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34話 逆転の兆し

ケリーに向かい、眼前まで迫ると俺はさらに加速してみせた。するとケリーは俺に霧をぶつけてきたが――


 

「なっ!? いない!?」


 

 そこには既に俺はいなかった。霧は俺の分身を斬り刻んで虚空に消えていく。

 奴が実戦経験に乏しいのは確かだったようで、こうも簡単に欺けた。俺はアカリとアリスのもとへ辿り着くことができた。

 


 イズナが俺の狙いに勘づき、後を追おうとしたが、お兄ちゃんに阻止されてしまい、鎌に打ち付けられた刀を振り払おうとする。

 だが悲しいかな、イズナは女性の身。身体能力を戦機で底上げされたお兄ちゃんの力の前にはなす術なく、押し返されてしまう。

 


「いけ! 鈴!」

 


 コクリと頷き、俺は机に突っ伏しているアリスとアカリの背中を引っぱたいた。

 魔力がこもった張り手は二人の目を覚ますことに成功し、カッと目を見開く。

 


「なんやなんや! ウチ……寝とったんか?」


「ええ。どうやら私も寝てたみたいだけど……」


 

 二人はケリーに顔を向けようとしたが、俺が二人の前に立ち、視界を体で防いだ。


 

「あの男の顔を見ちゃダメ!」


「なんで!」


 

 起き抜けの二人は俺の言葉の意味を理解していないらしく、訝しげに見てくる。

 だが、気を失った生徒、ケリーとイズナと戦うお兄ちゃん、戦機を手に持った俺――その異様な光景を見て、すぐにこの場が異常事態であることに気付いてくれた。


 

「いい? あの二人はこの場の生徒たちを洗脳して、ファンタジアのメンバーに加えようとしてるイカれた連中だったわ! 男のケリーのほうは、目を合わせるだけで女性を洗脳することができる。だから目を合わせないで!」


「つまり、あいつらは来栖さんと先生が言っとった通りの連中やったってわけやな?」


 

 アカリの問いに俺はすぐに首を縦に振って答え、立ち上がってケリーたちに振り返る。

 


「二人ともごめん。状況が状況だから説明してる暇はないの。今やることはただ一つ。なんでもいいから、この状況を結由織先生に伝える。それだけ……。アタシがなんとかして先生たちに伝えるから、その間二人はイズナの相手をしてもらえる?」

 


 二人は俺の体の向こうでお兄ちゃんと戦うイズナに目を移し、すぐに頷いてくれた。

 


「なんやよう分からんけど、了解や」


「時間稼ぎをすればいいのね。ケリーの目を見ないで攻撃をかわしつつ、イズナを妨害。難しいけどやってみる!」


「ありがとう二人とも。任せたわよ!」


 

「うん!」と二人とも戦機を解放し、イズナへ向かっていった。

 お兄ちゃんは二人が駆けつけたことに気づき、イズナの相手を二人に任せてケリーへ肉薄した。

 これで状況は一気にこっちに傾いた。

 あとはこの扉をなんとかして破壊するだけだ。


 

 黒い蔓で生い茂った扉。

 俺の攻撃を受けてもびくともしない上、威力のみを反射するこの力にどう抗うか。

 とはいえ俺の体でやれることはただ一つ。


 

『ええ。さっきよりも早い一撃でこの扉をぶっ壊すだけ――でしょ?』

 


 鈴芽ちゃんの言う通り。俺にできることはそれだけだ。

 さっきより速い一撃。つまり、最高速度で放つ隕石衝突レベルの威力をこの扉にお見舞いする。

 それができれば、この扉も破壊できるだろう。

 そう考え、俺は周りの机をレイピアで薙ぎ払い、少し走れる空間を作った。

 とはいえ、反復横跳びしかできないほどの狭さ。

 最高速に到達するまでには時間がかかりそうだ。それまであの三人が無事でいればいいのだけれど……。

 そう考え、俺はその場で全力で反復横跳びを始めた。


――――――――――――――――――――――――


 俺が反復横跳びを始めた頃。

 職員室では教師たちが生徒の帰りを今か今かと待ち構えていた。

 そわそわする教師たちの中で、結由織沙織と茜だけは椅子に堂々と座り、腕を組んでその時を待っていた。

 


『茜さん。さすがに帰りが遅いんじゃないかな?』


『アホ言え。腐っても奴らはファンタジアやぞ? そうそう簡単に生徒を解放するわけないやろ』


 

 それに、何かあったら連絡するよう言付けてある。なら今はそれを信じて待つのみだった。


 

『そ、そそそれはそうだけど……』


 

 心の中で結由織と茜はそう話し合っていた。

 とはいえ、心配しないほど茜の心も強くはない。

 今もこうして胸に手を当てると、心臓の鼓動が早いのがわかる。

 こちらから出向いて同行に気づかれるわけにもいかない。それをすれば、たちまちあの二人はこの学校から姿を消し、より警戒した上で勧誘を続けることになるだろう。

 だからこそ、あの子たちを信じるしかない。


 

『それにほら、果報は寝て待てって言うやろ?』


『眠って待てるほど、私の心は強くないけどね……』


 

 結由織の自信のなさは、かなりのものでそう言い返された。

 茜は腕を組み直し、生徒たちが無事に帰ってくることを信じることにした。


 

 そんな職員室に、遠くで何かが破壊される音が響いた。

 学校内に設置されたカメラのモニターを見ると、生徒たちを送ったはずの教室の扉が吹き飛んでいた。

 それだけで緊急事態が発生したと容易に判断でき、茜と結由織は職員室から飛び出すと、被害があった教室へ戦機を解放しながら走り出した。

 

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