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第1話:空間の曲率と無能の証明

「……お前の魔法には、魂がこもっていない」

 賢者と呼ばれた男の、その一言で俺のクビが決まった。

 伝統的な魔法学では、呪文を「祈り」や「感情」で練り上げる。だが、俺の視界に映るのはそんな曖昧なものではない。

「閣下。魂の問題ではなく、単なるフィッシャー情報行列の計算ミスです。その魔法円、多様体の曲率が歪んでいて、魔力が熱力学的に漏損ロスしていますよ」

 宮廷魔導師たちは鼻で笑った。

 俺が差し出した、魔法陣を「n次元の確率分布」として再定義した解析レポートは、その場で暖炉に放り込まれた。

「理屈はいい。出て行け、無能。数式で火が灯せるものか」

 ……あぁ、そうか。

 この世界の連中は、まだ「計算」の真の力を知らないらしい。

 城門を出た俺の前に、巨大な「火竜サラマンダー」が立ち塞がった。

 騎士団が数十分の詠唱を必要とする絶望的な災厄。

 だが、俺は懐から一本のチョークを取り出す。

「さて……『リーマン多様体』の計量をいじって、物理定数を局所的に書き換えるか」

 俺が地面に描いたのは、魔法陣ではない。

 空間そのものの接続コネクションを定義する、たった三行のテンソル方程式。

 火竜が吐き出した数千度の火炎。

 それは俺に触れる直前、まるで「そこには道がない」かのように、俺の周囲を迂回して背後に流れていった。

「熱伝導の勾配を反転させた。今の君の火炎にとって、俺の周囲は『宇宙で最も冷たい場所』と定義されている」

 火竜が困惑に瞳を揺らす。

 俺はチョークを弾き、最後の一行を完成させた。

「次は空間のトポロジーだ。君の心臓と、この手元を『同相ホームオモルフィック』に接続する」

 パチン、と指を鳴らす。

 次の瞬間、火竜の胸に穴は開かず、ただその内側から心臓の鼓動だけが消失した。

 エネルギーの保存則を無視したのではない。ただ、「心臓が動く」という事象の確率をゼロに収束させただけだ。

「……さて。次はどこの『バグ』を直しに行こうか」

 俺は、無能と罵った連中が住む王都を振り返ることなく、歩き出した。


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