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こき使われてますなう 01


 トワ……


 泣くなってば。トワ。

 何があっても、俺が絶対に、守ってやるって約束しただろ?

 少年は少女に言った。


 そうだね。


 少女がうなずく。

 あたし強くなるよ。

 あたしを苦しめた人達を許せるぐらいに強く……










「ふはははははは。愚か者めがあ。人間の分際で、この第八階梯の悪魔、カイル・ローゼンバック・デスペラーに命令しようと言うのか?」

 こたつの上に足をかけて、山田良哉は高笑いをした。

「ふが?」

 木村作治さん(82才)は、膝の上に猫のタマをのせて不思議そうな顔をする。

「まあ、いいだろう。貴様のような老いぼれであっても、魂がある事には変わりない。言うがよい。どんな願いを叶えて欲しい?」

「じゃあ、山田さんや」

 木村さんが言う。

「ちょっと、おしんこ切って来てくださらんか?」

「ふははははは。それがお前の願いか。いいだろう。しかし、その前にこの契約書にサインを……」 


 バシ!


「いてっ!」

 後頭部をはたかれて、振り返るとキリエが立っている。

「さっきから黙ってみてれば、なんだ、その高飛車な物の言い方は」

「なんだよ! お前、偵察に来ていたのかよ?」

「偵察とは人聞きの悪い。お前の働きぶりを見に来たんだ。なんだ、その態度は。分かってるのか? お前はボランティアで一人暮らしの老人のための家事手伝いをするために派遣されて来たんだぞ」

「そんなん知らねえよ。俺にとって大事なのは老人介護ではなくて、魂の収集……」


 バシ!


「いてえな。イチイチ叩くなよ! このハリポタもどき!」

「いいから、さっさと仕事しろ。おしんこを切って来てくれと頼まれだんだろ?」

「くそ」

 良哉は台所に入ると、おしんこを取り出して切り刻み始めた。しかし……

「いて!」

「どうした?」

「指を切った。うわ、また切った。なんつー無礼な包丁だ」

「なんという、不器用さ。お前。料理もしたこと無いのか?」

「悪魔が料理なんかするわけが無いだろ」

「仕事はしない、学校は行かない、料理はしないで、お前今までどうやって生きて来たんだ?」

「知りたいなら教えてやるよ。それぐらいの力は残ってるみたいだしな」

 そういうと、良哉は隣室の木村さんの元に戻り、その目をじっと見つめた。しばらくすると、良哉の目は血のように赤く染まり、邪悪な顔つきになる。そして、木村さんに向かって言った。

「愚かな人間よ、我のために金を差し出せ」

「ほえーーー」

 木村さんはうなずくと、良哉に財布を差し出した。

「どうだ?」

 良哉は得意げにキリエを見た。

「かつあげかよ!」

「この手で料理も作らせる。今の俺の力じゃ、気の弱い奴にしか通用しなさそうだが……」

「もういい。聞いてるだけで絶望的な気分になって来た。お前は庭の掃除でもしてろ」

「なんで俺が?」

「それが仕事だからだ。まさか、いやだとか抜かさんだろうな」

「別に。やってやってもいいけど、一回の掃除につきに聖人五人分の魂を支払ってもらわないとな」

「なぜ、たかが掃除でそんなに魂がいる! 燃費が悪いのも大概にしろ」

「燃費が悪いとはなんだよ」

「いいからやれ! やらないと……うりうりうり……」

 キリエは、イエス柄のタオルを取り出して良哉の顔を撫でようとした。

「お……おまえ、なんでそんなもん持ってるんだよ」

「お前を動かすための必需品だ。うりうりうり」

「分かった。分かったから、よせ!」

 良哉は答えると、箒を持って庭に出た。庭には枯れ葉がいっぱい落ちている。

「その枯れ葉を一つ残らず片付けろ。いくら元ニートでも、一応男ならそれくらいのことはできるだろう?」

「元ニートとか、一応男とか言うな。こんな庭ぐらい、5分で片付けてやるよ」

「ほう。それが本当なら見直してやってもいいが」

「見てろよ……」

 そういうと、良哉は手を広げて空に向かって叫んだ。

「邪悪なる精霊召喚!」

「邪悪なる精霊召喚だと?」

 キリエが首をかしげる。

「そうだ。お前に力のほとんどは奪われたが、この力だけは残っている。邪悪なる風の精霊よ! 舞い上がれ、嵐になり、竜巻となれ」

 良哉の言葉と同時に足元から風が巻き起こり、徐々に大きくなっていく。風は、木の葉を舞い上げ、グルグルと渦を巻き始めた。


 ゴオオオオオオオオ


 やがて、小さな竜巻が産まれる。

「いいぞお。いいぞお。その調子で木の葉どもを遠くへ飛ばしてしまえ」

 家々の瓦がかたかたと揺れ出始める。ガラスがミシミシと音をたて始める。お隣の人が不安げに窓から顔を出した。そして、風は……ついに家々の瓦を巻き上げ始めた。

「ふはははははは」

 良哉は高笑いを上げた。

「見たか。お前に力の大部分はとられてしまったが、このぐらいの事をする力は残されているぞ……ふははははははははははは!」


 バキ!


 岩を割るような音とともに、良哉の目に火花が散った。

「いってえな。何すんだよ」

 振り返った良哉に向かって、キリエは静かに言った。

「手でやれ」

「はあ? なんでだよ」

「いいから、手でやれ」

「この方が効率的だろ?」

「貴様が飛び散らかした看板やら、瓦の片付けで二度手間決定だ! 掃除ごときで地域の皆様に迷惑かけるな!」

「ふん。人間の事情など知った事が。苦しめ、苦しめ。ついでに全員死ねばいいのに!」

「いいから、手でやれーーーーーーーー! 呪うぞ!」

 青白い炎を背負ってキリエが叫ぶ。

「……呪うって、夕べのあれをかますつもりか?」

「そうだ」

 良哉の脳裏に、青白い炎の直撃を受けた後の恐ろしい記憶が蘇ってくる。

「わ……分かった。分かったよ。手でやりゃいいんだろ」

 良哉は仕方なくうなずくと、ぶちぶち言いながら箒で木の葉を集め出した。

「おい! 口より手を動かせ」

 キリエの怒号が聞こえて来る。

「ちくしょう。今に見てろよ」

 と、その時、キリエの携帯が鳴った。

 キリエが携帯に出る。

「はい。こちら、サンタナ教会のキリエ……え? デビルアイテムが現れて暴れ回っている?」

 木の葉を集めながら良哉がつぶやく。

「デビルアイテムだと? ああ。あの一階梯にも満たない雑魚か。人間の悪想念が生み出す下級悪魔だな」

「住所を教えてくれ。 ……よし、分かった。すぐに行く。皆に、アイテムには近寄らないよう言っておいてくれ」

「いいぞ。とっとと行ってしまえ。その間に、魔力で終わらせてやる」

 良哉がほくそ笑んだその時。

「おい。行くぞ!」

 キリエが良哉の腕をつかんで叫んだ。

「は? 俺も?」

「当たり前だ! 来い!」

「掃除は?」

「そんなもん、後でいい。早く来ないと呪うぞ!」

 こうして、良哉はキリエに拉致されて海沿いの新興住宅に連れて行かれた。

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