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36話 解決?

 イズナの体を職員室に運んでからの先生達の対応は、まさしく迅速と言っていいほどの速さだった。

 イズナを職員室奥の小部屋に茜さんが連れて行き、千羽山校長と柳先生の三人で尋問する流れとなり、残された先生達は各教室へ向かって休講と生徒達の洗脳解除、そしてファンタジア他の党員を拘束した。


 

 イズナの尋問は程なくして終わり、茜さんと柳先生が職員室から出てきて、外で待っていた俺たちと合流する。


 

「で、何かわかったんですか先生?」

 


 お兄ちゃんが出て来たばかりの先生達に聞いたが、二人とも浮かない表情で首を振った。

 


「いいや。ありゃ無理やな。どないな事しても吐く様子があらへん。まったくウィザードっちゅうんはどいつもこいつも口が硬いったらありゃせんわ」

 


 まあ元自衛官志望だからこその口の硬さだろう。

 残念だけど、ここで彼女から情報を引き出すのは無理そうだ。

 


「ウチらの方は収穫ゼロやけど、あんたらは何か聞いたんやろ? こいつら何言うてた?」

 


 と言われても……とアカリとアリスは互いに顔を見合わせ渋い顔を浮かべた。

 きっと記憶が曖昧なのだろう。

 洗脳されていたんだ。内容が頭に入っていないのは仕方ないことだ。

 そんな二人を見てお兄ちゃんが代わりに答える。


 

「ファンタジアの理念と事業内容。掲げている政党の方針ぐらいですね。まあ少しばかり胡散臭い話もありましたが……」


「つまり講義の内容自体に変なところはなかったっちゅう訳やな?」


「はい……。ですが、あの講義自体に意味は元からなかったのかもしれません」


「と、いうと?」


「俺たちの教室にいたもう一人の男。ケリーって名前の男は魔力を使って洗脳をしてきたんです。本来の目的は講義と称して生徒に洗脳を施し、学校が終わり次第、自分からファンタジアに向かうよう仕向けていた可能性があります」

 


「なるほどなぁ」と茜は悩ましそうに呟いた。

 俺のお兄ちゃんの考えと同じだ。

 てかあんなに堂々と洗脳して勧誘した結果、狂乱女王隊の生徒達が加入の意向を示してたんだし、それしかないだろう。


 

「男のくせに魔力持ち……ねぇ」


 

 茜はチラリとお兄ちゃんに目を向ける。


 

「九条雪也以外にも男性ウィザードが居ったっちゅう話は聞いた事ないけど……」


 

 茜の疑問に俺とお兄ちゃんは目を合わせた。

 その理由を俺たちは本人から聞いた。

 あの場で俺たちを始末するつもりだったおかげで主に聞きたいことは語ってくれたと思う。

 つくづく迂闊な奴らだ。


 

「どうやらケリーが言うにはイヴリースらしいわ」


 

 俺が答えると茜は「どこかで聞いたような……」と顎に手を当てて考え込んだ。聞き覚えはあるようだが、思い出せないらしい。


 

「イヴリースっちゅうたら……」


「はい。以前、九条桜がアビス内で実験していた【エリミネーター】の力と人間の体を融合させた魔人体実験の名前ですね」


 

 そんな茜に隣にいた柳先生が答えた。茜はポンと手を叩き「それや」と、モヤモヤが晴れたようなパッとした顔を見せた。


 

「それだけじゃないんです。どうやらファンタジアの連中、九条家に資金提供と実験を隠蔽する見返りとして、実験のデータを贈ってたらしいんです」


「うっわ。まじか」


「それは……いや? なるほど……」


 

 茜がドン引きし、柳先生は少し考え込む。

 


「ファンタジアは現政権の反対派ですが、日本における地位はそれなりに高い。腐っても国会議員ですからね。なるほど、裏で実験のデータを集めつつ九条家の実験を隠蔽。その副産物として男性ウィザードを作り上げ、与えられた能力――洗脳で仲間を増やしていってると言う訳ですか」


 

 柳先生の話の通りだと思う。

 今まではちまちまと学校を周り少しずつ勧誘していたんだろう。

 今日この場であんなに大きく動いたのは先生達がいなかったから。だとすると、結論俺たちのみで講義に参加したからこそ奴らの尻尾を掴めたって事だろう。


 

「まあ何にせよ、ようやってくれたな」


 

 茜がお兄ちゃんとアカリ、アリスの頭をガシガシ撫でた。俺の頭を撫でないあたり、こいつは今表に出てるのが俺だってことに気づいてるんだろうな。


 

「今の話だけで十分役に立つ情報や。被害者の言葉が何よりの証拠ってな? その話を元にこれからファンタジアに攻勢をかけたるか! 子供達をたぶらかす悪の組織はこのウチが木っ端微塵に打ち砕いたるからな」


 

 顔は笑っていたが、思わず身震いしてしまうほどの殺気が茜から漏れ出していた。

 ってそんな事より、イズナがこれからどうなるか少し気になった。

 


「結由織先生。イズナはこれからどうなるんですか?」


「イズナか? まああいつ自身、洗脳されてる可能性も0ではないからな〜。まあ一旦はウィザード専用刑務所に叩き込んでから検査やな」


「ウィザード専用刑務所――アルカトラズですね」


 

 お兄ちゃんはその場所を知っているらしく、茜の言葉にそう答えた。


 

「知ってるのお兄ちゃん?」


「ああ。有名な場所だぜ? ウィザードの力で悪事を働いた犯罪者が一斉に収容されてる日本のどこかにある刑務所らしい。そこには国家の存続を揺るがすほどのとんでもない力を持ったウィザードも収容されてるらしい」


「どこかって、どこにあるかは分からないの?」


「ああ。噂では海に囲まれた場所にあるとか、成層圏にあるとかって話なんだけど……。先生方はどこにあるか知ってるんじゃないですか?」


「「ノーコメントで」」


 

 茜と柳先生の二人はキッパリとそう言った。

 それが答えであり、それ以上詮索するなと言った意味だろう。

 


「詳しくは言えないですが、あなた方四人はきっとそこに向かうことになると思いますよ」


「え? 私達がですか?」


 

 アリスが驚いたように聞いた。

 


「はい。イズナ容疑者の証言と講義での行動に差異がないか照らし合わせる必要がありますからね。明日明後日あたりに通達が来るはずです。特に鈴芽さんと品川さんの二人は確定と言っていいでしょう」


 

 つまり仕事ってことだ。

 そういうことなら行くしかあるまい。

 そう思いアカリに声を掛けたが、彼女はどこか遠い目をしていた。

 


「アカリ?」


「ん? ああ! ごめん。なにかな?」


「なにかな?って、今さら丁寧な言葉を使ったって遅いわよ? それより今の話聞いてたでしょ?」


「あ、ああ。せやな? アルカトラズ刑務所に行ってイズナの証言がホンマか確かめるんやったな。まあ頑張ろうやないか鈴芽ちゃん」


「う、うん……」


 

 鈴芽ちゃんって……。まあさっきの教室での俺の行動を見て接し方を変えたんだろうか。

 若干違和感はあるけど、まあいいか。

 そんな少しの違和感を抱えつつ、俺たちは翌日、自衛隊に届けられた一通の通達で、柳先生の予想通りアルカトラズ刑務所へ赴くことになった。

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