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隣の幼馴染  作者: カカ
9/14

翌朝、登校

 突然携帯が鳴ったのは、悠が朝食を食べ終えた時だった。部屋に戻って確認すると、

「……あん? 茜?」

 ディスプレイに表示された名前に、悠は軽く驚く。こんな朝から何の用だろうか。疑問に思いつつ、通話ボタンを押し、電話に出てみた。

「茜? どうかしたのか?」

「もしもし、あたしだけど。今、あんたの家の前にいるわ」

「は? お前はどこのメリーさんだ?」

「メリーさんとかどうでもいいけど、とにかくあんたの家の前。さっさと出てきなさい」

「はあ?」

とりあえず、悠は自室を出て、二階から下り、玄関に向かう。ドアを開けると、

「おはよう。……って、本当にただ出て来ただけみたいね。何にも準備してない。まあ、予想はしてたけど」

 本当に茜がいた。

「……今、どういう状況? なんでお前がここにいるんだ?」

「幼馴染の女の子が、いつもぎりぎりにしか学校に来ないあんたのためにちょっと早めに迎えにきてやった、みたいな?」

「……sneg?」

「あたしをエロゲーのキャラにするなバカ。しかも、これくらいならギャルゲーの範囲だ」

「なんで意味わかってんの!? そしてギャルゲーを語るのか!?いや、別にそんなのはどうでもいいけど、どうして家に来た!?」

「だって、家に来てもいいっていったじゃん」

「言ったけど! 言ったけどさぁ、いきなり翌朝来るとは思わなかったよ!」

 言ってるうち、昨夜のことが脳裏をかすめ、またかすかに顔が熱くなった。

「何よ、そんなに迷惑だった?」

「いや、迷惑とかじゃなくて、ただ驚いただけだけど……」

と、悠の尻すぼみな言葉を遮り、

「あたしは、悠と一緒の方が楽しい。だからここに来た。何か文句ある?」

 茜が堂々と宣言。直截すぎる物言いに、悠はまた体温上昇。誤魔化すように眉をしかめて見せて、ため息をつく。

「文句はない。ただ一つ言えば、もっとツンデレっぽく言うとポイント高いんじゃないか? 「あんたがいつも遅いから、仕方なく迎えにきてやっただけなんだからね!」みたいな」

 そんな戯言を吐いてみると、茜はかすかに首をひねった後、

「あんたがいつも遅いから、仕方なく迎えに来てやっただけだ」

 悠のセリフをほぼ復唱。しかし、こういうシチュエーションに不可欠な恥じらいがない。本当に、ただそう思っているかのような、淡々とした口調だった。

「……うーん、全然可愛く見えない」

「あたしはそういう、言葉の裏に本当の気持ちを隠すようなしゃべり方は苦手なんだ」

「お前はギャルゲーキャラに向かないな。幼馴染のクセに」

「そんなこと言われても困る。現実的には、転校生が超絶美人である可能性が低いのと同じだ。っていうか、あんたはそんなにギャルゲーに詳しいのか?」

「詳しくねーよ。中学ん時の友達がちょっとやってただけで……」

 と、悠の言葉を遮って、

「あら、あら、あら、あら!! もしかして、茜ちゃん!?」

 悠の母が、玄関まで来て歓声を上げる。今にも抱きつかんばかりだった。

「あ、どうも、お母さん。吉良茜です。こちらでお会いするのはお久しぶりですね」

「ほんとよぉ、また来てくれたのね! うれしいわぁ。それにしてもどうしたの? 何が起きてこうなったの?? まさか二人が密かに付き合っていて、今日はわたしにそれを公表しに来たとか!? 茜ちゃんならいつでもOKよ!」

 ……自分の母親相手だから、別に思っても良いだろう。これも親しみのなせる業だ。

 このハイテンションマジうざい! しかも勘違いも甚だしい!

「そういうわけじゃないです。高校でまた同じクラスになりまして、そんな縁で、友達復帰です」

「あらそうなの。ふぅん。……まあ、いいわ。ねえ、ちょっと上がってってよ。どうせこの息子はまだ時間かかるんだから」

「では、お言葉に甘えて。お邪魔します」

「そして普通に入ってくるなぁ……」

 ぼやく悠に、

「出ていけって言うなら出ていくけど」

「言わねーよ。もういっそ心行くまでのんびりしてけよ」

「まあ、のんびりする時間はないけどね。早く準備してよ」

「……はいはい」

 悠は、リビングに消えていく二人を見送り、準備のために部屋に戻った。

 それから十五分後。

 悠は茜と共に、家を出た。本日も快晴で、妙にすがすがしい朝だ。いつもは気持ちが急いているから、そんなことを感じる余裕がないのかもしれない。

「ちなみに、明日も来るのか?」

「そのつもり。まあ、あんたが来るなっていうなら、来ないけど」

「……来るなとは言わんが、もう少しゆっくりで良くないか?」

「悠はいつもいつもぎりぎりすぎるんだ。せめてこれくらいに出た方がいい。普段通りだと、電車が五分遅れただけで遅刻するじゃないか」

「はぁ……そーなんだけどな。っていうか、俺、お前から説教食らうのも随分久しぶりだ」

 説教と言っても、幼少のころは、説教というほどのものではなかった気がする。男なら転んだくらいで泣くな、とか。

「昔から変わらないな、悠は。六年もあったのに、進歩がないぞ」

「うるせー」

 そんなやり取りをしつつ、二人は学校に到着。二人並んで教室に入ると、すでにやってきていた国見さんが、一瞬キョトンとする。が、すぐに笑顔になって、おはよう、と挨拶してくれる。ちなみに、久賀は普段の悠と同じくらいぎりぎりの登校が常で、まだ来ていない。

「うーん、これ、訊いてもいいのかな? 二人は、たまたま来る途中であったの? それとも、示し合わせて?」

「どちらとも言えないな。あたしが悠の家に突然押し掛けて、悠を連れ出しただけだ」

「へぇ、なるほど。ふぅん……」

 ニヤニヤとニコニコの中間みたいな笑みの国見さん。何か言いたいことがあるなら言えばいいのに。

 悠と茜が席に着き、三人で雑談を続ける。そうするうちに久賀も始業三分前にやって来て、悠がすでに着席していることに驚く。普段は、悠は始業二分前につくから、珍しかったのだろう。

「お、今日は早いじゃないか。まさか、吉良さんと一緒に来た、とか?」

「……まあ、そうだが」

「……おい、その話、ちょっと詳しく聞かせてもらおうか」

「詳しくも何も、話すことなんてたいしてないけどな」

 久賀にせがまれて、悠は今朝の出来事を端的に教えてやる。すると、

「なんてうらやましい!」

 の第一声。

「俺だって、しっかりものの幼馴染の女の子に、家に迎えに来てほしい!」

「……いや、そんなこと言われても。それに、そんな良いもんじゃないぞ、生活を管理されるみたいで」

「俺はそれでも構わない。相手が吉良さんであるならば!」

「はいはい。まあ、そう言っていられるのも、相手に好意を持ってる間だろうけどな」

 その人のすることならば全て許せる、というくらいでなければ、いちいち生活にダメだしされるのはうっとうしいものだ。休日の朝の惰眠まで禁止されたら、果たして茜の訪問を疎ましく思わずにいられるだろうか。いや、自分が狭量なのはわかっているけれども。

「てか、いいのか? お前の気持ち、クラス内に筒抜けだぞ」

 さっきから、チラチラと、こちらを窺う視線が目に付く。高校生らしい、野次馬根性だ。

「いいさ。今更隠すことじゃない」

「ま、それならいいけどな」

 そんな会話を交わしていると、始業のベルが鳴る。担任も教室に入ってきて、委員長の号令と共に、学校での一日が始まった。

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