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M.I.D.A.S.  作者: BARTH-SELL
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MAIDAS-LOG:02 堅弾士

この作品はキャラクターの設定、書いたストーリーの一部修正をAIが担当しています。そのあたりをご了承いただいた方のみご覧ください

朝の光が差し込むM.I.D.A.S.の住居スペースには、香ばしいトーストの匂いと、それに似つかわしくない無機質な電子音が微かに響いていた。

 キッチンカウンターに座る天野結衣の目の前で、狗海愛優は手元のタブレットに表示された膨大なログデータを無造作にスワイプしている。


「……いい、結衣。昨日あなたが纏った『バレットシステム』は、ただの最新鋭の装甲じゃない。あれは、兵器よ。」


愛優の言葉は、飲みかけのコーヒーよりも苦く響いた。彼女が空中に展開したホログラムパネルには、昨日の初陣で結衣が記録したバイタルデータが、警告を示す赤色で点滅している。


「このシステムはAIが弾き出した最適解を、人の意思による加速で現実に書き込めるようにサポートするデバイス。特に加速のフェーズでは、あなたの意思は通常の三倍以上の速度で処理される。システムが作り出すその速度に、あなたの脳も筋肉も追いつけていない。結果として、アーマーの節々に無駄な『しなり』が生じているのよ。それがエネルギーの致命的なロスに繋がる」


愛優の鋭い視線が、結衣を射抜く。


「長時間その状態で加速し続ければ、脳が焼き切れるか、あるいは――あなたが、自分というデータの形を保てなくなる。形を失ったデータは、二度と現実には戻れない。文字通り『データのゴミ』としてネットワークの塵になるわ」


「データのゴミ……」


結衣はその言葉を反芻し、自身の指先を見つめた。昨日の戦闘の後、指先が微かに震えていたのは、単なる緊張のせいではなかったのだと今更ながらに悟る。


「……怖がらせるの上手すぎだよ、愛優さん」


「事実を言っているだけよ。今のあなたには、加速の圧力に耐えうる『堅さ』が足りない。……さあ、食べ終わったら地下へ。今日はその根性を叩き直すわ。」


─────


地下トレーニングルーム。そこは、地上の穏やかな家の空気とは断絶された、冷たいコンクリートと電子回路の檻だった。

 結衣は腰のバレットギアを指でなぞる。昨日の実戦で感じた、あの心臓が口から飛び出しそうな高揚感が、さっきの恐怖が蘇る。


「……リンク!」


愛優がバレットギアにキーをかざすと、部屋の中央に無数のグリッド線が走り、ノイズ混じりの影が形成されていく。昨日、結衣の目の前で現実を侵食しようとしたバグ――「404」のシミュレート・モデルだ。


『BALLETSYSTEM. Security Cancellation.』


無機質な電子音声と共に、結衣の視界に膨大な演算コードが流動する。カードをセットし、レバーを開く。その瞬間、神経がシステムに「接続」される独特の浮遊感が彼女を襲った。


『BALLETSYSTEM ON. Change! BALLET!』


青色の装甲が結衣の肢体を締め付け、固定する。だが、今日の愛優のチェックは昨日よりもずっと厳しい。


「結衣、迷わないで。今のあなたの意思は、まだシステムに『拒絶』されているわ。加速のトリガーを引く瞬間のノイズが、あなたの迷いの証拠よ」


シミュレーターの「404」が、現実を食い破るような異音を立てて突進してくる。結衣は反射的に加速のプログラムを起動させた。


「――っ!」


その瞬間、世界が引き伸ばされた。

 視界が極彩色に歪み、周囲の音が低く、重く引き延びる。結衣の意識だけが、物理法則を置き去りにして加速していく。

 だが、昨日とは違う。愛優の言葉が呪文のように脳裏にこびりついて離れない。


(脳が焼き切れる……データのゴミになる……!)


一瞬の躊躇。それが「しなり」となって現れた。

 加速のベクトルが微かにブレ、結衣の体はシミュレーション上の壁面へと猛烈な勢いで叩きつけられた。


「……っあ、ぐっ……!」


衝撃波が神経を逆流し、装甲の内側で結衣の身体が悲鳴を上げる。

 現実の壁にぶつかったわけではない。だが、システムを介した「感覚のフィードバック」は、本物の打撃よりも遥かに鋭く脳を揺さぶった。


「そこまで。……リンクが不安定よ。結衣、あなたは今、『加速した自分』を自分の体だと認識できていない」


愛優の冷徹な声がスピーカー越しに届く。床に膝をつき、激しく息を切らす結衣。装甲の隙間から、逃げ場を失った熱気が白く吹き出した。


「バレットは、その硬度があるからこそ真っ直ぐに飛ぶ。今のあなたは、加速の圧力に負けて形が歪んでいるわ。そんな『柔らかい弾丸』じゃ、バグの核心は撃ち抜けない」


結衣は、震える手で地面を掴んだ。


「……まだ、やれます」


結衣は、震える手で地面を掴んだ。

 結局、その日の特訓でシミュレーターの「404」を完璧に捉えることはできなかった。だが、何度も壁に叩きつけられ、装甲越しに伝わる「加速の反動」に抗い続けたことで、結衣の体には確かな熱が刻まれていた。


「そこまで。これ以上は神経に障るわ。地上に戻って、開店の準備をしなさい」


愛優の指示に従い、結衣は重い足取りで地上へのエレベーターに乗り込んだ。


─────


 結衣は「M.I.D.A.S.」のロゴが入ったエプロンを締め、店舗のカウンターに立っていた。地下の張り詰めた空気とは対照的な、柔らかい朝の光と、モーターのオイルが微かに混じった日常の匂い。


自動ドアが開き、一人の男が入ってきた。

 使い古されたワークジャケットを羽織り、首元にはタオルを引っかけた、現場帰りといった風貌の青年だ。


「よお、愛優。……おっ、新しいバイトちゃんか?」


男の声は、どこか気さくな近所のお兄さんといった響きだった。だが、カウンターに置かれたその手首――そこには、先ほど結衣が自分の身を持って体験した、あの重厚なギアの装着痕を隠すような、リストバンドが巻かれていた。


「この前のモーター、調子いいぜ。おかげで『重い仕事』も捗ってる」

「……それは良かったわ。メンテナンスが必要なら、奥の作業場に回しておいて」


愛優の淡白な対応に、男は「相変わらずだな」と苦笑いしながら、結衣の方をちらりと見た。その鋭い眼光の奥に、一瞬だけ、戦場を知る者特有の「熱」が宿ったような気がした。


「結衣ちゃん、だったな。……あんまり無理すんなよ。お前の後ろには、案外頼りになる奴が隠れてるもんだからな」


男はそれだけ言うと、背中越しに軽く手を振り、店の奥へと消えていった。


「……愛優さん。今の、誰ですか?」

「さあね。……それより結衣、さっきの特訓のデータ。まだ加速のエンドポイントで足元が浮いているわよ」


愛優は答えをはぐらかすように、新しい伝票を整理し始めた。結衣は、男が消えていった店の奥を見つめる。

 彼が本当に、自分を導くリーダーなのか。あるいは――。


─────


その日の夕刻、平穏は唐突に破られた。

 店舗のメインモニターが真っ赤に染まり、愛優の表情が瞬時に「技術者」のものへと切り替わる。


「結衣、B-3ポイントに空間侵食を確認。シミュレーションじゃない、本物の『バグ』よ」


結衣はエプロンを脱ぎ捨て、店の奥へと走った。地下から搬送されてきたバレットギアを腰に据え、一気に「接続」する。


「リンク!」


現場は、夕闇に沈みかけた工事現場だった。そこにいたのは、重機を取り込み、歪な金属の塊へと変貌したバグ。

 結衣は加速のトリガーに指をかける。脳裏をよぎるのは、朝の愛優の警告と、あの「謎の男」の言葉だ。


(加速の圧力に負けちゃダメだ……私は、一発の弾丸になる!)


「アクセル――全開!!」


世界が止まる。

 極彩色のノイズが視界を埋め尽くそうとするが、結衣はそれを自らの意志で「堅く」押し留めた。ブレない、迷わない。一直線のベクトルとなって、重機バグの核心へと突進する。


「そこだぁッ!」


銀色の閃光がバグの中央を貫いた。

 直後、背後で巨大な衝撃音が響く。結衣が仕留め損ねたバグの破片を、目にも留まらぬ速度で飛来した「何か」が、圧倒的な質量で粉砕していた。


「……え?」


振り返った先には、砂塵の中に立つ重厚な影。だが、結衣がその姿を確認するより早く、その影は夕闇の中へと消えていった。


「お見事。リンク・レート、安定。……『堅弾士』としての第一歩ね、結衣」


通信越しに聞こえる愛優のわずかに緩んだ声を聞きながら、結衣は自分の拳を見つめた。痺れはない。ただ、確かな手応えだけがそこにあった。

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