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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第四章 4 剣を取れ


「《タイガーエコーフィスト》!!」

「《兜割り》!!」


 そうして、私、コールはセイさんに連れられて、クォーツ邸の一角――大広間まで足を運んだ。すると、そこには何人もの《冒険者》が転がっていて、その中央には鎧武者の《冒険者》と虎に模した《冒険者》が互いに背中を預けながら戦っていた。それぞれ一人ずつなぎ倒し、吹き飛ばしていく。


「これで最後の一人!!」


 そして、最後の一人を後方に飛ばすと虎に模した《冒険者》が「にゃはは」と笑う……間違いなくウルルカさんだった。


「ウルルカさん!!」


 無事でいてくれた……私は嬉しさのあまり、二階から駆け下りたその足でそのまま走り出した。けれどその足音に一番最初に気づいたのは、その隣で奮戦していた鎧武者の《冒険者》ナガレさんだった。

 野生並みの勘で一瞬で振り返り、ひざを折りながら詰め寄った。直後、懐からどこからか積んできた一輪の花を差し出す。


「おおぉ!! かわい娘ちゃんの声がすると思えば、愛しのコール姫ではないですか、ご無事でなりより」

「え? あ、はい……」


 こ、コール姫……やっぱりナガレさんのいう事はわからない。だけど、励ましているのはわかって花だけは受け取った。すると、すごく顔を緩めてほのぼのと見つめてくる。


「いい。やっぱりコールちゃんは癒しだわ……ぐわっ!!」


 だけど直後、後方から緑色のローブを着た《冒険者》が「また、あなたという人は……」とナガレさんの襟をつかんで引っ張った。ユキヒコさんだ。遠目には「く、離せ!! 俺はコールちゃんとお話しするんだ!!」「はいはい。というか、いつの間にあんな花を……抜かりないんだから」と口論する姿が見える。本気ではないだろうが、大丈夫なのだろうか。


「あれは気にしないでいいにゃー」


 そして、最後にウルルカさんは近寄って声をかけてくれた。ウルルカさんは相変わらずニコニコした表情で「無事でよかったにゃー」と肩をぽんぽんと叩いてくれる。すると急に涙腺が耐えられなくなって涙があふれた。


「良かった……皆さん無事でよかった」


 ふいに肩に乗っかる温かみが、崩れる時があるのだろうかと思ったのだ。だが、その時ゆっくりと頭の上に新たな温もりを感じた。顔を上げればそこには巫女姿の《冒険者》が後方から戻ってきていた。


「泣くのは早いですよ。コールさん」

「ミコトさん……」


 途端にミコトさんは巫女装束からハンカチを取り出して涙を拭ってくれる。そして、「よしっ!!」と満足そうに微笑んでくれた。姉がいればこんな感じだったのだろうか……。

 だけど、セイさんが追いついたことにより、ミコトさんの表情がまた元に戻る……いや、ミコトさんだけじゃない。全員が緊張の糸が入ったように気を引き締めはじめた。


「ミコト、首尾は?」

「はい、問題ありません。『クォーツ邸内は』全部排除しました」


 セイさんが含みのある笑顔を向ける。首尾とはいったい何なのだろう……その時、私は首を傾げた。どこかセイさんとミコトさんの会話は言葉足らずなのにいくつもの意味が乗っているようで、それを理解するには私はまだまだ経験不足だと察した。

 だけど、その時この場にいるはずの一人が足りないことに気づいて周りを見回した。いつもセイさんの隣にいるはずの黒いコートを着た赤髪の《冒険者》……ノエルさんがいないのだ。


「あ、あの!! ノエルさんは……!!」


 私は慌てて縋りつくように問うた……もしかして何か重傷を受けてしまったのだろうか。

 だけど、ミコトさんは首を横に振る。セイさんも顔を蒼白にさせた私を気遣ってにっこり笑った……ただ「心配しなくてもいいよ……」とだけ言って。その瞳に嘘偽りの色はなく、私はただ手を離す。

 そんなセイさんは、一回りも、二回りも大きくなっていた。きっとここまで来るのに様々な試練を乗り越えてきのただろう。実際に成長しているわけではないが、前よりも意思のこもったしっかりとしたものになっていた。

 気づいてみれば、セイさんとみなさんとの雰囲気も前よりも確かなものになっていた……これは『信頼』だろうか。


「それよりも僕たちから離れないでね」

「え?」


 その時だった。セイさんに囁かれて私は我に返る。その瞬間、セイさんの背後で何かが光った。途端に文様が描かれ、セイさんを守るように陣を作る。


 ――知っている。これは《冒険者》が使う『障壁』という守護の魔法だ。


 そうだ、ここは《大地人》の街。《冒険者》でも普通に特技を使える。

 でも、それは逆に他の誰かも明らかな攻撃を仕掛けることができるということでもあった。


「困りますな。勝手に外に出られるのは」


 刹那、その方向から矢が飛んで障壁にはじかれる。

 次の瞬間、セイさんが振り返れば、私たちが通ってきた屋敷の奥から高級な布はぎ合わせたような服と白塗りの顔を覗かせていた。間違いない……その忘れたくても忘れられない特徴的な《大地人》は私たちを罠にはめたマルヴェス卿だった。

 護衛に《冒険者》を三人従わせていたマルヴェス卿は、そのうち一人にボウガンを構えさせ、あとの二人は重厚な鎧を被って剣を抜いていた。その中で守られながらマルヴェス卿は余裕の表情で大広間に一歩だけ歩み入る。


「いや、いなくなった時は驚きました。ですが、聞けば《アキヅキの街》に抜け道があったとか。そうだったな、アミュレット」

「……はい。その通りでございます」


 そして、その後ろから、さらにねっとりとまとわりつく声が私の首筋を撫でた。私はすぐにそれが誰の声か見当がついた。まるで魔女のようにフードを被り灰と鼠色の服をまとう《供贄の一族》……半月前まで私のお世話役をしていたアミュレットだ。

 直後、それを裏付けるかのごとく、アミュレットは奥からストールを羽織った女性……この《アキヅキの街》を治めるクォーツ嬢を押し出しながらマルヴェス卿の後方に姿を現した。


「この者が手引きしたことは確認済みです。まさか牢屋にも入り口があったとは思いませんでしたが……」

「ふん。やはりこの地の民は鼻につくな……身の程を知らない」

「……」


 クォーツ嬢はただ黙る。こちらにも目を合わせられないのか、俯いていた。その光景はまるで見えない圧力で押さえつけられているようで……もう黙ってみてもいられない。


「アミュレット、もうやめて!! こんなことしても何にもならない!!」

「いいえ、コール様の心を繋ぎとめていられます」


 私は叫ぶ……一縷の望みをかけて。

 だけど、アミュレットはそれを拒否した……そして、恐怖すら感じる声で呟いた。本当にどうしたというのだろうか……アミュレットはその言葉を満面の笑みで言い切ったのだ。常識外れなだけにアミュレットの笑顔は狂気に見えた。

 なのに、マルヴェス卿は気づいているのだろうか……アミュレットの異常性に。マルヴェス卿は火ぶたを切るように告げる。


「さて、それでは猶予もありましたし、答えを聞かせてくれますかな? わたしの配下になるか……それとも外で待機させている《冒険者》たちに倒されるか」

「――っ」


 瞬間、私は振り返った。大広間の先には玄関がある。だが、その重いドアが揺れ、向こうから金属音が漏れる。

 そう、外はもうマルヴェス卿に雇われた《冒険者》で包囲されていた。最初から誘いこまれていたのだ。


「このアミュレットがそう簡単にコール様を無防備にさらすとお思いですか?」


 そして、それはアミュレットの案だという事を私は知る。つまりは第三の選択……『私が一緒に行けば見逃してあげる』と告げているも同然だった。そう、アミュレットはまだ私を『幽閉(愛玩人形)』にすることを諦めていなかった。ゆっくり手を伸ばして優しく囁く。


「さぁ、コール様、共に参りましょう……《神聖皇国ウェストランデ》へ。大丈夫です。アミュレットが無下にはさせませんから」


 私は固唾をのんだ。このままではセイさんたちが外にいる《冒険者》の押収を食らう。いくらセイさんたちが強くても……倒される。


 ――そんなのは嫌だ!!


 それなら今は言う通りにして機会を窺えば……。


「断る!!」


 だけどその刹那、思考を吹き飛ばすような言葉が大広間を駆け抜けた。私がちょうど足を前に運ぼうとしたその瞬間、掌で制止させてセイさんが叫んだのだ。

 とっさに顔を上げれば、危機的状況のはずなのにセイさんは楽しそうに微笑んでいた。それだけではなく踏ん反り返って胸を張る。

 さすがのマルヴェス卿も呆けて口を開けた。胸を張ったセイさんはまるで子供の見栄のよう……なのに、何故か天さえも味方につけたかのごとく、不思議と不安にはならなかった。気づけば私も笑っていた。


「……セイさんらしいです」


 だけど、アミュレットには犬が吠えているようにしか聞こえなかったのか、額に青筋を浮かべながら口走る。


「あなたには聞いていないのですが……」

「でも、嫌だ。僕はまだコールに何も恩を返せていない……だからまだいてくれないと困るんだ」

「恩返し……」


 むしろ、恩をもらっているのは私の方だ。私はいつも助けられてばかりで何もできていない……そう思いながら私は嬉しくなってオウム返しのように口ずさんだ。

 けれど、アミュレットは『ふざけるないで』と言わんばかりに笑い飛ばす。


「恩!? 《冒険者》が《大地人》に恩を感じるというのですか!!」

「ああ、そうだ。だけど『《大地人》だから』じゃない……『仲間(パーティ)だから』僕は恩を感じるし、恩を返したいと思うんだ!! だから僕は」

「ええい!! いい加減にしないか!!!!」


 そして、その間に割って入るように呆けていたはずのマルヴェス卿が、ただでさえ真っ白い顔を赤く染めて地団太を踏んだ。


「黙って聞いていれば、今はわたしが配下になるかどうか聞いておるというのに、誰もかれもわたしを空気みたいに扱いおって……そういうのが一番腹が立つ!! もうよい!! おまえたちなどこちらから不要だ!! 外の者を突入させろ!! あの娘さえいればいい!!」


 いけない……とっさに私は声を上げようとした。だが、時は遅く、側で護衛していた《冒険者》の一人が合図の言葉を口にする。

 途端に、ギィと音が鳴りクォーツ邸の重い外へと通じる扉が開く……はみ出した景色には剣や斧、弓や杖、様々な武器を構えた《冒険者》がのぞき見える。このままではクォーツ邸に大勢 の《冒険者》を招き入れる結果になる……。


「いらっしゃーい」


 だけど、ふざけるようなナガレさんの声と共に、それは杞憂となった。その瞬間、私は言葉を失った……クォーツ邸の重い外壁への扉が開いた後、突如、扉ごと真っ二つに割れたのだ。

 一歩遅れて衝撃と轟音が《冒険者》を襲う。空気が断ち切られ、《冒険者》は吹き飛ばされていく。

 これが《冒険者》……私はそれを再度認識させられる。なぜならそれを起こしたのは間違いなくナガレさんだったのだ。扉が開く直前、ナガレさんが脇に差した刀を抜いただけ、いつの間にかそれは扉をたたき割っていた。

 そして、振り上げた刀を元の鞘に戻すナガレさんは、気づけば刀を脇に差して玄関付近で陣を張っていた。あんなに何を考えているのかわからない様なのに、それはまるで大きな刃が居座っているようで、そのすさまじさをマルヴェス卿や護衛していた《冒険者》たちに示した。


「な、なにをしておる……!! は、速くしないか!!」

「し、しかし……」

「ええい! 一気に突入させれば、抜けられる者もおろう!!」


 途端に足をガクガク震わせながらマルヴェス卿は命令する。だけど、その命令をミコトさんはばっさりと切り捨てた。


「非効率すぎますね……確かに《居合いの構え》は振りが大きい分、隙も大きい。崩されるのは目に見えていますが……」

「ああ……あと『数人は』必ず持っていく」


 直後、玄関口から人影が消えていく。『死にたい奴からやってこいよ』と言わんばかりに死の宣告され、空気が凪いだ。誰だって死にたくて入ってこようとする者はいない……突如としてマルヴェス卿が必死に怒鳴りつけるが、それでも決死の覚悟で突入するものはいなかった。


「まぁ、入ってきても障壁で守ればいいだけの話ですが……」


 途端にミコトが補足する……そうか、だから最初にクォーツ邸内の《冒険者》を排除したんだ。出入り口をふさげば援軍は来られない……つまりは、手出しされないんだ。

 ザクリ……そして、セイさんはわざと顔を伏せて、足音を鳴らしながら一歩足を進ませる。と同時に背中から括りつけていた二本の剣を抜き出した。

 一つは私を助けた際にドワーフ族の《冒険者》から取り返した《迅速豪剣》……もう一つはそれまで使っていた剣《シミター》。

 途端にマルヴェス卿は「ひっ!?」と声を漏らして、足をすくませる。


「も、もうよい!! わたしをまもれ……速く攻撃するのだ!!」


 そして、護衛の《冒険者》に指示を出す。だけど、護衛の《冒険者》は動かなかった……いや、動けなかったのだろう。重厚な鎧を縛りつけるように花瓶から伸びた蔓が足に絡まりつく。

 すると、とっさにボウガンを構えた《冒険者》がユキヒコさんに的を合わせる。つまりはこれはユキヒコさんが起こしている魔法……とっさに私は叫んだ。


「危ない!! ユキヒコさ……」


 けれど、その前に目の前を何かがすさまじい勢いで駆け抜けた。次の瞬間にはそれはボウガンを蹴り飛ばして拳を入れる。


「《タイガーエコーフィスト》!!」


 そして、一瞬遅れてそれが虎柄の猫耳アクセサリーをつけたウルルカさんだと理解する。ユキヒコさんが足を止めている間に移動したんだ。

 刹那、そのままボウガンの《冒険者》を大広間の奥までふっ飛ばすと、そのまま残りの無防備な護衛にも拳と蹴りを入れて気絶させた。


「……」


 こうして一人になったマルヴェス卿は、もう絶体絶命のごとく顔面蒼白にさせて口をパクパクさせていた。そんな『死んだふり』ならぬ『モンスター(化け物)のふり』をするマルヴェス卿の前にセイさんはたどりついて顔を上げる。その鋭い目つきで真っ白い顔をにらみつけた……まるで『逃げるな』と言いたげに。

 途端に恐怖で、ふっ、とマルヴェス卿の瞳に色が戻る。


「ず、ずがたかいわ……わ、わたしは《神聖皇国ウェストランデ》の」


 その時、一陣の風が吹いた……マルヴェス卿の前髪が少しだけかすれて切れる。その切れた前髪は地面に落ちて、突き刺さった剣に投映される。


「御託はいい……剣を取れ。お説教の時間だ!!」


 そう、セイさんは物凄い剣幕で、マルヴェス卿の前に《シミター》を突き立てたのだった。



一時、軽く燃え尽きていました……はい。

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