第8話:暗号資産の胎動(ブロックチェーン・ソブリン)
王都の隠密部隊を論理の迷宮で粉砕した後、俺は次なる一手に着手した。
それは、王国による経済的搾取を根絶するための、通貨の再定義――「魔導ブロックチェーン」の稼働だった。
「カイト様……。王国の金貨を使わずに、この『光る数字』だけで取引をするなんて、あまりに危険すぎませんか? 偽造されたら、領地の信用は一瞬で崩壊します」
リーゼロッテが、俺の手元にある「分散型台帳」の試作モデルを見て、震える声で問いかける。
「リーゼロッテ。王国の金貨は『王への信頼』という脆弱な基盤の上に立っている。王が堕落すれば、貨幣価値は暴落する。……だが、俺が作るこの通貨の基盤は、『数学的証明』だ」
俺は、エルニア領内に張り巡らせた「人間演算機(子供たち)」のネットワークを、この通貨の「検証者」として再定義した。
「取引のすべてを暗号化し、全員の演算器で同時に監視させる。改ざんするには、全領民の演算能力の半分以上を一人で占める必要がある。……つまり、物理的に偽造が不可能な『トラストレスな通貨』だ」
俺がシステムを起動した瞬間。
ネットワーク上を流れるマナが、これまでとは違う「重厚な規律」を持って脈動し始めた。
「……っ!? カイト様、見てください! 演算を続けている子供たちの周囲で、マナが結晶化して……見たこともない『純粋な魔石』が生まれています!」
リーゼロッテの叫びに、俺は目を細めた。
これこそが、この世界の「隠された仕様」だ。
「……やはりな。この世界のマナは、『複雑な論理演算』を行えば行うほど、その余熱で物質化する性質がある。……リーゼロッテ、俺たちがやっているのは、単なる経済改革じゃない。この世界の『リソース生成アルゴリズム』に直接アクセスしているんだ」
俺の視界には、通常の魔導師には見えない「システム・コンソール」が微かに明滅していた。
『通貨の生成』という大規模な演算によって、世界のサーバー負荷(マナ濃度)が上昇し、隠されていた「管理者権限(管理者モード)」の断片が、俺の数式に同期し始めている。
「王国が発行する汚れた金貨を、すべてこの『証明された価値』に置き換える。……数ヶ月後には、王都の貴族たちは、俺たちが発行する通貨を借りなければ、パン一つ買えないようになるだろう」
俺はチョークを置き、窓の外に広がる「輝く通信網」を見つめた。
この世界が誰に、何の目的で作られたシミュレーター(箱庭)なのかはまだ分からない。
だが、この「バグだらけの経済」をデバッグした先に、この世界の『真のオーナー』が姿を現すことは間違いないだろう。




