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隣の幼馴染  作者: カカ
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ボーリング場

「ところで、茜ってボーリングとかできるのか?」

 ボーリング場にたどり着き、ぼちぼちそれぞれ使うボールを選びつつ、悠は茜に尋ねてみる。

「アベレージは百二十ちょい。まあ、上手くもない、下手でもない。学校でのあんたの立ち位置みたいな無難さだ」

「おい、その例えにそこはかとなく悪意を感じるぞ」

 悠の突っ込みは無視して、

「で、あんたはどれくらいなの?」

「まあ、俺も似たようなもん。最高で百五十程度はいったけど、一度だけ」

「ふん、アベレージの話をしているのに、わざわざ最高点を示して優越感に浸るとは、小さいやつだなぁ」

「べ、別にそんなつもりで言ってねぇよ! 解釈がひねくれすぎだ!」

 反論したけれど、実のところ、指摘通りの部分がないとも言えなくて。

 でも、茜は不敵な笑みを浮かべつつ、

「ま……わかってるけどね」

 何がわかってるんだ。

 悠は反射的にそう言おうとして、口をつぐむ。これ以上何かを言えば、泥沼にはまりそうだ。

 それから、それぞれボールを選ぶなど準備を整え、使用するレーンに集合。久しぶりにやる人もいるし、それぞれの実力も把握したいところなので、まず練習がてら、特に勝負ごととかも入れずに好きに投げてみることに。

「よしっ、じゃあ、最初は俺からな! ストライク取るぞ!」

 張り切りだす久賀。茜に良いところを見せたいのだろう。特に順番とかにこだわらないこのメンツは、どーぞー、と促す。

 久賀の一投目は、宣言通りのストライク。どうだ! とばかりに振り返り茜を見るが、当の本人は、

「ボーリングってさ、スポーツのくせに、できてもあんまりかっこいいと思わない競技だよね。なんでだろ?」

 隣の国見さんに尋ねている。彼女は苦笑い。久賀はというと、ひきつった笑みを浮かべていた。

「……お前ってさ、モテないだろ」

 悠がぼやく。

「え? なんで? これでも一応、中学では三人くらい告白されたけど」

「マジか。えっと、そいつらとはどうなったんだ?」

「とりあえず友達から始めましょう、ってなって、でも一ヶ月もしたら本当に友達なっておしまい。ん?……ああ、ある意味あたしは振られたのか?」

「……そうかもな」

 多くは語るまい。久賀に関しては、さてどうなるだろう。その三人と同じ結末を迎えるような気が、悠にはしていた。

 ともあれ、他のみんなのプレーは省略し、最初のゲームでのスコア。

 倉橋悠、百二十九。

 久賀隆、百四十二。

 吉良茜、百六十三。

 国見小春、七十六。

「……おい、アベレージ百二十じゃなかったのか?」

「……なんか、今日は調子いいかもしれない。今までで一番いいスコア」

 突っ込む悠に、茜が返す。

「ま、まあ、日によって調子の善し悪しはあるし、ある日突然ぱっと何かコツをつかむこともある。あ、それに、吉良さんって中学でバスケやってたんだろ? ボールの扱いは上手いんだよ」

 良いところ見せたかったのに、逆に良いところを見せられてしまった久賀。若干の動揺を交えつつ、なんとなく、女の子は褒めるべし、みたいな感じで久賀が言うが、

「……バスケットとボーリングは、全く関係ないと思う」

 茜はいたって冷静。ここはせめて、「そんなの関係ないよ、なにいってんのー?」くらいに言って茶化してやるとポイント高いんだろうが、そういうことをする気はないらしい。だからモテないんだよ。人のこと言えた義理じゃないけど。

 久賀は、まずった、という感じでひるむが、すぐに気を取り直す。

「そ、そうだよね。うん。えっと、じゃあ、次はペアになって勝負しよう! 俺、吉良さんペアと、倉橋、国見さんペアで!」

「おいこら、それでどうやって勝てというんだ。合計したらそっちはだいたい三百、こっちは二百だぞ」

「そっちの都合など知るか。俺は吉良さんと組みたいんだ」

「く、自分の気持ちが知られているからって開き直りやがって……」

 悠としても、久賀がしたいようにさせたいところだ。だが、勝負にならないのでは楽しみようがないし……。

 と、そこで、

「勝負にならないなら、ハンデをつければいい。百くらいでいいだろう」

 茜が提案する。

「いや……まあ、そっちがそれでいいなら、俺はいいけど。国見さんも、それでいい?」

「うん。いいよ。ごめんね、私だけへたくそで、なんだかバランス悪くなっちゃって……」

 心底申し訳なさそうに、国見さんは言う。待ち合わせ場所に登場してきたときにも思ったが、彼女はとてもいい子だと思う。茜には過ぎた友達だ。

「じゃあ、とりあえずそれでやってみるか。えっと、何か掛ける? まあ、お金とかは嫌だけど……」

 一応、勝負事の定番として話を振ると、

「じゃあ、負けた方は勝った方に、初恋のエピソードでも語ってもらおうか」

応えたのは茜。おいおい、いきなり重めだなあ。

「あ、それいいね。うん、俺も聞きたい」

 若干悠のことをにらみつつ、久賀も同意。別に、お前の期待するエピソードは出てこないけれど。

「いや、でも……いいの、国見さん」

「え、うーん……まあ、みんながそれでいいっていうなら……」

「いいのか……」

 控えめだし、みんなの雰囲気を壊さないようにしているのはいいことだと思うけれど、迷いがあるならそれを口にするべきだとも思うのだが。とはいえ、まださほど話をしたわけでもないので、ここでどう言うべきかもわからない。

「よし、じゃあ、決まり。さあ、勝負を始めようか!」

「おー」

 悠があれこれと考えているうちに、二人はすでに話を進めている。

 仕方ない。なんとかして勝つことを考えよう。ノリノリの二人は置いといて、国見さんの気持ちは守らなければ。

 と、意気込んだ、次のゲーム。その、五回までのスコア。

 倉橋悠、六十二。

 国見小春、三十。

 吉良茜、九十二。

 久賀隆、八十三。

 ペア合計で言えば、倉橋、国見ペアが九十三で、ハンデ込みで百九十三。吉良、久賀ペアが、百七十五。

 ……大変まずいことに、すでにハンデの分のアベレージをほぼ消費してしまっていた。あと半分の間、このペースでは逃げ切ることは不可能に近い。

「……っていうか、茜は一体何なんだ。さっきよりまして調子がいいじゃないか」

「なんでかな、今日は不思議なくらい、色々なことが上手くいくような気がする」

 言いながら、茜はふわりと笑う。良く見る憎らしい笑みではなくて、純粋な笑み。不覚にも、かわいいかもしれない、と思ってしまった。

「……上手くいかなくていいってのに。くそ、何か作戦は……」

 動揺を誤魔化すように呟くが、ボーリングに作戦もクソもない。流石に相手の妨害をするのは大人げないし。

「あの、倉橋くん。ほんと、ごめんね、さっきよりもまたスコア悪くて……」

「いや、別に気に病むことじゃないって。遊びなんだから、そんなマジでへこまないでくれよ。……まあ、この罰ゲームくらい、俺としてはたいしたことじゃないし、さ」

 初恋のエピソードなんて、もはやセピアカラーの思い出だ。話すのは恥ずかしいが、絶対嫌ってほどじゃない。

「……あのさ、よかったら、少し教えてくれないかな? 投げ方のフォームとか。私、実はまだ三回しかやったことなくて、かなり適当なんだよね……」

「へぇ、今時珍しいな。中学のときとか、やらなかった?」

「うん……」

 気軽に訊いたけれど、国見は若干ばつの悪そうな返答。もしかしたら、何か事情があるのかもしれない、と今更ながら気づいて、少し気まずい。

「……ええと、じゃあ、簡単に教えるよ。つっても、俺もそんなに詳しくないし、基本の基本だけだけどさ」

「はは、大丈夫。私なんて、その基本さえ知らないから」

「そっか。おい、そこの二人、ちょっと作戦タイムだ。しばし待て!」

「へーい。俺はいいよ。さ、吉良さん、俺たちは俺たちで、ちょっとおしゃべりでもしてようよ」

「ん、いいよ。ああ、ついでに、練習するなら、あたしらの投球、一回分を使っていいよ。あたしらが先に投げてるから、丁度いいじゃん。ハンデにもなるしさ。それでいいでしょ?」

「おう、俺もそれでいいぞ」

 茜の提案に軽く同意した後、久賀は茜との会話に没頭。好きな食べ物は、色は、音楽は、趣味は何。そんなことを、延々と尋ねたりしていた。

「じゃあ、簡単に」

 悠は、二人の会話を意識の外に出し、国見さんに、ボーリングの基礎を教える。ボールの投げ方とか、ピンを狙うより手前の三角形を狙うのがいいとか。

 その訓練の成果か、最長四回の投球練習の内の一投目は、ふらふらと危うげな軌跡ではありつつも、なんとか真ん中にいって、七本が倒れた。いつもガーターの連続だったのを考えると、かなりの進歩だ。ちょっと教えただけでこれなら、結構センスがあるのかもしれない。

「やった! ……ああ、でも、これが相手の分だと思うと喜んでいいやら……」

「まあ、今はそういうのは忘れよう。気にせず、スペアを狙って行こうか。端に三本だから、何とかなるかも」

 続けて二投目。これはいいところまでいったが、一本倒すだけに終わった。

「惜しいなぁ」

「ま、しょうがない。えっと、今の見て思ったんだけど……」

 国見さんの投球を見て、ちょっとしたアドバイスを付け加える。力を入れようとして、投げ方が雑になってる、云々。

 さらに、いくつか付け加えようとして、

「……倉橋くんってさ、優しいね」

 国見さんの言葉に、言葉を止める。

「……優しい、か?」

「うん。だって、足引っ張ってるのに怒らないし、へたくそな私に、丁寧に教えてくれるし」

 率直な感想に、悠は照れくさくて、頭を掻く。

「いや、こんなのは優しいの範疇にないさ。普通だろ」

「そっか。これが、普通か……」

 噛みしめるように呟く国見さん。また色々と疑問は浮かぶけれど、ここはスルーするべきか。いやでも、一応、尋ねてみるだけでも、と思い直す。

「……国見さんって、中学の時、なんかあったの? その……いじめ、とか?」

 悠の、若干シリアス成分の混じった問いに、国見は慌てて首を振る。

「え? あ、ううん。何にもないよ。うん……何にも、なかったなぁ……」

 何にもない、ね。言葉にすると変な感じだが、「何もない中学生活」というのも、大変な出来事のような気がする。さらなる疑問はあるけれど、今はまだ、尋ねるときではないのだろう。

「ところで、倉橋くんってさ、ほんとのところ、茜のこと、どう思ってるの?」

 一転して、軽い口調で、国見さんが訪ねてくる。悠も、気分を変えて答える。

「どうっていわれてもね。普通に友達だよ」

「ふぅん……恋愛感情は、一切なし?」

「……ま、ないな」

「そうなんだ。仲いいし、もうちょっと何かあるかと思ってた」

「ほんと、なんもないんだけどな。幼馴染なんて言っても、たいした繋がりはないよ」

「でも、茜の方は……ううん、いいや。えっと、続けよっか」

「ああ、そうだな」

 国見さんは、悠の教えた事を確認しつつ、練習を再開。最後の二投は、両方とも真ん中に行き、計九本倒した。

「っていうか、普通に上手いな。あれだけのアドバイスでそんなに上手くなるなんて、才能あるかもよ」

「まさか。教え方が上手いんだよ」

 朗らかに笑って、悠を褒めてくる。その笑顔に、悠は思わずドキリとした。

「練習は終わったようだな。意外とハンデにならなかったが、ゲーム再開だ」

 茜の言葉に、悠は我に返る心地だった。

「お、おう。じゃあ、次は俺の番、だな。これなら勝機はある、やってやるさ」

 悠はことさら自分を鼓舞して、ボールを持つ。少し気持ちを落ちつけてから、それを放った。

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