<一>
やっと2話目。なかなか難しいです。
エルシューン大陸。その中央に位置する深い森、ミズネルン。
既に日は落ち、あたりは闇に包まれている。
季節は春から夏になりかけで、森の植物が一斉に育ち始める頃。森の持つエネルギーが一斉に放出されているように感じられる。
空気の中にも濃密な樹木の匂いが立ちこめている。もし、今が昼間ならば鮮やかな新緑が周りを取り囲んでいるのが見えたことだろう。
時折、獣の鳴き声が遠くで聞こえ、空には銀色の月が、まるで闇を切り取ったような鋭い鎌の形をして浮かんでいた。
遙か遠くに、かすかに暗く姿を見せているのは、ミズネ山脈の稜線であろう。薄い月明かりの中、かすかな陰影が夜空と大地を分けていた。
濃密な自然の気配が人間を拒絶するような、その深い森の中の一隅に、異物があった。焚き火である。
夜の静けさの中、焚き火の炎だけが時折パチパチとはじける音をあげ、その周囲は3ミトルほど照らされる。
炎の揺らめく明かりの中で、一人の男が、先ほどから何かしていた。
揺らめく炎に映し出された横顔は男、というよりは幾分少年に近いものではあったが、その男が身にまとう雰囲気や、ちょっとした動作はむしろ壮年のような、そんな不思議なものが混ざり込んでいた。
顔立ちは整っている、といってもよいだろう。もし街を歩けば、すれ違う女性の幾人かは振り返るかもしれないほどではあった。
髪の色は黒髪だが、一房だけ銀色が混じっている。瞳は鳶色。
身なりを見れば冒険者のような装備をしている。
身にまとう鎧は、皮をなめし、油で煮込んで作った硬革鎧を着込んでいる。
弓や短剣を所持しているところを見ると、おそらくは野伏なのであろう。
ただし、普通の野伏ではないことは男の手元が語っていた。
男の手元を見ると、円周上に等間隔で5サンほどの木の枝が12本たてられていた。
さらに中央に、10サンほどの三つ叉に分かれた枝が、これだけは逆さにたてられていた。その全てが、魔力が宿る、といわれる寄生木の枝であった。
そのことを見れば、男が何がしかの魔法を使おうとしていたことがわかる。
-我は願う-陰に潜みし闇の精霊-求めし者-何時-何処-『精霊探査陣』-
男が精霊語で呪文を唱えた。
そのとたん、寄生木の枝がボウッと青白く光り、中央の枝が不自然な揺れ方をした。
と思うと、突然、生命を得て歩くかのようにコトッ、コトッ…としばらく動き、そして、倒れた。
精霊魔術である。それも、どちらかというと珍しい種類の魔術であった。(精霊魔術は基本的に道具を使用しない。)
珍しい精霊魔術も使える野伏、そう考えると、冒険者としてはかなりの腕利きであると推察できる。ただ、それがただ一人でこの森にいる、ということは、やはり奇妙なことであった。
「…北東、200ヘロル程か…」
何か、確かめるようにつぶやくと、男は寄生木をしまった。
そして黙ってじっと焚き火の炎を見つめていた。
その瞳に映る炎は、まるで男の心を表すかのように暗く、揺らめいていた。
※ミトル、サン、へロルは長さの単位。ミトルが約1メートル。1ミトルは10サン、1ヘロルは100ミトル。200ヘロルは20kmくらいになる。
※精霊語は精霊魔術を使う時に使用する言語。妖精族は全て話すことができるが、妖精族の全てが精霊魔術を使えるわけではない。
※精霊魔術は精霊に自分の願いを伝え、自分の代わりに魔術を行使してもらう魔法。自分の魔力は使うが、結果は精霊の理解度によって大きく変わってくる。(わかりやすく上手に頼むほど、同じ魔力でも結果に大きな差ができる。)
※性質上、基本的には精霊魔術には、他の魔術のような補助具は必要ない。必要なのは精霊と交渉する資質である。
※精霊は一定量以上の鉄等の金属類を嫌うため、(一部の魔法金属は例外)精霊魔術を使うものは金属鎧をつけることはできない。
主人公の筈なのに名前は未だ無し。本当に主人公か?