月 3
午後からは、見舞い客が増える。
その為かドアの向こうでは、ひっきりなしに足音が聞こえる。
だからと言って私の病室のドアが開かれるわけがないのだけど。
歌音はベットの上で体育座りをして顔を伏せた。
個室はひとりぼっちだ。
初めは大部屋にいて仲の良い子がいたのだけど、翌朝にはいなくなっている。
退院したのだと、まわりは言う。
一人またひとりと減ってゆくに連れて恐怖すら覚えた。
個室になってからは、歌音は引きこもりがちになった。
友人を作るのが、いや、せっかく出来た友人をなくすことが嫌だからかもしれない。
「…お家に帰りたい。」
呟いたら、ますます思いがつのる。
「ママの作ったケーキが食べたい。」
以前に作ってもらった時、スポンジの上に生クリームやら苺をたくさん乗せすぎてローソクが立てられないと、オロオロしていた。
歌音は思い出して小さく笑った。
しかしすぐに泣きそうな顔になる。
(どうして、ママは会いに来てはくれないの?)
一ヶ月前から、ママは急に来なくなった。
「私、15歳になれたよ。ママ。…なれたんだよ。」
『15歳までしか生きられないかもしれません。』
いつかお医者の先生が言った科白が脳裏に浮かび上がる。
「ママに会いたい。会いたいよぉ。」
会ったらきっと、鬱々とした気持ちが晴れてくれるのに。
涙がでそうで、桜色の唇を真一文字に結んだ。
白いドアが勢いよく開いた。
「!?」
ピンク、白、赤、紫、黄色、緑、色とりどりの大きな花束が現れて、歌音は目を丸くした。
「ハッピーバースデー、歌音。」
花束の横から顔を出したのは老婦人だ。
「グランマ!」
歌音はベットの上で飛び跳ねた。