月 8
◇ ◇ ◇
消灯時間が過ぎても歌音は眠れずにいた。
枕の横には大きな熊のぬいぐるみが置いてある。
これは、夕方パパが苺の乗ったホールケーキと共に誕生日プレゼントとして持ってきてくれたものだ。
病室は薄青闇に包まれていた。外が明るいのは今夜が満月だからだろうか。
歌音はごろりと寝返りを打った。
熊のぬいぐるみの足に顔をうずめる。かすかに甘いバニラの香りがした。
目が冴えて中々寝付けない。
またもや、ごろりと寝返りを打つと歌音の耳は音を拾った。
カチリ、コチリ。
カチリ。
病室にある時計は電子時計なので秒針はない。
なんの音だろうと病室を見渡す。
カチリ、コチリ。
歌音は、まさかと思いつつも熊のぬいぐるみとは反対の枕の横に置いてあった懐中時計を手に持って耳元に当ててみた。
カチリ、コチリ。カチリ。
間違いない。音は懐中時計から鳴っている。
開けてみようとしたが、やはり開かなかった。
歌音はカーテンがかかった窓を見た。月の光が漏れて病室を深海の青に染め上げている。
手の中で懐中時計が鼓動するように秒針を刻んでいる。
歌音は、なにか決心したようにベットから降りた。
首にかけた水晶のペンダントが揺れた。