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融氷 ~氷結魔術師転生物語~  作者: 月見黒猫
1章:幼少期エルフェデット編
13/22

12:アストラルの熱弁

 お父様にお願いをした次の日の夜、早くもアルトリア家へ行ける事になった。

 正直なところ諦め半分だったのだけど、こんなにも早く向こうの話が変わるなんて思っていなかったのでびっくりした。


 そしてそれからさらに三日たって、私はアルトリアのお屋敷に来ていた。



「この間も一回来てるのになんだか緊張してきたわ……」


「久しぶりですし、なによりラビ様と私だけですから。この間とはまた違った感覚なんでしょう」


 今日は私が個人的に遊びに来る、と言うだけのことなのでお母様はいない。いつもどおり護衛に来たアリアだけだ。

 


「ラビーナ・ブリュンヒルデ様でございますね。お待ちしておりました」


 正門のところまで行くと半年ほど前にも見た老執事、セバスさんが待っていた。

 


「お久しぶりです、セバスさん。以前はお世話になりました」


「私のような老いぼれの事も覚えてくださっているとは、噂どおりしっかりした方のようですな。どうぞ、こちらへ。アストラル様がお待ちです」


「では私は一旦戻りますので。いつもの時間にはお迎えに上がります」


 セバスさんが私を案内するのと同時にいつもどおりアリアはブリュンヒルデの屋敷へと帰っていく。

 そして、前のように迷わないように私はセバスさんの案内にしっかりと着いていった。




――――



「ラビーナ! また来てくれてありがとう!」


 通されたのはアストの部屋。

 目の前には久しぶりに見た茶色の髪、真紅の瞳の少年は心底うれしそうな笑顔で私を出迎えてくれた。



「アスト、久しぶりね。……少し背が伸びた?」


「分かる!? そうなんだ! 最近しっかり食べることにして、体も鍛えてるからね!」


 アストが以前どれくらい食べていたのかなんて知らないけれど、体を鍛えている、というのには驚いた。

 騎士を目指しているのは聞いていたのだけど、どうやらかなり本気のようだ。

 


「今日は何する? ほら、父上もいないし、この間は話してるだけだったけど外で遊んだり、何でもできるよ?」


 瞳をきらきらと光らせたアストはやけに興奮気味だ。

 そういえば、親子喧嘩をしたのならあまり屋敷から出てすらいなかったのかもしれない。私が家に行かせてもらえなかった例もあるし。



「私は何でも……どっちかと言えばアストとお話していたいけど……」


「僕と話? なんの話がしたいの?」


「うーん、そうね。最近は何してたの?」


 今日来た目的はアストと約束を果たすことと気になっていた親子関係を知ることだ。

 何とかそこまで話を誘導するべく話をしていく。



「最近はー……セバスに騎士についての話をしてもらったり、兄上の魔術の練習を見たりしてたんだ。後は体を鍛える方法を教えてもらったり、ね」


「アストは魔術の訓練はしてないの? ……騎士になるの?」


 少しずつアストを追い詰めていく。

 元々“氷結の悪魔”は尋問だってしていたし、誘導尋問は得意中の得意だった。

 魔術師には口がうまい人がなぜか少なかったので、リーダーとして敵と会話することが多かったからいつの間にか身についたものだ。

 久しぶりに来て、少し悪い気もするけれどまず私の気になってることから解決して、すっきりしてアストと遊びたいと言う気持ちもある。


 アストは私の責めるような口調に渋い顔をしている。きっと散々家で反対されたのだと思う。



「……僕、次男だからね。どうせこの家の跡を継ぐ必要はないし、僕はあまり魔術の才能がないみたいだからね。それに……」


 俯きながら、アストは小さな声そう答えた。

 それに、の先は私には聞き取れなかったけど、それ以外のことははっきり聞き取れる。

 


「アスト、魔術の才能がないってどういうこと?」


 聞き取れなかった部分も気になったが、それ以上に魔術の才能がないという言葉が気になった。

 魔術を使えない人間はいない。

魔術は生命力が糧なのだから、生きている限りは魔術を使えないということはない。

 得意不得意はあっても、魔術に魔力を注ぎ込むことは誰だってできるものだし。

 


「ああ、えーとね……実は父上が話してるのを聞いちゃったんだ。……僕、この家の“雷”の魔術性質をほとんど受け継いでいないんだって」


「えっ?」


 そんなことはおかしい。だって両親共に“雷”の性質を持っている家系なのに、その子どもに性質がほとんど受け継がれないなんてことは、可能性としてありえることじゃない。

 魔力性質はほぼ遺伝で決まる。両親の濃いものを受け継ぐ確率が一番高いし、なによりアストのお兄さんはちゃんと性質を受け継いでいる。


 ただ、これで大体の話がつながった。

 伯爵はどうしてアストの扱いが良くないのか。

 アストはどうして伯爵から嫌われていると思っていたのか。

 それはきっと、伯爵は遺伝のはずの魔力性質をほとんど受け継がなかった息子に対して自分の子どもなのかどうか疑うまではいかないとしても、由緒正しき家系の遺伝が行き届かなかったことに疑問を持つだろう。


 それがきっとアストへの不信感につながって、二人の仲を悪い方向へ持っていったんだ。

 アストだって自分がちゃんと魔力性質を受け継いでいないことを知ってしまえば、それが原因で伯爵から嫌われていると思ってもおかしくない。

 私はアストの一言で、半年間考えていたことの答えらしきものを見つけた。



「そう……だったんだ。そうよね、それなら自分に魔術の才能がないって思っちゃうか」


「うん。だから魔術師よりも騎士を目指したいんだ。父上は魔術師の家系から騎士が出るなど! っていうけど僕はそんなのは関係ないと思ってる。この本の騎士だってそうだしね」


 そう言ってアストが私に見せてきたのは有名な男性騎士が自分の伴侶である魔術師の女性と共に数々の苦難を乗り越えるというストーリーの本だ。

 絵本としても出版されていて、私もお母様に読み聞かされたことがあった。

 

 この物語の騎士は元々優秀な魔術師だったが伴侶である魔術師を守る盾となるため剣を取り、騎士となることから物語が始まっていく、と覚えている。

 私は最初、守護魔術でも使えばいいのに、と思ったのだけどもしかすると男の子からすればまた違った見え方があるのかもしれない。この騎士に対しての。



「……そうね。確かに魔術師の家系だからって魔術師にならないといけないわけじゃないのか。アスト、そんなに騎士になりたいのなら伯爵と真正面からもう一度話をして見るべきよ。私を納得させたみたいに話をすれば、きっと伯爵も分かってくれる」


 元々魔術師の家系だった私を説得できたのだから、きっと大丈夫。

 伯爵もきっとお父様に何か言われていると思うし。

 お父様はああ見えて巧みな話術を持っている。内政にかかわる身だからなのだろうけれど。



「そう……かな。どっちにしてもこのままじゃ父上は許してくれないだろうし、一回がんばって話してみようかな……。ありがとう、ラビーナ!」


 アストは苦笑いを浮かべてはいたものの目はまっすぐで、やる気が感じ取れた。

 


「がんばってね、アスト。あ、それとね。私の事はラビって呼んで。お父様もお母様も、アリアもみんなそう呼ぶの」


 と、今までは気になっていなかったけど急にラビーナと呼ばれていることが気になって。

 付け加えの言葉にアストは面食らったようだったけど、すぐに頷いてくれた。



「分かった! ありがとう、ラビ!」


 アストは心底うれしそうに私の愛称を呼んでくれた。

 呼ばせたのは私だけど、初めて家族以外から呼ばれたことに、少し私もうれしくなった。





 


ほとんど同じ内容を、今度は子どもたちの意見で書きました。

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