<五>
あと少しで舞台が変わります。
それに伴って、三人称だけでなく、一人称で登場人物の視点からも物語が進み始めます。
冒険者の宿の特徴の一つとして、密談用の小部屋の存在がある。
これは大抵、どの冒険者の宿にもある。他の者に聞かれたくない話をする場合のためだ。冒険者の依頼の中には他に漏れては困る秘密が含まれることも多いからである。(当然、依頼には秘密を守ることも含まれるため、秘密が漏れた場合、宿が多額の違約金を払わなければならないはめになる。そこで、どの宿も防音、対魔法結界を備えた部屋を用意するのが常識となっている。)
部屋に3人組とカイトたちの仲間が入り、向かい合うように椅子に掛けると、カイトが口を開いた。
「それじゃ、依頼を聞く前に簡単に自己紹介をしておこう。俺はリーダーのカイト・リー ン、重戦士だよ。隣が妹のケイト。」
「よろしく。技能は野伏と軽戦士よ。」
兄弟そろってあいさつをした。この二人は人間族のようだ。
どちらも赤髪で、カイトは短髪に刈り上げ精悍な顔立ちをしているが、雰囲気は善人っぽいところがある。
ちょっとした身のこなしから、その肉体には強靱な筋肉に裏打ちされた攻撃力があることが、見る眼のあるものには見て取ることができる。
ケイトは肩より少し長めの髪を後ろで一つにまとめ上げている。
顔立ちはカイトの顔立ちに似ているがどちらかというと、愛嬌のあるなかなか魅力的な顔立ちをしている。
じっとしているより、体を動かすのが好き、といった活動的な雰囲気を持っている。
「次がグレン・カーク」
「よろしく。見ての通りドワーフの神官戦士じゃ。我が神はカイロスじゃよ。」
次はカイトの隣にいたドワーフ族が太い声であいさつをした。茶色の髪に茶色の髭、ギョロッとした眼が印象的だ。
ドワーフ族らしく縦にも横にも厚みがあり、樽のようにも見える。カイロスを信仰している、ということはおそらく、鍛冶の腕もあるのであろう。
「そしてシャリー・ランド」
「よろしくお願いします。魔術師兼、識者です。」
次にあいさつをしたのは人間族の女性だった。銀髪の長い髪を軽くまとめている。
物静かで知的な感じを漂わせている。ただ、身につけている装身具の幾つかには魔力の気配がある。そのことから考えても、かなり高等な魔法を操ることが推察できる。
ただ、どのような系統の魔法を使うのかは、ちょっと判断がつかない。
「最後がファーサイト・ロウだ。」
「よろしく。俺は豹人族だよ。探査者で射手だ。」
最後にあいさつしたのは獣人族の中の一種族、豹人の男だ。
顔立ちは豹が人間らしい表情をしているといえばよいだろうか。毛並みは黒。背中の方で長い尻尾がゆらゆらと動いている。
全体的にしなやかで、隙のない動きで、優秀な探査者であることを示している。獣人族は身体能力が高いので、おそらく射手としても優秀であろう。
「以上5人で『風追い人』というパーティを組んでるよ。」
そう言って、カイトは自分達のパーティの紹介を終わった。そして、その紹介を聞いてアルフォード達がどのような反応を示すのか、興味深そうな眼で眺めていた。
※エル・グラウドは宗教的には多神教世界である。それぞれの神の奇跡が実際に見られるため、一神教は成立していない。
※大地の豊穣と守りを司る女神「アリシアン」
海や水を司る男神「ベイブフォート」
炎と鍛冶、工業を司る男神「カイロス」
風と天候、旅の安全を司る女神「ディーネ」
昼と夜、光と闇を司る双性神「エリダンテ」
以上を五大神と呼び、その他芸術や商業、森の神などの小神が存在する。
※神官は特に一つの神を信仰することで、一般的な治癒魔法とその神特有の神聖魔法を使うことができるが、一般人はその時に応じて神に祈りを捧げている。また、竜人が神を信仰しないのは自分たちの祖先である、竜という存在が神に近い力を持っているため、(時には小神よりも古竜の方が強い)他の神を信仰しようとはしないからである。
※獣人族、妖精族にはそれぞれのみ信仰する特別な神があるとも言われるが、普通はその名前が知られることはない。
※冒険者のパーティはそれぞれチーム名を持っている。高名なパーティは、場合によっては、国からでも名指しで依頼が来ることもある。
今回は依頼が終わるまでの連続投稿です。