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日常奇譚  作者: 呑ノ子
1/1

始まり

両親が亡くなり引き継いだ喫茶店「此方」。そこを切り盛りしている佐藤大夢は、ある日見た夢がきっかけとなって、不思議な現象に遭遇するようになる。時にほのぼの、時にシリアス、そんな喫茶店「此方」を中心にしたお話になる予定です。


初心者過ぎて、サイトの使い方が覚束ないところがあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

また、誤字脱字等ありましたら、恥ずかしいのでひっそりと教えていただければと思います。


登場人物

佐藤大夢さとうひろむ

20代後半の一般成人男性。ただし、夢を見るまでは。夢を見た後は一般とは言い難い、普通ではないような体験をすることが増える。性格は、いたって普通で平凡。強いて言えば、変なところでこだわりが強いくらい。両性愛者で、パートナーは男性。人当たりがよく、面倒な誤解を与えることが多々あるため、パートナーと、お揃いの指輪を身に着けて自衛している。


西川夕雅にしかわゆうが

30代前半の成人男性。美形で口数が少なくぶっきらぼうに聞こえるため、周りからは怒っていると誤解されやすいが、本人はそんなことはなく、ただ人見知りで口下手なだけである。パートナーである大夢への愛は重めだが、顔には出ないため周りからは淡泊だと思われていたりと、色々と周囲に誤解されやすいタイプ。

カランコロン。


ドアに取り付けられた鉄製の小さいベルが耳に心地いい音を奏でる。店内は珈琲の香りがふんわりと漂う。和らいだ日差しが窓から差し込んでくる午後二時過ぎ。駅前から少し路地を入ったところにあるこの喫茶店「此方(こちら)」は、静かでゆったりとした時間が流れている。お昼を過ぎれば混雑のピークも過ぎて暖かな日差しも相待って、立ったままでも眠れてしまいそうな程だ。ここのオーナーであり給仕をしている佐藤大夢(さとうひろむ)はぼんやりと店内を見回し、客のお冷の減りと空いた皿はないかをさっと確認した。何もなさそうであることを確認し、カウンター内に引っ込む。手持ち無沙汰にカウンター内を布巾で拭きつつ、今朝見た夢について、もんもんと考えていた。




はっと目が覚めれば、暗闇の中、目の前に自分が立っている。光源があるわけでもないのに、自分の手足も見えるし、目の前に立っている自分もはっきりと見えた。これは夢だと自覚する。明晰夢(めいせきむ)だ。大夢は、目の前に立っている自分に向かって右手を伸ばす。心臓目掛けて伸ばした右手は、左胸に触れると同時にゆっくりと皮膚に沈み込み、心臓を掴み出した。掴み出した心臓は、手のひらの上でどくりどくりと脈打っている。目の前の自分は突っ立っているだけで、掴み出された心臓の部分はまあるく空洞になっている。なんとなく、掴んだままの心臓にそっと口付けた。すごくリアルな心臓は、掴み出したにも関わらず模型図で見るように太い血管から先は無く、太い血管の断面はすぱっと刃物で切ったように綺麗だ。それを少しずつ咀嚼し、ひとかけらも残さず飲み込んだ。食べ終わって、改めて目の前の自分を見つめれば、目が合った。小さく頷かれた後、暗闇に紛れるように自分たちの身体が透けて、気がつけば夢から覚めていた。




「すみませーん、注文良いですか。」


客からの声でハッと我に返る。夢のことは置いておいて、ひとまず仕事に集中しようと自分に喝を入れ、客の注文を受けにカウンターから出たのだった。


落ち着いたと思ったら急に増えた客足はその後絶えることなく、ホールをあっちへこっちへと回っていればすっかり外は暗くなっていた。最後のお客様のお会計を済ませ、店のドアにかけられている札をクローズ面にしてかけ直し、シャッターを下ろす。テーブルを片して、床を掃除して。洗い物を仕舞えば、あとは売上の確認。伝票と売上金と睨めっこをして間違いがなければ終わり。淡々とこなして全てを終わらせ、厨房の片付けをしているであろう西川夕雅(にしかわゆうが)を目で探す。夕雅は自分の領域である厨房の掃除や支度をさっさと終わらせて、先に居住スペースである店の2階へと向かったようで厨房はもぬけの殻だ。一声かけてくれてもいいだろうに。そう思いながら、居住スペースへと続く階段を、足音高く踏みしめながら上がった。


リビングへと続く引き扉をがらりと引いて、夕飯であろう料理をテーブルへ配膳している夕雅に文句を垂れる。


「なんで、声かけてくれないんだよー。」

「声掛けたわ。お前、集中してて聞こえてなかったんじゃないか。ほら、夕飯出来たぞ。」


そう言って、ご飯と味噌汁、肉野菜煮込みが盛られた大皿から香る美味そうな匂いに、大夢の腹の虫が我慢できずに鳴いた。


「「いただきます。」」


手を合わせて、一言。

ほかほかと湯気が上るそれらは、一時間掛からずに二人の腹に収められた。食後にお茶を飲みつつ、雑談して、順番に風呂に入ろうとして。


そこで事件は起きた。


「ぎゃあああああああ」


風呂に入ろうとトップスを脱いだ大夢は、絶叫した。洗面台の鏡に映った左胸に、心臓をモチーフとしたタトゥーのような痣が入っている。勿論、タトゥーを入れた覚えは全くない。ぶつけた覚えもない。絶叫を聞きつけて、煩いと叱りつけようとした夕雅も、鏡に映ったそれを見て言葉を失った。


「なんだ、それ…。」

「いや、わかんない。」


 触ってみても痛くもかゆくもないし、肌がでこぼことしているわけでもない。夕雅も恐る恐る触れてみて、唸るように考え込んでいる。


「大夢、心当たりはあるか。」

「あるわけねぇだろ。…あ、いや。あったわ。」

「お前、俺に言わずにタトゥー入れたのか。」

「んなわけあるか。昨日見た夢で自分の心臓食ったんだ。それがすっごくリアルでな。それくらいしか心当たりはない。」

「夢の話を聞いているんじゃない。真面目に聞いてるんだが。」

「俺だって大真面目だし。てか、それで今日は注意力散漫だったんだよ。」


 昨日見た夢以外に、心当たりどころか全くそんな気配すらない。人一倍くすぐったがりの大夢は誰かにべたべたと触れられるのを好きではなかった。それを知っている夕雅からしてみれば、恋人である自分以外が触れたようにしか見えないこの状況はかなり不服である。

「とりあえず、その夢詳しく話してくれるよな。」

 夕雅の背後からごごごご、と怒り狂った般若が顔を出しそうなほど怒っているオーラを発しながら、静かに問いかけてくる。

 夢で起こったことをそのまま伝えれば、眉間に皺を寄せたまま黙り込んでしまった。


「じゃあ、なんだ。お前が、自分の心臓取って食ったってことか?」

「何度もそう言ってるだろう。」

「あぁ、そうだな。まぁ、とにかく、心臓が痛いとか脈が変な感じがするとかはないんだな?」

「特に違和感ないぞ。」


投げやりな返事ではあるが、心配してくれているのと考え込んでいるのとで、眉間に八の字の谷が形成されている。それを人差し指で突っつき、ぐにぐにともみほぐしながら、「風呂に入るから出てけ」とばかりに脱衣所から追い出した。


 大夢が風呂から上がっても、夕雅は脱衣所から追い出された格好のまま扉の前で真顔のまま突っ立っていた。考え事をしている時、とんでもないほど真顔になるのが夕雅の癖である。顔が整っているせいで、怒っているようにも見えた。


「夕雅?」


声をかけても無反応である。とりあえず、無反応で真顔の夕雅の腕を引いてリビングに戻り、椅子を引いて座らせた。そこでやっと意識が思考の渦から戻ってきたようだった。こちらを認識したような瞬きを一つしたあと、おもむろに立ちあがりコップ一杯の水を飲んで、今度は 夕雅が大夢の腕をつかむと寝室へと引っ張ってゆく。考えるのをやめて、とりあえず寝ようと言うことらしい。俺も考えたところで、今のところ特に不調も何もないので、引きずられるままに布団に潜りこむ。改めて胸のタトゥーもどきの痣について考えてみようかとも思ったが、日中の疲れと胸元タトゥー騒ぎの疲れがどっと押し寄せ、気が付かないうちに寝落ちていた。

書こう、書こうと思っていて、中々形にできていなかったのですが、何とか形にできました。

頑張って続けていくので、なにとぞよろしくお願いいたします。

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