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奴隷になりました 04

「さて、こいつをどうするかな?」

 男が帰ってしまうと、キリエはカイルを見おろして言った。その胸元には十字架と黒い鍵がぶら下がっている。先ほどの言葉通り、カイルの第二スピリットをペンダントヘッドにしてしまったらしい。

「その鍵を返して、とっとと俺を解放しろ」

 しかし、キリエはカイルの言葉に耳を貸す事もせず。

「どうだ。この際私の奴隷にならないか?」

 と、さわやかな笑顔で言う。

「奴隷だって?」

「そうだ。実はな。ついこの間まで優秀なエクソシスト兼ボディーガードの神父がいてくれたのだが、その人が天上に上がってしまってな」

「天上に上がっただと。つまり、死んだって事か?」

「無礼な言い方をするな。とにかく、そんな優秀な人材がいなくなった事もあり、何かと人手が足りなくて困っているんだ。お前にここの仕事を手伝ってもらえると助かるのだが」

「やだね」

「お前に選択の自由があると思ってるのか」

「それ、依頼じゃなくて脅迫だろう? とにかくやなもんはやだ」

「言っておくが、この教会は拷問グッズには事欠かないんだが?」

「そんな脅しきくかよ」

「……これでもか?」

 キリエはそういうと、懐から鉄砲を取り出してカイルに向けた。

「ふ……ふん。撃ちたければ撃ってみろ!」

 カイルは強がってみせる。

「いい度胸だな」

 キリエは引き金に指を当てた。

「本当に撃つぞ」

「好きにしろ」

「じゃあ、撃ってやる。ぴゅっ!」

 言葉とともに鉄砲から液体が飛び出してカイルの顔にかかった。

「何じゃこりゃ?」

「カラシ汁だ」

「なんでそんなもん持ってるんだよ。うわ。口に入った。辛い!」

「さあ、どうする。私の奴隷になるか」

 キリエは言いながら次々とカラシ汁をかけて来る。

「アホか、お前は。こんなもんで誰が屈するか」

「くっ。強情な奴め。いいだろう。ますます気に入った。マリア。タオルを持って来てやれ」

 キリエの言葉に頷くと、マリアはどこからかタオルを持って来てカイルの顔を拭いた。その途端……。

「うぎゃあああああ」

 カイルが悲鳴をあげた。

「どうした?」

 キリエが訝しげな顔をする。

「そ……そいつを、そいつを俺に近づけるなああああ」

 カイルは震えながらタオルを指差した。そこには、イエスの絵が描かれている。

「お……俺は、この世に怖いモノは無いけど、そいつだけは苦手なんだ。近くに持って来るな!」

「奇妙だな。お前はさっき、あの祭壇の上のキリスト像を踏みにじっていたようだが?」

「あの時は、この姿じゃなかったから」

「何? ……そうか……つまり悪魔の姿でいる時は、脳内に中二物質が分泌されて怖いものなしになるってことだな。了解した」

「中二物質ってなんだよ。勝手に了解すんなよ」

 しかし、当たらずとも遠からずだった。

 カイルの弱点に気付いたキリエは、哀れに思ってやめるわけもなく、今度はイエスのタオルをカイルに向けていたぶり始めた。

「うりうり」

「やめろおおおおおーーー」

「やめて欲しくば奴隷になるか? 奴隷になるだろ? 奴隷になるといえ」

「分かった、分かった! 奴隷にでもなんでもなるから、やめてくれ」

「よし。いいだろう。じゃあ、今日からお前はこの教会の一員だ。一員となるからにはお前の事をよく知らなくてはいけない。まず聞こう。お前の名前は?」

「カイル・ローゼンバック・デスペラー」

「違う違う。そんな中二名じゃなくて」

「何が中二名だ」

「人間だった時の名前があるだろう?」

「ねーよ」

「うりうり。タオルで拭くぞ」

「うわあ、よせ。俺の人間の時の名前は山田良哉だ」

「その、ヤマダヨシヤが、なんでカイルなんたらかんたらなんて悪魔をやっていた?」

「だから、悪魔をやってるんじゃなくて、正真正銘の悪魔なの! 俺は魔界では南東部の領主の跡取りだったんだけど、オヤジが覇権争いに負けて領地を奪われてしまったから、領地奪還のために必要なエナジー、つまり『人間の魂』を集めるために、わざわざこの人間界に人間として生まれ変わって来たんだよ。14才の時にこの記憶を取り戻して以来、俺の人生は孤独と苦しみ以外の何ものでもなかった……」

 そこまで言うと、良哉は遠い目をした。すると、キリエが言う。

「中二病だな」

「ひとことで済ますなよ!」

「だって、14の時に発症したんだろ? 14といえば中二だろ」

「たまたまの、偶然だし」

「で、14才までは何をしていたんだ」

「ふはははははは。聞いて驚け」

「なんだ?」

「全然覚えていない」

「ふざけてんのか? うりうりジーザス」

「うわ! タオルを近づけるな! 本当だって。俺には14才以前の記憶が無いんだ。無い記憶は話せない」

「そうか。まあ、信じてやろう。……で、今は何をしている。学校には行っているのか?」

「ふっ。バカバカしい。悪魔が学校なんか行くかよ」

「仕事は?」

「してない」

「つまり、ニートか」

「やかましい」

「まあいい。お前の事はよく分かった。お前からは何か私に関する質問は有るか?」

「まったく興味ないね」

「そうか。じゃあ、今日はとりあえず寝るとしよう。マリア。山田良哉を寝室に案内してやれ」

 マリアはうなずくと、カイルこと山田良哉を案内しようとした。ところが……

「ふはははははは。甘いな!」

 山田良哉はマリアの背後から襲いかかり、その細い首をがしっと掴んだ。

「何をする気だ?」

「見てのとおり人質にとったんだよ。この女を殺されたくなければ、その鍵を返せ」

「ほう。取引しようというのか?」

「そうだ。どうする?」

「さあ。どうしようかなあ? マリア」

 すると、良哉の目の前の聖女がクスッと笑ったような気がした。そして、次の瞬間、目の前に閃光が走り、気がつくと良哉は床の上に惨めに転がっていた。

「言い忘れたが、マリアはハイクラスの聖魔導士だ」

「聖魔導士?」

 聖魔導士とは、神より聖なる力を使うことを許された魔導士だ。秀でた力をもったダブルソウルが厳しい修行と戒律に耐え、さらに難しい試験にパスする事でやっとなる事ができると聞いているが……。

「そうだ。マリアは厳しい修行に耐え、わずか3年で試験を通った超優秀な聖魔導士だ。先ほどまでのお前ならともかく、力の大半を失った今のおまえごときの叶う相手ではない」

「く……」

「分かったら、おとなしく寝ろ。明日は朝から忙しいぞ」

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