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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第二章 1 アキヅキの街


 《パンナイル》でそんな密会があったその頃、僕たちはそんな心配をされていたとはつゆ知らず旅を続けていた。そして、ついに僕たちは《アキヅキの街》にやってきた。


「もうすぐだ! この林道を抜けたら見えるぞ!」


 滑らかな道を馬車が走る。その馬の綱を握ったナガレが声を張り上げた。それと同時に皆が馬車から外の風景を覗き見た。


「うわぁーー!!!!」


 そして、コールが目を輝かせた。

 そう、林道を抜けた先……川が複雑に絡み合い、太陽の光を受けてキラキラ光るその先に《アキヅキの街》があった。


 その名のとおり秋と月が映えるその街並みは、石畳の脇に無数の紅葉の木が植えられている情緒ある風景だった。一説には《キョウの都》を模したと言われている。秋であれば真っ赤に燃える風景に溶け込む不思議な体験ができるのだろう。


 ただ今は秋を通り越して冬。それも終わりがけだ。どちらかというと新緑がちらほらと見える程度だった。

 それでもやはり馬車から眺めた風景は風情というものを感じられた。


 その光景に僕も期待を乗せる。かかった時間は約半月とちょっとの時間。そうして時間をかけた甲斐はあったのだと。


 今日は三月一日。その日はのちに僕たちパーティにとって始まりの日になる予定だった。


     ◇


 けれど、予定は予定。

 ホネストたちの心配が当たったのか、もしくはあの『悪魔の笑み』の策略なのか、その予定は出先から崩れ、僕たちは幸先不安なスタートを迎えることになる。


 それというのも、


「いいじゃない。別に寄り道したって!!」

「何を言っているのです? 私たちの目的をお忘れですか?」


 僕の目の前でせっかくの気分をぶち壊すほどの事態が発生する。僕は、がっくり肩を落としていた。


「別に急ぎじゃないんでしょ!! せっかく半月もかけたんだから『少しだけ』観光してもいいでしょ……ミコトのわからずや!!」

「だから、私たちは遊ぶために来たわけではありません。これも任務の一環です。わからずやはどちらですか、ノエルさん……あと勝手に呼び捨てにしないでください」


 赤いおさげと緑の一つ結い。彼女たちは《アキヅキの街》の宿屋前で喧嘩を始める。

 その二人とはノエルとミコトだった。


 事の次第はこうだ。

 《アキヅキの街》に入った僕たちはひとまず馬車と積み荷を預けるために宿屋に立ち寄った。

 そうして部屋を借り受けるために僕が宿屋に出向いた時のことだ。馬車から全員が降りたあと、さっそく突然ナガレが手を上げて提案してきたそうだ。


 ――「せっかく来たんだし、観光しようぜ、観光!!」


 その言葉が引き金になってこの喧嘩は始まった。

 まずはコールが目を輝かせた。次にウルルカが「にゃはは、いいね」と笑って頷いた。その後、ノエルも少し考えた後から頷き返す。

 一方で、ミコトは真っ先に反論した……「これは遊びではない」と。しいてはユキヒコもその考えに押されミコトの意見に賛同した。


 そうして見事に分断された後、僕は戻ってきたらしい。帰ったときには熱いバトルが始まっていた。


 太陽はそんな彼女たちのバトルに白熱するかのように、珍しくさんさんと降り注いだ。うっすらとだが、背後に炎らしき蜃気楼も出てきだした。


「まったくナガレは周りを見なさすぎです。まずは用事を片づけるのが先決でしょう?」

「ああ、変なことを言うな、ユキヒコ! 別に急ぎじゃねぇんだ。少しぐらい綺麗なかわい娘を探したっていいじゃないか。いや、男ならするもんだ!!」


 ついにはナガレとユキヒコさえも伝染したかのように怒鳴り始めた。それを必死で止めようとするのはコールとウルルカ……いや、ウルルカは笑ってごまかしているだけか。


 したらば、矛先がこっちに向いてくるのは自然なことで、


「だったらこのパーティのリーダーであるセイに決めてもらいましょう!!」

「え?」


 僕は驚いて肩を震わせた。そんなノエルの言葉に、


「いいでしょう。リーダーなのだからわかっているはずです」

「ちょっ!?」


 とミコトの言葉が重なる。つまり、こちらにも喧嘩の種が飛び火してきたのだ。


 そんな二人の怒鳴り声を聞きつけて、宿屋を経営している《大地人》が心配そうにこちらを覗き始めた。

 路地を通りすがった《大地人》は変な目線でこちらを睨んでいる。その目線は「やっぱり《冒険者》だわ」「厄介ごとだわ」と言わんばかりだ。


「ふ、二人ともひとまず落ち着いて……ここから離れよう。ね?」

「落ち着いてる!」

「私は最初から落ち着いています!」


 いや、全然落ち着いていないから……僕は心の中でツッコミを入れながら一歩下がった。けれど、掌でガードしても押し返される。

 二人は火花を散らす……それはもううなされたように、さぁさぁさぁ、と。


 もしかしてこの二人、相性が悪いのか……そのことにやっと気づきながら僕はいきり立って髪の毛を逆なでる。

 考えてみれば、見るからにミコトはきちっと事をこなす几帳面な性格だ。物静かだし、読書を嗜むあたり優雅な優等生の印象を受けた。とすれば、おせっかいな性格とは相性が悪いのも裏付ける。ミコトから見たら、自ら何もせず、かといって見過ごすこともできない彼らの性格は『中途半端』と言わざる終えない。つまり、ノエルのような人は嫌っているのだ。当然、喧嘩もするだろう。

 だが、なぜ僕がこんな苦労をしないといけないのか。そもそも僕はパーティリーダーをやれるほど大きな器を持っているわけではない……さすがに僕だって喧嘩の世話を引き受けるほど面倒見がいいわけではないのだ。

 だから、


「いい加減に、しろぉぉぉおお!!!!」


 我慢の限界と言わんばかりに僕はせがむ二人の額に強烈なデコピンをお見舞いした。

 『攻撃特化』の《暗殺者》のデコピンだ。次の瞬間、《アキヅキの街》中に悲鳴がとどろいたのはもう言うまでもないだろう。


     ◇


 そうして僕たちはやっと街中へ繰り出した。


 もともと《アキヅキの街》は《パンナイルの街》にも続く大きな川の上流にあたる地域だった。そのため河川は多く、この《アキヅキの街》にも複雑に絡み合っている。上流の綺麗な水を強みに《アキヅキの街》では果物産業に力を入れているところなのだ。


 ただその分道幅が狭く、橋が密集している地域でもあった。もちろん大きな橋がそんなにたくさんあるわけでもない、たいていの橋は馬車がぎりぎり通れるかどうかの道幅である。


 その橋の一つに足音を鳴らして、僕は頬を膨らませた。その後ろから足音が六人分、パーティメンバーが後についてくる。その背筋は非常に謙っていた。

 途端に後ろから声がかかってくる。


「わりぃ、一応止めようとはしたんだがつい乗せられちまった」

「まさに、ミイラ取りがミイラになる、ですね」


 だから許して……そう頭を下げるのはナガレとユキヒコ。どうやら彼らはもう仲直りしたらしい。というか、ナガレガ言うには「これでも喧嘩はしょっちゅう」らしい。「腐れ縁ですね」とユキヒコは呟く。

 それならそれでいい。僕だってナガレたちを無理矢理従わせたくはないのだ。できる限り自由でいてほしいとも思う。


 だけど、問題はその後ろの二人組だった。

 振り向くと、今もノエルとミコトがそっぽを向いていた。ミコトに至っては歩きながら読書という器用な真似さえしている。絶対抗戦の体制だ。


 いっそのこと僕は呆れかえって溜息を吐いた。

 もはやパーティがこんなに面倒なものだとは思わなかった。今までは少人数だからどうにかやってこれたということを思い知らされた。パーティというよりグループだったのだろう。


「これだったら一人でいた方がましだ」


 そして、もう一度僕は前を向いて歩き出す。その中で川のせせらぎが涼を呼び、太陽の光を反射してきらきらと光った。まるで宝石が散りばめられているかのようだった。

 さすが《ナカスの街》に一番近い街。僕をいやしてくれるのは君たちだけか……。


 けれど、そんな時、コールが最後尾から這い上がってきた。そして、「セイさん、ちょっと……」と手招きしてそっと僕の耳に手を添える。


「私のためです」

「え?」


 そのこそこそ話に僕は聞き耳を立てた。コールは申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。


「あの、もともとセイさんたちは私に《トオノミ地方》を見せるために旅を始めようとしていました。それをノエルさんは覚えていて……」

「……」


 僕はつい、ノエルに視線を向けた。そして、納得したように頷いた。

 なるほど。確かに半月前、バレンタインデーの騒動を片づけた僕たちは、正式に仲間になったコールのために旅に出ようとしていた。ずっと幽閉されていたコールに世界を知ってもらうために《トオノミ地方》を案内しようとしていたのだ。

 結局ホネストが現れてそのお株は《第三分室》に取られたわけだが、ノエルだけはどうにかしてその目的を叶えようとしていたらしい。


「何よ」


 すると、ノエルが僕の視線に気づいて睨んだ。そんなノエルに近づいて僕はそっと頭を撫ぜた。


「別に。ただ、うん……すごく素直じゃないノエルらしいやり方だなって」


 仕方ない。今回は許してあげよう……冗談交じりでそう呟くと頭を撫ぜるノエルは顔を真っ赤に染めて声を張り上げそうになった。


「少し詰めてもらえないかしら?」


 でも結局声は出せなかった。その前にパーティの背後から声がかけられたのだ。


 全員が振り返ると、そこには顔をフードで隠した《大地人》の女性がいた。他にも体形をごまかすようなぶかぶかな服を着ていたが、その細身の身体は隠しきれなかったようだ。いかにもお淑やかな雰囲気を放っている。

 しかし、実際はそうではないらしい……その口調は強気だった。


「聞こえなかったのかしら? それとも耳が腐っているのかしら? 道幅が狭いので通れないの」


 そんな挑戦的な口調にいち早く反応するのが、ノエルだった。


「ちょっと、何よその言い方」

「あああ!! ごめんなさい、すぐどきます!」


 相変わらず、頭に血が上っていると暴走するノエルの口を、僕はとっさに掌で塞いで端に寄る。何気に僕たちが道を塞いでいたのは確かだった。それを肯定するかのように皆一歩下がる。

 途端に《大地人》の女性は頭を下げることなく歩を進める。そして、僕の真横を通り過ぎた。


 ――あれ、でもよく見たらあの服って……。


 見間違い……いや、違う。視線を追うと女性が着ていた服は間違いなく鼠色と灰色の服だった。

 そんな彼女は橋を渡って北東へと進む。その先には《アキヅキの街》の領主、クォーツ邸があった。

 刹那、ノエルは僕の掌から這い出て呟いた。


「セイ、あれって」

「うん、《供贄の一族》だ」


 僕は頷く……珍しいな、と。

 《供贄の一族》とは、セルデシアのシステム、もとい《幻想の忘れ形見ファンタズマル》と呼ばれる魔法具を守っている一族だ。街をモンスターから守る『結界』や《冒険者》に制裁を与える『衛兵』は全部《供贄の一族》が管理していて、コールも《供贄の一族》によって幽閉されていた。

 しかし、彼らはこんなところにも現れるのか? 

 ここはあくまでも《大地人》の街。《冒険者》の街であれば『衛兵』や、《冒険者》の荷物を預かる『銀行』でお目にかかることはあるだろうけど。


 そんな時、後ろに控えていたコールが首を傾げた。


「あれ? あれってもしかして『アミュレット』……?」


 刹那、コールは角を曲がって消えた女性を追いかけていきなり走り出す。


「って、ちょっと待ってコール!!」


 ――喧嘩の次は単独行動ですか!?

 僕は「もうどうにでもなれ!!」とコールの後を追って走り出す。そんな僕を追って仲間も北東へ走り出した。


「……」


 そんな中、傍観に徹していたミコトは僕たちを見て、いい加減にしてと言わんばかりにうっとおしく溜息をついた。



うまく綴れなくて遅くなりました。ごめんなさい。

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