貴方に会いたくて
最後までおつきあい下さい
火の手が徐々に近づいてくるのを私はただ見つめておりました。
私は地上の様子を見守り天界に報告する仙人の一人です。
樹仙の一人である私はこの辺りの木々は私の分身であり、その木々で地上を見守ってきました。
今の火の海になりつつある状態も天界には報告し、戻るように言われてましたが私はその命を無視しました。
このまま炎が木々を燃やし尽くせば私の仙としての力はなくなり、ただの人となるでしょう。
そしてただの人となりそのまま私は死を迎えたいのです。
仙人は不老ではありますが、不死ではありません。
仙のまま命を落とせば、もう一度仙として生まれ変われますが、人となれば仙として生まれることはなく人として地上で生まれ変わります。
私は仙として生まれ変わるのではなく人として生きたい為に、帰還命令を無視したのです。
今でも思い出すあの懐かしい日々。
地上時間で数百年前。
「月天様!!隠し子がいるって本当ですの?!」
私が天界の一角にある執務室の扉を開けながら言うと、中で書類と格闘していた青年が冷たい視線をこちらに投げてきました。
「樹鈴様、そうなのです。私達の知らない間にお子様がいらしたのです」
「まぁ!!蒼翠様本当ですの?私と言う者がありながらひどいですわ!!」
「全くです。私にも一言もないとは・・・・」
「・・・」
「つれないですわ、月影」
私達のやりとりに冷たい目で見てくる月影に私は溜息をつき、蒼翠様は苦笑しておりました。
「冗談はさておき、どんな子ですの?」
「明るい元気な子ですよ、今は紅蓮と散歩に出ております」
「それにしても月影が子供を引き取るなんて嵐の前触れじゃないかしら」
「王母に頼まれたら断れん」
書類に目を通しながら答える月影に私は心の中で溜息をつきました。
月影とは幼い頃から共に育った仲ですが、昔から月影は何事にも執着がなく冷めた物言いで、私がどんなにつきまとっても冗談を言っても笑顔など見たことがありません。
「「ただいまー!!」」
突然扉が開き、紅蓮様と幼い子供が入ってきました。
「あれ?鈴朱、来てたのか?」
「紅蓮。何度言えば分るのですか!!
鈴朱は一応樹仙の仕事を任されているのですから
樹鈴様とお呼びしなさいと何時も言ってるでしょう!!」
「俺達しかいないんだから問題ないじゃん」
「そういう問題ではないです。一応僕達より偉いんですからけじめはきちんとしなさい」
身分的には月影と私は蒼翠様と紅蓮様の上となるのですが、お二人は私達よりも年上なので私はいつも様付で呼んでいます。
そういう事を全く気にしない紅蓮様は呼び捨てでいいと言ってくれてるのに対して、蒼翠様は年下の私達にも様付で呼んでくださいます。
「蒼翠様、さり気無く失礼ですわ!!
紅蓮様も相変わらずですね
それでそちらが隠し子ですの?」
私の発言に月影の顔に青筋が浮かんだのが見えましたが、無視です。
「おばちゃん誰?」
子供の発言に今度は私が固まる番でした・・・・。
「月影!!子供にどんな教育をなさってますの?!」
怒る私に蒼翠様と紅蓮様は笑いだし、月影は関係ないとばかりに仕事を続けています。
私は子供の前にしゃがみ込み笑顔で告げます。
「私の名前は鈴朱よ。貴女のお名前は?」
「星彩」
「そう。星彩これだけは覚えておきなさい?
年上の女性におばちゃんとは言ってはいけません。
お姉さんと言いなさい?
そうしたら私、貴方にこのお菓子差し上げますわ」
持っていた桃の御饅頭を出しながら言うと星彩の目がキラキラしてきます。
「わかった!!お姉ちゃん」
「よろしい」
私から受け取った御饅頭を受け取りおいしそうに食べ始める星彩をみて、私は未だに笑っている蒼翠様と紅蓮様に視線を送ると二人は笑いながらも星彩をつれて部屋から出ていきました。
「月天様。ここからは真面目なお話です」
私の言葉に月影は手を止め、顔を上げました。
この天界には天帝様と王母様がいらっしゃいます。
天帝様は天帝全体のまとめていらっしゃって配下に8人の長がおります。
長になると名前の一文字に天を付けた名前で呼ばれるようになります。
月影もその長の一人なので月天と呼ばれています。
王母様は地上を見守る仙人達の管理をしておりまして、私も地上での報告は王母様に全てお伝えしております。
ちなみに私は樹木を管理する仙の一人なので、仕事の時は樹林と呼ばれます。。
そして王母様の元には地上で発見した珍しいものが報告として届きます。
仙は通常は天界でしか生まれませんが、獄稀に地上で生まれることがあります。
地上で生まれた仙を地仙といい、瞳は赤色なのが特徴です。
地仙はある程度大きくなるまで、天界で保護されその後はそれぞれの能力にあった仕事を任されます。
先程の星彩も瞳は赤色でしたし、王母様から頼まれたという事は地仙でしょう。
「私の仕事は地上の為、ほとんど天界にいないのはお分かりだと思いますが、
その私の耳にも貴方が得点稼ぎの為に地仙を育ているとか。
天帝様への貢物を育ててるとか情報が入りました」
「・・・・・」
「私は貴方がそんなつもりがないことは知っていますが、
他の方達はそうは思わないでしょう。
それでも貴方はあの子を育てていくつもりですか?」
「・・・・そのつもりだ」
「どんな苦難が待ち構えてるとしてもですか?」
「最初は押し付けられて面倒だとは思った。
だが今は星彩をきちんと育てたいと思っている」
月影の言葉に私は驚きました。
月影とは子供の頃から共に過ごしてきましたが、その頃から何事にも無関心で流されるままの月影に私は色々とまとわりついていましたが、変わることはなく何にも興味を示しませんでした。
その月影がこうもきっぱり”育てる”と言うとは予想外でしたが、少し妬けもしますが、私は嬉しく思います。
「なら私が言う事は何もありませんわ。
でも1つだけ警告を・・・・」
「何だ?」
私は月影の耳元の方に近づき小声でささやきます。
「最近、地上が荒れ始めています。
地上が荒れるから天界も荒れるのか、天界が荒れるから地上も荒れるのか。
正直、私にはわかりませんが、注意は必要かと・・・」
元の姿勢に戻ると月影が私の顔を見てしっかりと頷きました。
「それでは私は帰ります。
何かあれば何時でも頼って下さいな」
「鈴朱、ありがとう」
月影の言葉に私は微笑むと私はその場を去りました。
その後も私は仕事の合間を見て月影の元に通いました。
そして通うたびに月影に笑顔が増えていくのが私は嬉しいのと悔しいのと不思議な気持ちになります。
あの笑顔は私がさせたかったですわ・・・。
何だか星彩に嫉妬してしまいそうです。
そう思いながら私は木陰で4人を眺めておりました。
今日は5人で天界のはずれにある花畑に来ております。
楽しそうに遊んでる姿を私が眺めていると月影が隣に座りました。
「悪いな、付き合ってもらったのに」
「まぁ。月影からそんな言葉が出る日が来るとは思いもしませんでしたわ」
笑う私に渋い顔をする月影をみて、本当に星彩には感謝しなくてはと思います。
今までは私から一方的に話しかけてそれに月影が答えるだけでしたが、最近は月影から色々話を振ってくることが多く私は驚きの日々です。
でも、その幸せな日々もどれくらい続くのか最近の私は不安で仕方ありません。
あれから地上は増々荒れ、天界も見た目はそれほどでもないですが内部はかなり荒れています。
星彩は日々元気に育っていきますが、力も日々強くなっていくのがわかります。
”月天はは星彩を強くして天帝様への発言権をより強固にしようとしている”そんな噂が流れているのです。
私にはそれが嘘だとわかりますが、噂はどんどん一人歩きをしていってます。
「また心配事か?」
「この幸せな日々が永遠に続けばいいと思っているのです」
「俺は長の座を返上して、隠居しようかと考えているんだ」
「月影!?」
突然の発言に私が驚くとずっと考えていたんだと月影が笑います。
「隠居して静かに暮らせばだれも何も言わなくなるだろう」
「そう、うまくいくかしら?」
「難しいのはわかっているが、俺もこの日々を失いたくはない。
だからもしうまく行ったら一緒に・・・」
「おねーちゃーーん!!!」
月影が最後まで言う前に星彩が私に抱き着いてきました。
「これ、あげる!!」
笑顔で花冠をくれる星彩に私は笑顔でお礼をいいます。
隣では月影の肩が何故か震え、蒼翠様と紅蓮様は何故か笑っているのですが、黒いのは気のせいでしょうか。
そして、翌日。
私は地上に戻る前に月影の執務室に寄りました。
「行くのか?」
「ええ。また、地上で冬の季節になりましたらここに帰ってますわ」
「昨日の話の続きだが・・・」
「は、はい」
「もし、昨日言ってた事が上手く行ったなら・・・・。」
月影が言葉を濁し始め、後ろからは三者から不思議な視線がささります。
「上手く行ったなら・・。今度はそちらに遊びに来てほしい」
「もちろんですわ」
即答する私に月影は何故か変な顔をし、背後からは『ぶっ』と笑い声が聞こえます。
何なのでしょうか・・・。
「月影、渡したいものがありますの」
私は鈴が付いた腕輪を月影に渡しました。
「これは・・・・」
「地上へ行くときに鍵になります。
これを地上への扉の番人い見せれば私への使いとして地上へ行けますわ。
もしもの時はこれをお使いください」
「だが・・・」
「私に迷惑かけたくないとか思わないで下さいませ。
私は月影の為ならどんなことでもできるのですよ」
そういうと私は月影に軽く口づけをしました。
「な、な、な」
「お礼にいただきますわ」
真っ赤になってる月影に腕輪を渡しながら私は部屋を出ました。
「樹鈴様」
部屋を出た私の後に蒼翠様と紅蓮様が追ってきました。
「昼間からやるねぇ」
「星彩にいつまでも負けてられませんもの」
自分でも頬が赤いのは自覚してますが澄まして言うと、紅蓮様はにやにやするだけす。、蒼翠様の顔は厳しい顔で私をみます。
「先程の鈴は・・・」
「すべて覚悟の上です」
私はいざとなったらあの鈴を使って地上に逃げろと言う意味で渡しました。
でも、月影は私に咎が行かぬよう使わない可能性があります。
その為にも蒼翠様に覚悟を伝えました。
「最終手段として考えさせていただきます」
その言葉に私は笑顔でその場を去りました。
次に戻った私が見たのは崩壊した建物でした。
敵はこちらの予想よりも何枚も上手で、自分達の敵とみなした者達をうまく1つの建物に集め崩壊し、倒れた建物からその建物にいた者達が天帝暗殺を考えてるという証拠がわんさかでてきました。
月影達は仙としても生まれ変わりを剥奪され、罪人として地上で生まれる度に一ヶ所にとどまることは許されず常に旅をする運命になりました。
不幸中の幸いなのは4人は常に同じ時に生まれ共に旅をする運命ということでしょうか。
私はあれから天界には報告で戻る以外はほとんど地上で過ごしておりました。
私は守護する場所から離れることはできませんが、いつか地上人となった月影達がここを通るのではないかと期待して地上にいます。
天界はようやく落ち着きを取り戻し、ようやく月影達が冤罪であったとみとめられ、旅人としての運命も解かれるそうです。
地上もまだ地方は荒れてますが、王都から徐々に平和がもどりつつある状態です。
そして山火事が起こる一週間前、とうとう私の念願が叶いました。
彼らは最後のあてのない旅をしていて、私は人の姿で彼らをもてなしました。
彼らは私の記憶のままで私の事は当然覚えていませんでしたし、最初は森でただ一人過ごしている私を怪しんでいましたが、空腹には勝てなかったようで1晩の宿を提供したのです。
白練と名乗る青年は外見が月影にそっくりで、何度か月影と言いそうになってしまいました。
他の3人も星彩は架緑、蒼翠は青藍、紅蓮は煉瓦と名乗っていましたが、4人とも性格も昔とほとんど変わっておらず、私にとっては楽しい夜の一時でした。
次の日には何も告げずに笑顔で彼らを見送りました。
もう、共に歩むことはできないとわかっていても切ないものです。
そして現在。
木々がほとんど燃え、私の体から仙としての力がほぼなくなりつつあります。
私は月影達を助けることができなかった自分が大嫌いでした。
やっと再開しても、共にいられないのなら私も地上人として生まれ変わり、何時か彼らと共に暮らしたいと思います。
「完全に仙としての力が消えましたわ」
体が急に重くなった気がしますが、力がなくなった影響なのでしょう。
「いつかまた貴方達に会いたいわ」
煙もひどく、呼吸も苦しくなって来た頃、名を呼ばれた気がして辺りを見回しますが誰もいません。
気のせいかと思った時、月影に渡したのと色違いの腕輪の鈴がなりました。
この鈴は天界と地上をつなぐ扉の前でないと鳴らないのに何故と思っていると鈴が突然光出しましたが、私にはそれを確かめる力すらありませんでした。
「・・・ゅ、・・朱、鈴朱!!」
声が聞こえる、懐かしい声が聞こえますわ。
夢なのかしら、その名を呼ぶ人達はもういないもの。
重い瞼をなんとか開けると懐かしい姿が見えます。
「幻・・?」
夢でも最後に姿が見えてよかったと思っていると
「幻じゃないぞ?」
「おねーちゃん、起きて!!」
「火傷の治療はすみましたよ」
聞こえる声に私は一気に覚醒しました。
「えっと?」
私の周りには白錬、架緑、青藍、煉瓦の4人がいます。
既に旅立ったはずなのにどうしてと思っていると白錬が抱きしめてきました。
「ずっと待っててくれてありがとう」
「白・・・錬?」
「王母様が教えてくれたんです。
僕達が冤罪でこの世界を旅する運命だったこと。
樹林様がずっと地上で待っていてくれた事と人として死を迎えようとしてること」
「おかげで過去の記憶とか見せられて、頭がいてーのなんのって」
「煉兄は頭からっぽだからむしろつまってよかったんじゃない?」
何がどうなったのかわからない私に黒い笑みを浮かべながら青藍が説明し、煉瓦は架緑の頭をグリグリしております。
「これは本当に夢じゃない?」
「ああ。王母が、今までの詫びにと
俺の腕輪と鈴朱の腕輪を繋いでくれたから
こちらに鈴朱を呼び寄せることができたんだ」
腕にはめてる腕輪を白錬は見せてくれました。
それは私が最後に会った時に渡したものでわたしがいつも身に着けているのと色違いの鈴がついた腕輪ですが、どうしてそれを白錬がもってるのでしょうか。
白錬が言うには孤児院にいた時にはすでにつけていたから何故もってたかはわからないそうですが、外すのが嫌でずっとつけていてくれてたそうです。
色々と嬉しすぎて私の目から涙がこぼれ落ちます。
「これからはずっと一緒?」
「ああ」
「もう、待たなくていい?」
「ああ」
私の涙を拭いながら白錬は優しく私の顎に手をかけ・・・・。
「あのさ、俺等いるってわかってる?」
煉瓦の言葉にハッとすると架緑に目隠ししながらこちらを見ている煉瓦とニコニコ笑う青藍の姿に私は一気に顔が赤くなります。
「お前達、邪魔するなよ!!」
「何言ってるんですか、人気のないところまで我慢するのが男ですよ」
「ソーヨ?子供もいるんだから場所わきまえろ?」
「俺子供じゃない!!!」
昔と変わらないやりとりに私はおもわず笑いだしてしまいました。
笑いが収まると白錬が手を差し伸べてくれました。
「行こう」
「貴方のいるところならどこにでも行くわ」
やっと、私の願いが叶います。
願わくはこの命つきるまで、この瞬間がつづきますように・・・・。
読了ありがとうございました!!