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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
27/83

第四章 2 置き去り組パーティの結成


「で、盛大な喧嘩は終わったのか?」


 そうして、少し経った後、ナガレは僕にそう言った。

 今、僕の周りにはミコトによって作戦会議を始めるためにナガレたちが呼ばれていた。ユキヒコに支えられているノエルもいる。

 そんな中で僕はミコトと共にみんなの前に出ていた。


「ああ、一応のけじめはつけた……」


 だから今度はみんなのけじめもつけさせてほしい……僕は頭を下げた。ミコトとは仲直りしたが、これでも罪悪感はあるのだ。


「勝手なのはわかっている……だけどみんなの力を貸してほしい」


 図々しいにもほどがある……僕自身でもそう思った。仲間を置き去りにしておいて何を今更な都合のいい事を言うのか。

 でも、だからこそもう一度始めたいと思った。もう一度やり直したい、もう一度背中を預けてみたい……今度はホネストに押されるんじゃなくて、自分から行動しよう、と。

 すると、ナガレは拍子抜けするほどあっさり答える。


「ふーん。ま、いいんじゃね」

「ありが……って、いいの!?」


 そして、僕はナガレのあまりの見切りの良さに、驚いて(まばた)きをせずにはいられなかった。

 特にナガレには置き去りにした件で一発、喝を入れられた経験もある。惨めなところだけではなく、梯子の上で仲間と喧嘩した、と聞きつければ今度はナガレから解散を持ち掛けられても不思議ではなかった。そう思って今まで背筋が凍えていたというのに。

 でも、ナガレは間近まで近づくと何もないように『ポンポン』と肩を叩いた。その行為にユキヒコがにっこり微笑みながら要約する。


「大丈夫ですよ。僕とナガレに限っては一度逃げたぐらいで縁を切れるほど立派な人間ではありません……要は『喧嘩両成敗』です」


 それで許してくれるのか……僕は釈然としないままそう問い返してみた。すると、ナガレは首を横に振って、ゆっくり後ろを指さして告げる。


「……安心しろ。あくまで女性陣をどうにかできたらだ」


 そうしてナガレの言いたいことを僕は察した。

 指さした先ではウルルカが不服そうな顔で睨みつけ、ノエルは目を伏せて視線さえ合わせてくれようとしない……いうなれば空気が重いのだ。つまりは、ナガレは『許してやるから不始末はしっかりつけろ』と言いたいわけだ。


 ――でもそれは当たり前だ……。


 僕は一歩前に出た。僕はそれだけのことをしたんだ……けじめはきちんとつけなければおかしい。

 すると、これ見よがしにウルルカは腕を組んで突っかかってきた。


「セイっちは本当に甘いね……やり直し? ふざけてんの? 言ったよね。セイっちは仲間を置き去りにした……起こした事実は一生ついて回る。やり直しなんて許されない……それともセイっちはまだこの《セルデシア(世界)》を『やり直し(ロード)』の効くゲームだと思ってるのかな?」


 その言葉はまるでクォーツ邸の牢屋でしてみせたように毒をはらんでいた。その感覚に僕は首を絞められそうになる。今も年上として見下すウルルカの声がねっとりと首にまとわりついていた。

 けれど今なら言える。


「はい。僕はそう思うことにしました」

「そう、さすがにそんなこと思わな…………え?」


 途端にウルルカは口を開けてポカンとした。僕の突拍子のない言葉に、頭のねじが取れたように呆ける。

 だけど振り払うように身震いをすると、慌てて反論する。


「な、なに言ってんの!? これはゲームじゃなくて異世界であり、現実……」

「ただし、僕の言う『やり直し』は『ロード』ではなく、『再挑戦(コンティニュー)』の方です。それに、間違えたら正す……これは現実でも与えられているものだったはずです」

「む……」


 ウルルカは押し黙る。

 そう、ウルルカの言った通り、起こした出来事は一生つき回るかもしれない。だけど、それは拭えないものではない……汚名返上は誰にでも与えられるものだ。


「それにあまり僕たちの感性を持ち込み過ぎるのは少し危険な気がします。ここはあくまでも地球(元の世界)ではなくセルデシア……《大地人》の世界なんです。現実ともまた違うんです……」

「むむ……」


 直後、ウルルカは図星を指されて一歩下がった。ここはセルデシア……現実とは勝手が違う。それはまぎれもない事実で、反論など許されない。ウルルカもまたそれがわかっているから口を閉じた。

 そして、その場にいた全員が勝負ありと言わんばかりに振り向く。ナガレは楽しそうに、ユキヒコは心配そうに、ミコトはただ何も考えずに静かに待ち続けていた……それからノエルもそんな僕に俯かせていた顔を向ける。


「ウルルカ」


 同時にウルルカを促すようにミコトが囁いた……まるで『負けを認めなさい』と言っているように。

 途端にウルルカは「ああー!!」と髪を逆なでしながらかき乱すと、僕に指をさした。


「ああー、もうわかりましたよ! 納得は行かないけど許してあげる!! このまますねるの疲れるし!! だけど二度とミコトに歯向かったら許さないからね、わかったにゃー!?」

「あ、ああ、わかった……ありがとう」


 まるで飼い猫だな……僕は威嚇するように宣言したウルルカに苦笑いを向ける。それでもいつの間にか語尾に『にゃー』が付くようになったのだから、本当に許してくれたのだろう。気を使ってくれたのだ。

 そうして前を向けば、ノエルと視線が合った。

 さすがにノエルとは言い合うわけにはいかない……僕は視線を外さずに向き合った。ノエルには火責めのような事をさせて重症に追い込んでしまったのは間違いなく僕のせいだ。だから、


「ごめん」


 僕は彼女の前で静かに頭を下げた。本当は頭を下げたくらいで許されるわけものではないが、それでも頭を下げるしか僕にはできなかった。

 すると、いつの間にかノエルは僕の耳を掴んで、無理矢理僕を引っ張った。


「いた、いたたた……って、え?」


 そんな慌てふためく僕の心を覗くかのようにノエルは両手で僕の顔をわし掴んで方向を変えた。しばらくの間、僕の瞳をまじまじとみつめた。そして、


「うん。安心した……いつものセイだ」


 いつもの小憎らしいほど優しい微笑みを向ける。


「ノエル……?」

「ナガレが言ってたの……『世界はもっと単純だ。世界を楽しんだ奴が勝ちだ』って。『半月前のセイはそれを知っていた……だから今回も大丈夫だ』って」


 ナガレがそんなことを……僕は一呼吸おいて振り返った。ナガレたちは余計な口出しをしないで待っていてくれたのだろう……僕がそれを成し遂げられる人物だと信じて。

 すると突然ナガレが暴れだすように両手を上げて、僕の背中をはち切れんばかりに叩いた。


「いってぇぇぇぇ!! このぉぉ、何するんだよ!!」

「うるせぇ! みなまで言わせるな!! ……男なら背中で語るもんだろうが」


 刹那、僕はくすっと笑った。要は『しっかりしろ!』と言いたいのだろう……『自分で気づいたんだろう? なら後は行動あるのみだ』と。

 すると、ノエルも頷きかけて答えてくれる……それが許しの合図だった。


 ――本当に僕は一番鈍感だな。


 僕は『仲間』を眺めた。そう僕は守られてばかり……だけど、それはまるで障壁のように僕の周りを囲っていた。

 ああ、そうか……今わかった。僕が一人で戦っている時、どこか満足しない感覚……あれは恐怖心だったんだ。いつ誰に襲われるかわからない……そんな恐怖が僕の心を縛っていた。

 けれど、今は安心できる……そう、つまり仲間とは恐怖から身を守ってくれる障壁なんだ。


「不自由だけど、一番『恵まれている』という事だったんだ」


 すると、ミコトがやっと顔をほころばせて肩をすくめる。


「さぁ、それでは作戦会議を始めましょうか」

「ああ……僕も、もうそろそろこの騒ぎにけりをつけたい」


 ――だから……だいぶ遅くなってしまったがこれからが本番だ。


 こうして僕はまたみんなとパーティと本当の意味で和解した……みんなの気遣いによって。

 そして、一歩後ろからその光景を眺めていたグレイスは何かを想いながら空を仰いだ。


「仲間とは……許しあえるもの」


 その言葉があとでどういう結果をもたらしたのか……今の僕が知る由もなかった。


     ◇


 その後、僕たちはさっそく行動を開始した。《スケルトン》の武器庫から全員分の見合った武器を拝借し、使えるように整備。次いで、作戦会議で決めた流れを何度も確認し、その間ノエルは順次ミコトとユキヒコの治癒を受けて動けるようになった。

 そうしてそれぞれの準備を終えた僕たちはグレイスを守りながら『階段広場』の前……《忘れられた古の牢獄》の最奥にある大橋までダンジョン攻略を進めていた。

 もう四時間が経ったか……再びそれをみつめた僕は決意を新たにその先を見据える。


「では、セイ様、私はここで一旦こちらで身を隠しておきます……武運を」


 そして、そんな僕の背を押すように後ろをついてきていたグレイスは僕の名を呼んで激励する。

 僕はそれに頷いて、背中に括りつけていたさびていた剣を引き抜いた……いや、研いだからもう『きれいな剣』か。研いだ剣はそんな僕の仲間を映し出す。

 前方には両拳を合わせる虎娘のウルルカと鎧武者でありながら山賊のように笑みをこぼすナガレ。それから、薄闇色のコートを着た軍服風のノエルが僕に頷きかける。後方にはナガレを心配しながら緑色のローブを整えるユキヒコと静かに時を待つ巫女姿のミコト。みんながみんな戦闘準備万端な状態で僕の号令を待っていた。

 これが僕の仲間……それを僕は胸に刻み込めながら高らかに宣言する。


「それじゃ、みんなちょっと楽しんでこようか――反撃、開始だ!!」

「よっしゃー! 一番乗りだぜ!!」


 そうして、僕たちは動き出す……一番乗りのナガレ、それに慌ててユキヒコが、次いで残りの全員がついていくように一歩足を踏みしめた。いくつもの足音が行進曲のように響きだす。

 そう、怖くない……これから待ち構えるモンスターに一度は負けそうになったっていうのに、全くの震えを感じなかった。むしろ勇気まで湧き上がってくる。

 と、次の瞬間、大橋は一本道となって金網の足場になる。そして、下を走る水路の流れが物々しく響き渡り……ついに、僕は《忘れられた古の牢獄》の最深部『階段広場』に出た。

 忘れもしない。この場所は弱弱しく足を前に出す僕を貶めた所だ。そうして再度叩き落そうとするように地響きが轟く。螺旋状に設置された階段の先で二体の銅像が立ち上がる。即座に僕はステータスを確認する。


【モンスター:右の扉を守る鬼神 レベル:70 ランク:パーティ】

【モンスター:左の扉を塞ぐ鬼神 レベル:70 ランク:パーティ】


「間違いないこの『階段広間』を守る《鬼神》だ!」


 だが、左側の銅像だけは土煙や苔が積もっておらず真新しい……復活したんだ。


「それにしても『二体同時撃破』って面倒だな。一体倒しただけだと出口が開かないとかんだろ。おい、ユキヒコ、ここのモンスターの復活(リポップ)って何時間だっけ?」

「だいたい四時間ですよ! 作戦会議の時にも言っていたでしょう!?」


 途端にナガレが話を逸らすように呟き、ユキヒコが投げやりに答える……それが始まりだった。《鬼神》たちは息を吹き返したように動き出して階段広場に降り立った。と同時に最初から臨戦態勢でこちらに剣と矢を放ってきた。

 刹那、僕たちも散り散りに飛んで回避する。


「いいですか! 最初は作戦通りに!!」

「わかってるさ!!」

「行くよ! セイ!!」


 途端にミコトは叫ぶ。それに応じるようにナガレはユキヒコの襟をつかんで右に。ミコトはウルルカと歩調を合わせて左へ。そして僕はノエルに担がれるように真上へと跳んだ。その瞳には相対する敵と向かい合ったナガレとウルルカがくっきりと映し出されている。


 ――『いいですか。わかっていると思いますが、階段広場のモンスターは『二体同時撃破』が達成目標になっています』


 そんな僕の脳裏にある情景が流れる。それは四時間前の作戦会議の場面だった。僕たちは地下独房の床に正座で、ミコトは教壇みたいに出っ張った所に上がっていた。僕は心なしか、僕たちとミコトの立ち位置が生徒と教師のものと同じだな、と思ったのはあえて言わないでおこう。

 そして、問題を提示するようにそれは始まった。


 ――『でさ、『二体同時撃破』って結局どういうことなんだよ? 別に同時に倒せばいいだけで、モンスターが二体いるだけだろ……それって普通のパーティ戦と何が違うんだよ』


 その時、ナガレが挙手して発言したのだ。ナガレの質問に僕は「ああ、そういえば確かに……」と首を傾げた。

 実のところ、僕もナガレが言った通り、『二体同時撃破を仰々しく考えていただけで、別に二体を相手にすればいいのではないか』と考えていたのだ……再びパーティを組んだ僕たちの敵ではないのではないか、と。作戦会議をするだけ無駄なのではとさえ思えてくる。

 しかし、ミコトはその浅はかな答えを一蹴するかのごとく首を横に振った。その後、偉そうに鼻息を荒くする。


 ――『いい質問ですね。確かに普通はそう思うでしょう』

 ――『ああ、なるほど……ミコトって先生キャラだったんだ』

 ――『そこ! 今は作戦会議中です! 私語は慎むように……!!』

 ――『は、はい! すみません!』


 僕は姿勢を正した……物凄い形相でミコトが僕をにらみつけたからだ。だから、ナガレも微妙に「先生、怖いな」と囁きかけないでくれませんか? もちろん、これで眼鏡をかけていれば完璧だったんですけどね、という僕の意見もこの時言わないでおいた。

 ともあれ「ゴホン」と咳払いすると、ミコトは話を本題に戻す。


 ――『で、『二体同時撃破』の特徴ですが……結論から言うと、彼らは『共鳴』するのです』

 ――『きょうめい?』

 ――『ええ。二体同時撃破のモンスターは片方が倒れた際の強力な技に目が行きやすいですが、他にも、片方が残っている場合の復活(リポップ)の短縮、ダンジョンエリア解放の妨害、など周囲に様々な影響を与えます』

 ――『だから同時に倒せばいいんだろ?』

 ――『ナガレさん、話の合間に割り込んでこないでください……私は『共鳴』と言ったはずですよ』


 その容量の得ないミコトの言葉に僕はさらに首を傾ける。するとウルルカがわかりやすく言い換えた。


 ――『だからにゃー、あいつら近づけば近づくほど、互いのステータスを強化するんだにゃー』


 はっ……ステータスの強化!? 僕は意表を突かれたように唖然とした。だが、ミコトは冷静に僕に尋ねる。


 ――『セイさんには覚えがあるのではないですか? 一人で戦った時に、急に強くなった……もしくは『一人で倒せるほど』弱くなった、とか』

 ――『……!!』


 そこまで言われて、やっと僕はミコトの『共鳴』と言う言葉に重要性を感じた。そうして、僕は自ら行った階段広場での戦いをふりかえる。

 確かにあの時は無我夢中だった。だが、覚えている……剣をふるう《右の扉を守る鬼神》を転ばせた途端、弓を構えた《左の扉を塞ぐ鬼神》動きが悪くなっていた。

 おかしい……冷静に考えれば自ずとわかる。相手は仮にもパーティ級モンスターだ。一人で倒せるノーマル級モンスターではない。運だけで勝てるほど生ぬるいモンスターではないはずだ。


 ――『って事は、まさか!!』


 ミコトは自身満々に告げた。


 ――『ええ。彼らは近づけば近づくほど強化される……逆を言えば離せば離すほど弱体化させることができる。つまり、まず私たちのすべきことは二体を引き離すことです』


 刹那、四時間前の情景を吹き飛ばすように衝撃が走った。現在……階段広場に視点を合わせると、入り口間際にいた《右の扉を守る鬼神》がその手に持った剣をナガレに振り下ろして戦い始めたのだ。

 どうやらナガレは横に跳んで避けたようだが、第二の斬撃がすでに放たれていた。下段からの切り上げがナガレを捉えていた。


「ナガレ!!」

「焦らせんなって!! きちんと流れには従ってやるからよ!! 《木霊返し》!!」


 だけど、ナガレは慌てず、焦らず、すでに握った刀を脇に……とその瞬間、とてつもない威力で《右の扉を守る鬼神》の剣を弾き飛ばした。あれは、『居合』か!?


 ――そうか、ナガレは本当はカウンター寄りの《武士(サムライ)》だったのか。


 おそらく刀を脇に添えるモーションは《居合いの構え》になるためのもの。《居合の構え》はナガレの職業《武士》だけに与えられた特技で、常時繰り出す攻撃を『居合』という強烈なものにする。命中と威力をあげるため、回避が著しく困難になる一撃になるのだ。

 それに加え、ナガレは《木霊返し》を使った。あれは敵の攻撃を受けた際にカウンターをしかける《武士》の特技だったはずだ。威力はあまりなかったはずだが《居合いの構え》になることでその攻撃が『居合』となって弾き飛ばすほどの一撃となった。

 ただ居合を終えたナガレの手がまるで凍ったように制止した。技を出した反動で起きる硬直現象だ……そう、《居合いの構え》は確かに強力だが、強力な分、反動や次の攻撃を放つための溜めも大きい。隙ができやすいのだ。それゆえに対人戦や大規模戦闘(レイド戦)には不向きだとされ、意外と習得している者は少ない。

 《右の扉を守る鬼神》もよろめいたが、その隙を逃さなかった。すぐさま短い動きで剣を横なぎに振ってくる。


「させません」


 だが結局、それは当たらなかった。苔から伸びた蔓が《鬼神》を掴んで縛りつけた……ユキヒコの《ウィロースピリット》だ。何とも発動タイミングが絶妙だった。加えて見事と言わんばかりに蔓を操って《鬼神》を掴んで逃さない。


溜め(チャージ)完了」


 そして、ナガレの強烈な居合で蔓ごと足元を叩き切る。その一撃は水面に映った月さえも真っ二つに切れるほどの威力。《右の扉を守る鬼神》が悲鳴のような嘶きを上げて倒れた。

 すごい……僕は息をのんだ。想像以上だ……お互いのデメリットを補い対等に渡り合っている。やっぱり変に他の人と組むより、二人でやった方が戦い慣れている。作戦会議で僕が言った事は正しかったんだ。

 そう……それというのも作戦会議で《鬼神》たちを引き離すことが決まった後、ユキヒコが質問したのだ。


 ――『それで二体を引き離すとして……指揮は誰がとるんですか?』


 その問いにナガレは『もちろん喧嘩に勝ったんだから、セイだろう』と当たり前のように答えた。だけど僕は首を横に振った。


 ――『いや、指揮は立てないでおこうと思う』


 同時にミコト以外の全員が『はっ!?』と驚いた。とっさにユキヒコが僕の両肩を掴んで揺さぶった。


 ――『セイさん、落ち着いてください! パーティにおいて指揮(リーダー)立てないとかあり得ないでしょ? バカなのはナガレで十分ですよ!!』


 今更だが、本当にユキヒコの中ではナガレは酷い扱いだ……だけど、僕はそんなユキヒコを鎮めるように首を横に振った。


 ――『いいえ、ユキヒコさん。僕たちに限っては……いや、《トオノミ地方》に居座っている《冒険者》に限っては逆だったんです』


 えっ……途端にユキヒコが首を傾げた。すると、何か気づいたようにノエルとウルルカが『あっ!!』と喚いた……どうやら気づいてくれたようだ。

 そんな二人の答えを代弁するかのごとく僕は頷いた。


 ――『そう、《トオノミ地方》は他と比べて《冒険者》の数が圧倒的に少ない……大規模戦闘(レイド戦)はともかく団体戦(パーティ戦)だってド素人がほとんどです』


 そんな僕たちが付け焼刃のごとくパーティ戦をしたって連携がうまく行かないのは目に見えていた。では得意なのは何か……それは二人組(ツーマンセル)三人組(スリーマンセル)だ。


 ――『だからあくまでこのパーティは一つの団体ではなく、三つの組が集まった共同体として扱おうと思う。全体の方向性は決めておいて、戦い方はみんなに任せるよ』


 だいたいまだ僕はみんながどんな《冒険者》か知らない……そんな僕が指揮を執るなんて『最初から』おかしな話だった。

 そして、その言葉通りに現在、目の前の階段広場では、ナガレとユキヒコは僕の知らない戦法で《右の扉を守る鬼神》を転ばせて成果をあげた。

 突如、胸が熱くなる……パズルのピースがはまったように崩れていたものが一枚の絵として完成していく。その光景に僕も混ざりたいという想いが心の底から湧き上がってくる。


「今だ!! いけぇぇぇぇぇ!!!!」


 そうしてナガレが反対側に雄たけびをあげる。すると、左側で弓を構えていた《左の扉を塞ぐ鬼神》の敵愾心(ヘイト)をせっせと稼いでいたウルルカが一直線に走り出す。同時に《左の扉を塞ぐ鬼神》が弓を引いて狙いをつけた。

 だけどウルルカは避けなかった。それどころか、飛んできた矢は障壁に阻まれてあらぬ方向へ曲がっていく。遠くから見ればそれがいかに暴力的かわかる……ミコトの《防人の加護》付き《禊ぎの障壁》は、まるでダンプカーが襲ってくるような怖さがあった。その後も矢を連射する《左の扉を塞ぐ鬼神》。されど、障壁はひび一つ付きやしない

 そして、最短距離で懐に詰め寄ったウルルカはその車体のごとき一撃を拳に乗せる。


「《グリズリースラム》!!」


 途端に《左の扉を塞ぐ鬼神》は懐を抉られて吹き飛ばされる。あの巨体を吹き飛ばすなんてすごい威力だった。


「こわっ……」


 つい、ノエルが本音をこぼす。その言葉に僕も冷や汗を掻きながら頷いた……まさかあれほどまでにミコトとウルルカが特攻主義の戦い方をするとは。というかミコトが高レベル者なら、二人組(ツーマンセル)を組んでいたウルルカも高レベル者ってことだよな……二人ともいつもそんな好戦的な戦い方をしていたのか?

 だとしたら高レベル者なのに《冒険者》の中心《アキバの街》から離れたのも頷けた。あのウルルカだ……ミコトにちょっかいを出されたら、すぐに手が出るだろう。加えて、あんな戦い方をされたら問題が起きる。結果、混乱を避けるために《アキバ》から退いても無理はない。

 だが、何はともあれ『二体を引き離す』という作戦は成功した。今なら僕たちでも攻撃が通る。

 と、その時ノエルの力任せの跳躍が終わりを告げ、僕たちの身体が重力に引かれ始めた。


「それじゃ、ノエル、僕たちも行こうか……ノエル?」

「……」


 そうして地面を見下ろすと、ノエルは思いつめたように顔を伏せていた。機嫌が悪いわけではない。怒っているわけでもない。ただ、ノエルは僕を眺めると一言だけ呟いた。


「ねぇ、セイ? 私、ちゃんとこのセイの……このパーティの力になってる?」


 え、いきなり何を言い出すんだ……僕は首を傾げた。もしかしてまだ僕が置き去りにしたことが何か……。

 だけど、ノエルはすぐに戦闘に集中するかのように首を振った。


「ううん、やっぱり何でもない!! それよりも、私を本当に馬のように扱うなんて、後で覚えておきなさいよ!!」


 あ、あはは……たとえ冗談だとしても、僕はノエルに睨まれ腰が引ける。だけど、どうしていきなりそんなことも言ったのか今の僕にはわからなかった。そして、それを考えられる場合でもなかった。

 地面についたノエルは《ファントムステップ》を発動させる。ノエルはこれでも速さを重点的にあげている《武闘家》だ。《ファントムステップ》の即時移動の効果で、次の瞬間には僕たちは吹き飛ばされた《左の扉を塞ぐ鬼神》の目の前に出ていた。


「セイ!!」

「う、うん!! 《アクセルファング》!!」


 とにかく今は戦闘に集中するしかない……僕は不意打ちの如く《左の扉を塞ぐ鬼神》に特技を入れる。続いてHPの確認……すると、一割だがダメージが入っていた。やっぱりミコトが言っていた通り、《鬼神》たちは離れるとステータス……この場合は防御力が下がっている事を理解する。

 そうして僕は《アクセルファング》の効果で相手から距離を取った。刹那、《左の扉を塞ぐ鬼神》が起き上がって弓を構える。

 だけどその前にノエルが僕を回収して、《ファントムステップ》を使って逃げる。同時に気を逸らされていたウルルカがまた懐に入って掌底をお見舞いした。


「《サイレントパーム》!!」


 つまりはこれが僕とノエルがすべきことはこれだった。ナガレとウルルカが二体の《鬼神》を引きはがしたら、右と左で隙を交互に作り、順番にナガレやウルルカたちの攻撃を当たらせる。

 要は僕とノエルに至っては『着かず離れず(ヒットアンドアウェイ)』の戦法を使った。これによって全体は見えなくても、順々に《鬼神》たちのHP残量を減らせるはずだと考えたのだ。


「次は右! 頭上に跳ばせて!!」

「わかった!」


 そして、次の瞬間ノエルは言われた通り《右の扉を守る鬼神》の頭上……それも背後に位置取りをする。さすがというしかない……正直、移動速度に特化した《武闘家》がいなければこの作戦は無理が生じていた。

 交互に攻撃を当てると言っても一定時間内で移動しなければならない。あまりに遅すぎるとナガレやウルルカの消耗が激しくなる。そうなれば、引き留められる《戦士職()》がいなくなり、《鬼神》たちはすぐに合流してステータスを上げるだろう。あとはもう泥沼の戦いになる……いや、もともと戦う準備ができていない僕たちに勝てる要素はない。そうなれば僕たちは本当に死ぬしかない。だけど、そんなことさせるものか!!


「そんなことさせない……僕のパーティに誰も触れさせなんてしない。なんたって僕は《お触り禁止》なんだ!!」


 そうして僕は新たな決意と共に攻撃を当てる。同時にナガレの居合が胴体に入って居合を決める。


「ユキヒコ! 回復くれ!! カウンターができなくなる!!」

「わかっています! 《ハートビートヒーリング》!!」

「ミコト! 次の攻撃が止んだら追撃に行く!!」

「了解! 今のうちに障壁をかけなおしておきます!!」


 こうして、僕たちはしばらく、ただひたすらに目の前の《鬼神》たちに挑み続けた。僕も十……二十……失敗した時もあるからそれ以上は攻撃を仕掛けた。ノエルも汗水たらして走り回っていた。


「まるでマラソンさせられているようだわ……」

「でも、それもあともう少しだよ……」


 僕は階段広場の真ん中で《鬼神》たちのHPを確認する。《右の扉を守る鬼神》……あと二割。《左の扉を塞ぐ鬼神》……あと一割。このまま順当にHPを一割に削れば、あの階段広場を火の海にした《プロミネンス(全体攻撃)》を出させる前に両方の《鬼神》を倒せるだろう……あとは全員で一気に倒せばいい。

 ノエルもそれを確認すると、最後のひと頑張りと言わんばかりに足を《右の扉を守る鬼神》へ。その時だった。

 突然だった。《右の扉を守る鬼神》が咆哮を上げるとともに、その掌に握っていた剣を逆手に持った……僕がミコトに助けられた時とおなじように。そして、僕たちが驚く暇もなく《右の扉を守る鬼神》はそれを投擲した……同じ《鬼神》の姿をした相棒へ。


「な、なに……? 何なの、これ!?」


 ノエルが目を丸くして固まる。

 その目の前では《右の扉を守る鬼神》が無残にも《左の扉を塞ぐ鬼神》に剣を突き立てていたのだった。



やっと満足いくものができた。(その2)


1/20 文を追加修正。

( その後、僕たちはさっそく行動を開始した。《スケルトン》の武器庫から全員分の見合った武器を拝借し、使えるように整備。次いで、作戦会議で決めた流れを何度も確認し、その間ノエルは順次ミコトとユキヒコの治癒を受けて動けるようになった。

 そうしてそれぞれの準備を終えた僕たちはグレイスを守りながら『階段広場』の前……《忘れられた古の牢獄》の最奥にある大橋までダンジョン攻略を進めていた。

 もう四時間が経ったか……再びそれをみつめた僕は決意を新たにその先を見据える。)

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