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融氷 ~氷結魔術師転生物語~  作者: 月見黒猫
1章:幼少期エルフェデット編
14/22

13:成長して

少しだけ年代が飛びます

 あれからアストはアルトリア伯爵に直談判をしたみたいだ。

 その話を聞いたのはお父様からで、伯爵が少しうれしそうに、かつ残念そうにアストの騎士志望を聞き入れたということだった。


 それからというもの、アストと遊ぶ機会が少しずつ多くなってきた。

 今まではシンシアとエリアス、この二人と遊ぶことばかりだったのにアストとも遊ぶようになって一気に私の生活は慌しくなる。

 家である程度勉強したりしている私たちのような貴族は学校に通うこともないので自由時間が多くて、頻繁に遊ぶ。

 その合間でも私はアリアと魔術の基礎訓練をしていたし、あまり息をつく暇もなくなっていた。

 けれどそんなに忙しいのは一年間くらいなものだった。

 


 やがて私は七歳、八歳と誕生日を迎えて、シンシアやエリアスは立派な貴族令嬢として忙しくなり、毎日のように遊ぶことはなくなってきた。

 そのおかげでアストと一緒に遊ぶことが増え、たまにアリアと共に街に出るようになったり、どんどん私の生活は変化していく。



 そして私が九歳になったあと、さらに生活は変わっていく。



――――



 私はいつものように魔術の訓練をしていた。

 場所はブリュンヒルデ家の敷地で一番広い中庭。

 九歳から魔宴祭の魔術大会子どもの部にエントリーできるのでそれを見越した実戦練習や大きな規模の魔術の訓練をするようになってきたため、より広い場所で訓練をするようになった。


 魔術大会はそのまま、トーナメント形式で魔術師と実戦形式での勝負をする。

 敷地内は大規模な結界が張られており、治癒魔術による即時再生の魔術も施されているため実戦と全く同じ状況での戦いになる。

 分かりやすく相手を倒せば勝ち、そんな大会だ。

 勝てば賞金や自国の魔術兵団への推薦がもらえたりする大会なので大陸中の魔術師の子どもが集まってくる。

 

 各地の魔術師の子ども、っていうのがどれくらいなのか凄く気になるので私も腕試しをかねて出場することを決めていた。



「ではラビ様、私は本気で動きますのでどんな手段を使ってでも動きを止めてください。ただ動いている私を捕まえるなんてラビ様には簡単すぎると思いますので当然攻撃も挟みます。お気をつけください」


 十八歳になって女盛りな年齢になったアリアは今でも私の侍女をしてくれている。

 姉のような存在であると同時に私の魔術基礎の先生でもある。

 最近の魔力の主流の使い方や魔力量の調整といった私にはなかった知識をたくさん教えてくれた。

 おかげさまで私は以前の魔術に加えてちょっとした調整も使えるようになって、アリア曰く魔術師の家系でもこのレベルにたどり着くのは非常に稀なんだとか。


 前世であれだけ大暴れした魔術師だから、仕方ないと言えば仕方ないのだけど。

 とはいっても最強レベル、と言うわけではないし、前世でも勝てなかった魔術師は何人か存在していた。

 そういった相手は特に強かった仲間のうちの数人に手伝ってもらった覚えがある。



 今も私と同じ年齢でかなり実力の高い魔術師の子どもがいるらしい。

 あの時とは違って一人で戦わないといけない魔術大会のためにこうして実戦訓練をするわけだ。 



「分かったわ。始めましょう、アリア」


 屋敷のほうをちらりと見ると侍女や執事たちが見物のために集まっている。

 いまや私とアリアの実戦訓練は一種のイベントになりつつある。

 


「行きます」


 宣言と共にアリアは中庭を駆け出す。

 身体強化の魔術を使ったアリアの動きはかなり速い。流石は元々剣術のほうが得意というだけのことはあるんだろうか。

 それでも前世の私の仲間にはもっと速く、強力な強化魔術を扱える者がいたから捉えられない速さじゃない。

 

 冷静に、五本のつららを発生させアリアに向けて発射する。狙いはアリアの走って通過するポイント。

 スピードはかなり速く発射した。威力だって鉄板は貫通するはずだ。

 しかし、アリアはほとんど止まる事すらなく、また方向転換することもなく五本全てを持っていた長剣で叩き落す。


 魔術大会の訓練なのに、剣使ったら意味無いでしょ!

 とは思ったけど、魔術で発生させたものなら問題ないことになっているから想定すべきことなのかもしれない。

 アリアは本気になればかなり強い。それを考慮してももっと規模の大きい魔術を使わないと。



 続いて発生させるのは、鎖。

 それもアリアの周囲の空間から多数の鎖を発生させるイメージを作り、魔力を注ぎ込む。

 するとアリアの周囲からイメージどおり八本の氷の鎖が発生し、アリアへと伸びる。



「八方位からでも、直線の攻撃じゃあ裁く方法はたくさんあるんですよ」


 一言そう忠告したアリアは急に停止し、その場で仁王立ち。

 魔術、私がそう感知した瞬間に八本の鎖全てがアリアの近くまで伸びたところではじかれる。

 結界魔術。周囲に自分を守る結界を発生させる魔術をアリアは得意としている。

 これが実戦訓練のときはいつも面倒になる。



「攻撃手段を考えるのは常に動きながらじゃないとだめですよ」


 言葉とともに感知できる魔力。



「本気の魔術!」


 ほぼ反射と化した氷壁を発生させる魔術を起動すると同時に三本の雷が氷壁に衝突した。

 大きな光と音を立てて霧散した雷魔術は私を一瞬足止めするためのものだ。


 私が手を止めたと同時にアリアはまた走り出す。

 攻撃を加えたアリアを捕らえるなんて今までにはなかった訓練だけど、こう一筋縄でいかないのなら私だって少し規模の大きい魔術を出す。



「アリア、これならどうかしら」


 自分の周りをぐるぐる周るアリアを捕獲するには範囲の広い魔術が必要だ。

 発生させるのは氷の礫。大きさはそれほど大きくなく、しかし数は多く。

 それを私の周りを一周囲うように作り出し、全周囲へと発射する。



「っ!」


 流石のアリアもこれには危機感を覚えたようだ。ハッ、と顔つきが変わった。

 速い射出速度の礫を受ける結界を急ごしらえで発生させたアリアはまた一瞬、動きを止める。

 でも、私は咄嗟にアリアに結界を使わせるのが目的。

 礫が結界によって弾かれる瞬間アリアを挟むようにアリアを丸呑みできるほど大きな氷の蛇を発生させた。



「これなら、アリアが慌てて作った結界は食いつぶちゃうでしょ?」


 獰猛な牙をアリアに見せつけ両側から氷でできた蛇が結界ごとアリアに食らいついた。

 それと同時にアリアの結界を突破したことを感知する。

 これで私の、勝ちだ。



「流石です、ラビ様。距離をとっては私でも敵いませんね……」


 二匹の口で押さえつけられたアリアはいつもどおり無表情で、でもどこか嬉しそうにそうつぶやいた。



「アリアが本気の結界を張れば私だって本気で魔力込めないと突破できないと思うから、本当に勝負をすれば分からないわよ?」


「どうでしょうか。もう三年もすれば敵う気がしませんが」


 蛇を霧散させ、アリアを解放させてからアリアに駆け寄る。

 すると屋敷のほうから見慣れた人影が近寄ってきた。



「ほんと、いつ見ても凄いね、ラビの魔術って。下手したら兄上より……いや、下手しなくても兄上より強いかな」


「アスト! いつ来てたの? 言ってくれたら迎えに行ったのに……」


「アストラル様、相変わらずお元気そうでなによりです」


 私と同じく九歳になったアストはあまり見ない服装をして、相変わらずやわらかい笑いを浮かべていた。

 いつもは私がアルトリア家に行くのだけど、たまにこうしてわざわざブリュンヒルデの屋敷まで来てくれることもある。



「アリアさんもこんにちは。いや、今日は学校の帰りなんだ。ついでに寄ろうと思って」


 アストは九歳になって、騎士養成学校に通いだした。

 伯爵とちゃんと話をつけたアストは九歳から通える騎士養成学校に通って騎士を目指すそうだ。

 十三歳から見習い騎士として騎士団に入ることは出来るから、それまでは学校で武術の基本を学ぶことが目的なのだとか。



「そうなんだ。やっぱり学校って大変?」


「うーん、思ってたよりは大変じゃないよ。教官も良い人だし、きっちりやることをしてれば何の問題もないかな。ただラビと遊ぶ機会が減ったのは残念だけど」


 ははは、と笑うアスト。

 九歳になって、アストと遊ぶ機会はまた減りだした。

 私も魔術大会の訓練もあるし、アストは学校だ。

 暇な時間は増えたけれどアストと会う前の生活に戻ったと思えば対して問題はなかった。今では街に出ることも出来るし。



「それで、わざわざ帰りに寄るって何か用事なの?」


「ああー、まぁ用事もあるかな。父上がまた遊びに来なさいってさ。子どもなんだから遊ぶことも仕事だ! って言うんだよ。今までそんなこと絶対言わなかったくせにね」


 アストと伯爵の仲は良くなった。

 もちろんアストのお兄さんと比べたらそうでもないのだけど、態度は明らかに軟化していた。

 それによって私も伯爵とそれなりに仲良くなり伯爵から屋敷に招かれることも出て来た。

 どうやら、気に入られてしまったようだ。



「そうね……今度行かせていただこうかしら。折角だし。アストは次の休みはいつなの?」


「今週末は休みだよ。週末だから父上もいるし、兄上もいる」


「アリア、今週末は何か用事あったかな?」


 私たちの会話を聞きながら埃を払っていたアリアはどこからともなく手帳を取り出して日程を確認しだした。

 それをしまったまま戦ってたことにびっくりだ。



「いえ、何も予定はありませんね。ついでに言えばエドワード様、リアナ様もお休みです」


「あら、それならお父様たちにも言ってみようかしら……。アスト、お父様たちも呼んでもかまわない?」


「うん、もちろんだよ。父上も喜ぶだろうし」




――――


 こんなやり取りがあって、週末にアルトリア家に行くことが決まった。

 お父様もお母様も久しぶりに遊びに行くことに嬉しそうで、なによりだ。

 

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