37話 アルカトラズ
ウィザード専用刑務所――アルカトラズ。
日本のどこかにあると噂された脱獄不可能の刑務所は日本海の海の真ん中にあった。
激しい荒波を打ち付ける鉄の要塞のような見た目からして、ここが現実の世界じゃないようだと心の中から俺は思った。
そんな俺は今、鈴芽ちゃんの魂の中で大人しくしている。
聞き取りは俺がやった方がいいんじゃないか? と鈴芽ちゃんは言ったけど、なんとなくだが、お兄ちゃんが俺と鈴芽ちゃんの様子を怪しんでいるような気がしたから鈴芽ちゃんにお願いする事にした。
そんなお兄ちゃんは今もヘリコプターの中で鈴芽ちゃんを訝しげに見つめている。
怪しむきっかけは多分だけど、ケリーとイズナと戦闘した時だろう。
女性にしか効果のない洗脳が鈴芽ちゃんには効果がなかった。それがどうもお兄ちゃん的には引っかかっているようだ。
そうなるとあまりヘマをしない方がいい。
ほとぼりが冷めるまでは鈴芽ちゃんに体を任せて、俺は中からアドバイスするのに徹した方がいいと考えた。
そんなヘリコプターの中には他にも、アリス、アカリの2人もいた。
アリスは興味深そうに眼前に広がるアルカトラズを見ている。アカリはまだ本調子じゃないのか、どこか遠い目をしている。
『考えすぎじゃない?』
鈴芽ちゃんに言われて、そうかもしれないと俺は思った。
すこしぼーっとした様子はあるが、これと言って変な行動をする様子もない。
少し雀ちゃんと衝突する頻度が下がった気もするが、それは危機を共に乗り越えたからこそだろう。
「着陸します! 皆さん席について!」
操縦席からパイロットがそう言った。
ヘリがアルカトラズのヘリポートに向かって下降し始める。
ここにイズナがいる。いやそれだけじゃない。九条家の騒動で捕まった斉藤先生に九条火凛も居るはず。
そう、ここはウィザードでかなりの曰くつきの犯罪者が収容されているような場所だ。彼女達以外にもとんでもない犯罪者がゴロゴロしているはず。
そう考えると思わずゴクリと鈴芽ちゃんは息を飲んだ。
――――――――――――――――――――――
案内されたのはアルカトラズ刑務所内の尋問室。
ここまで来る道中にボディチェックを5回、荷物は全て警備員に預け、何も無い白い通路をひたすら真っ直ぐ歩いた。
天井には監視カメラが点在していて、かなり厳重な警備であることが窺える。
尋問室内はというと、暗く横に広い部屋で、そこにいた人達はガラス越しの向こう側にいたイズナと刑務官の尋問を眺めていた。
「お。来たな」
そう言って私たちに声をかけてきたのは茜さんだ。
どうやらここでも結由織先生の本体を表さないってことは、学校の授業ぐらいでしか出てこないつもりなんだろう。
そんな茜さんは私達を席に案内して椅子に座らせる。
「ちょうど今尋問が始まったとこや」
クイッと顔でガラスの向こう側を促す。
向こう側のイズナがこちらに一切顔を向けないあたり、これはマジックミラーなんだろう。
かなり強めに問い詰める刑務官の声がここまで響いてくる。あまりに持つような口調で、思わず手が出てしまいそうな空気感だ。
そこで聞かれた内容は――
なぜファンタジアは学生を狙う?
なぜ今回はこのような暴挙に出た?
これはファンタジア総員の決定なのか?
イヴリース実験に関わっていたとは本当か?
と言ったものだ。
だがその全ての質問に対してイズナは口を開く事なくジッと黙り込んでいる。
刑務官はその様子に苛立ち、警棒で彼女の頭を殴りつける。その乾いた打撃音が私たちのいる部屋にも響いてきて思わず目を逸らした。
「まあしゃあないわな。ここは刑務所や。必要とあれば暴力を振るったとしても必要な情報を引き出させる。じゃないと間に合わん事態にもなりかねへんからな」
茜さんは仕方ないとそう言った。
それには少し思うところがあるが、この世界ではこれぐらいしなければ手に負えない案件も多いって事なのだろう。隣に居るアリスは歯を食いしばり睨んでいる様子から、この尋問には反対派なのだろう。
お兄ちゃんは何も言わず、表情も変えずにただ黙って尋問の様子を眺め続けている。
いつもは喜怒哀楽がハッキリしているお兄ちゃんでも、この時は何の感情を抱いているか読めなかった。
アカリはと言うと真剣な顔で黙って見ていた。
「お待たせしてすみません。こちらが例の事件の?」
刑務官の男が茜に会釈しては私たちに目をくれた。
茜さんは「せや」と認めて私たちを紹介する。
その紹介ののちに私たちは会釈して、刑務官の男に向かい合う。
「遠路はるばるこのような場所まで赴いてくださりありがとうございます」
「いえいえ」と私たちは答える。
「ここに来て頂いたのは、今こうして尋問を受けている容疑者イズナの言動と差異がないか確認していただくためです。ですが――」
「全く口を割らんな〜」
茜がミラー越しに目を向けて困ったと息を吐く。
「ですね。これでは聞き取りなど困難です」
刑務官もそう言うと言う事は延期か? と思ったが、それは無いらしく。
「確認作業が困難なようですので、あの日何があったのか詳しく教えていただけませんか?」
刑務官はそう言ってノートを広げペンを構えた。
まあ普通はそう来るよね。
そう思いながら私達はあの日教室であった事、聞かされた話を思い出しながら刑務官に伝えた。
その傍ではイズナが警棒で殴られる打撃音が響いていた。
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