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隣の幼馴染  作者: カカ
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カラオケ

 午後一時過ぎ、悠たちは、無難にファミレスで昼食を摂った。

 そこでどんなことがあった、と書くほどになにかあったわけではなく、ただ食事と会話をしただけだ。

 その会話の内容を簡単に記すと。

 茜は中学時代にはバスケをやっていたが、現在は部活をしておらず、家で色々なことをやっているらしい。最近の趣味はお菓子作りだと聞いたときは耳を疑ったが、失敗続きだと聞いてなんとなく納得してしまった。やっぱりな、と言ったら、しかめつらで睨まれたけれども。また、そもそもどうしてそんなことを始めたかといえば、とにかく何でも挑戦してみよう、ということやってみたのだとか。これからも、気分次第で色々やっていく気らしい。

 久賀はバレー部に入っているのだが、久賀はそこそこ身長があるだけで高校から始めたばかりの初心者でもあるため、基本を覚えたり各種雑用をさせられたり、かなり大変な日々を送っているらしい。後半については初心者関係ないではないかと思ったが、すでにレギュラー入りしているやつはそういう仕事をあまりせず、練習に集中しているらしい。運動部には何かと妙なしがらみの多いが、久賀のところも相当らしい。まあ、その辺は外部から口を出すことじゃないので、放っておく。来年には、もっと楽に過ごせていることだろう。

 国見さんは、現在バスケ部。これまた初心者で、色々と覚えることが多くて大変だとか。こちらは、雑用は一年生あるいは下手な奴、とかいう縛りはないが、礼儀関係にはちょっとうるさいらしい。廊下で上級生とすれ違ったら立ち止まってしっかりお辞儀して元気よく挨拶をしましょう、とか、そんな決まりがあるのだとか。普通に軽くあいさつするだけじゃダメなのか、妙なことをするな、と思うが、これも外部から口を出すことではあるまい。格別に理不尽な決まりがあるわけでもなく、本人も別に気にしていないし、悠も気にしないことにした。

 悠自身のことについては、中学時代にやった剣道の話をした。剣道なんて実戦では役に立たないだろう、と久賀が言ってきて悠は返答に困ったが、茜が「剣道は、空手や柔道と並んで武道、という位置づけにあるように見られるけれど、実はそういうのとは別物だと思う。本当に人と斬り合う技術なんて今は必要ないから、スポーツとして特化してる。今のは、野球ができても実戦では使えないよね、みたいな指摘と同じだろう」と言ってくれて助かった。もっとも、空手や柔道ほどではないにせよ、剣道は剣道で、実戦でも使える面はあるのだけれど。ちなみに、悠は現在、部活をしていない。理由を訊かれても困るのだけれど、そういうことをしたい気分じゃなかった、というのが大きいだろう。

 とまあ、こんな具合におしゃべりをしたのち、悠たち一行は、予定通りにカラオケへ向かった。

 受付を済ませて個室に通されると、

「さあ、吉良さん、俺の隣へどうぞ」

 久賀がそんなことを言い、

「別にいいけど、どさくさにまぎれてべたべた触ってきたら殴るから」

 と気さくに(?)応える茜。この二人、上手くいっているんだかいないんだか。

 というわけで、並び的には、カラオケの機械を頂点として、時計回りに、悠、国見さん、茜、久賀、の順。ちなみに、入口を隔ててソファは二つあり、二人で一つを使う形である。

 先に悠が座り、その隣に国見さんが来ると、悠は若干の緊張。いや、別にこれくらいのことをいちいち気にする理由はないのだけれど。

「……悠は、相変わらずアニソンか?」

 茜が尋ねてきて、悠の意識がそちらに向けられる。

「は? んなわけないって。いや、アニソンがダメなわけじゃないしアニメで使われてる曲にもいいやつはいっぱいあるし、歌うこともあるけど、お前が想定するいかにも子供向けなアニソンは今更歌わねーよ」

「そうか、久々にあんたのバカ歌が聞けると思ったのだが」

「聞かなくていいし、バカ歌っていうなら、お前だって昔はいかにも幼少の女児向けなアニソンをノリノリで歌ってたけどな。自作の振りつきで!」

「うっさい昔の話をするな!」

「先に振ってきたのはそっちだろうが!」

「む……。そうだったな。あまりに期待が大きすぎて、思わず」

「なんだそのよくわからん言い訳は。……まあ、いい。えっと、最初は」

 誰が? と訊くよりも、誰かの入れた曲が始まる方が先だった。

「よーし、じゃあ、最初は俺で!」

 マイクを持った久賀が宣言する。先頭すきだな、こいつ。まあ、こういうのはいちいち譲り合うより、早く歌いたいやつから始めた方が、進行も速くていいけどな。

 某アイドル歌手が歌う熱烈なラブソングを聞き流していると、

「あの、これって、どうやって使うの?」

 と、いわゆるデンモクを持ちながら、国見さんが尋ねてくる。

「……あー、使ったことない?」

「……うん」

「へぇ……もしかして、カラオケ来るの初めて?」

「……うん」

 今時珍しいな、というか、国見さんの過去がまた気になってしまった。何もなかった中学時代。いや、ここまで来ると中学時代どころか、今までどんな人生歩んできたのかという問題にもなりそうだ。

 本当に、友達とカラオケに来ることさえ、なかったというのか。何をすればそんなことになるのだろうか。

 疑問は浮かべども、今は置いておこう。

「えっと、別に難しいことはないよ。直感的に使えるようになってる。まあ、一度見れば覚えるだろうから、先にやらしてもらうよ」

 悠が先に操作し、目的の曲を本体の機械に送信。曲は、無難に最近の流行り歌。

「ま、これだけだよ。簡単だろ?」

「そうだね、ありがとう」

 ふわりと笑われて、う、と呼吸の乱れる感じがする。幼少期を別にして、女子に慣れていないというのは、こういう時につらい。いかにも不慣れな感じが、ちょっと恥ずかしかった。

 そうする間にも、久賀の熱唱は続く。意外と歌が上手いけれど、というか正直かなりレベルが高いようだけれど、さてそれは茜に届いているだろうか。

 茜を見ると、目が合った。が、すぐに視線を逸らされる。よくわからないが、ともあれ久賀の歌によって心揺さぶられていることはなさそうだった。ドンマイ久賀。きっとまだチャンスはあるぞ。

 そして久賀が歌い終わり、

「ねえどうだった?」

 茜に尋ねる。

「上手かった。すごいな、って思うよ」

 褒められて、にんまりと笑う久賀。まあ、気持ちはわかるけど、そのドヤ顔はうっとうしい。

「久賀って、こういう時のために陰で練習してそうだな」

 次は悠の番なので、マイクを取りながら、そんなことを言ってみる。

「は? いやいや、そんなことはないさ。俺の実力、みたいな? 練習してないけどできちゃう、的な?」

 あ、調子乗ってるなこいつ、とイラっときたが、

「なんだ。つまらない。あたしは、練習しなくてもそこそこできちゃう、程度で満足してる人より、何かを頑張る人の方が好きだ」

 茜の言葉で、ひく、っと久賀の頬が引きつる。まあ、世の中には頑張らないけどやればできちゃう男子を好む女子は多いけれど、茜は逆らしい。

「やればできるけど普段はやらない人とか、脱力系とか、そういうのにはあんまり興味ない。やれるならやれよ、って思うし、いつもだらだらしてる人って普通にカッコ悪いと思う」

 茜の言葉に、動揺しまくりの久賀。目線がさっきからせわしなく動いている。どこかに答えを探しているかのようだが、そんなものはどこにもありはしない。

 このままじゃまずいぞ、と悠は心の中で呼び掛ける。今のところ、久賀が茜にアピールできたことは、ほぼ皆無。このままで終わると、今後の発展は難しかろう。

 何かサポートするべきか、と考えていると、

「あ、いや、実は……まあ、ちょー練習してるんだけどね。春休みとか、こっそり一人カラオケで練習しまくりでした。見栄張ってごめんなさい」

 久賀は、ぺこりと頭を下げて謝った。

 ここ、謝るところ? と悠はキョトンとする。

 一方、茜は。

「ぷっ、ははは、まあ、わかってたけどね」

 意中の人の反応で、ころっと態度を変える久賀。そして、それを責めるではなく、嘲笑うでもなく、本当に楽しそう笑う茜。もしかしたら、今日初めて、久賀は茜をちゃんと笑わせることができたのかもしれない。

 よかったな、久賀。

 口には出さないけれど、心の中だけで呟いておく。この二人って案外悪いペアでもないのかも。

 ちょっと心配だったけれど、もう大丈夫だろうと判断。前の二人のことはおいといて、悠は歌を歌い始めた。

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