ、貰えるものは全部いただいた……今では何の価値もない」
きっと《大災害》後の《ナカスの街》侵攻のことを言っているんだ……私はいきり立った。
あの時の情景は思い出す度に腹が立つ。《Plant hwyaden》は、《大災害》後に《ナカス》を落として占領下に入れたわけだけど、その時に負けた事を気にもせず、大半の《冒険者》は《Plant hwyaden》にほいほいついて行ったのだ。
おかげで《Plant hwyaden》は勢力を拡大し、《ナカスの街》はよりいっそう寂しくなった。
「それでも強いるのは、反旗を翻されると面倒だからだ。今は《アキバ》とのごたごたもあるってのに分をわきまえろっての」
なっ……私はナカルナードのあまりの振る舞いに声を荒げた。勝手に侵攻してきたのはそっちなのに、無作法にも悪いのは私たちの方だと言ったのだ。
そんな私の心情も知らず、ナカルナードは語る。
もし、《ナカスの街》が反旗を翻した場合、少なくとも大規模戦闘編成は必要となる。そうなると膨大な《冒険者》の中から的確な人物を選び出し、各方面から物資を補充。移動のために乗り物も調達しなければならない。
これだけでも、いかに面倒か……ナカルナードは嫌そうに頭を掻いた。無知は罪……そう言わんばかりに。
実際、そういう状況になっているのだから無理もないのかもしれない……だが、さすがにジェレド=ガンというおじいさんも言葉が過ぎたと思ったのか、ナカルナードを戒める。
「ミズファ様ほどではありませんが、ナカルナード様も辛辣ですぞ」
「じゃあ、爺は『目的の少女』がいなくても来るのかよ?」
途端にジェレド=ガンはばつが悪い表情で黙りこけた。その後「……来ないでしょうな」と言い伏せられたことに悔しがりながらつぶやいた。それを聞いたナカルナードは勝ち誇ったように胸を張る。
「まぁ、『人間』なんてそんなものだ。だから……ん?」
その時だった。ナカルナードが一方的に会話を切って周囲を窺った。私も慎重に辺りを見回すが、特に何も変わったことはない。私はナカルナードに手首を掴まれたまま捉えられ、そのナカルナードの隣にはジェレド=ガンが。ナガレは私の背後……ナカルナードから離れた所で狐尾族の暗殺者と武器を構えながら、すっと様子を窺っている。
だけど、ナカルナードは「ちっ」と舌打ちをしてジェレド=ガンに指示を出す。
「爺、先に行け。今の会話で気配が二つ消えた」
私は面をくらう。それはつまり二人逃げた……いや、セイが二人を逃がしたという事でもある。ジェレド=ガンも「それはなんと」と感心したように頷いた。
「ふむ……これは油断しましたかな? 強者ゆえの傲りとはよくいうものじゃ」
そして、片手をあげるとナガレを牽制していた狐尾族の暗殺者が素早く跳びあがって退いた。どうやらあの暗殺者はジェレド=ガンに雇われた身らしい。それはまるで風のように消え去ると白髭の老人は軽く頭を下げた。
「それでは名残惜しいですが、《冒険者》は《冒険者》同士……あとは任せるとしましょう」
そうしてジェレド=ガンは両手を合わせると、何もない所から掌サイズの小さな動物を呼び出した。毛並みがそろった猫のようにも見えるが、その額には紅玉がついている。
刹那、ナガレが声を上げる。
「おまえ、《召喚術士》か!?」
私はその言葉で思い出す。そうだ、あの額に紅玉がついた生物はカーバンクル……《召喚術士》が使役できる召喚生物であり、幻獣だった。
けれど、カーバンクルを従えたジェレド=ガンは溜息を吐いて、首を横に振る。
「やれやれ、枠にとらわれすぎじゃ……わしは《大魔導士》にて《魔法学者》と言ったであろう」
けれど、そんな事お構いなしにナガレは刀を構えて突進してきた。きっと先ほどナカルナードが公言した『気配が二つ消えた』という言葉で、後を追わせてはいけないと判断したのだろう。
「おいおい、俺を無視するなよ」
だけど、ナガレの進行方向にナカルナードが立ちふさがった。その全身鎧の小手でいともたやすくナガレを元の位置まで振り払う。
その時、カーバンクルの額にある紅玉が眩く光り輝いた。その神々しい光に全員が目をつむり、次の瞬間……瞼を上げた時にはジェレド=ガンの姿は見る影もなくなっていた。きっと召喚魔術で自身ごと移動したのだ。
状況は最悪だ。この数分の間に事態は急変し、情報は錯綜し、戦闘は混戦と化そうとしている。
そんな戦況の中、むしろ楽しむかのようにナカルナードは微笑んだ。
「いいねぇ……何が起こるかわからないこの感じ、久しぶりだ」
「何がいいのよ!! 頭おかしいんじゃないの!!」
私は、つい勢いに任せて、洗いざらい思いの丈をぶちまけた。頭の中では、セイは大丈夫なのだろうか、逃げた二人というのは誰なのか……わからないことが多すぎて理性がついていけてない。
そもそも私はなぜこの場にいるのだろう? 私はただセイと……新しく加わったコールと一緒に楽しくゲームをしたかっただけだ。なのになぜこんなことに巻き込まれなければいけないのか?
「いい加減にしてよ! 戦争ごっこがしたいなら他所でやって!! 私たちを巻き込まないでよ!!」
もう振り回されるのは懲り懲りだ。私は掌をぎゅっと握って何とか拘束を解けないかもがく。
先ほどナカルナードは『《アキバ》とのごたごたもある』といった。《Plant hwyaden》は《アキバの街》にある組織《円卓会議》と仲が悪いと噂で聞いたことがあるが、最近その仲が険悪になっているのかもしれない。でもそんなの正直どうでもいい。
だけど、そんな私の感情を知ってか知らずか、嘲笑うかのようにカルナードは鼻で笑って腹を抱えた。
「……何だ。おまえ意外と可愛いじゃねぇか!」
その唐突な言葉に私は一気に顔を赤くした……ってお世辞一つで勝手に赤くなっているんじゃない!! これでは私が単純な女に見られるではないか!?
というか、目の前の男もいきなり何を言い出すんだ!? 戦闘狂のような発言をしていたかと思えば、こんなおちゃめなことを言うし……、
「ば、ば、ば、ば、バカにするのもいい加減にして!!」
私は足をばたつかせて何とか蹴りの一つでも入れられないかと頑張った。
それがまた、ナカルナードの笑いのツボに入ったのか、さらに高笑いして、笑いすぎて涙腺から出てきた涙を豪快に拭った。
「いや、まじで可愛いぜ。男のツボを押さえているというか……本当、『弱い』な、おまえ」
「……!」
だけど次の瞬間、瞼の奥に携えた冷えた眼光が覗き見えて、私は背筋を凍らせた。刹那、この高笑いは決してからかうためだけに向けられたものではないと察した。具体的に言えば彼の笑いには『嫌悪』が混じっている。
「戦争ごっこがしたけりゃ他所でやれ、か……じゃあ、他所でやれば自分は関係ありません、ってか?」
「そ、それは」
「まぁ、そんなのただ『弱い自分を隠すための言い訳』だよな」
「………………」
その時、図星を指されたような感覚が全身を襲った……自然と視線が逸れる。何だこれは? 言い返せない……言い返したくても何も出ない。
否。何も出ないわけではない……ただ自分の中で燻っていた何か黒いものが表に出てきそうで気持ち悪かった。
そして、その予想は的中する。
「いやぁ、本当に守ってやりたくなるよ。そんなに女々しいとさ……バカにしてんのはそっちだろう」
畳みかけるかのようにナカルナードは追い立てる。
「この世はサバイバル。強い奴が持っていくのは当たり前だろ……そんだけ努力している証拠だ。むしろ、弱い奴が出張っている方が問題あると思うんだがね……そこんとこどうなんだ? おまえは何かしたのか?」
その時、胸を打たれるかの如く、私は自分の中の黒いものを認識した。
ナカルナードは囁く。
「その口に似合う働きをしてんのか?」
その問いが答えだった。
足手まとい……いや、『実力不足』と言った方がいい。思えばバレンタインデーの騒動もそうだった。《アキヅキの街》ではセイの支えにもなっていなかった。
ああ、そうか……あの時、ミコトが私のことを『過保護』と罵ったのはこういう事だったんだ。私はやっと納得して呑み込んだ。セイのお姉ちゃんぶってきた割に、その陰に隠れていつも内々に済ましているのは自分の方だった。
――正真正銘の『弱者』……それが、私だった。
「ノエルをいじめるなぁぁああああ――――――!!!!」
はっ……次の瞬間、私は我に返って周りを見渡した。噂をすれば影……セイの声が耳元で響く。
気づけば、目の前のナカルナードは一瞬だけ身体を硬直させている。意表を突かれたわけではない。不自然な体制……強制的に行われたもの。間違いなく、セイの《シャドウバインド》の効果だった。
刹那、茂みから物凄い勢いで飛び出す人影があった。青い模様が散りばめられた軽鎧を着たその少年は、間違いなく《モビリティアタック》で加速したセイだった。
ノエルちゃんの苦悩の始まりです。




