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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
32/83

エピローグ


 あれがいわゆる『絶交』というものなのだろうか……あれから少しの時間が経った。瞼を開ければ朝日が差し込んでくる。カラカラと回る水車の音や水面に響くせせらぎ……クォーツ邸の玄関を開ければ、今日も《アキヅキの街》は変わりなく動いていた。それが誰にとっての皮肉だったのか……それは誰にもわからないほどに。

 僕ことセイは一度、瞼を閉じて状況を整理する。


 ――『絶対に許さない……いつか仕返ししてやる』


 グレイスからの絶交宣言を受けた直後、アミュレットはそう薄気味悪い伝言を残しながら、うなだれたようにクォーツ邸を去っていった。

 もうコールさえも瞳に映らないのか、コールの真横を通っても何もせず、振り向きもしなかった。その代わりに恨みつらみを連ねて、全員が警戒している中クォーツ邸の外に出て行った――その周りにまとうオーラはやはり黒々していたが、それでもどこか悲壮感を帯びていた気がする。

 それから敵性勢力がいなくなったクォーツ邸は、クォーツ嬢が取り仕切り、騒動の後片付けが始まった。

 その一歩がマルヴェス卿の帰還。僕の説教がよほど効いたのか、すっかり毒気をなくしたマルヴェス卿は、素直とは言えなくともクォーツ邸の周りに展開していた護衛を引かせ、《アキヅキの街》から撤退することに了承した。


 ――『あのアミュレットという娘のようになりたくないからな』


 その後、マルヴェス卿は話したくないと言わんばかりに、クォーツ邸の奥に閉じこもった。その背筋は頼りないながらもまっすぐしていて……何というか一周回って、落ち着ける場所に腰を下ろしていた感じだった。実は言葉足らずなだけで、いい人だったのかもしれない。

 そうしてミコトやコールもそれに手伝うことになり、現在、他のみんなは雑用として《アキヅキの街》を駆け回っている。

 そんな中で僕は、後片付けを抜け出してクォーツ邸の外にいる。やることがあったからだ……いや、うまくやれなかったから出てきたと言ってもいい。


「……」


 僕は一歩前に出る。その隣には灰色と鼠色のローブを着た女性、グレイスがいた。グレイスはずっと朝を迎えた《アキヅキの街》をただ黙って眺めている。

 そんな彼女が今何を思っているのか……それは僕にもわからない。だけどグレイスの『追放』という言葉には《伝承者》としてだけではなく、一個人としてアミュレットに報いたいという意味もあったはずだ。


 ――だけど、僕がグレイスを止めていたら、決断をせずに済んだのかな?


 そう思ったりもしたが結局は同じなのだろう。あのまま決断せずこじれていてもいい結末になったとは思えない。

 だから、あえて返事をしなかった。隣に立つグレイスの表情は赤い眼鏡に光が反射してよく読み取れない。


「……」

「……」


 すると、よく読み取れないのだが、すぐさまグレイスはバツが悪そうに口を開く。


「なぜ、何も言ってもらえないのですか?」

「なぜ、僕がグレイスに何か言わないといけないのですか?」


 途端にグレイスはむっとしてこちらを睨みつけた。さすがに《忘れられた古の牢獄》での会話を思い出したのだろう。『地下独房(セーフゾーン)』で話した時は立場が逆だっただけに、やり返された気分になったはずだ。ふふーん、どうだ……沈黙を沈黙で返される痛みを思い知っただろう。

 けれど、それはひとまず置いておくことにして……、


「グレイス自身はあんな結末でよかったのか?」


 僕は率直な質問を投げかけた。刹那、グレイスが豆鉄砲を食らったかのごとく肩を震わせる。だけど、あれがグレイスの答えでよかったのか……そういう問いを僕は目線で投げかけ続けた。ここで逃げてもどうしようもないのだ。

 そう、決断はなされた……その過去を変えることはもうできない。それならいっそのこと吐き出した方がいい。グレイスもそれを理解して、再度《アキヅキの街》を……いや、おそらく立ち去ったアミュレットの後姿を眺めながら頷いた。


「……もちろん後悔はあります。でも、アミュレットは私を追い越す事と《冒険者》しか見ていなかった。私もまた《供贄の一族》と古の盟約しか見ていなかった。だからあの結末は仕方なかった」


 要は『自業自得』ですね……そう自分を罵るグレイス。だが、その表情はどこかふっきれたように微笑んで語った。


「しかし、それで気が付きました……もともと私は《伝承者》など関係なく《供贄の一族》を守りたかったのだと。だから必死に目指して、だからアミュレットとも競い合って……だから友達がいなくなって悲しいのだと」


 グレイスは微笑みながら呟いた。


「つらいことも、悲しいことも、苛立ったことも、全ては『家』があるからできたのに……なのに、その家を守ることを忘れて、私は盟約に縛られていた」


 忘れていったのはいつからでしょう……そう言ったグレイスの瞳は、朝日を帯びていたせいか、水辺のようにきらきらしていた。もう忘れない……そういう気風が自然と貫録を物語っていく。

 僕はその姿に――グレイスの泣き顔に見とれて言葉が出なくなる。僕は自分の事をこんなに想ってくれる友を作ったことはない。いかに僕が普段、表面上の付き合いしかしていなかったのか思い知らされる。

 とその瞬間、グレイスは瞼を擦っていつもの無愛想な表情に戻った。

 そして、


「セイ様、おそらくアミュレットがこの機に乗じて指揮系統を手に入れようとしていたはずです。これから私は混乱しているであろう《供贄の一族》のもとへ帰り、連携の強化に努めようと思います。ですから」

「うん……ここで一旦お別れだね」


 僕は言葉を引き継ぐように答えた。

 グレイスは頷き返す。そう、振り返った後には進まなければならない。グレイスにとってはこれからが始まり。僕たちとは違うグレイスだけの冒険を――『《供贄の一族》を守っていく』という道を踏みはじめなければならないのだ。

 だから僕たちは別れなければならない。きちんとするためにそれぞれ歩きださなければならない。


「コールのことはまかせて。守り通すから」


 グレイスはまた頷いた。そして一歩前に踏み出す。

 さらに一歩踏み出して一瞬だけ振り返り、また一歩。それから、後ろ髪を引かれグレイスは立ち止まる。

 そんな後姿に僕はエールをかけた。


「また会おうな!!」


 途端にグレイスは目を丸くする。けれど僕にとって、グレイスはもう友達であり、先頭に立って導くという共通点を持ったライバルだった。

 そのまるで友達のような気さくな声に拍子抜けされて、グレイスはすぐさま前を向いて歩き出す……今度は振り返ることはなく。

 その後姿を見て、僕は願わずにはいられなかった。今度こそ《供贄の一族》がグレイスにとっての居場所になれたらいいな、と切望せずにはいられなかった。


     ◇


 そうして、さらに三日が経った。マルヴェス卿をきちんと見送った僕たちは、そのまま《アキヅキの街》を出ることになった。

 なぜかというとマルヴェス卿の護衛《冒険者》が捜索と表して暴れたせいで、街の住民の評判が急暴落しているのだ。そのとばっちりが僕たちにも来て、街を歩いていると冷ややかな目線を送られてしまう……まぁ、僕が《大地人》側でも『普通に迷惑ごとを持ち込むな』と言いたくなるだろうから当たり前といえば当たり前だ。

 そこで僕は仲間と相談して、これ以上溝を広げないためにクォーツ嬢に説得されたという形で……つまりは『《大地人》のいう通りにした』ということにして、さっさと《アライアンス第三分室》に帰ることにした。

 陽の光を浴びて川の水面がキラキラと光りだす頃、クォーツ嬢にお願いして馬車を用意してもらい、僕たちは荷物を運びこむ。たまに荷台から、「ナガレ。何ですか、この花束の量は?」「あー、それは土産だ。帰ったら《第三分室》にいるかわい娘ちゃんにあげるんだ!!」と雑談が聞こえるが、あえて無視した。

 関わると余計にユキヒコさんの眉間に皺が寄りそうで怖い。実際、今も頭を悩ませて溜息を吐いていた……本当にユキヒコは地味に苦労性だ。

 そんな中、僕は馬車の先頭に出て席に腰をかける。すると、意外としっくり身体に張り付いて驚いた。思っていた以上に小さいながらも造りがしっかりした馬車だ……。


「座り心地はどうですか?」


 直後、見送りに来ていたストールを羽織った女性が……クォーツ嬢が慌てて確認するように言った。


「もう少し大きな馬車を用意できればよかったのですが……」

「いえ! むしろ立派ですし、食材とかも融通してもらってありがたいくらいです。宿屋に置いていた馬車は……その、壊されていましたから」


 そう言いながら僕はその情景を思い出して肩を落とす。そう、今回の騒動がひと段落ついて久々に宿屋に帰ってみれば、僕たちの乗りこなしてきた馬車は見るも無残な状態になっていた。

 おそらく僕たちが《忘れられた古の牢獄》を攻略している際に捜索の手が回されただろう。それでも隅から隅まで荒らされて、床板まで剝がされていたのにはびっくりした。

 さすがに貴重品は各々持っていたからよかったが、それでも愛着がわいた我が家がひっくり返されるのは気分のいいものではない……く、できることならマルヴェス卿に請求書を送りつけたい。

 だが、今はぐっとこらえる。何はともあれ帰りの途に就かなければならない……そう言い聞かせながら、僕は静かに湧き上がる苛立ちを喉の奥へと押し込んだ。

 そんな時だった。僕と同じようにクォーツ嬢も何か言いたげにしながらそれを呑み込んで顔を伏せていた。


「あの……クォーツ嬢はそんなにかしこまらなくてもいいですよ」


 だから僕は言った。途端にクォーツ嬢は「え?」と首をかしげる。


「この馬車を見ればわかります。こんな立派な物を用意してくれるなんて、この街の人たちに愛されていないとできない行為だ」


 たとえ《アキヅキの街》を治めていたから……恩があったからだとしても、その要望に応え、加えて食材の手配までしてくれる者はそうそういない。

 そのことを伝えるとクォーツ嬢は頬を赤くして「は、はい!!」と恥ずかしそうに頷いた。すると、すごく嬉しいのか、その恥ずかしそうな表情がそのまま太陽みたいな満面の笑みに切り替わる。

 なるほど、ファンクラブの一つや二つできるのも納得がいく。見ているこっちが元気になるほどだ。確かにこの笑顔を守れるのなら何でもできそうな気になってくる。


「女ったらし……」


 ぐふっ……そんなことを思っていたせいか、不意打ちの如く背後から陰険な声が降りかかった。振り返れば、ノエルが荷台から赤い髪と狐耳を揺らして顔をのぞかせている。


「の、ノエルさん。そ、そのお言葉はどこから……まさかミコトに」

「それよりも。セイ、大事な『おつかい』の方は忘れてない?」

「話をそらさない……って、おつかい??」


 ん、何かあったかな? すると、直後、ノエルが僕の耳を引っ張る。


「痛っっ……だから耳を引っ張るなって……あ……」


 突如、僕は慌てて懐をまさぐる。

 そう、思い出した。僕たちはこの手紙を渡すために《アキヅキの街》まで旅をしに来たのだ。今回の騒動でうやむやになってしまった節があり、ここ三日も慌ただしさで思い出すどころではなかった。

 だけど、最後の最後で思い出せてよかった。僕は一枚の封筒を取り出す。《アライアンス第三分室》のリーダー、ホネストがクォーツ嬢に宛てて書いた手紙だ。少し皺が寄ってくしゃくしゃになってしまったが、僕はその経緯を話して改めてその手紙をクォーツ嬢に渡す。

 すると、クォーツ嬢はすぐさま返事をしなければと封を切って内容を確認した。

 けれど、それもほんの数秒。それからは苦笑いして、その手紙を送り返してくる。


「……どうやらこれはあなたたちに宛てたもののようです」

「え?」


 その言葉に僕は首をかしげて、差し出された手紙を覗き見た。ノエルも背後から拝見する。


 ――ええっと、なになに……拝啓、お触り禁止へ。


 そして、その文面に続く文字を一つ一つ読み上げると、僕の頭の中はかき乱されたように熱いものが渦巻いた。それは溶岩のようで一気に温度が増して沸騰する。


「……………あの悪魔の笑みめぇぇぇえええええええ!!!!!!」


 そして、ついに沸点に達して、クォーツ嬢がびっくりする中、僕はあまりの怒りでその手紙を粉々に破り捨てた。


     ◇


 それから僕たちは定刻通りに《アキヅキの街》を出発した。今は無事に《カゲトモ街道》に乗り、安定した走行を続けている。

 とはいえ、馬車だとどうしても不便なところは出てくる。車より揺れるし、何より食料などの積み荷が場所を取るので狭い。そして、何より荷台を引いてくれる馬の手綱を持っていなくてはならない。

 そして、今日その手綱を引いていたのは僕だった。その様子はとてもいいものとはいえず、文句を並べて何かを言っている。その脳裏ではまだ手紙の文面とホネストがくすっと笑っている情景が浮かび上がっていた。


 ――『拝啓、お触り禁止へ。成長できましたか?』


 まんまと騙された……いや、正確にはマルヴェス卿を《アキヅキの街》から追い出すことが本当の『おつかい』だったということか。僕は手紙の文面を鑑みて推測する。

 おそらくホネストはマルヴェス卿の件を想定済みで僕たちを送り出した。加えて、僕たちの力量を測るために、それを隠して別の用件に見立てた……つまりは僕たちは良いように掌で転がされたというわけだ。


「アーーー!!!! 思い出すだけで腹が立つ!!」


 もう眼鏡嫌だ。今後は一切ホネストの『おつかい』は受け付けないことにしよう……そう心に決めて僕は再びぶつぶつと陰口をたたく。今思えば、行きの際にナガレに言われた『いっそのこと開けちまおうぜ!!』という言葉に乗っておくべきだった。そうすれば最低、心の整理ぐらいはつけられたというのに……。

 すると、荷台から乗り出して穏やかな空気を吸っていたノエルが呆れたように嫌味を言う。


「もー、別にうまく済んだからいいでしょ……セイだってミコトと仲良くなれて嬉しいみたいだし」

「なっ!?」


 僕は慌てて振り返る……今、その言葉は洒落にならない。クォーツ嬢と話していた際にも思ったが、それではまるで僕が本物の女ったらしみたいではないか!?

 だけどノエルの目が細まる……その威圧感は大規模戦闘(レイド)並み。こ、これが疑いの眼というやつなのだろうか? しかし、僕もこのままにレッテルを張られておくわけにはいかない。これは本腰を入れて誤解を解くべきだろう。


「あのな……この際、言っておくけど僕は女ったらしでもないし、口説いたりもしてな」

「セイさん。少しいいですか?」


 だけど、あまり時間もたたずにまた背後から声をかけられ、僕とノエルは視線を向けた。

 そこに現れたのはチェック柄のチュニック……コールだった。そのコールが口端をぎゅっと引き締めて立ち尽くしている。頬は上がっていたが、どう見てもそれは空元気といった表情だった。

 直後、ノエルの表情が一転する。


「コール、どうしたの? まさかあのエロ武者が変な事を!?」

「あ、えっと。そうではなく……」

「待ってて! 今、ぶっ飛ばしてくる!!」

「ノエル」


 僕はそんなノエルをドスの利いた声で制止させた。そして、少し席を詰めると隣に座るようコールに指示する。一にも二にも落ち着かせること……それを理解したのか、ノエルはそれから何も言わず、再び荷台の上にしゃがみこんで様子を窺った。

 そうしてコールが隣に座ると馬の蹄の音が妙に耳にまとわりついた。これが静寂というものなのだろう……コールは何も言わずただ考えに耽る。自分でもどう言っていいのかわからず困っている、といった雰囲気だ。

 だから、僕はそっと背中を押した。


「……もしかしてアミュレットさんが追放されたのは自分のせいだと気にしてる?」


 刹那、ノエルも気づいたようで「あ……」と声を漏らす。そう、実のところコールの言いたいことは予想がついていた。

 今回の騒動を引き起こしたアミュレットはコールのお世話係だった人だ。その人は歪んでしまった、《供贄の一族》を追われてしまった……それもこれも全ての原因は自分が半月前に家出したからではないのか?

 コール自身が自責の念に囚われていてもおかしくない。

 加えて、個人的な悲しみもあるだろう。アミュレットとコールは、同期だったというグレイスと同等、もしくはそれ以上の交流は持っていたはずだ。そんな『お姉さん』と言い換えてもいい人にコールは《供贄の巫女》と呼ばれてしまった。

 それが悲しくないわけがない……それはつまり『コールをコールとして見ていない』という証明でもあったのだから。


「コールは気にしなくてもいいの!! あの結果は自業自得なんだから!!」


 途端にノエルは荷台から上半身を乗り出して割り込んだ。けれど、コールは黙ったままだ。そして僕も視線を外した。


 ――自業自得か……。


 僕は目の前の街道を眺めた。馬車が通るその道は舗装され、雑草や石は綺麗に除外されている。滑らかな平面に馬も歩きやすそうだった。

 だけど、一歩踏み外せば雑草が生い茂った荒地だ。その境界線が実に曖昧なものか……柵一つなく、どこからどこまでの幅が道かなんて決められていない。入れば地面はごつごつしていて馬や馬車は足を取られることは間違いないだろう。再び道に乗り上げるのは一苦労だ。

 だからこそ道があり、踏み外せば自業自得と言われて当然なのだが、僕はとてもその道を一度も踏み間違えずに進む自信などなかった。だから責任を感じずにはいられない気持ちもわかる。

 そんなことを思っていたせいか、陽気なノエルまでもが急激に温度を失くして肩身を狭くした。


「なによ、セイまでしんみりしちゃって……大丈夫よ!! これまで通りにしていればこれからも何とかなるわ!!」

「いいえ、やっぱりそれでは駄目なんです」


 すると、突如コールが顔を上げて声を張り上げる。まるでノエルの言葉で心の整理がついたようだった。


「私、まだ甘えていました。皆さんと旅をして、楽しくて……たぶん心のどこかでは『ずっとこのままでいい』って思っていたんです。だけど、グレイスとアミュレットを見ていて感じました……『このままでは駄目だ』って」

「コール……」

「セイさん! 私、『きちんとしたい』です!! きちんと《供贄の一族》を抜けた意味を探したい……自分のできることを探したい!」


 途端に僕とノエルは驚いて顔を見合わせた。まさかたった半月でコールが先を見据えて物事を言えるようになるなんて思いもしなかったのだ。

 いや、むしろ僕たちが遅かっただけなのかもしれない。『きちんとしたい』……それは僕たちにも言えることなのだから。


「そうだな。僕もきちんとしたいな」


 思えば、今回の騒動は僕たちにそれぞれ問題を提示しているようなものだった。

 僕はこの《セルデシア》を取り巻く諸問題と自分自身の在り方について。

 コールは自分が《供贄の巫女》であるという変え難い事実について。

 そして、ノエルはノエルで心当たりがあったのか、思いつめたように顔を逸らした。


「きちんと……か。そうしたら何か変わるのかな?」


 ノエルの一言に僕は「わからない」とだけ答えた。

 だけど、僕は背筋を伸ばしたままこの世界《セルデシア》を楽しみたい……この先にあるものを楽しみ尽くしたい。

 僕は自然と街道の先へと手を伸ばす。けれどその手は空を切った。今はまだその時ではない……そのためにもまずは《ナカスの街》を取り戻そう。そうして初めて僕たちは《トオノミ地方》で『冒険』を始めることができるのだから。

 僕たちはそれぞれ新たな決意と共に頷いた。


「で、当然、俺たちも混ぜてくれるんだよな?」


 すると突然、ナガレがノエルの背後から迫り出してきた。途端にノエルが「邪魔!」とナガレをぶっ飛ばし、ユキヒコの必要以上な「ごめんなさい!」が連呼される。その脇ではミコトとウルルカが呆れて肩をすくめた……その時ミコトと視線が合い、ミコトが僕に一歩近づいて告げる。


「まさかのけ者になんてしませんよね?」


 一気に冷めた空気が温かみを戻す。

 そうだ、不安がる必要はない……僕にはもう同じ道を歩く心強い仲間がいる。僕は満面の笑みで肯定した。


「ああ……行こう皆で! 楽しもう、この世界を!!」

 

 次なる戦いの場は、差し詰め《神聖皇国ウェストランデ》にある《キョウの都》だろうか?

 何はともあれ、馬車は滑車を軋ませ、道なりを進む。

 締まらないことにノエルとナガレが暴れすぎたせいで馬車が動かなくなったりしたのだが、それでも僕は自慢の仲間たちと一緒に《カゲトモ街道》を下っていったのだった。



 終わりました……今度こそ本当に終わりました。


 ということでログホラ二次小説『お触り禁止と供贄の巫女』の第二幕はどうでしたでしょうか?

 全体としては(パーティを組んで)→(喧嘩して)→(反省して)→(再結成する)という構成でしたが、楽しんでいただければ幸いです。


 何しろ今回は前回と違って章を区切って投稿しました。そのせいで読みにくかったりした人もいたかもしれません。

 ですが、個人的に言えば「1シーン5000字前後が読み手にも書き手にもちょうどいいかも?」と思ったので今度からはそうしようと思います。


 さて、話は戻りますが、本当に話が終われてよかったです。当初、プロットではノエルとミコトが喧嘩をしてセイがフォローに入るというつもりだったのに、それが何を誤ったかセイさんが喧嘩して、助けられるはずだったグレイスさんがフォローに回るという超展開に発展し、正直焦りました。どうにか伏線の回収ができてよかったです。


 とはいえ(喧嘩するシーンとか)反省点も多かったです。同時に1年近くやっていたことに驚き、「もう少し執筆スピードが上がればいいのに」とも思いました……そして、気力は限界です。


 ということでまた数カ月はお休みタイムに入ります。それにともない恒例(?)のサブタイを発表しようと思います。


 次回のサブタイは『ナカス奪還作戦』……内容は例の如く、二幕の一章で言っていた作戦が実行されます。

 基本的には戦闘多めにしようとは思いますが、正直、確証はありません!!(今回のような変更があるかもしれませんので)

 それに加えて、今回はミコトとグレイスに焦点がいったように次回はナガレとユキヒコに焦点を当てようと思います。長い目でいられる人はその内容を楽しみにしていただければ幸いです。


 では最後に、たくさんの方にお読みいただいたことありがたく思っております!


(この頃、アクセス数に「!?」と驚きを隠せない)桜でした。



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