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Watch ~監視者~  作者:
「悲しみの森」
12/98

<十>

主人公が焦ります。

シィンは困惑していた。途方に暮れていたと言ってもいい。

(何故こうなった。)

場所はミズネルンの森の一角。

 目の前には16,7人の集団。

 身なりからすると、とても真っ当な人間には見えない。いわゆる山賊とか野盗とかいった類である。

 ただ、その集団の眼はどちらかというとシィンに対して憧れ、というか尊敬のような色を浮かべていた。

(どこを間違えたんだ?)

そう考えながらシィンは焦っていた。





 話は3ジアンほど前まで遡る。ミズネルンの森の中を進んでいたシィンは、前方に複数の人族の気配を感じ、緊張していた。

(まさか、もうアルフォード達が追いついてきたのか?)

 だとすれば、かなり不味いことになる。シィン本人の目的のために、追っ手に追いつかれるのは不味い。

(うまくミスリードできたと思ったが、さすが「蒼風」と「銀月」か…)

 少し思案した後、慎重に確認することに決めた。

 追いつかれたにせよ、そうでないにせよ、自分の行動の妨げになることは明白だった。

 相手に気取られないように、慎重に接近したシィンは、そこで安心し、同時に対応に困った。

(野盗の集団とは…。)

 シィンの力を持ってすれば、はっきり言って殲滅は容易い。

 野盗達にはそれほどの手練れはいない。おそらくこの集団を殲滅するまでの時間は6,7ピンといったところだろう。

 しかし、シィンは、とある理由から殲滅したくないのである。おまけに…。

(頭目が女…。)

 はっきり言って、シィンは自分が女に甘いことを自覚している。というより、女と戦いたくないのだ。これも実は殲滅を避けたい理由と根はつながっている。

(…仕方ない、適度に叩きのめして森から追い出すか。)

 ため息一つつくと、シィンはわざと音を立て、ゆっくりと野盗の集団に近づいていった。

相手は、シィンに気づくと何故だか、いきなり死に物狂いで襲いかかってきた。


 戦闘、というほどのこともなく決着はついた。シィンの周囲には叩きのめされた野盗達が倒れ伏していた。

「さっきも言ったとおり、命は取らないからこの森から出て行くんだな。」

そう言って、背を向けたシィンに、

「ま、待ってくれ。頼みがあるっ。」

と、頭目の女が声をかけてきた。もし、シィンが間違えたとしたら、ここで振り向いてしまったことだろう。

「あんた、あたし達のリーダーになってくれないか?」





 状況は冒頭の状態に戻る。あまりに唐突な話で、思わず説明を求めたことも間違いだったかもしれない。

 話を聞いて、シィンはさらに頭を抱えたくなった。

話によると、彼らは野盗といっても、誰彼かまわず襲っているわけではないらしい。

 聞いた話を整理すると、元々は近くの貴族の横暴に耐えかねて逆らい、やむなく森に逃げ込んできた連中が集まったのが最初で、その後貴族からの追っ手に対抗するために武装し、さらに同じような境遇の仲間を増やし、といった具合でできあがった集団だ、ということだった。

 旅人などは襲わず、貴族の息のかかった商人などを選んで襲う。(それでも相手を殺したりはしない)

 頭目の女はラミーといい、貴族に無理矢理、妾にされそうだった村長の娘で、その関係で指導者の位置にいること…。そして…。


「…で、そのクソ貴族から近くの街に、あたし等の討伐依頼が出されちまったんだよ。」

「なら、余所に逃げたらどうだ。」

「逃げたくても当てもないし、ね。かといってクソ貴族に殺られるのも嫌なんだよ。」

 肩をすくめてラミーが答える。

「それで、俺にどう関係してくるんだ?」

「あんたほど強い人がリーダーになってくれれば、切り抜けられると思ったから。」

 今度はしれっとした態度で、あっさりと言ってのける。なるほど、確かに野盗の頭目を務めるくらいの能力はあるようだ。

 妙なところに感心しながらも、シィンはわざと語気を強めていった。

「断る。」

「そこを何とか。」

「兄貴、頼みます。」

「お頭を助けると思って。」

 何時の間にか、周囲の野盗達も口々に頼み込みにくる。どうやら、彼らの兄貴分に昇格したらしい。

 どうしようもなくなったシィンは、結局、強引に彼らを振り切ることにした。

 自分の目的の障害になる、殲滅はできない、それらのことを考えると、その手しか残っていなかった。

「とにかく、俺には関係ない。俺から言えるのはさっさと森から出ろ、ということだけだ。」

 そう言うと彼らに背を向け、森に向かった。

 野盗達(?)は口々に何か言っていたが、それを振り切り森を進んでいく。

 彼らが素直に森を出てくれることを願って。

 結局、野盗達(?)はシィンに振り切られ、その姿は森の中に見えなくなってしまった。

ラミー達は、改めて野営地に戻り、今後について考えることにした。

「ラミー、どうするんだ。」

 ラミーがこれからどうするか考えていると、自分の補佐をやってくれているテッドが聞いてくる。

 元々はラミーの村の自警団に入っていた男で、ある程度荒事にも慣れている。この野盗団の戦闘面での指揮を執っている男だった。

「…はぁ、潮時かね。」

 ラミーにも十分わかっていたのだ。このまま野盗を続けてもじり貧であることが。今までやってこれたことが奇跡に近い。

「仕方ない、このままよりは余所へ移った方が、まだいいだろ?」

「確かにな。じゃあ、明日の朝…」

 二人はこれからどうするか、相談を始めた。あたりは、いつの間にか日が暮れ始めていた。何をするにしても明日の夜が明けてから。そう決めると、今夜は仲間とじっくり相談することにした。

 宵闇の空には暗い雲が広がっていた。二人が考えているより、ずっと暗く長い夜になりそうだった…。


主人公は何気に強かったりします。

戦闘にはなかなかなりませんが…。

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