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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
16/83

第二章 3 5:3


「…イ、…………セイ、起きて!!」


 それから何時間が経ったのだろう。目が覚めるとそこにはいつも隣で明るく支えてくれる少女の顔があった。途端に彼女は赤いおさげを揺らしながら安堵の笑顔を見せる。


「よかった……。セイも特に何もなさそうね」


 どうやら僕を心配して介抱してくれていたようだ。膝の上に頭を乗せてくれて、そのうえ僕の額を優しく頬を撫ぜてくれた。その感触はひんやりしていて、夏の暑い日に机に突っ伏せるみたいに心地が良かった。

 けれどここは現実世界とは違う……目に映るのは暗い天井と明り取りのためにわずかに開いた隙間のみ……そうだ、僕たち確か睡眠薬を飲まされて。


「――イタッ!」


 と、その瞬間、僕は覚醒して無理矢理に起き上がった。そうしてノエルの額に頭突きを入れてしまう。刹那、ノエルも同じくおでこを押さえながらうめき声をあげた。そして、赤くなる額をさすりながら目を細めた。


「……本当に何の後遺症もないようね」

「あ、あははは」


 僕は掌を合わせて一応謝るポーズをする……だからそんな『さすが鈍感なセイだわ……』みたいな表情で見るのはやめてほしい。

 そして、僕は追求を逃れるように視線を逸らした。すると、周りは「やっぱり」と言わんばかりに様変わりしていた。

 落ち着きと高貴さを彩る朱色の絨毯は石畳に……それも洗練されたものではなく荒い粗忽なものへと変貌している。それに加え、余計な装飾品がない綺麗な壁は所々シミが目立つ粗悪なものに。微かに掘られた家紋らしき模様はなにかドクロっぽい模様にすり替えられていた。


 そう、一言で言うなら僕たちのいる場所は『牢』に変わっていたのだ。それも衛生面の悪い……それこそゲームであればダンジョンの入り口のような趣のある場所だった。

 おまけに周りが異様に暗い……微かに隙間から光が漏れるため日没はしていないと思うのだが、それでも側にいるノエルがやっと見えるかどうかの照明しかない。おそらくこの『牢』は地下にあるのだろう。これでは仲間の顔も……。


「――っ。そうだ、みんなは!? みんなはどこにいるんだ!!」


 そこで僕はやっと気が付く。仲間の姿が見当たらない。見たところノエル以外の誰も……もしかして――。


「大丈夫よ」


 けれどノエルはそう言って鉄格子の向こうを指さした。すると、反対側の牢で何かが聞こえる……と、その時、牢の鉄格子に掴んで揺らす少年の手が見えた。


「くっそぉぉ、この鉄格子びくともしねぇぞ!! おい、誰かいねぇのか!!」

「まったくあなたという人はじっとできないのですか……そんな喚いても体力がなくなるだけですよ」

「んだと! こんなことされてじっとしている奴の方がおかしいんだろ!?」


 目を凝らせばそこにはナガレとユキヒコがいつも通り言い合いをしている風景が映り込む。毎度のことながら子供っぽいナガレをユキヒコが止めようと奔走していた……けれど、今はその姿はどこか安心できて、僕はほっと一息ついた。


 一方隣の牢でも物音が鳴り、振り向くとそこではミコトが平然と本を読んでいた……すさまじい精神力である。よくもまぁ集中できるものだと少し感心した。みんな緊張感がないというか、平常心がありすぎて少し困ってしまうほどだ。


「落ち着いた?」


 そんな僕にノエルは起き上がり、優しく語りかける。僕は静かに頷いた。つまりは僕が一番最後に起きたらしい。想えば、最後に眠ったのも僕だから当たり前ではある。


「ふぅ――――はぁぁぁぁ!!!!」


 と、その時牢の鉄格子が人一倍大きな悲鳴をあげた。あれは《ワイバーンキック》か……ウルルカが《冒険者》の全力をもって蹴りを繰り出したのだ。その威力はすさまじく、ここにいた全員が耳を塞ぐほど大きな共振を巻き起こした。さすがは《武闘家》というべきか、蹴りだけでここまでとは……今の一撃は岩をも砕けたのではないかと思うほど。

 しかし、そんな中でもミコトは平然とページをめくっていた……って、ある意味すごいな。いったいどんだけ集中力を保っているというのか。


 けれど、そんなミコトもやっぱり耐えられなかったのか、注意するかのように重い口を開きだした。


「やめておいた方がいいですよ、ウルルカ。鉄格子は『ギミック』指定……システムで守られている以上どうやっても壊れたりしません。ここはおとなしく交渉を待った方が身のためです」

「にゃはは……そうみたいだね。けっこう痛いにゃ……ん?」


 そうして踵を返したその時だった。僕は彼女と目が合った……その視線はなぜか冷たく睨みつけられているかのよう……ってあれ? これだとまるで僕が何か悪いことをしたような――。

 途端にウルルカが僕を指さして喚きだす。


「あぁぁぁぁ――――!!!! セイっちが起きた!!!!」


 刹那、僕は驚いて転げ落ちた。同時にウルルカが今にも掴みかかる様子で近寄り、鉄格子を掴んだ。


「ちょっとセイっち! 話はミコトから聞いたよぉ。私たちに『隠し事』しているんだってねぇ……」


 え……あ、なるほど睨まれている理由がわかった気がする。さては、僕が寝ている間にミコトが『なにやら私たちに秘密にしていることがある』と告げ口をしたのか。そして、その告げ口を一番真に受けたウルルカは、やはりちょっとふざけてはいたものの腹を立てているのは確実だった。

 

 すると、次の瞬間、今度は轟音と共に壁がものすごい勢いで揺れた。ナガレとユキヒコもびっくりして言い合いを中断、こちらを向いていた。

 視線を戻すとウルルカは「にゃははは……」と笑い声を漏らす。けれどその声音はとてもふざけているというような生易しいものではなかった。周りを凍てつかせるその雰囲気に僕は一歩下がった。も、もしかして《タイガーエコーフィスト》とか壁に打ち付けましたか?


「セイっち……こう見えてガチで怒っているからね」

「は、はい!」


 直後、僕は冷や汗を流しながら背筋を正した。未だあどけなさが残る言葉だが、このままだと勢い余って脳天勝ち割られそうな一撃が来かねない。普段おとなしそうな子ほど怒ったときは怖いというのは本当だったのか。

 そうしてなぜか僕は仲間の面前にさらされる……どうして僕はこんなことになったんだろう。


 すると、次の瞬間ミコトが大っぴらに本を閉じて立ち上がった。その姿に僕は畏怖を感じた。

 何を隠そう目に見えるほどミコトの背後にメラメラと燃えるオーラが見えた。なのになぜか背筋は凍えるほど寒い。


「さぁ、いい加減にはっきりしてもらいます。先ほどもそうでしたが、セイさん……あなたは私たちに隠し事をしていますね。それを今話してください」


 ついには、ミコトは僕の視界圏内に入ってきて鋭い目つきと共に棘のある言葉を突き付けた。だとしても何も言う気にはなれない。言う気もない。それに――、


「迷惑はかけられない……」

「はっ……? では何ですか。あなたたちにとって私たちは『仲間ではない』というのですね」


 瞬間、ナガレとユキヒコが耐えきれず凍えた。気づけば緊張の糸が張り詰めたように牢の中は静けさで満ちる。僕はその中で目を見開いて顔をあげた……今なんと言いましたか? 


「仲間ではない……?」


 なぜそうなるんだ。僕がいつそんなこと言った……すると、火種を感じたのか、ノエルが宥めるように言葉を差し込んだ。


「ちょっとそういう言い方はないんじゃ……」

「過保護は黙ってください」

「なっ……」


 けれどノエルの言葉は一蹴され、それを引き金に火種は飛び火する。


「ちょっ……過保護って何よ!」

「過保護ではありませんか。実際セイさんは私たちの気持ちをないがしろにして、あなたはそれを良しとしているではありませんか」

「ま、待って。それはどういうことだ!?」


 とっさに僕は二人の間に割り込んだ……さすがにわけがわからなくなってきたからだ。僕が必要以上に責められているようだが、そんなことをした記憶は……少なくともないがしろにした覚えはなかった。

 すると、ミコトがそれを反するように目を見開いた。そして、半信半疑のように反対の牢からも声が漏れる。


「って、おい、まさか本当に気づいていないのか……」


 振り向くとナガレが目を丸くして肩身を揺らしていた……こんな暗がりでもまるで信じられないと言わんばかりに表情を露わにして。

 途端に僕の背中にえそら寒いものが通る。それは何か、自分の知らない所で何かが起きている感じに似ていた。


「だから、なんだっていうんだよ!?」


 僕は声を大にして訴えかける。次の瞬間、ミコトは溜息を吐いて「リーダーが言っていたのはこれですか」と首を振った。リーダー……つまりはホネストから何か言われたのだろうか。

 すると、僕とは違いミコトは最大限の嫌悪感を視線に乗せ、それを隠しもせず告げる。


「本当にあなたは『鈍感』なのですね、セイさん。自ら『手加減』していたことに気づかないなんて……もしくはそれが、私たちのためだ、とでも思っているのでしょうか?」


 ――え……僕が手加減をしている?

 僕は自分の掌を眺めて首を傾げた。だって実際に僕にそんな実感はない。自分のできることを一生懸命に、『いつも通り』頑張ってきたはずだ。

 しかし次の瞬間、ミコトは告げる。


「まるで、そんな気はない、と言いたげですね……でもあなたは実際ナガレさんとの朝練で証明してしまっている」


 朝練……この《アキヅキの街》に来るまでの間にした模擬線のことだ。でもそれが何だって――、


「5:3」

「え?」


 しかし、ミコトはそのねじ曲がった事実さえ矯正しようと言葉という金槌を手に取った。そして――決定的な一言を口にする。


「5:1でも、5;2でもない。5:3……あなたはナガレさんとの朝練で必ずダメージを5:3の割合にして帰ってくる」

「――――っ!?」


 直後、僕は息をのんだ。『5:3』……その言葉は楔のように僕の胸に深く突き刺さってくる。


「僕が手加減していた……? いや、そんなつもりは」


 ない……ないけど、確かに朝練の時、僕はいつも三割減らして帰ってきていた。そのHPゲージを回復してくれているミコトはそれが嫌に気味悪く思ったのだろう。ミコトはそんな僕の表情を見て顔を歪めた。


「あくまで認めないつもりですか……では教えてあげましょう。そういうのを世間一般では『見下している』というのです」

「――――っ」


 加えて追い打ちをかけるかのごとく、僕の胸は高鳴る……見下している、僕は仲間を見下している?

 次第に動悸は激しくなって、心に刺された楔は深く深く心を抉ってくる。僕は、僕は……。

 途端に、ノエルは目を吊り上げていきり立った……脳天にまで血が上っていたのか、自らの武器《クナイ・朱雀》を手に取るために忍ばせようとした――。


 ――その時だった。


「これは何の騒ぎですかな?」


 おそらくウルルカの《タイガーエコーフィスト》で気づいて降りてきたのであろうその人物が、灯りを手に通路の奥から現れる。

 高級そうなはぎ合わせの服をきたその人物は僕たちをこの牢屋へ入れた張本人。その後ろには駒にされたかの如く後をついてくるクォーツ家の現当主。そして、なによりも灯りに燈される白塗りの顔は忘れもしなかった。


「マルヴェス卿……」


 瞬間、熱くなった空気が一瞬で冷えたことに誰もが言葉を失くす。つまり誰もがマルヴェスのことを嫌悪感を通り過ぎて生理的に受け付けないようだった。



うーん、だんだん迷走してきた気がする……きちんとフラグを回収できるか不安になってきた回です。

(7/8 最後の部分だけ文を改稿しました)

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