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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第三章 5 セイVSミコト


 これは夢なのだろうか。

 私は……いや『ノエル』という名の《冒険者》は光が見えない暗闇にいた.

奈落の底にいるような、そんな感覚。

 ここはどこなのだろう。私は死んだのだろうか? 光が見えない暗闇の中で、記憶がうやむやになっていくのを感じていた。

 どうして私はこんなところにいるのだろう。確か私は……、


 ――『セぇぇぇぇ――――――――イ!!!!』


 そうだ……私は《忘れられた古の牢獄》の最深部、火炎に包まれる階段広場の中でセイをみつけた途端、前へと飛び出したんだ。そして気づいた時には暗闇にいた。きっと火炎に身を焦がされて気を失ったんだ。

 でも、その時の私はセイだけを置いて逃げることはできなかった……。きっと半月前にも似たようなことが……コールがかばってくれたことがあったからなおさら身体が動いたのだろう。


 ――『駄目だ。ノエル……!!』


 だからセイが私を止めた時も、言う事を聞かなかった……いや、身体がもう理性を無視していた。火炎が私の身を焦がしても、足は止まらず、そのわりに思考はよく回ったのだ……たぶん今のセイも半月前の私と同じことを考えているはずだ、と。

 そう、助けてもらうのは嬉しい……うれしいけど、それでまた誰かが傷つくのは苦しかった。それは自分が傷つくよりも痛かった。そして、きっとセイも痛いはずだ。自分が大事にされているとわかると動けなくなるんだ。

 だから今度は私がセイを支えなきゃいけない。たとえそれが『過保護』でも一人くらいそんな人がいてもいいじゃないか。だってセイはそれ以上の事を……パーティリーダーなんて重いものを背負わされているのだ。誰かがその甘えを受け止めたっていいじゃないか。


 ――『なぜだよ……なぜ、そこまでして……僕はノエルを置いてけぼりにしたのに』


 その時、どこからともなくセイの声が聞こえた……今にも泣きそうなセイの顔が私の脳裏をよぎる。


 ――ほら、言わんことじゃない。


 おちおち寝てもいられない。まったく涙まで流してるし……私は脳裏に浮かぶセイの涙をぬぐった。

 そうだ、このまま寝ている場合ではない……私は右か左かもわからない中を必死にもがいた。こんな暗闇なんて苦でもない。半月前のあの時……セイが『仲間』だと言ってくれた……あの言葉があれば光ある場所へ行ける――セイがいる場所へ行ける!!


 ――大丈夫だよ…………セイには私がついてるから。


 その時、誰かの声が聞こえて、ふと身体が軽くなった。


 ――『……ルさん! しっ………て…ださい』


 その声は最初ははっきりと聞こえなかったものの、だんだんと私を奈落の底のような暗闇から浮き上がらせていく。そして、


「しっかりしてください! ノエルさん!!!!」


 やがて私が目を覚ますほど耳に響いて鼓動を高鳴らせた。


     ◇


「――――っ!?」


 そうして、瞼を上げた先に待っていたのは先ほどと同じ暗い場所だった。私はまだ夢から覚めていないのかとも思ったのだが、仄かに暖かな光が身体を包んでいることに気づいてそっと顔を上げる。すると鮮やかな緑色のローブを着た青年がほっとするように溜息を吐いた。


「よかった……なんとか間に合いましたね」

「ゆ、ユキヒコさん!!」


 そう、私に暖かな光をかけてくれていたのは他でもない《森呪遣い》のユキヒコだった。それも、その脇にはあのエロ武者……じゃなかった山賊のような恰好の《武士》、ナガレまで心配そうな表情を向けている。


「な、なによ! エロ武者のくせに何でそんな顔をしてんの……痛っ」


 き、気持ち悪いことこの上ない……背筋に悪寒を感じた私は、起き上がろうとした。だけど、途端に痛みが反復するように全身を襲い、私は再び地面に寝そべってしまう。

 そうして寝そべった先もやはり周りは暗闇……天井が見えないからよっぽどの事ではないだろうか。だけどどこか知っている感覚もある……。


「あ……そうか、ここはセーフゾーン」


 セイを助けに行く前に確認した安全地帯。ダンジョン攻略に至ってはセーフゾーンをいち早く発見し、陣を敷くのが大事になってくる。

 確か《忘れられた古の牢獄》ではそれが『地下独房』だったはずだ。広すぎる縦穴はモンスターにとっても畏怖の象徴とされ、誰も立ち入ることはなかった。そもそもここでのモンスターは看守としての側面が大きかったせいか、牢の中までは警戒していないらしい。

 だが、驚いたことにそんな中を潜り抜けて地下独房を訪れていた先客がいた。半月前にも関わっていたグレイスという《供贄の一族》だ。バレンタインデー騒動の際は難癖をつけてきた彼女だったけど、事情を説明すると今回はダンジョンの大まかな位置を教えてくれた。それを元に何とか最短ルートを辿って、最深部『階段広場』へ……セイのもとへやってこれたのだ。


「そうだ、セイは……セイは大丈夫なの…………痛っ、いたたたた」


 そして、また上半身を起こすと全身が軋んだように苦痛を訴えた。《冒険者》といえどHP(ヒットポイント)が少ないと体調にも変化するということか。

 それでも私はセイの安否を確認しなければならない……すると、ユキヒコは無理に立とうとした私を押さえつけるように肩を掴んだ。


「ああー、動いたら駄目ですよ! 蘇生魔法もかけてやっとHP残量を増やしたばかりなんです!!」


 蘇生魔法……《森呪遣い》の蘇生魔法といえば《ネイチャーリバイブ》だろう。そうか、今私の身体を包んでいる光も《ネイチャーリバイブ》の効果……一定時間ごとに回復する『脈動回復』によるもの――。


「って、つまり私、戦闘不能に陥ったってこと!?」


 そうだ、完全に思い出した。階段広場でセイをみつめた私は自分に《カバーリング》をかけて、セイを守ったんだ。それから意識を失って……。


 ――ということは、セイは!! セイはどうなったの!?


「とても寝てなんていられない。すぐにでも生存確認をしないと!!」

「チョップ」


 けれど、ユキヒコの手をはねのけて上体を起こすとナガレの掌が私を待っていた。立てられた掌はちょうど後頭部に当たってガンガンと痛みを響きわたらせる。


「いったぁぁぁ。何するのよ!! エロ武者のくせに」


 私は後頭部を押さえてナガレを睨んだ……おかげで頭が割れそうなほど痛いわ、HPはちょっぴり減るわ、で散々な気持ちになった。

 そんな酷いことをしたナガレは、そんなことは知らんふりで背中を向けると私の横であぐらを掻いた……つまりはあれか、いつもきつく当たっているやり返しだろうか?

 けれど、ナガレは上空を眺めると愚痴をこぼすように呟く。


「まったく『カエルの子はカエル』ってやつか……? あんな無茶して人がどれだけ心配したかと思ってんだよ」

「え?」

「ナガレ、それを言うなら『類は友を呼ぶ』ですよ」


 途端にナガレはユキヒコの指摘に「うっせぇ!!」と答えた。何気にかっこいいと自分でも思っていたのだろうか……水を差すなと言わんばかりにへそを曲げる。それが妙に子供っぽくて私はほのぼのとした表情を向けた。

 実際、言葉を間違えていたら世話ないと感じたが、それでもナガレの向けた言葉は優しさに満ちている事だけははっきりとしていた。

 すると照れたのか、ナガレは視線を逸らしてごまかすように頭を掻く。けれど、すぐさま溜息を吐いて平常心を取り戻すと再び上空を見上げて助言してくれた。


「あのなぁ、必死になるのもいいが、世界はもっと単純だぜ」


 私はその意味がわからなくて首を傾げた。けれどその時、キキキ、という不快な金属音と怒鳴り声が響いて私は空を仰ぐ。そう、地下独房から上る唯一の道――長い梯子を。

 そうして、私は驚きのあまり目を点にさせた。


「な、な、な…………」


 そうして、私はすぐに呆れてものも言えなくなった。その代わりにナガレが優雅に見物人を気取ってものを言う。


「さてはて、セイVSミコト……どちらに軍配が上がるのやら」


 その表情はとても楽しそうに二人をみつめていた……梯子の下で守るミコトとその上から攻めるセイを。

 そう、つまりはそこで行われていたのは仲間内の盛大な喧嘩だった。


     ◇


 ――「勝負をしよう」


 その時、私の目の前で彼はそう言った。


 時刻は少し前――私が涙を流しながらウルルカに跳びついた時から始まる。そう、『セイ』と名乗る彼が『パーティリーダーをやめる』と公言したあの時からだ。


「ど、どうしたのミコト……」


 直後、ウルルカは武器の手入れを投げ出して、そっと私を優しく包み込んでくれた。

 そう、私は『ミコト』。冷静沈着で感情にながされない……そういう《冒険者》だったはずだ。それがどうして声を枯らして、瞼に涙を浮かべているのかわからなかった。

 いや、実際には私はその時、裏切られた、と感じていたのだろう。彼もまた私と同じ冷静沈着という皮を被った《冒険者》だと考えていたのだから。

 でも彼は違った。パーティに入って、いざ蓋を開けてみれば、彼はうじうじ見下したただの坊やだった。味方に手加減して自分は無害だと思わせて、上から謙る。そのくせ実力があるから何も言えない。まさに私の嫌いな《Plant hwyaden》そのものだった。

 それに加えて、危なくなったら早々に逃げる……そのあまりの行動に私は失望した。とても半月前に見た彼の背中とはかけ離れていた。

 これでも私はそれなりの経験を積んでいると自負している。《大災害》が起きる前は長い間野良パーティを組んで、相手の癖を見抜いていた時期もあったのだ。だから人を見る目はあると踏んでいた。その私が半月前――潜伏していた《ナカスの街》で彼の姿を視界に捉えた瞬間、私自身にはない何かを感じたのだ。自信に満ち足りたその瞳は何か《トオノミ地方》の実情を変えてくれるのではないかという淡い希望さえ想像させた。

 だから私は自ら彼のパーティに入れてもらえるよう掛け合った……彼を見極めるために。その私にはない何かを知るために。そんな私にホネスト(リーダー)は優しく微笑んでくれた……『彼は鈍感だから、支えてあげてほしい』とまで言ってくれたのだ。なのに、ついに彼は『パーティリーダーをやめる』とまで言い出した。これでは私は何のためについてきたかわからなくなる。

 いや……それならまだいい。むしろ、彼がパーティリーダーをやめるとそれを任命した私たち《アライアンス第三分室》のリーダー、ホネストにまで悪い影響が出てくる事の方が深刻だった。リーダー(ホネスト)の見る目がないと噂されれば、取りまとめていた《ナインテイル九商家》が不審に思い『ナカス奪還作戦』は根本から崩れ去ってしまう。そうなればもう二度と《トオノミ地方》は立ち直れないだろう。その結末は決していいものではなかった。

 たとえ、第三者が……例えば東の勢力《アキバの街》が出張ってきて助けてくれたとしても、《ナカスの街》に対して必ずしも強要しないという保証はどこにもない。逆に強要しなかったとしても何か別の問題に巻き込まれる可能性がある。


 ――そんなのはだめ……解決したなんて言えない!


 私はウルルカに抱かれた中で涙をふき取った。そうしてウルルカの胸から起き上がると、私はにっこり笑って見せた。


「ごめん。もう大丈夫……これからは私が頑張らないといけないから」


 そう、彼――セイが使えないようなら私がその分を頑張るしかない。とにかく彼をお飾りにして私が指揮を執るんだ……ナカス奪還作戦はそれほどまでに成功させなければならないものだった。

 けれど、ウルルカはそんな私の心境を知ってか知らずか心配そうな表情を向けた。そして、自分を責めるような表情も。

 こんな時、私はウルルカが何を考えているかわからなくなる。人前ではいつも『にゃはは』と笑っている彼女だが、時々私の前ではこんな顔をみせてくる。

 だけど、その時だった。ウルルカが気配を感じていきり立つように視線を向けた。それで私も気が付く……先ほど私が走ってきた方向から誰かの足音が近寄ってくる。そして、それは顔を向けなくても誰だかわかった。


「何の用ですか? セイさん」


 だから私は振り向かずに質問を投げかけた。正直顔も見たくなかった……けれど後になってそれが後悔する羽目になるとは思っていなかった。そう、あえてダメ出しをするのであればその時の私は口も利くべきではなかったのだ。

 されど、口を利いてしまった……そして、あの言葉が放たれる。


「勝負をしよう」


 その言葉がいかに重かったのか言うまでもなかった。直後振り返れば、彼はグレイスを率いて力強く立っていた……まるで半月前のように。



ちょっと区切りが悪いから迷ったけど、長くなりそうなので一応ここで一区切り。


12/5 一文追加修正(そんな私にホネスト(リーダー)は優しく微笑んでくれた……『彼は鈍感だから、支えてあげてほしい』とまで言ってくれたのだ。)

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