<十九>
試練が終了した後、一行は思い思いに回復と休息に入った。
何せ、これで試練は終了である。ここまでは限界ギリギリだった。
後は宝物庫に進むだけ。
その前に身体を休めたいのは当然だったろう。
試練の間の安全は今まで同様、火精王が保証していた。
そのこともあり、シィン達一行はここで一度睡眠を取ることにした。
…、…ン
遠くから誰かの声。
誰かを呼んでいるようだ。
シィ…、…、…ン
名前?
思わず耳を澄ます。
シィ…ン
それは確かに名前だった。
自分の名前。
その声は一人の様でもあり、複数の様でもあった。
どこから響いてくるのかも分からない。
ただ自分に呼びかけてくるのだけが分かる。
周囲を見回す。
自分を中心にぼんやりと明るい。
しかし誰も居ない。
シィン
また声がする。
先ほどより近い。
しかし何処から?
突然、理解した。
下からだ。
下を見る。
そこは透明な水晶のような床だった。
誰も居ない。
いや、あれは?
透明な床の向こうに蠢く影が見える。
眼を凝らす。
輪郭が朧で、はっきりしない。
近づいてくるのが分かる。
近づいてくると,それは大勢の人の様なものが絡まり合った塊だった。
更にそれが近づく。
その顔が見えた。
父が居た。
母が居た。
アルフォードが。
ビロウズが。
かつての友が。
家族が。
口々に自分の名を呼んでいる。
何故自分は死なねばならなかったのか。
何故シィンだけは生きているのか。
その想いを、怨みを、感情を込めてシィンの名を呼ぶ。
声が響く。
シィン…シィン…シィン
謝りたい。
自分のために死んでいった人たちに。
諦めたい。
これ以上死者を積み重ねないために。
しかし、できない。
謝る言葉さえ出ない。
自分の胸にある復讐を否定するから。
復讐はすでに自分自身だった。
身体の肉という肉の隙間に、とろとろと暗い炎が燃える。
身体中を喰らい尽くそうとするこの炎が、それを許さない。
これからも親しき人の死を見るだろう。
血に濡れた身体を踏み越えていくだろう。
それでも自分は前に進むしかない。
その決意を込めた眼で、自分に迫る死者達を見る。
彼らが近づく。
今までに自分が手にかけた死者達(愛しき者)が自分を飲み込んだ。
そして、声が聞こえた。
あの声は…。
「…ンさん、シィンさん!」
夢の中と同様、自分を呼ぶ声がする。
身体が揺すられ、意識が覚醒した。
シャリーが呼んでいた。
「大丈夫ですか。かなりうなされていたようですが…。」
傍らにはシャリーの他に、ディーも心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫だ。少し昔の夢を見ただけだ。」
そう答えると、事情を知るシャリーは、ある程度納得した様だった。
しかしディーはそれでも心配そうな眼差しで、
「…本当に?」
と問いかける。
「ああ。」
短く答えを返すとそのまま立ち上がった。
先に進む、それだけが自分に出来ることだから。
今回はシィンの内面です。




