<七-一>
ちょっと暗め…
最初に目に付いたのは赤。
いや、2つ灯った禍々しい赫光。
次に見えたのは、黒い人影。
手に持っているのはナイフ。
近づいてくる。
「…シィン…。」
人影が呻く。
わかっていた。ついに彼奴が来たのだと。
この時が来てほしくはなかった。
だから、明日は里を出るつもりだったのに。
人影が近づく。月光がその顔を照らす。
知っている、その顔はよく知っている。
「…父さん、…母さん。」
二人は泣いている。
俺の頬にも、いつの間にか涙が流れていた。
未だ、涙が流れるのか。そんな埒もないことが頭をよぎる。
わかっている。
二人を助ける、そのためにしなければならないことを。
自分の腰から短剣を抜く。去年の誕生日、父に送られた短剣。
「もう、おまえも一人前の野伏だからな。」
そういって笑いながら短剣を贈ってくれた父。その横で微笑んでいた母。
もう、二人の笑顔を見ることはできない。
「…、…。」
二人は何かを言っている。聞き取れないほどの声。でも、わかる。
二人が何を求めているのか。
俺が何をしなければならないのか。
この日が来なければよかったのに。
二人が腕を振り上げる。
始めは父。
そっと、一歩近づく。父は震えている。何かに耐えるように必死に。
耐えているのだ。苦しんでいるのだ。
「ありがとう、父さん。」
自分のありったけの思いをその一言にこめて。
そっと胸に短剣を潜り込ませた。
流れる血は思いがけず少なかった。
それでも、熱い血潮が顔にかかる。父さんの血。
後ろから、母さんが来る。
振り向く。
母さんの顔は涙に濡れていた。
ナイフが肩に刺さる。
母さんからの最後のプレゼント。
ナイフを肩に刺したまま、短剣を母さんの胸に。
「ありがとう、母さん。」
母さんの血潮も顔にかかる。
両親の血にまみれた俺。
瞬く赫光。
二つの赫光の下に見えるのは闇の色をした三日月。
嗤っているのだ。
跳びかかろうとした瞬間。
消えた。
そこにはもう、何もいなかった。
そして聞こえる悲鳴。
ふりむくとそこに、彼女がいた…。
更新遅れました。
やっと主人公の出番ですが…。不幸だと思います。