<六>
翌日、未だ日も昇らない内に「風追い人」一行は最後の旅立ちのチェックをしていた。
「それで、シィン。目的の物は手に入ったのか?」
「ああ、無事に手に入った。」
昨夜、シィンが「ガルムの店」で手に入れてきた魔法具は「亜空珠」と言う物だった。
所有者の持ち物をほぼ無限に亜空間に収納できる魔法具である。
形状は少し幅広のブレスレット。上に来る部分には光・闇の属性を持った魔晶石を組み合わせて五芒星の魔法陣を象っている。
その周囲に補助として、五芒星を囲む4隅に地・水・火・風の4属性の魔晶石を配置してで強化し、さらに呪文を刻み込んである。
生物を入れることはできず、キーワードを知る所有者以外が物品の出し入れをすることはできない。
その性質上、商人が欲しがる一品だが、流通数が少ない(遺跡から稀に発見される)ため、手に入れるにはかなりの金額と運が必要になるのが普通である。
「しかし、よく手に入りましたね。」
シャリーが感心したように言うと、
「『ガルムの店』にあるだろうとは思っていたが。まあ、運がよかった。」
とシィンが答えていた。
「これで、やっとあの荷物から解放されるのね。」
ケイトが嬉しそうに言う。
彼らはここまで手分けして大量の魔法香と回復薬、毒消し薬等のポーション類を運んできていたのだ。その数ざっと300本。一本ずつの重量はたいしたことが無くても、これだけの本数があれば一人あたりの重量は大変な物になる。
シィンがキーワードを唱え、早速、ポーション類を亜空珠に収納していく。
山のようにあったポーション類はみるみるうちに片づけられてしまった。
出立準備も整った一行に、弁当を渡しながらライラがシィン達に尋ねた。
(朝になってライラはカイト達が「風追い人」だということを知った。)
「それで、こんな早くどこまで行くんだい。」
「『還らずの迷宮』に挑むんだよ。」
それは何気ない一言だったが、その返答がライラに我を忘れさせた。
「そ、それなら頼みがあるんだ。」
慌てて、ライラは昨日出発した「新しき星」のことを説明する。
「…それで、あいつ等が無事かどうか確かめてほしいんだ。」
その言葉にシィンが問い返した。
「無事でなかった場合は?」
「もちろん、助けてもらいたい。うちの宿の大事な冒険者だからね。報酬は出すよ。」
「約束はできん。最悪は遺品を拾ってくることになるな。」
そう言うとシィンは続けて、ライラに問いかけた。
「馬は用意できるか?」
「あ、ああ。3頭なら…」
「なら、急いで頼む。一日遅れなら、迷宮に入る前に追いつけるかもしれん。」
ライラが慌てて馬の手配に行くと、カイトが話しかけてきた。
「案外優しいところがあるんだな。」
「お前に言われたくはないが…。」
「照れるなよ。」
「あの迷宮に『不確定要素』がいる状態で挑みたくはない。それに…。」
「それに?」
「死ぬと分かっていて、挑ませる必要もないだろう。」
「それほど危険なんだな、『還らずの迷宮』は。」
「ああ、お前達でも予備知識と準備無しでは、半日と持たないだろう。」
「もし彼らが、迷宮に入っていたら?」
そこに、ライラの馬の用意ができたと知らせる声が聞こえた。
声のする方に向かいながらシィンは素っ気なく答えた。
「遺品が拾えれば幸運な方だろうな。」
3頭の馬に6人。それぞれが馬に分乗することになった。
黒鹿毛の馬にはカイトとシャリー。
芦毛の馬にはグレンとファーサイト。
駿毛の馬にはシィンとケイト。
体重をできるだけ均等にする、ということでこの組み合わせになった。
ケイトは若干不服そうな顔をしたが、急ぐ必要があるのは分かっていたので珍しく文句は言わなかった。(シャリーとカイトは当然ペア。グレンとファーサイトがさっさとペアになり、シィンに押しつけた。)
馬に跨った「風追い人」プラス1名は「還らずの迷宮」を目指し、朝靄の立つレンナルトを出発した。




