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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第一章 5 騒がしい仲間たち


 そうして半月が経った今、僕たちはここにいる……この《カゲトモ街道》に。

 街道では朝日が上がったということでちらほらと行商人が行きかい始めていた。


 そんな中、僕たちは朝練を終え、片づけも終えて街道に戻ってきている。そして、すれ違う行商人の《大地人》に挨拶をしながら少し歩いていた。

 馬車の音、草のにおい……日がさんさんと降り注ぐ中、僕は背伸びをする。そろそろ冬も終わりかもしれない。太陽はゆっくりと僕たちを照らし出す。


 あ……その時、僕はひらめいて、巻き付けてあるサイドバックから一枚の手紙を取り出した。宛先も宛名もないその真っ白い封筒を陽の光にかざしてみる。

 すると、白い封筒が透けて中身の影が映し出された。でも特に数枚の便箋しか入っていない。


 ――んー、結局なんなんだろうこの手紙は?


 僕は、この旅の目的でもあるホネストからの預かりものを握りなおしながら思い返す。


 ――『出発は、そうですね……仲間との顔見せもありますし、一週間後にしますか』


 ホネストのその言葉から察するに、急ぎの用件、というわけではないらしい。僕たちも彼がそういったため一週間経ったのちに出発した。

 そうなるとやっぱり中身が気になる。あの『悪魔の笑み』を浮かべるホネストだ……何か裏がある気がして、胸の奥がむずむずするような、寒気がするような、そんな気分になってしまう。


「いっそのこと開けちまおうぜ!!」


 すると、隣から声がかけられた。

 隣にはノエルに抱かれたままのナガレがいる……というか、いつまでその恰好でいるのだろう? ちょっとシュールに思えてくる。

 そんなかわいそうなナガレが小手に包まれた手を伸ばしてきた。どうやら今の心情がそのまま顔に出てしまったようだ。


「って、駄目だよ! これは《アキヅキの街》の領主さん宛てなんだから!!」


 僕はとっさに手紙を遠ざけた。


 そう、これは《アキヅキの街》に届けるように言われた大事な手紙だ。例え差出人が『悪魔の笑み』を持つホネストでも、その届け物である手紙を、あたかも『気になる』という理由だけで封を開ける、なんていうのはご法度だろう。

 そうじゃなくても勝手に手紙の中を見られて気分がいい人なんていない。


 けれどナガレはなめずるように「そんな固いこと言うなよぉー、俺も気になるんだからさぁ、なぁなぁ……」と気持ち悪い声を上げてあきらめない。手足を伸ばしてバタバタ暴れる。

 そして、


「やかましい!」


 偶然蹴りがノエルに入り、今日三度目の「ぐわし!!」……じゃなくて、チョップがナガレの頭に直撃した。ナガレは空気が抜けた浮き輪のごとく縮んでいく……心なしか直撃したところから湯気のようなエフェクトがみえた……い、痛そうだ。


「でも、懲りてないんだろうね」

「……任せろ。これが、おれ、だ……」


 バタンキュー。そして、ナガレは倒れた。


 ……というふりをする。

 ご丁寧に効果音まで口にしたのだ。さすがに誰でもそれが偽装だとわかる。


 そんな彼にノエルは頭を抱えて溜息を吐いた……手のかかる子がまた一人増えた、と思っているのだろうか。

 そう、何を隠そうホネストの差し向けた仲間の一人がナガレだった。


 そんな彼はいつもふざけたことを言って僕たちにちょっかいを出してくる。

 けれど意外と僕はこういう雰囲気も嫌いではないらしい。パァッ、と空気が明るくなるのが手に取るように感じられて、自然と笑みがこぼれた。足取りも軽くなる。


 その笑い声を耳にするとナガレはこっそり『してやったり』とガッツポーズをした。


「ぐわし!?」


 とその時、ノエルがもう一発ナガレにチョップをした。途端にナガレが頭を押さえ、目を丸くしてノエルに振り返る……今なぜ叩かれたのか、と。

 ノエルはそんな彼に視線を逸らしながら「なんとなく」とだけ答えた。


「……おまえ、もしかしてセイの事が――」

「……」

「でも、まさかナガレが《第三分室》に入っていたなんて驚きだよ! ……ん、どうかした?」


 もちろんそんな事があったなんて僕は知らなくて、振り向いた先で突然の沈黙が起きたことに首を傾げた。

 すると、ナガレは「いや、なんでもねぇ……まぁ、俺は罪づくりな男だからな!!」といきなりガハハハと大声で笑い出した。そして、またノエルの脇で暴れだす。

 されど、ノエルは今度にいたっては何もせず、そのまま歩き出した……いったい何なのかわからない。けれど、僕もあとをついていく。


「でもな、俺もびっくりしたぜ。まさか半月前に助太刀したやつまで《第三分室》に入ってくるなんてな……」


 すると、ナガレは遠い過去を考えに耽るように虚空をみつめた。

 言われてみれば確かにこうして一緒に旅をしていると『縁』のようなものを感じずにはいられなかった。


 半月前……《ナカスの街》でコールが《六傾姫》の生まれ変わりだとわかり《六傾姫》の力が暴発したあの騒動の際、レイドモンスターが発生して僕たちが襲われそうになったところをナガレが助太刀してくれた。

 あれからすぐに別れてさようならだったのが、またこうして巡り合えたのだから腐れ縁があるのではないかと感慨深くなる。


 ――そういえば、あの時助けてもらったお礼をしていなかった……これを機に『ありがとう』を言おう。


 だけど、いざ口を開こうとした時、


「ま、あんな綺麗なかわい娘ちゃんがいるってわかれば、嫌でも《第三分室》に入るわな!!!!」


 ……またナガレが懲りずにやらかす。

 それから、ガハハハ、と笑うナガレはある意味勇者なのかもしれない。あれだけ叩かれたというのに、よく煩悩を隠すことなく露わにできるものだ……《お触り禁止》の異名を譲渡してあげたいほどに。

 おかげで僕は必要以上に謙虚にならず済んでいるのだが、それでも冷たい目線をナガレに向けた――。


「――って、まさかナガレが僕たちのパーティに入ったのも!?」

「おう! その方が『男として』の旨みがあると思ってな!」


 刹那、ナガレが瞳をキラリと輝かせた。


 ――……。

 なんとも筆舌に尽くし難し。つまりナガレは女に釣られてやってきたのだ。

 けれど、なんだか深い理由があるよりかは納得できた気がした。

 それというのも、


「お、噂をすれば帰ってきたぜ! 俺のマイ・スイート・ホーム!!!!」


 ナガレが鼻を伸ばして両手を向けた先……ホネストが僕たちのために用意してくれていた馬車に見知った《冒険者》たちがいたからだ。


 そこではナガレが惹かれてやまない巫女姿の《神祇官》が読書をしており、虎姿の《武闘家》が自ら食卓の準備をしていた。馬車の荷台では《森呪遣いドルイド》が蔓が巻き付いた槍を手入れをしている……。


「あ! おかえりなさい、セイさん!!!」


 そして、朝ごはんの準備をしていたコールがこちらに気づいてフライパンを片手に手を振ってくる。

 同時に全員がこちらに視線を向けた……パーティリーダーへと。


 そう、言わずもがなそこにいたのはホネストが人選してくれた『仲間』……半月前、ナガレと共にレイドモンスターに襲われる際に突然助太刀してくれた面々だった。


     ◇


 その中に帰ってきた僕はさっそくパーティメンバーに振り回されることになる。


 それというのも、馬車に戻ってきた途端、《森呪遣い》の《冒険者》が絶句して顔を真っ青にして手入れしていた蔓の巻き付いた槍を落としたのだ。

 それから目の前に黒髪が迫ってくるまで、そう時間はかからなかった《森呪遣い》は自ら着用している新緑のような鮮やかな緑色のローブを翻してひたすら、何度も、何度も、頭を下げる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! またナガレがご迷惑をかけたようで本当に申し訳ありません!」


 どうやらノエルに抱きかかえられたナガレをシュールに思ったようだ……槍を落とすほどだから相当な衝撃だったのだろう。うん、その気持ちはわかる。だけど、


「ごめんなさい、ごめんなさい、僕がきちんと監督しないといけないのにごめんなさい」

「だ、大丈夫ですから、そんなに謝らないでください。ユキヒコさん」


 僕は一歩引いて、身振り手振りで平気なことを表そうとした。


 そう、《森呪遣い》の名は『ユキヒコ』。ナガレの相棒であり、監督役のような風格を持った青年だった。というのも誰よりも背が高く、低い声音と言葉づかいからわかるように年齢も二十歳前後とすぐに見当が付いた。パーティの中で一番の年長者だろう。


 だけど、そんな彼は少し腰が低すぎるのが欠点だった。

 もうそれはそれは、身に着けている服《新緑のローブ》が地面につくまで頭を下げて、普段でも垂れ目なのにさらに八の字のごとく目を細めている……そんなに謙らなくても怒らないですよ。


「いえ、そんな!! 滅相もない……むしろナガレがこんな子でごめんなさい!」


 と思ったのだが、約一人謙らない人間もいたらしい。


「……って、おい。何気にけなしてきているだろ、ユキヒコ」


 途端に額に青筋を浮かべたナガレは今までエスコートしてきたノエルの腕から這い出た。腹に力を込めてひょいと抜け出す。

 そんなナガレにユキヒコは上から目線で言いつける。


「当たり前だ。頼むからあなたはもう少し落ち着きを持ってください。いつも破廉恥なこと言って、頭を悩ませているのはこっちなんですから」


 そして、ユキヒコが見るからに額に手を当てると、ナガレは拳を鳴らしながら背後にメラメラと熱気を漂わせる。


「ほほーう、言うようになったな……キングオブ地味のくせに」


 なっ、なんということを……僕は恐れ知らずのナガレに目を丸くした。

 まぁ、確かに《新緑のローブ》は単調で目立たないし、髪形も普通の短髪で、影も薄くて、たまにどこにいるのかわからなくなるし……、


 ――……。


 だ、だとしてもあんまりにひどい言い方である……けっして僕もそう思っているわけではない。


「……地味」


 すると、それを証明するかのようにユキヒコは重苦しい声で呻きながら馬車の荷台に向かった。そのまま落としたままだった蔓の巻き付いた槍《精霊樹の槍》を持ち出した。


「……そうですか、地味ですか、そうですよね、僕なんて一般人より低位置でしょうねぇ……こんな僕に倒されるあなたはもっと惨めに……フフフ」


 ――ほら、なんか変なヤル気スイッチが入っちゃったよ!?


 僕は慌てた。ユキヒコの背後にも黒い靄みたいなオーラが現れ、なぜか二人の間で火花が散り始めている。これは止めた方がいいのか?


 だけどノエルが僕の耳を引っ張って食卓へと連れ出した……って、いたっ、いたたた。


「何するのさ、ノエル!!」

「セイはちょっかい出しすぎ。あれは単にじゃれてるだけだから」


 え、そうなの……僕は振り返ると、確かにナガレとユキヒコは楽しそうに顔をにやつかせていた。僕にはわからないが、ノエルの言うとおりらしい……何か男の友情のようなものがあるのかもしれない。


「それよりパーティリーダーは中央でじっと構えてて」


 そうしてノエルに食卓の中央へとエスコートされると今度はコールが声をかけてきた。


「すみません! 料理を並べますので誰かお皿を取ってきてください!!」

「あ、それなら私が行くわ!」


 その言葉に反応して、ノエルはそのまま簡易厨房の方へと走っていく。

 そして、代わりにぴょんとウサギのように現れたのは、自ら机を準備していた《武闘家》の少女だった。

 だけどその恰好はウサギのようにかわいらしいものではなかった。


 ほどよく焼けた黒い肌が視界に映る。

 いわゆる、へそ出し、肩出し、というものだろう……短いベストの上には薄い革鎧がはめられているだけの露出度の高い革鎧《白虎の革鎧》を彼女は好んで着ていた。その恰好は防御というよりはむしろ煩悩を誘っているかのよう。

 その上で彼女は僕の席の隣にそっと座って肩を寄せてくる……そしてアクセサリー《猫猫にゃんにゃんセット(虎柄)》という猫耳と尻尾をうまく利用して、じゃれてほしそうな猫の声まねまでした。


「にゃぁぁ、ゴロゴロしてほしいにゃぁぁ」


 きっとナガレだったら鼻血を出すだろう行為に僕は溜息を吐いた。すると、途端に彼女は一気に雰囲気を変えて「にゃははは」と笑いながら、黄色い髪をたなびかせた。


「にゃははは。やっぱりセイっちには色気は通じないか!!」


 その雰囲気は一転して明るくあかぬけたものになる。色気よりも食い気というか……もしすぐに猫の喉元をさすってあげる『ゴロゴロ』をしていたら、逆に嚙み千切られていたかもしれない。


「……通じてどうするんですか? ウルルカさん」


 僕はそんな猫と思いきや虎のような彼女の名を口にして訊ねた。

 彼女の名は『ウルルカちゃん』……あくまで『ちゃん』までが名前だが、わけがわからなくなるので僕は普通に呼んでいた。

 その『ウルルカちゃん』は「はて?」と首を傾げる。


「確かにそうだね、にゃははは」


 その言葉に僕は、がっくしと肩を落とす……この人は何も考えていないのではないだろうか。仕舞いにはまた独特な笑いを見せるほどだ。


 だけどこんなウルルカも、僕より年上なのだそうだ。背は僕より低いが初の顔見せの際にはっきりと「十八歳です!」と公言した。つまりは僕より二歳上……現実世界では女子高生なのだ。

 ともあれば敬いの念は一応持つべきだろう。その時、


「あ、でもその『さん』付けはよくないなぁ」


 と、ウルルカは尻尾をぴんと伸ばして、わざと眉間に皺を寄せて険しい顔をした。どうやら今の僕の顔に似せているらしい。


「こんな強面の顔してたら、ホネストっちに笑われちゃうよ。はい、スマイル! スマイル!!」


 そして、即座に頬を引っ張られ、無理矢理に皺を伸ばされる。


 しかし、ウルルカの言う通り、確かに仲間に対してあまり尊敬すぎるのもいけないかもしれない……ちょうどその見本であるユキヒコがナガレに滅多打ちにされている場面が視界に入り、僕は頷いた。

 その視界の端でユキヒコが悔しそうに地面にぐるぐる『の』の字を掻きだし始める……その絵面は地味にかっこ悪かった。


 そうとは知らず、ウルルカは満足そうに頷くと頬を離す。


「そーーし、それじゃ練習がてらうちのこともウルルカちゃんと呼ぼう!」


 僕は目を点にする……それは何か意味があるのだろうか。

 しかし、すぐさまウルルカが「さん、はい!」と前ふりしてきたために僕は勢いで言ってしまった……、


「う、ウルルカ……ちゃん」


 と。

 あとから思えばなんと軽率な行動だったのだろう。次の瞬間、悔し涙を流すその行為に、ウルルカは即立ち……顔を真っ赤にさせて自らの身体をくねくねさせた。

 その動作は腹に手を添わせ、胸を持ち上げ……なんというかこれ見よがしに色気をみせつけている。


「んー! 年下に『ちゃん』付けなんて刺激的!!」

「…………」


 ――この人は本当に十八歳だよね……?

 その異様な光景に僕はもう理解不能で、頭の中は疑問符で埋め尽くされるほどに機能不全を起こしそうだった。だいたいなぜこんなに身をよじらせているのだろう……これではまるで僕が変態みたいに――。


「……っ!!」


 刹那、僕は周りを見た。背筋に寒気を感じたからだ。そして、寒気を感じた方向へ顔を向けると、食卓の端で読書中だった巫女姿の《神祇官》が本を盾にじっとこちらを見ていた。


 えっと、その《神祇官》の名は……そう『ミコト』だ。

 僕は彼女の名前を思い出して両手を合わせた。どうやら《エルダーテイル》が初めてのゲームだったらしく、そのまま現実世界の本名をプレイヤーネームとして打ち込んでしまったらしい。


 そんなミコトは《エルフ》に巫女姿という異色の《冒険者》だった。だけど、その出で立ちは意外にも儚さと優美さを兼ね備えている。

 緑色の長髪を一つにして紐で結んでいる恰好は清楚で、《木花咲耶の羽衣》という桜色の上着とも相性がいい。まさに清純派巫女さんだった。


 だけどそんな彼女が今僕を窺わしい目線でにらみつけている。


「あ、あのぉ……」


 すっ――僕が声をかけると、ミコトはまるで水面移動したかのように椅子ごと一歩後ろに引いた。


「え、えっと……」


 そして、また一歩遠退く……これは間違いない。途端にミコトは口元を本で隠しながら、嫌悪感を声に乗せて言う。


「……来ないでください、変態」


 ――やっぱりか!?


 僕は顔を真っ青にして驚愕した。どうやらミコトは先ほどのウルルカとの談話を勘違いしたようだ。

 いや落ち着け、僕。ウルルカに事情を説明してもらえばいいんだ。


「……って、いないよ!!!!」


 そう思って振り返ってみると、身体をくねらせていたウルルカが音もなく影も形も消えていた。《暗殺者》でもびっくりする隠密行動である。

 というか、どこ行ったんだ!? このままでは僕はそっくりそのまま……。


「女ったらし」


 ぐはっ……途端にミコトの言葉がぐさりと僕の心を抉ってきた。そして、そのままじと目で怪しげにこちらを警戒する……ええ、言葉にしなくてもわかります。『触られずに倒されるから《お触り禁止》だと聞いていたけど、もしかして本当に女ったらしの面もあるのではないか』と思っていらっしゃるんですよね。違いますからね。

 でもそれを説明してくれるウルルカは気配を消して隠れている。


 ――……はっ、まさかはめられたのか!?


 僕はそのことに気づいて食卓に両手をついた。

 ウルルカとミコトは一緒に組んでいた事もあって仲がいい……半月前にも絶妙なコンビネーションで僕たちを助けてくれたんだ。もしかしたらミコトに『男』という悪い虫がつかないように仕組んだのかもしれない……あ、あり得る。


 ――色気よりも食い気……ウルルカの色気には食いつかなかったが、良いように手玉に取られたというのか……。


 刹那、うっすら「……にゃははは」と笑う声が聞こえた……うぬぅ、恐るべし女子高生。

 そして、ミコトも避難するように僕から遠ざかっていく。くそぅ……なぜかいろんな意味で負けた気がして僕はがっくり肩を落とした。


 その様子を、皿に料理を乗せて持ってきたノエルが冷たい視線でみつめていた。


「……セイはなにをやりたいの?」


 僕が聞きたいぐらいだった……。


     ◇


 と、こんな騒がしいパーティではあるのだが、全体的に見れば充分と言えるほど頼もしい仲間だった。


「それでは」

「「「「いただきます!」」」」


 料理が食卓に並びこうしてみんなでそれを囲むとさらに謙虚になる。《戦士職》が三人、《回復職》が二人……彼らが並んで座れば少しは威厳というものが見て取れる。特に後衛もできる《森呪遣い》がいるのはアドバンテージが高い。


 それに加え僕たちには《供贄の巫女コール》がいる。


「みなさん、ゆっくり食べてくださいね」


 もちろん無用な詮索を避けるためにそれを仲間に言うわけにはいかない。ノエルとコールにも相談したが、話しても作戦に混乱を生むだけでいいことは何もないのだ。

 だから、コールの事は『僕たちが雇っているお世話役』として通していこうと決めた。


「うめぇ……毎度ながらうめぇよ、コールちゃん」


 そんな中、目玉焼きに、サラダにと箸を突き刺して口に含むとナガレが毎度のことながら大げさにコールをほめた。

 すると、コールはお盆でにやける顔を隠しながら、「いえ」、「そんな」とか謙遜をする。


 でもその気持ちは分からなくはない……シャキシャキのサラダは歯ごたえ充分。その触感を味わいながら皆、首を縦に振った。


 このセルデシアの世界では『料理』は《料理人》というサブ職業が必要とされている。《料理人》が食材を自ら調理することでやっと『料理』というものができるのだ……もし、そうでなければ何かわけのわからない紫色の謎の物体になり、とてもじゃないけど食べれない。


 他にも《冒険者》によるメニュー画面からの調理も可能だが、できた料理はハリボテに近く、味気がない……だからこそもうこの世界ではサブ職業《料理人》はかかせない存在だった。そして、このパーティで『コールを雇っている』という嘘が通用するわけだ。


 けれど次の瞬間、ユキヒコが首を傾げた


「でも、不思議ですねぇ……《料理人》ではないのに作れてしまうなんて」


 刹那、僕は呑み込もうとした野菜を喉に詰まらせてせき込んだ。

 そんな中、慌ててコールがお水を汲んで持ってくる。と同時にナガレがユキヒコの背中をたたいた。


「おいおい、そりゃ珍しいけど、最近じゃ《大地人》でも根性で作ったっていう話は聞くし、コールちゃんに限ったことじゃないだろう!」


 そして、コールが持ってきた水で全てを飲み込むと、僕はほっと一息ついた。

 そうだった、最近ではその『《料理人》しか作れない料理』という概念も変わってきているらしいのだ。ナガレたちが言っていたように簡単な朝食であれば『誰でも作れる』ようになってきたという。実際に《ナカスの街》では《大地人》によるレストランも増えてきている。


 すると、ユキヒコは納得したような、しないような、微妙な気分でサラダを口にほうる。そして、シャキシャキな触感に舌づつみした。

 こうして僕たちの嘘はどうにか仲間に浸透している。


 だからなのか、刹那少しばかりの罪悪感が胸の奥でチクチクと疼く。それでも仲間に余計な迷惑をかけなくていいと思えば仕方ないことだった。


 ――そう、仕方がない事。だからその分僕がしっかりしないと……。


「セイさん……?」


 すると、コールが心配して視線を向ける。いけない、いけない、どうやらまた感情が顔に出てしまったようだ……これではすぐに嘘を見破られてしまう。

 それを腐食するためにも僕はにっこり笑って目の前の目玉焼きにかぶりついた。


「お、いいねぇ……んじゃ、俺も!」


 すると、ナガレが張り合いだして、同様にかぶりつく。


 こうしてなぜか早食い競争が勃発した食卓を僕は『これでいいんだ』と眺め続けた……パーティが和気あいあいとすればそれに越したことはないと。


「……」


 だけど、気づいていなかった……そんな僕に向けて、嫌悪感を乗せたミコトの瞳がじっとみつめていたことに。



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