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ログ・ホライズン二次小説 『お触り禁止と供贄の巫女』  作者: 暇したい猫(桜)
第二幕 『置き去り組パーティの結成』
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第一章 3 歓待


「……器物破損」

「おっと……」


 その時、ホネストの隣でずっと控えていた疾風が注意し、ホネストは悪魔の笑みを消した。そして、再び作り笑顔を浮かべる。

 僕はその早変わりに度肝を抜かれる……いや、むしろ疾風が喋れたことに驚いたかもしれない。

 だって今まで『うん』とも『はい』とも言わなかったのだ……何か理由でもあるのかと思ってしまった。


 そんな疾風が面倒くさそうに鋭い目つき突きつける。すると、ホネストは申し訳なさそうに後ずさりした。

 あの『悪魔の笑み』を見せるホネストにも苦手なものがあるのだと、僕は純粋に目を丸くした。


 そんな意外そうな表情を浮かべる僕をホネストは一瞥するかの如く睨むと、掌に残っているガラスを軽く外にはたきながら、『ゴホン』と咳払いした。


「……何はともあれだ。これでやっと最初の質問に答えられるわけだ」

「最初の質問……?」


 その言葉を経て、吠えていたノエルが現実に戻ってきた。けれど話が長くなってしまったせいか、話の主題を忘れてしまったらしい。

 僕は溜息を吐きながら言葉を紡いだ。


「……僕たちがなぜ《アライアンス第三分室》に入らなければいけないのか、ですよね」


 すると、ノエルは思い出したのか、顔を背けつつ首を縦に振った。「忘れてないわよ、本当よ!」と言う彼女だが、その表情には『そういえばそうだったわね』という言葉が張られている。

 僕は、やれやれ、と肩をすくめた……なぜかノエルの頭に血が上ると立場が逆転しているんだよな。どうしてだろう?


 そんな様子を眺めていたホネストはもう一度自らの席に座ると感想を述べた。


「その様子だと、《お触り禁止》はもう推測できたということかな?」

「……」


 僕はただ黙したまま顔を背けた……それは肯定と同じ意味だった。

 同時にノエルは「えっ」と声を張り上げる。


 だけど、そんなに驚くほど難しい話でもなかったはずだ。

 先ほどの話……《アライアンス第三分室》が《ナカス》の自治を復活させたい事や、《トオノミ地方》が補給地として《Plant hwyaden》の都合のいいように扱われている件を聞けば、もう誰だって予想はつく。

 要は、


「……このまま《Plant hwyaden》を野放しにすれば、コールは狙われるかもしれない、と言うことですよね」

「――――っ!?」


 瞬間、ノエルが事の重大さに息をのんだ。

 一方、コールは僕と同様これからどういう状況になるのか予想できていたようだ……ただ絶句して顔を俯かせていた。


 それを肌で感じたのか、ノエルは額に冷や汗を流し、事態が呑み込めずに焦る。


「ちょっ、ちょっと待って! どういうこと!? だってコールは……コールはただの《大地人》でしょ! そんな狙われる理由なんて」

「――あるよ……コールには《六傾姫》の力があるから」

「……それって、まさか」


 途端にノエルは肩を震わせて僕の方を向いた。その表情には、急に得体のしれない何かに首元を触られるような忌避感がにじみ出ている。

 きっと彼女もその言葉で想像ができたのだろう……次に誰がどういう言葉を出すのか。


 そして、その予想通りホネストが言葉を綴る。


「……つまり、純粋に物資を独り占めしたい《Plant hwyaden》にとって、コールさんの『どんなアイテムでも作り出せる《六傾姫》の力』は『うってつけの道具』ということです。まさに彼らには喉から手が出るほどのレアドロップ品――『《幻想級》アイテム』だ」


 刹那、ノエルは殺気立った。だけどそれをホネストに向けるのは間違っているだろう。

 僕は目線で我慢するようにノエルに言った。言い方は悪いが、ホネストは事実を言っているだけに過ぎない。むしろ、ここでしらを切るのは『現実を見ない』と同義になってしまう。


 すると、それを感じていたのかノエルは「うぅ――」と唸りながらもじっと我慢してくれた。

 そしてホネストも敵意があるわけではないようだ。彼は僕たちが怒りの矛先を治めるのを待ったのちに口を開く。


 そうして話題は誰も踏み入ろうとしない領域に踏み込んだ。


「もし、彼らに捕まれば……想像できるとは思いますが、『幽閉』は間違いないだろうでしょう」


 コールの瞳孔が大きく開く。

 無理もない……彼女は『供贄の巫女』として生まれてきたために、ほんの半月前まで《供贄の一族》によって幽閉されてきた。

 そこからやっとのことで逃げ出して、自由を掴んだのが半月前のこと……あれからまだ半月しか経っていないのだ。その頃のつらい想いは抜けきっていなくても仕方がない。


 だというのに――――。


「加えて、今度は身の保証もないと思うべきです」


 ホネストの容赦ない言葉に僕はつい、ビクッ、と肩を震わせた。わかっていても止められないかった。


 そう、《供贄の一族》と違い、《Plant hwyaden》は何をしてくるかわからないのだ。


 半月前……コールを幽閉していた《供贄の一族》は、まだ身内の問題で情があった。だからこそ……言葉は悪いが、殺さずに、またはひどい仕打ちはせずにいたのだ。言い換えれば『外敵から守るため』に幽閉をしていた。


 だが、《Plant hwyaden》は立場が違う。完全なる主従関係に近い。

 そこから導き出される状況は、ただ一つ。『アイテム製造機』としてコールが閉じ込められる情景だけ。

 そこに情はなく、『守る』という観点もない。言うことを聞かない機械はそのまま放置され、さびて、壊れるのが性……そんなところにコールを置いていくわけにはいかない。

 だけど、


「……このまま《Plant hwyaden》を野放しにすれば彼らはいずれ本格的に《ナカスの街》を拠点に《トオノミ地方》を完全に制圧しに来る」

「ええ、間違いないでしょう……」


 ホネストはその未来予想図に同意した。そして、深刻な面持ちで頬杖を組んだ。


「ただでさえ邪魔なのに、さらに大軍で来られた日には《ナカス》は絶対的な数の差で取り返すチャンスさえなくなる。同時にコールさんの事も知られることになるでしょう……『闘技大会』であれだけ派手に立ち回り、噂になったほどですから」


 途端にノエルが慌てて椅子から立ち上がった。


「待ってよ!! そうしたら、《Plant hwyaden》に取り囲まれて私たちは――」

「――コールを守れないどころか、倒される」


 そして、僕はノエルの言葉を肩代わりするかのように呟いた。 

 刹那、ノエルは予想以上に最悪な状況に立ちくらみを起こし、逆にコールは顔を上げる。その表情には『また私なの?』と自虐の色を浮かばせていた。


 だけど、ホネストはそこで一つの光明を持ち込む。


「さて、ここで提案です。僕たち《アライアンス第三分室》に入ってもらえませんか?」


 それは一つの予防線のように、ホネストは口に乗って語られる。


「僕たちは今、ある《ナカス》奪還作戦を決行しようとしています。ですが、それには君たち《お触り禁止》一行の力が必要です」


 そして、「もちろんただではありません」と付け加えたホネストは指を折りながら口を滑らす。


 一つ、《アライアンス第三分室》に入れば《トオノミ地方》に点在する拠点を隠れ蓑にできること……これにより食料も調達できることになる。


 一つ、《アライアンス第三分室》を抑止力の一つに使えること……それにより半月前に『燃えるが山のごとく』ともめたような荒事の数を少なくすることができるだろう、と。


「……それにどうやら《お触り禁止》は、助けがあらば自ら飛び込むタイプの人間のようですし、悪い条件ではないかと思いますよ」

「……」


 にっこり笑いかけるホネストに僕は何も言えなくて目を逸らす。的を射すぎていて反論ができない……って、ノエルはそこで『うん、うん』と首を縦に振らないで。


 そんな僕たちに対して、ホネストは『最後の一つ』と言わんばかりに中指を折った。


「そして、もちろん『仲間』ですからその他の援助は惜しみません…………もし、コールさんが狙われる状況に陥れば《アライアンス第三分室》の全力を持ってこれを打破します」


 その力強い言葉に僕は気圧される。

 なぜなら、ホネストは実際に《アライアンス第三分室》を動かして、半月前の騒動にあたってくれた。今更その言葉に嘘はないだろう。


 そして、僕たちにその申し出を断る理由もない。


 ――『結局、君たちは《アライアンス第三分室》に入ることになる』ってこういうことか……。


 まるで未来を見てきたかのような言葉を思い出しながらも、僕はノエルに視線を向ける。

 ノエルもノエルで考えるところがあったらしく、『まぁ、仕方ない』と悔しいながらも首を縦に振る。

 あとは――。


「私の事は気にしないでください」


 刹那、一足先にコールはそう断言した。

 振り向けば、彼女は瞳の奥底にしっかりした意思を携えて頷き返していた。

 その瞳を一番意外そうに眺めたのが、ホネストだった。


「意外ですね。僕はてっきり『また私のせいで』とか言い出すのかと思いましたが……」


 すると、コールはホネストに向かって笑みを見せ、嫌味を突き返す。


「それはもうしないって決めましたから」


 その笑みは未だカチコチで、ひきつっているのがばればれだったのだが、僕とノエルは驚いた。

 バレンタインデーでは自虐に満ちていたはずのコールが、ここまで力強く我を通したのは初めてだったからだ。その嬉しさは涙腺を刺激し、つい瞼に涙を浮かばせてしなうほどである。


 とその時、ホネストが指をはじいて合図を出す。

 すると、《狼牙族》の《冒険者》がノエルに近づいて手首の縄をナイフで引きちぎり始めた。僕の方には《エルフ》の《冒険者》が背後について縄をほどきにかかる。


 一方で《ドワーフ》の《冒険者》が部屋の外から武器一式を取り出してきた。

 二対一体のクナイ《クナイ・朱雀》に、蒼色の筋が通った《迅速豪剣》……間違いなく僕たちの武器だった。


 それを受け取った僕たちはホネストに視線を向けた。

 ホネストは「もう縛る必要もないでしょう」と前置きして背筋を正す。

 そして、


「改めて言いましょう。まずは《アライアンス第三分室》にようこそ、《お触り禁止》一行殿。僕たちは君たちを歓待するよ」


 僕たちはやっとのことで《アライアンス第三分室》の末端に名を刻むことになった。



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