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隣の幼馴染  作者: カカ
3/14

昔の話

 久賀と茜が友達になって、話し合いは終了。四人で教室に戻る。

 その途中、食堂と校舎をつなぐ渡り廊下で、茜が悠の袖を引いた。

「倉橋くん、ちょっと」

「え? 何?」

「久賀くん、小春。あたし、ちょっと倉橋くんと話がある。先に行ってて」

「え? うん。わかった。……いこ、久賀くん」

 久賀は、なにやらいぶかしげな表情。お前らやっぱり何かつながりがあるのか、みたいな目で見てくるけれど、そんなのはない。マジで、ここ六年は久賀と縁はないのだ。

 あからさまに気になっていて、その場で動きそうになかった久賀を、国見さんが半ば強引に引っ張り、先に行ってくれた。

 そして、茜は悠をどこかへ連れていく。たどり着いた先は、一階の理科室前。人気がなくて、閑散としている。

「えっと、何? こんなところで」

 じっと見つめてくる瞳は無表情。いや、あるいは、何かを責めるような視線でもあり……。

「一つ、訊く。あんた、久賀くんと仲いいみたいだけど、あたしたちのこと、久賀くんに何か話した?」

「あ? 俺たちのことって……小学三年まで仲良かった、っていうこと以外に、何か話すことなんてあったか?」

「それは、別にいい。もう知られてることだし。ただ……昔の話とか、今さら持ち出されたくない、ってこと」

「……それ、俺と仲良かったのは恥ずかしい記憶から、話題にしないでほしい、ってことか?」

 だとすれば、ショックな話だ。関係は途切れていても、悠としては、茜と過ごした幼少期は、今でもいい思い出だ。中学のころ、ろくに女史との縁もなかった時には、もしかしたらあの頃が自分の全盛期かもしれない、と冗談交じりに、でも半ば本気で思いもしたくらいだ。

 こっそり落ちこもうとして悠だったが、

「違う。そんなこと思ってない。あの頃は普通に楽しかったし。今では良い思い出」

「あ……そうなんだ。それは、よかった。えっと、じゃあ、何が問題なんだ?」

重ねて訊くと、察しの悪い奴め、という風に、睨まれる。

「だから、あの頃どんなだったとか、何をしたとか、そういう具体的な話をされたくない、ってこと。あんただって、幼稚園の時、足滑らしてすっ転んで、犬のふんに顔からダイブした話とかされたくないでしょ?」

「おまっ……あんなこと、まだ覚えて屋がったのか!」

 当時を思い出し、急速に顔が熱くなる。もう忘れたい過去なのに、今まで忘れられていたことなのに、今更そんな話をされるとは。

「ぷ、忘れるわけないし。くひっ」

 思いだしたのか、茜の顔には、隠しきれない笑みが浮かぶ。女の子って笑うとやっぱり可愛いね、なんて思わなくて、ひたすら憎たらしい笑みだった。

 悠が憤っていると、ぎりぎり堪えていたものが決壊したのか、ついには、茜はあははと声をあげて笑い出してしまった。

「……くそ、俺だって、色々覚えてるからな! 母親の化粧を勝手に使って、妖怪みたいな顔になったこととか!」

 言い返してやると、ようやく茜も笑いを引っ込める。

「ああ、もう、そんなの思いだすな! あんたなんか、父親の電動のひげそりで遊んで、眉毛を全部剃っちゃったでしょうが! 写真も残ってる!」

「ぬぁ、そんなのもう忘れろよ!」

 もう、自分でも忘れていたことなのに。そして永久に忘れていたいことだったのに、思い出させやがって。なんてはた迷惑な奴だ。

 ついでに、さっき食堂で茜がやたら自分のことを見ていたのは、余計なことしゃべってないだろうな、と気にしていたのだと気付く。

「とにかく、あたしはそういう話を他に漏らすなってこと! それがお互いのためでしょ! あんたがそうするなら、あたしもしゃべらないでおいてあげるわよ! わかった!?」

「わかった、わかったっ。だからもうこれ以上この手の話をするな!」

「ふん。別にわざわざ話さないわよ。お互いに弱みを握られた状態んだし。……ほら、さっさと戻るわよ。授業始まる」

 茜は悠の腕をつかむと、引っ張って教室で連れて行こうとする。

「おう……わかった。って、別に引っ張らなくても普通に歩くよ。小学生じゃないんだから」

 ああ、でも、なんだか懐かしい気はする。さっき、いつかそうしていたように、バカみたいに言い争ったことも、引き金になったかもしれない。昔は、自分では何かを行動に移すことができなくて、よく茜に引っ張られていたっけ。

「……そっか。もうそんなんじゃないか」

「俺だって成長してんだよ。いつまでも引っ張られるだけじゃない」

 悠がぶっきらぼうに言うと、茜は手を離す。ちょっとだけ名残惜しい気がしたのは、茜には秘密だ。

 それからはまたろくに会話もないまま進んだのだが、階段も登り切り、教室まであと少し、というところで、茜が再び口を開く。

「あのさ……倉橋くん。……倉橋くんっていうの、なんか慣れないし、悠、って呼んでもいい?」

「……好きにすれば? 俺は……茜、でいいのか? それとも、昔みたいに茜ちゃん?」

「ちゃんとかキモいし。そんな年でもない。茜でいいよ」

「おう、じゃあ、そうする。……茜」

「何?」

「いや、読んでみただけ。予行練習、みたいな」

「あ、そ。気安く呼ぶのは構わないけど、無意味に呼ぶのはうっとうしいからやめてよね」

「……わかった」

 気安く呼ぶのは構わないのか、と、悠は心の中だけで突っ込みを入れる。ろくに話さなくなって、六年。もう、ほとんど他人になったといってもいいくらいなのだけれど、それでも、茜との距離は、名前で呼び合うのが自然だと感じるくらいに、近かった。

 自分でも不思議だけれど、茜の方も、同じようなことを考えている気がする。余計なことを言えば、やっぱり苗字で、とかなりそうで、それはなんだかもったいなくて、悠はそれ以上、何も言わないことにした。

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